異世界でピエロは踊らない

maimai

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233番

第五話 コニーとセイラ -疑心

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【STORAGE 2.B】の奥にあるキッチンでは自分たちの昼食の準備をするコニーと、『商品』に与えたご飯に使った食器を洗うセイラの姿があった。

「不思議ですよね~233番ちゃん。まだ生まれて六ヶ月なのに本当に頭いいというか、察しがいいというか。」

「んー。」

セイラが233番に関心しているのを横目に適当に相槌を打ちながらコニーは考え事をしていた。

勿論セイラ同様に考えるのは233番についてだ。

(普通あんな方法思いつくかね。)

コニーは先程ご飯を上げるのに手間取っていたセイラに助け舟を出した233番の行動について考えていた。

(あれは明らかに明確な意図があった。「ご飯美味しいから君も食べてみて」と言う言葉を体現していた。ただの生後六ヶ月の幼児じゃぁない。頭がいい、察しがいい、不思議~、処の問題じゃぁないね。これは……ハッキリさせないとだね。)

セイラの能天気さに呆れつつも233番についてちゃんと話し合わなければという結論に至ったコニーは手を止め彼女の方へ向き直る。

「セイラ、私達の仕事、忘れちゃいけないよ。」

コニーがそうセイラに釘を刺すと、セイラは動かしていた手を止め、表情がみるみるうちに曇っていった。

「...わかってますよ。私達の仕事は…っ、商品達が順調に『出品』できるように養育することです。」

彼女達二人が現在進行形で手塩に掛けて育てている230~249番の総勢20名の子達はいずれ出品される商品だ。

今部屋でスヤスヤ寝息を立てている赤ん坊たちは全員漏れなく売られるためだけに生まれてきた命。

子供たちがいずれ辿るであろう避け難い未来を想像し、悔しさでセイラは唇を嚙み締めた。

それはセイラ自身が過去に出品された経験があり、同じ運命を辿らせるためだけに幼児達を育てている己への怒りでもあった。

「そう、異常があれば報告しなきゃならない。飯代のかかるだけの厄介者は早々に処分したがるのさ、FACTORYここの上層部は。」

セイラは話の流れが見えず不安そうにコニーを見つめる。

セイラが派遣されたのは233番達が来た一週間後だった。

一週間程コニーが一人で回していたのは人手不足で、セイラが同時期に都合良く現れたから【STORAGE 2.B】に派遣されたのである。

工場FACTORYの出品過程の二番目にある「育成」は三つの部署から構成されている。

第一、第二、第三部署があり、第一は新生児を、第二は乳児~六歳未満まで、第三だけは六歳~出品されるまでと、「育成」と「管理」を兼任している。

第二の世話係は二人一組で20名程を養うのだが、たまに世話係が逃げ出したりストレスでおかしくなったり商品を虐待したり等の理由で人員は良く入れ替わる。

それに比べコニーはかれこれ11年程この部署にいて、世話係の中では一番長いと配属される前にセイラは聞いていた。



セイラとコニーの付き合いは数か月程度。

コニーは愛想は悪いが話しかければ返事を返すし時々するセイラの長話にも相槌を打ったりしてちゃんと話を聞いてくれる。

それもあって彼女のこと詳しくは知らないけれど、なんだかんだセイラはコニーの事を信頼していたのだ。

同じ部署に配属された仲間だと。このイカレた商売に加担している同じ穴の貉だと。そして彼女もまた囚われの被害者なのだと。

故にこれまで一度も疑いもしなかったコニーの立場。こちら側なのか。あちら側なのか。

この部署で長続きしているのは奴らと繋がりがあるからなのか。それとも『処分』等をきちんとやることにより奴らからの特別待遇が出るのか。

嫌な想像ばかりが途端に脳裏に溢れ、セイラの額から汗が流れる。
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