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第十一章 最強魔法対決!
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約二十分後、手早く旅支度を終えた真純は、王宮の中庭へ向かった。ほぼ同時に、フィリッポもやって来る。動きやすそうな服装をして、マントをまとっていた。
「それは?」
フィリッポは、真純が抱えていた巾着袋に目を留めた。
「この三日でこしらえた薬類です。怪我をした人達の役に立つかもって」
聖女たちと共に色々調べたところ、現代日本と同じ薬草がいくつか入手できたのだ。真純はそれらで、鎮痛や止血、殺菌効果のある薬を何種類か作った。
「なるほど。では、こちらに一緒に入れてください」
フィリッポは、自分が持っていた巾着袋の口を広げた。その中に自分の巾着を入れようとのぞき込んで、真純はおやと思った。
「これ……、モーラントで使われていた?」
フィリッポの巾着袋の中には、かつて彼が使っていたステッキが入っていたのだ。王都に来てからは、さっぱり見かけなかったが、まだ持っていたのか。
「ええ。マスミさんのおかげで声が出せるようになるまでは、ずいぶん世話になった品ですよ。とっさの筆談に使うこともできましたし、時には身を守る武器にもなりました」
そういえば初対面の際も、彼は地面に文字を書いて筆談していたな、と真純は思い出した。するとフィリッポは、こんなことを言い出した。
「これね、師匠の形見なんですよ」
「へえ、ベゲットさんの?」
思いがけない話に、真純は目を見張った。
「はい。ベゲット様はステッキを集めるのがご趣味で、素敵なデザインの物をいくつもお持ちでした。それらに興味を持った私に、ベゲット様がプレゼントしてくださったんです」
フィリッポが、懐かしそうにステッキを撫でる。よく見ると、ずいぶん凝ったデザインだった。象牙製らしきグリップ部分は熊の頭部をかたどっており、支柱との連結部分にはリングがはめ込まれ、Fと刻まれている。フィリッポの頭文字だ。
「素敵ですね」
お世辞ではなくそう褒めると、フィリッポは嬉しげに頷いた。
「当時の私はまだ幼かったので、このステッキは長すぎたんですがね。大きくなってから使えるだろうと仰って」
ルチアーノも同じような話をしていたな、と真純は思った。ルチアーノの母親が、赤子の彼に扇を贈った時も、似たようなことを言ったという。
「ニトリラがあんな目に遭う、少し前のことでした。まさか自分が声を出せなくなり、筆談用に使うようになるとは思いもしませんでしたよ」
フィリッポの表情が少し陰る。もしや、と真純は思った。
「フィリッポさん。それを戦場に持って行かれるのって、まさか……」
「勝ちますよ」
フィリッポは、短く答えた。
「ただ……、万が一のことを考えると、やはりね」
そう言うとフィリッポは、少し微笑んだ。
「そんな顔なさらないでください。私は必ずセバスティアーノ国王に勝ちますし、マスミさんのこともお守りします。何だか、運命的ではありませんか。場所は、宿敵の一人だったパッソーニが台頭した地域。相手は、師匠を死に追いやった王妃陛下の兄。まるで、天が舞台を用意してくれたようですね」
「それは?」
フィリッポは、真純が抱えていた巾着袋に目を留めた。
「この三日でこしらえた薬類です。怪我をした人達の役に立つかもって」
聖女たちと共に色々調べたところ、現代日本と同じ薬草がいくつか入手できたのだ。真純はそれらで、鎮痛や止血、殺菌効果のある薬を何種類か作った。
「なるほど。では、こちらに一緒に入れてください」
フィリッポは、自分が持っていた巾着袋の口を広げた。その中に自分の巾着を入れようとのぞき込んで、真純はおやと思った。
「これ……、モーラントで使われていた?」
フィリッポの巾着袋の中には、かつて彼が使っていたステッキが入っていたのだ。王都に来てからは、さっぱり見かけなかったが、まだ持っていたのか。
「ええ。マスミさんのおかげで声が出せるようになるまでは、ずいぶん世話になった品ですよ。とっさの筆談に使うこともできましたし、時には身を守る武器にもなりました」
そういえば初対面の際も、彼は地面に文字を書いて筆談していたな、と真純は思い出した。するとフィリッポは、こんなことを言い出した。
「これね、師匠の形見なんですよ」
「へえ、ベゲットさんの?」
思いがけない話に、真純は目を見張った。
「はい。ベゲット様はステッキを集めるのがご趣味で、素敵なデザインの物をいくつもお持ちでした。それらに興味を持った私に、ベゲット様がプレゼントしてくださったんです」
フィリッポが、懐かしそうにステッキを撫でる。よく見ると、ずいぶん凝ったデザインだった。象牙製らしきグリップ部分は熊の頭部をかたどっており、支柱との連結部分にはリングがはめ込まれ、Fと刻まれている。フィリッポの頭文字だ。
「素敵ですね」
お世辞ではなくそう褒めると、フィリッポは嬉しげに頷いた。
「当時の私はまだ幼かったので、このステッキは長すぎたんですがね。大きくなってから使えるだろうと仰って」
ルチアーノも同じような話をしていたな、と真純は思った。ルチアーノの母親が、赤子の彼に扇を贈った時も、似たようなことを言ったという。
「ニトリラがあんな目に遭う、少し前のことでした。まさか自分が声を出せなくなり、筆談用に使うようになるとは思いもしませんでしたよ」
フィリッポの表情が少し陰る。もしや、と真純は思った。
「フィリッポさん。それを戦場に持って行かれるのって、まさか……」
「勝ちますよ」
フィリッポは、短く答えた。
「ただ……、万が一のことを考えると、やはりね」
そう言うとフィリッポは、少し微笑んだ。
「そんな顔なさらないでください。私は必ずセバスティアーノ国王に勝ちますし、マスミさんのこともお守りします。何だか、運命的ではありませんか。場所は、宿敵の一人だったパッソーニが台頭した地域。相手は、師匠を死に追いやった王妃陛下の兄。まるで、天が舞台を用意してくれたようですね」
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