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隣の芝生

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「…助けてくれて、ありがとうございました、山野さん」

ベンチに山野と並んで座り、腕に抱えた紡を強く抱き締める。冷えて震えているのはどちらの身体か。

「いえ…」

山野は遊びに行くでも無く不思議そうにしている奏を抱えながら、空いた片手で背中をさすってくれる。

「……ごめんなさい」

震えを落ち着けようとお礼を言ったきり、何も言葉を発せずにいると、不意に山野が謝ってきた。

「え?何も謝られることなんて…」

「あの時、羨ましいなんて言ったこと。何も知らないで言っていい言葉じゃなかった。……向かい合っただけで、こんなにも震えて冷たく、顔色が悪くなってしまうほど、貴女を恐ろしい目に遭わせた人を…」

「いいえ、そんなこと…」

山野の後悔が滲む台詞に首を振る。
愛美だってこの身体の持ち主たる松本幸恵の拒絶が無ければ、秀一の柔らかい雰囲気と優しげな言葉にすっかりと騙されていただろう。
それに山野から家族で仲良く遊んでいた話を聞いた時には愛美も羨ましいと思ったものだ。

あの時、

『ーこの子達だけでも守らなきゃと思ってー』

そうこの身体に眠る松本幸恵の心が言った。
あれはどういう意味なのだろう。
あの男の暴力に晒されるのは自分だけで済ませたいという事だろうか。
だけど、それなら恐怖は兎も角、あの計り知れない喪失感と絶望感は、なぜ。


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