異世界でピエロは踊らない

maimai

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233番

第十話 特訓開始

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朝ごはんを一番に食べ終えコニーに昨日渡されたのと同じ透明なアクリル板のような板を渡される。

今日の画面は昨日の果物の絵とは別の、この世界の文字が並べられているものだった。

「文字を押すと音が流れるから、それで覚えて行くんだよ。一通り記憶できたらこの水色のボタン、『ゲーム』って書いてあるんだけど、それを押して発音された音に合う文字を探して押すんだ。レベルが上がると『りんご』とかの言葉を発していくからその言葉の順番に文字を押すんだよ。」

コニーが分かりやすく解説してくれ、理解の旨を伝えるべくコクコクと何度も頷く。

「じゃ、がんばりな。何かあれば呼ぶんだよ。」

目線を合わせるためにしゃがんでいたコニーが仕事に戻るために立ち上がり、去り際に233番の頭を軽くポンポンと撫でて行く。

去っていくコニーの背中を見ながら233番は触れられた頭にソッと手を置く。

それからゆっくりと胸の方に手を当てコテンと首を傾げる。

何か懐かしい温かさを感じたからだ。

今のはなんだったんだろうと疑問に思いつつもすぐに文字の勉強へと移った。

なんとなく流れに身を任せていただけだった233番に、何故かふつふつとやる気が湧いてきたのだ。

一つ一つの文字の音を二回ずつ押してきちんと確認する。不安に思う音だったら何回も聞き返す。

「あら、233番ちゃんはもう文字のお勉強ですか?偉いですね。何か分からないことがあればすぐに呼んでくださいね!コニーさんだけでなく、わ・た・しも!!頼りになるんですからね!!」

今朝のことを少し根に持っているセイラは自分のアピールを必死に熱弁する。

「あーうー。」

了解したという旨の言葉になっていない返事を聞き、満足げにまだご飯を食べてない幼児の所へご飯をあげに行った。

引き続き一つ一つの音をしっかりと聞いて記憶していく。

産まれた時に感じた、違う言語と認識はできるのに脳内で翻訳されて流れてくる不思議な違和感は、六か月間の生活の中で徐々に慣れていき今では気にならなくなっていた。

だがこう一音一音の文字を聞き取ってみて、音が違うことを理解すると気にならなくなっていたその違和感が存在感を増してくる。

とりあえずは首を振り気にならないよう頑張ってみるも、ゲームを開始しレベルアップして単語ごとの選択になっていくと、日本語とこの世界の言語で二重に聞こえてくる。

(う…あたまくらくらする…)

不思議な感覚に酔いに近いものを感じ始めた幼児の異変に、近くで234番に離乳食を与え終わったばかりのセイラが気が付いた。

「…!コニーさん!!233番ちゃんの様子が!!」

すぐに駆け付けたコニーによりベビーベッドから抱き上げられた小さな体は無意識のうちにコニーの袖をギュッと握りしめていた。

「どうしたんだい。文字はまだ早かったかね。」

(うう、がんばる。)

まだ頑張れるという思いを込めて首を左右に振ってみる。

コニーにしがみついている形になっており、端から見たら顔をコニーの胸元にぐりぐり擦りつけて甘えているようにも見える。

だが世話係二人にはそれが甘えているのではなく無理をしようとしていることは用意に分かった。

「233番ちゃん、気分が悪いときに頑張るのは逆効果ですよ。」

セイラが珍しく少し怒気の籠った口調で言う。

「セイラの言う通りさ。今日はもう文字の勉強は休むんだよ。しばらく横になってるといい。」

再びベッドに戻され不思議な名残惜しさを感じながらも大人しくいうとおりに横になって酔いが冷めるのを待つ。

目を離したすきに無理をしないようにタブレットのような物もいつの間にか回収されていた。

酔いも大分引いて楽になってきたら暇で退屈になってくる。

何か暇をつぶせるものはないかと座って辺りを見回してみるが、世話係二人はまだ忙しそうだ。

現時点で離乳食をグズらずに食べれるのは232番、233番と先日離乳食の魅力に気づいた234番のみだ。

後は食べるには食べるが大人しくしていられなかったり、そもそも食べなかったりと理由はマチマチだ。

手のかからない子から先に終わらせてしまおうというコニーの方針から232番、233番と234番はもう既に食べ終わっている。

233番の右隣の住人、232番号の桃髪の少女はご飯を食べるとすぐに眠るので規則正しい寝息を立てている。

暇をつぶせないかと233番が辺りをキョロキョロしてると左隣のベビーベッドの住人と視線が絡む。

(あ、となりの…。きょうはごはんすぐにたべれてえらいね。)

233番はとりあえず隣の男児へ親指を立ててみる。きっと意味は伝わらないんだろうなと思ったがどうにか賞賛を形にしたいと思ったからだ。

すると青髪の男児はしばし233番を見つめたのちへにゃと破顔した。

(…!!)

何かに射貫かれた衝撃を受け233番は小さな手で顔を覆った。

(はうぅ…か、かわいい…)

双海 笑美だった時に兄弟はおらず、母親が娘の教育に無関心であったために保育園や幼稚園といった場所にも通わせてもらえなかった。

故に同年代(今は233番の方が精神的には大分年上だが)の子が周りにおらず、環境柄癒しも無かったので234番の純粋無垢な笑顔は乾いた心に容赦なく沁みわたっていた。

233番が顔を覆っているとひとしきり幼児達にご飯を上げ終えたコニーが彼女の異変に気づき心配で近づいてくる。

「あんた大丈夫かい。」

「あう。」

体調不良とかではないのでとりあえず頷いておく。

その日一日中は初めて抱く「愛おしい」という感情に戸惑いながら過ごした。

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