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第四章 時に愛は、表現を間違えがち

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 それから三日が経過した。真純は、新しく滞在し始めた宿の中庭で、ジュダを待っていた。

(明日あたり、フィリッポさんが帰って来るな……)

 無事、本を持ち帰れただろうか。ルチアーノは、フィリッポの安全のため、こっそり騎士団に後を尾けさせたと言っていた。王室との関わりが露見しないようにするため、陰ながら見守る程度らしいが。

(明後日の朝、フィリッポさんの家に行ってみよう)

 そんなことを考えていると、ジュダがパタパタと走り込んで来た。

「悪い! 遅くなったな」
「いいですよ。お忙しいですもんね」

 ルチアーノと宿を分けたせいで、ジュダは両方を行き来しているのだ。今日は剣の稽古をする約束だったが、予定を一時間も過ぎている。よほど用事が立て込んでいたのだろう、と真純は想像した。

「ん~、まあ、色々あったからな」

 ジュダが、言葉を濁す。真純は首をかしげた。

「何か問題でも?」

 そう尋ねると、ジュダは一瞬黙り込んだ。ややあって、ためらいがちに話し出す。

「実はな。使用人の中に、うっかり殿下の素顔を見てしまった者がいて。倒れ込んだきり、なかなか回復しないんだ」
「ええっ、そうなんですか!?」

 真純は青ざめた。以前エレナが挑戦した時は、数分で回復したというのに。なぜ今度の者は、それほど重症なのだろう。

「……俺が思うに。お前の『治療』が遠のいているせいじゃないだろうか。それで、解けかけていた殿下の呪いの症状が、後退したんじゃないかって」

 ジュダが、言いにくそうに言う。どうしよう、と真純はうろたえた。確かに、宿を分けて以来、ルチアーノとは寝所を共にしていない。王室との関わりがバレないようにするためと、ルチアーノが真純の体を気遣ったための、両方だ。

「殿下は、このことを何と?」
「それがなあ……」

 ジュダは、顔を曇らせた。

「お前の体を気遣って、遠慮なさっているんだ。『治療』の間が空いてはまずい、と進言申し上げたんだけど……。それでさあ」

 ジュダは、身を乗り出した。

「お前、今夜殿下の宿に行ってくれないか?」
「ええ!? それはまずくないですか?」

 真純は当惑したが、ジュダはやけに自信満々だ。

「お前の方からやって来て、体は大丈夫と言い張れば、殿下だって拒まれないだろうよ。目立たないように、俺が手引きしてやるから、安心しな。……でないと」

 ジュダは、ふうとため息をついた。

「また犠牲者が出るかもしれないだろ。フィリッポが本を持ち帰るかも、それに回復呪文が書いてあるかもまだわからないってのに、延々と手をこまねいてるわけにはいかない」

 確かに、と真純は思った。それはリスクが高すぎる。

(フィリッポさんはまだ帰らないし、宿の場所も知らない。殿下の所へ行っても、大丈夫だろう……)

「行きます」

 そう答えると、ジュダはほっとしたような笑みを浮かべた。

「じゃあ、今夜迎えに来るからな。さて、稽古を始めるか」

 はい、と勢い良く返事をして、真純は剣を構えた。急に訪れたら、ルチアーノはどんな顔をするだろうか。倒れたという使用人を案じる一方で、真純は期待も抑えきれなかった。
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