10 / 15
233番
第十話 特訓開始
しおりを挟む朝ごはんを一番に食べ終えコニーに昨日渡されたのと同じ透明なアクリル板のような板を渡される。
今日の画面は昨日の果物の絵とは別の、この世界の文字が並べられているものだった。
「文字を押すと音が流れるから、それで覚えて行くんだよ。一通り記憶できたらこの水色のボタン、『ゲーム』って書いてあるんだけど、それを押して発音された音に合う文字を探して押すんだ。レベルが上がると『りんご』とかの言葉を発していくからその言葉の順番に文字を押すんだよ。」
コニーが分かりやすく解説してくれ、理解の旨を伝えるべくコクコクと何度も頷く。
「じゃ、がんばりな。何かあれば呼ぶんだよ。」
目線を合わせるためにしゃがんでいたコニーが仕事に戻るために立ち上がり、去り際に233番の頭を軽くポンポンと撫でて行く。
去っていくコニーの背中を見ながら233番は触れられた頭にソッと手を置く。
それからゆっくりと胸の方に手を当てコテンと首を傾げる。
何か懐かしい温かさを感じたからだ。
今のはなんだったんだろうと疑問に思いつつもすぐに文字の勉強へと移った。
なんとなく流れに身を任せていただけだった233番に、何故かふつふつとやる気が湧いてきたのだ。
一つ一つの文字の音を二回ずつ押してきちんと確認する。不安に思う音だったら何回も聞き返す。
「あら、233番ちゃんはもう文字のお勉強ですか?偉いですね。何か分からないことがあればすぐに呼んでくださいね!コニーさんだけでなく、わ・た・しも!!頼りになるんですからね!!」
今朝のことを少し根に持っているセイラは自分のアピールを必死に熱弁する。
「あーうー。」
了解したという旨の言葉になっていない返事を聞き、満足げにまだご飯を食べてない幼児の所へご飯をあげに行った。
引き続き一つ一つの音をしっかりと聞いて記憶していく。
産まれた時に感じた、違う言語と認識はできるのに脳内で翻訳されて流れてくる不思議な違和感は、六か月間の生活の中で徐々に慣れていき今では気にならなくなっていた。
だがこう一音一音の文字を聞き取ってみて、音が違うことを理解すると気にならなくなっていたその違和感が存在感を増してくる。
とりあえずは首を振り気にならないよう頑張ってみるも、ゲームを開始しレベルアップして単語ごとの選択になっていくと、日本語とこの世界の言語で二重に聞こえてくる。
(う…あたまくらくらする…)
不思議な感覚に酔いに近いものを感じ始めた幼児の異変に、近くで234番に離乳食を与え終わったばかりのセイラが気が付いた。
「…!コニーさん!!233番ちゃんの様子が!!」
すぐに駆け付けたコニーによりベビーベッドから抱き上げられた小さな体は無意識のうちにコニーの袖をギュッと握りしめていた。
「どうしたんだい。文字はまだ早かったかね。」
(うう、がんばる。)
まだ頑張れるという思いを込めて首を左右に振ってみる。
コニーにしがみついている形になっており、端から見たら顔をコニーの胸元にぐりぐり擦りつけて甘えているようにも見える。
だが世話係二人にはそれが甘えているのではなく無理をしようとしていることは用意に分かった。
「233番ちゃん、気分が悪いときに頑張るのは逆効果ですよ。」
セイラが珍しく少し怒気の籠った口調で言う。
「セイラの言う通りさ。今日はもう文字の勉強は休むんだよ。しばらく横になってるといい。」
再びベッドに戻され不思議な名残惜しさを感じながらも大人しくいうとおりに横になって酔いが冷めるのを待つ。
目を離したすきに無理をしないようにタブレットのような物もいつの間にか回収されていた。
酔いも大分引いて楽になってきたら暇で退屈になってくる。
何か暇をつぶせるものはないかと座って辺りを見回してみるが、世話係二人はまだ忙しそうだ。
現時点で離乳食をグズらずに食べれるのは232番、233番と先日離乳食の魅力に気づいた234番のみだ。
後は食べるには食べるが大人しくしていられなかったり、そもそも食べなかったりと理由はマチマチだ。
手のかからない子から先に終わらせてしまおうというコニーの方針から232番、233番と234番はもう既に食べ終わっている。
233番の右隣の住人、232番号の桃髪の少女はご飯を食べるとすぐに眠るので規則正しい寝息を立てている。
暇をつぶせないかと233番が辺りをキョロキョロしてると左隣のベビーベッドの住人と視線が絡む。
(あ、となりの…。きょうはごはんすぐにたべれてえらいね。)
233番はとりあえず隣の男児へ親指を立ててみる。きっと意味は伝わらないんだろうなと思ったがどうにか賞賛を形にしたいと思ったからだ。
すると青髪の男児はしばし233番を見つめたのちへにゃと破顔した。
(…!!)
