マーガレットを、私に

五味千里

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第一話

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 これほど惨めな想いはありません。一匹の女の、人という人の部分が酷くなじられた心持ちです。今までささやかながら生きてきましたが、その幸せも記憶の泡沫となって消え果てました。

 爽やかな恋をしていたつもりでした。互いに好む人と共に過ごし、同じ景色を眺め、機会があれば身体を重ねる、そんな当たり障りのない恋に身を委ねていました。過度な刺激も快楽も求めてはいません。ただ部屋の窓際に一輪の可憐な花を飾るような、そんな恋を私は望んでいました。

 しかし彼は、いえ、あの男は、どうやら違ったようです。奴は折角の飾ったマーガレットを花瓶から晒し、その花弁一つ一つを身勝手に千切っていきました。

 あいつは、悪魔です。人が大事に大事に抱えていたものを平気で踏み躙る人でなし、エゴイスト、気狂い。
 私は、奴に屈しません。奴がもがき苦しむことを心より祈っています。そして、一時といってもあの気狂いに魅了され、心身を預けた私自身も、決して赦しはしないでしょう。
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