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第六話
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甘ったるい日々が続きました。日曜の午前のように、爽やかで暖かな日々です。二人は半同棲のように、大概、私の部屋に奴が入り浸っていました。
殆ど共通項のない私と奴でしたが、蜜月な月日を重ねるごとに、私の中の一部として奴の存在があるような感覚でした。そこでは、全ての差異は大河を漂う塵芥のように些細で、考え、風貌、性差さえも、私達の幸福を実らせるための肥料にすぎませんでした。
あれは春の季節だったのでしょう。麗かで、豊穣としていて、辺りを飛び交う虫達すら春の陽気の象徴と化していました。奴からは蜂蜜のような香りがして、その抱擁の度に私は融解する意識に身を任せていました。奴は躁鬱気味な嫌いがありましたが、あの頃の私からすれば毎日を彩る音色の如きものでした。私の心身も、奴の心身も、全ては二人のものです。ともに彩る主体であり、客体です。冬の寂しい季節なんて誰が想像したでしょう!
そして、あの時、私は確かにマーガレットを見出しました。退屈で鈍感な私の世界を、奴は鮮やかに満ち足りたものへと変貌させました。姿形は違えど、奴は私のマーガレットであり、幸せを教えてくれた人です。マーガレットは延々と咲き誇り、その白い花弁を一人でに散らすことなく、ただ美しく人と共に枯れるのです。
殆ど共通項のない私と奴でしたが、蜜月な月日を重ねるごとに、私の中の一部として奴の存在があるような感覚でした。そこでは、全ての差異は大河を漂う塵芥のように些細で、考え、風貌、性差さえも、私達の幸福を実らせるための肥料にすぎませんでした。
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