何かに射貫かれた衝撃を受け233番は小さな手で顔を覆った。
(はうぅ…か、かわいい…)
双海 笑美だった時に兄弟はおらず、母親が娘の教育に無関心であったために保育園や幼稚園といった場所にも通わせてもらえなかった。
故に同年代(今は233番の方が精神的には大分年上だが)の子が周りにおらず、環境柄癒しも無かったので234番の純粋無垢な笑顔は乾いた心に容赦なく沁みわたっていた。
233番が顔を覆っているとひとしきり幼児達にご飯を上げ終えたコニーが彼女の異変に気づき心配で近づいてくる。
「あんた大丈夫かい。」
「あう。」
体調不良とかではないのでとりあえず頷いておく。
その日一日中は初めて抱く「愛おしい」という感情に戸惑いながら過ごした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界初心者の冒険
海生まれのネコ
ファンタジー
ある日事故で死亡した高校生の僕は、異世界の神様だろう人に頼まれて、異世界のとある男の子の変わりとして生きることを選んだ。
魔法の存在するファンタジー世界で、龍神として新たな人生を楽しめると思ったのもつかの間、その認識が大間違いだと分かった上に、星を壊すという敵の姿がどこにも見当たらない。
男の子から引き継いだ命の行く先は、どこに向かうのだろうか?
※他の方々の異世界物より、設定が少し難しいかも。どちらかというとシリアス系です。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
ハクラと銀翼の竜【ライト版】
古森きり
ファンタジー
リーネ・エルドラドには伝承があった。
壁海の割れ目の向こう側に、バルニアン大陸という“世界の半分”が存在する。
その大陸にはアルバニス王国という国があり、その国の向こう側には翼を持つドラゴンや、この世界の頂点に君臨する巨獣が住んでいるのだと。
科学が進歩して飛行機が飛ぶようになった今、世界はバルニアン大陸の発見は時間の問題だとか、そんな大陸存在しないことが証明されるんだとか、色々と言われているけれど…。
※『ポケットBLノベルクラブ』様より『小説家になろう』様へ加筆修正して完全転載したものです。『ポケットBLノベルクラブ』に投稿した方は削除致しました。
※15禁、ボーイズラブはあくまでも保険的なもので、そこまで激しい表現は期待されませんようお願いします。多分。BLとして書いたやつなんですこれでも。おかしいな。
しかし本作には残酷な表現やBL(近親相姦系など)の性的表現がありますのでご注意下さい。
※ミッドナイトノベルズさんに投稿してある『ハクラと銀翼の竜』の残酷表現、性的表現をやや軽〜くしたライト版になります。多分、ライトになっているはず。そこそこ読みやすくなって……ればいいなぁ。
※小説家になろうさん、アルファポリスさん、カクヨムさん、ツギクルさん(外部URL)にも掲載しております。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない
カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。
一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。
そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。
ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!!
その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。
自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。
彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう?
ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。
(R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします)
どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり)
チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。
今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。
ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。
力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。
5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます!
5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます!
5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)>
5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります!
5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる