48 / 242
第四章 時に愛は、表現を間違えがち
1
しおりを挟む
それから三日が経過した。真純は、新しく滞在し始めた宿の中庭で、ジュダを待っていた。
(明日あたり、フィリッポさんが帰って来るな……)
無事、本を持ち帰れただろうか。ルチアーノは、フィリッポの安全のため、こっそり騎士団に後を尾けさせたと言っていた。王室との関わりが露見しないようにするため、陰ながら見守る程度らしいが。
(明後日の朝、フィリッポさんの家に行ってみよう)
そんなことを考えていると、ジュダがパタパタと走り込んで来た。
「悪い! 遅くなったな」
「いいですよ。お忙しいですもんね」
ルチアーノと宿を分けたせいで、ジュダは両方を行き来しているのだ。今日は剣の稽古をする約束だったが、予定を一時間も過ぎている。よほど用事が立て込んでいたのだろう、と真純は想像した。
「ん~、まあ、色々あったからな」
ジュダが、言葉を濁す。真純は首をかしげた。
「何か問題でも?」
そう尋ねると、ジュダは一瞬黙り込んだ。ややあって、ためらいがちに話し出す。
「実はな。使用人の中に、うっかり殿下の素顔を見てしまった者がいて。倒れ込んだきり、なかなか回復しないんだ」
「ええっ、そうなんですか!?」
真純は青ざめた。以前エレナが挑戦した時は、数分で回復したというのに。なぜ今度の者は、それほど重症なのだろう。
「……俺が思うに。お前の『治療』が遠のいているせいじゃないだろうか。それで、解けかけていた殿下の呪いの症状が、後退したんじゃないかって」
ジュダが、言いにくそうに言う。どうしよう、と真純はうろたえた。確かに、宿を分けて以来、ルチアーノとは寝所を共にしていない。王室との関わりがバレないようにするためと、ルチアーノが真純の体を気遣ったための、両方だ。
「殿下は、このことを何と?」
「それがなあ……」
ジュダは、顔を曇らせた。
「お前の体を気遣って、遠慮なさっているんだ。『治療』の間が空いてはまずい、と進言申し上げたんだけど……。それでさあ」
ジュダは、身を乗り出した。
「お前、今夜殿下の宿に行ってくれないか?」
「ええ!? それはまずくないですか?」
真純は当惑したが、ジュダはやけに自信満々だ。
「お前の方からやって来て、体は大丈夫と言い張れば、殿下だって拒まれないだろうよ。目立たないように、俺が手引きしてやるから、安心しな。……でないと」
ジュダは、ふうとため息をついた。
「また犠牲者が出るかもしれないだろ。フィリッポが本を持ち帰るかも、それに回復呪文が書いてあるかもまだわからないってのに、延々と手をこまねいてるわけにはいかない」
確かに、と真純は思った。それはリスクが高すぎる。
(フィリッポさんはまだ帰らないし、宿の場所も知らない。殿下の所へ行っても、大丈夫だろう……)
「行きます」
そう答えると、ジュダはほっとしたような笑みを浮かべた。
「じゃあ、今夜迎えに来るからな。さて、稽古を始めるか」
はい、と勢い良く返事をして、真純は剣を構えた。急に訪れたら、ルチアーノはどんな顔をするだろうか。倒れたという使用人を案じる一方で、真純は期待も抑えきれなかった。
(明日あたり、フィリッポさんが帰って来るな……)
無事、本を持ち帰れただろうか。ルチアーノは、フィリッポの安全のため、こっそり騎士団に後を尾けさせたと言っていた。王室との関わりが露見しないようにするため、陰ながら見守る程度らしいが。
(明後日の朝、フィリッポさんの家に行ってみよう)
そんなことを考えていると、ジュダがパタパタと走り込んで来た。
「悪い! 遅くなったな」
「いいですよ。お忙しいですもんね」
ルチアーノと宿を分けたせいで、ジュダは両方を行き来しているのだ。今日は剣の稽古をする約束だったが、予定を一時間も過ぎている。よほど用事が立て込んでいたのだろう、と真純は想像した。
「ん~、まあ、色々あったからな」
ジュダが、言葉を濁す。真純は首をかしげた。
「何か問題でも?」
そう尋ねると、ジュダは一瞬黙り込んだ。ややあって、ためらいがちに話し出す。
「実はな。使用人の中に、うっかり殿下の素顔を見てしまった者がいて。倒れ込んだきり、なかなか回復しないんだ」
「ええっ、そうなんですか!?」
真純は青ざめた。以前エレナが挑戦した時は、数分で回復したというのに。なぜ今度の者は、それほど重症なのだろう。
「……俺が思うに。お前の『治療』が遠のいているせいじゃないだろうか。それで、解けかけていた殿下の呪いの症状が、後退したんじゃないかって」
ジュダが、言いにくそうに言う。どうしよう、と真純はうろたえた。確かに、宿を分けて以来、ルチアーノとは寝所を共にしていない。王室との関わりがバレないようにするためと、ルチアーノが真純の体を気遣ったための、両方だ。
「殿下は、このことを何と?」
「それがなあ……」
ジュダは、顔を曇らせた。
「お前の体を気遣って、遠慮なさっているんだ。『治療』の間が空いてはまずい、と進言申し上げたんだけど……。それでさあ」
ジュダは、身を乗り出した。
「お前、今夜殿下の宿に行ってくれないか?」
「ええ!? それはまずくないですか?」
真純は当惑したが、ジュダはやけに自信満々だ。
「お前の方からやって来て、体は大丈夫と言い張れば、殿下だって拒まれないだろうよ。目立たないように、俺が手引きしてやるから、安心しな。……でないと」
ジュダは、ふうとため息をついた。
「また犠牲者が出るかもしれないだろ。フィリッポが本を持ち帰るかも、それに回復呪文が書いてあるかもまだわからないってのに、延々と手をこまねいてるわけにはいかない」
確かに、と真純は思った。それはリスクが高すぎる。
(フィリッポさんはまだ帰らないし、宿の場所も知らない。殿下の所へ行っても、大丈夫だろう……)
「行きます」
そう答えると、ジュダはほっとしたような笑みを浮かべた。
「じゃあ、今夜迎えに来るからな。さて、稽古を始めるか」
はい、と勢い良く返事をして、真純は剣を構えた。急に訪れたら、ルチアーノはどんな顔をするだろうか。倒れたという使用人を案じる一方で、真純は期待も抑えきれなかった。
14
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ
天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。
俺が王子の婚約者?
隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。
てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。
婚約は解消の方向で。
あっ、好みの奴みぃっけた。
えっ?俺とは犬猿の仲?
そんなもんは過去の話だろ?
俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた?
あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。
BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。
そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。
同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
【完結】悪役令息?だったらしい初恋の幼なじみをせっかく絡めとったのに何故か殺しかけてしまった僕の話。~星の夢・裏~
愛早さくら
BL
君が悪役令息? 一体何を言っているのか。曰く、異世界転生したという僕の初恋の幼なじみには、僕以外の婚約者がいた。だが、彼との仲はどうやら上手くいっていないようで……ーー?!
はは、上手くいくはずがないよね、だって君も彼も両方受け身志望だもの。大丈夫、僕は君が手に入るならなんでもいいよ。
本人には気取られないよう周囲に働きかけて、学園卒業後すぐに、婚約破棄されたばかりの幼なじみを何とか絡めとったのだけど、僕があまりに強引すぎたせいか、ちょっとしたすれ違いから幼なじみを殺しかけてしまう。
こんなにも君を求めているのに。僕はどうすればよかったのだろう?
この世界は前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界で自分は悪役令息なのだという最愛の公爵令息を、策略を巡らせて(?)孕ませることでまんまと自分の妃にできた皇太子が事を急くあまり犯した失態とは?
・少し前まで更新していた「婚約破棄された婚約者を妹に譲ったら何故か幼なじみの皇太子に溺愛されることになったのだが。」の殿下視点の話になります。
・これだけでも読めるように書くつもりですが、エピソード的な内容は前述の「婚約破棄され(ry」と全く同じです。
・そちらをお読みの方は、少し違う雰囲気をお楽しみ頂けるのではと。また、あちらでは分かりにくかった裏側的なものも、こちらで少し、わかりやすくなるかもしれません。
・男性妊娠も可能な魔力とか魔術とか魔法とかがある世界です。
・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。(3-7とかの数字の前。
・ちゅーまでしか行ってなくても前戯ならR18に含みます。
・なお、*の多くは全部ぶっ飛ばしても物語的に意味は通じるようにしていく予定です、苦手な方は全部ぶっ飛ばしてください。
・ありがちな異世界学園悪役令嬢婚約破棄モノを全部ちゃんぽんしたBLの攻めキャラ視点のお話です。
・執着強めなヤンデレ気味の殿下視点なので、かなり思い詰めている描写等出てくるかもしれませんが概ね全部大丈夫です。
・そこまで心底悪い悪人なんて出てこない平和な世界で固定CP、モブレ等の痛い展開もほとんどない、頭の中お花畑、ご都合主義万歳☆なハッピーハッピー☆☆☆で、ハピエン確定のお話なので安心してお楽しみください。
【完結】ハシビロコウの強面騎士団長が僕を睨みながらお辞儀をしてくるんですが。〜まさか求愛行動だったなんて知らなかったんです!〜
大竹あやめ
BL
第11回BL小説大賞、奨励賞を頂きました!ありがとうございます!
ヤンバルクイナのヤンは、英雄になった。
臆病で体格も小さいのに、偶然蛇の野盗を倒したことで、城に迎え入れられ、従騎士となる。
仕える主人は騎士団長でハシビロコウのレックス。
強面で表情も変わらない、騎士の鑑ともいえる彼に、なぜか出会った時からお辞儀を幾度もされた。
彼は癖だと言うが、ヤンは心配しつつも、慣れない城での生活に奮闘する。
自分が描く英雄像とは程遠いのに、チヤホヤされることに葛藤を覚えながらも、等身大のヤンを見ていてくれるレックスに特別な感情を抱くようになり……。
強面騎士団長のハシビロコウ✕ビビリで無自覚なヤンバルクイナの擬人化BLです。
ポメガバって異世界転移したら、冷酷王子に飼われて溺愛されました
夏芽玉
BL
ずっと好きだった相手に、告白することもなく失恋した。心の傷が癒えないまま出勤すれば、ミスの連発。ストレスのあまりポメラニアンになってしまったけれど、それと同時に、オレは異世界転移までしてしまったようだ。
傷心旅行ついでにたっぷり可愛がってもらえれば、すぐに元の姿に戻れるだろうと思っていたのに、どうやらこの世界にポメラニアンは居ないらしい。魔物と間違えられながらも、なんとか冷徹王子のペットになったんだけど、王子の周りでは不審な出来事が多発して……
※ポメガバースの設定をお借りしています
第11回BL小説大賞に参加します。よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる