平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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155 一歩一歩、例え亀の歩みでも 前編

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「はぁ…平和って何て素晴らしいんだろう…。」

「ふふ、本当に仰る通りですわ。
妃殿下が心穏やかにお過ごしになられることこそ、わたくしたちの喜びですもの。」

「ありがとうラスティ。
だけどあれからお茶会のお誘いも減っちゃたし…大丈夫かな。」

「問題ありませんわ。妃殿下の方がお立場は上なのですから。あの日の妃殿下はただ陛下への想いをお伝えしただけ。
妃殿下の行いは何一つ悪いものはありませんでしたわ。」

「じゃあ、気にしない。」

「ええ。それで宜しいかと。」

マティアスと結婚してから私は貴族の夫人や令嬢たちからよくお茶会なるものに誘われるようになった。
面倒だけど会社でも会社同士の付き合いだったりがあったので、私はお茶会も仕事と思って参加していたのだけど……これがまぁ…また酷かった。
何が酷いって事あるごとにマティアスの見目を貶してくる。
それは直接的な言葉じゃなく、遠回しな…嫌な言い方で。
マティアスだけじゃない。リュカやヴァレ、カイルの事を言ってくる時もあって、しかもハッキリと言えばその場で注意出来るのに、ハッキリとは言わないからまた厄介だった。
マウントを取ろうとしている事も分かっていたし、しょうもない人たち、と思うようにして過ごしていたけれどそれでもやっぱりストレスは溜まるわけで。
だって言われているのは赤の他人の事じゃなく、夫のマティアスの事、恋人で婚約者のリュカ、ヴァレ、カイル。私にとって大切な人たちの事だから、嫌な気持ちしかしなかった。

「容姿とか身分とか生まれとか性別とか職業とか。いつの時代でも差別はあるものだと思っているけれど……もう少し寛容になってくれたらな…。」

「妃殿下…。」

「悪口を言われている所を見るのも嫌だし聞くのも嫌。
それがマティアスたちの事なら尚更嫌。
皆の事もよ。」

「……。」

「見ず知らずの人の事はね、関係ないって思っちゃうと思う。私は聖人じゃないから、多少気になる所はあってもきっとそれだけ。
だけどマティアスや皆の事、貴女たちのことも含め考えると…関係ないとはとても思えないの。」

「妃殿下…。わたくしどもは妃殿下のそのお優しいお気持ちだけで救われますわ。妃殿下が想って下さる、それだけで嬉しいのです。それだけでもう、十分なのですわ。」

「…でもねラスティ。それじゃ嫌なの。私は自分勝手で我が儘だから、私たちの子供や孫、子孫の代までずっと同じ差別があるのは嫌。
差別を無くすのは簡単なことじゃないのも分かってる。
でも……そうね…うん。動かない事には始まらないよね。」

「?」

「もっと積極的に行動していこう!……と思ったものの行動するにしても何をすればいいんだろう…。」

「??」

その日は一日中色んな事を考えた。
差別と言っても沢山の差別がある。
これまでその多くの差別を当たり前としていた人たちの意識を変えるのは難しい事だ。
考えれば考える程難しい問題。
新たに法律を作るのだって決めなければならない問題が沢山ある。
私は悪口や陰口を言わない人なんてこの世に存在しないと思っている。人によっては別に悪口のつもりで発言したのではなく、相手にこうして欲しいだとか、こういう所が嫌だから直して欲しいという気持ちから言葉が出る事だってあって、そして言われた方の捉え方もまた人各々違うものだ。名誉毀損の法律を作ったとして、それはどこまで目を光らせるべきだろうか。言われた側、やられた側が嫌な気持ちになれば?
調べてみると裁判を開く事も結構な金額のお金がかかるのが分かった。
それに、貴族対一般市民だと圧力とかもあって、市民が泣き寝入りする事も多いらしく……法律の事は私もよく分からないけれどそれにしても問題がとても多い様に感じた。
色んな事を考えた。思い返した。
学校で学んだ事、社会で経験した事、本当に色々と。
今の日本もまだ差別はある。
性別の差別も、性の差別も、貧富の差別も、職種の差別も未だにある。
色んな事が少し寛容になった今の日本でもまだ沢山の差別があるのだから、この世界の…いや、この国の差別を少しでも無くそうと努力した所で変わらないかも知れない。
虐げる側だけじゃない。虐げられる存在の意識も変えなければならない。
それはとても、とても困難な道だ。

「…だけど、変わって欲しい。
何年、何十年、何百年掛かっても…いつか、変わってくれたらいいなぁ。」

今出来る事をずっとやっていれば、そして私が死んだ後も誰かが意思を引き継いでくれれば、きっと叶うはずだから。そう信じたい。
結局その日は頭を悩ませただけで何も思い付かなかったけれど、ある出来事をきっかけに糸口を掴むことになる。


「孤児院に行きたい?」

「ええ。実は先日護衛の一人から花の冠を貰ってね?
話を聞くと帝都を巡回していた騎士に孤児院の子が渡してきたらしいの。
私に渡して下さいって。」

「ああ…渡された騎士がそなたの護衛騎士の一人に託したのか。」

「そう!それで、素敵な贈り物を貰ったから何かお返しと…直接お礼も伝えたくって。駄目?」

「いや、孤児院に行くのは大賛成だ。
この国にも孤児院で暮らす子供たちは大勢いる。事情も様々だな。
サイカが訪問すれば子供たちもさぞ喜ぶだろう。」

「良かった!
マティアスも時間があったら一緒に行きませんか?」

「……いや、政務が立て込んでもいるし…それに、一番は子供たちが怯えてしまうだろう。」

「…マティアス…」

「すまない。そなたに悲しい顔をさせてしまった。」

「…ううん、私のことはいいの。」

そんなことない。と言いたかったけれど、マティアスは実際に人から怯えられたり、嫌な目で見られたりしてきた人だ。もしかしたら子供にも怯えられたのかも知れない。
何と言葉をかけていいのか分からなかった私はマティアスを抱き締める事しか出来なかった。
その数日後、日程を調整して訪れた孤児院は帝都の中で一番大きな孤児院だと事前に聞いていたけれど、広い敷地に大きなお屋敷が立っていて、よく漫画などで出てくるような寂れたものではなく、しっかりと管理がされている印象の施設だった。
院にいる孤児たちは全員で四十人。
シスターや子供を失った親たちで子供たちのお世話をしているのだそう。
素敵な贈り物をしてくれた子供たちとの出会いを果たし、私は自分で作ったお菓子をお礼として手渡した。
孤児院には寄付を。院の運営と子供たちの為に使って欲しいと伝えると、院長らしき初老の男性は人好きのする笑顔に涙を浮かべながらお礼を言ってくれた。
挨拶とお礼が済んだからはい、帰ろうかなんて勿体無いので私はまず孤児院で子供たちの世話をしている大人たちの話を聞く事に。
子供たちだけでなく、大人たちにもまた色々な事情があったのだ。


「私はこの国の者ではないのです。
故郷がある国は小さな国で…戦争のせいで子供を失ってしまいました。
大国なら、滅多な事がない限り戦争なんて起きないと思って…八年前にこの国に。」

「私も似たようなものです。戦争ではなく部族間の争いと言いますか…そういったものが頻繁にあるのですが…巻き込まれるのにもう疲れてしまって。」

「そうなんですよ。そういう戦みたいなのがあるたび、私たちは食料や水、物資を渡さなくちゃいけないんです。
毎日生活するのもやっとなのに、私たちの事なんて何も考えてない…。
餓えで死んでしまった人たちがどれだけいるか。
私の親や生まれたばかりの子供も犠牲になったんです…!」

「…そうだったのですね…。
色んな国で…戦争や争いが起こって…。
お辛い気持ちを抱えて、レスト帝国に来られたのですね。
この国に来るまでも大変だったでしょう。」

「ええ…勿論色々とありました。
ですが、レスト帝国を選んで良かったと思っています。
この国は世界で一番強い国です。そんな国と戦おうと思う国はありません。」

「それ大国ですから仕事もまだ全然あります。他の国だったら…多分もっと苦労していると思います。」

こういった話を耳にするたび、私がどれだけ恵まれた環境で生活をしていたのか、しているのかを実感する。
これまでに危険が全く無かったわけではないけれど、それでも、戦や争いを前にすれば個人の意思や力なんて無意味に等しい。

「……ですけど、」

「?」

「……いえ、何でもありません。」

「…何でも仰って下さい。
今日はお礼をしに伺いましたがこうして皆さんのお話しを聞くのも大切な事だと思っています。
私個人で出来る事は少ないでしょう。ですが、何か思う事がおありでしたら気にせず仰って下さい。」

「…王妃殿下………仕方のない事なのです。本当に、仕方のない事で…。」

「大丈夫ですよ。無礼かもと遠慮する必要もありません。私が良いと言っているのですから。どうぞ聞かせて下さい。」

「……では…。……その、…どこの国へ行っても、変わらない事もあるのだな、と。」

「…それは…?」

「私は娘と二人、故郷のある国を出て…これまでに三つの国で生活していました。
どこも親子二人、貧しくともいいから普通に生活出来ればと、そう思って。
……ですが、世間は厳しいものだと痛感したのです。」

「……。」

「女で、若くもない私を雇ってくれる所はありませんでした。毎日ひもじくて、ゴミを漁ったり、落ちている物を拾って食べて…お腹を痛めた事も少なくありませんでした。
何とか娘だけでも食べさせないと…それだけの思いで生きていました。」

「……。」

「そんな私たち親子を、誰もが笑っていました。貴族でもない、同じ平民の誰もが。嫌な笑みを浮かべて、“汚い”“臭い”“みっともない”“近寄るな”と…。
どこへ行っても同じでした。住む所を変えても、違う国へ行っても。
…それは大国であるこの国でもそうでした…。」

「……。」

「希望を抱いて、大国レスト帝国を目指して旅を続けました。大国に行けば、きっと変わる。だって大国なのだから。
……でも、誰もが無関心で……女で、若くもなくて、汚ならしい身なりをしているから…雇ってもらえませんでした…。
もう、娘と二人、死んでしまおうと思った時に…この孤児院に救われたんです。」

「……そう、でしたか…。」

「…王妃殿下、…私たちの様な者は…生きている資格はないのでしょうか。
贅沢したいなんて思っていません。
ただ、愛する娘、家族と一緒に笑って過ごしたいだけなんです。
私たちのような、生まれながらに弱い者は、私たちは、普通に生きる事さえ許されないのでしょうか。」

そんなことはない。
そう、直ぐ伝えたかったのにそれが出来なかった。涙が止まらなかったからだ。
悲痛な思いが私の大切なひとたちと重なってしまう。
どれだけ辛い思いをしてきたか、どれだけ絶望してきたか。
叫びたい気持ちを飲み込み、諦めるしかなく、仕方ないと割り切る事しか出来ない日々が、どれだけ辛かったか。

「…あ、お、王妃殿下、も、申し訳ありません…!」

「…い、いいえ、気に、しないで、くださ、」

「妃殿下、一度外へ出ましょう。」

「ヒルダの言う通りですわ。
一度外に出て、気持ちを落ち着けまりょう。
カルラ、アリア、ミーシャ。孤児院の方たちのフォローは任せます。」

「ええ、分かったわぁ。」

「妃殿下、ご安心下さいませ。」

「お任せ下さい。」

孤児院の外に出て、澄んだ空気を肺いっぱいに取り込む。
何て悲しい事だろうか。
人生望み通りにいかない事は沢山ある。
私の人生も上手くいかない、望み通りにはならない事だらけだった。
だけどそれは、無くてもいい望みだったのだ。
生きる死ぬの問題じゃかった。もっとお金があればいいだとか、もっと自由な時間が欲しいだとか、沢山旅行に行きたいだとか働かずに生活したいだとか、そんな望みばかり。
どれも楽をして生きていたいという贅沢な望みばかり。
日本で生活していた私は、何て小さな世界で生きていたのだろう。
この世界に来てから本当に色々考えさせられる。
気持ちを落ち着かせる為に大きく深呼吸すると、目の端に孤児院の敷地で畑を耕す子供たちが映った。

「早く大きくならないかなー!」

「はは!今植えたばかりだよ?」

「大きくなったら皆で分けて食べようね!」

「みんなで、はんぶんこ!」

年齢関係なく、子供たちは互いに協力しながら、助け合いながら生きている。
小さな体で鍬を振るのは大変だろうに、時々よろけそうになりながらも一生懸命に土を耕している。
皆が汗を流しながら、だけど笑顔で。
喜びと、希望に満ちた、そんな笑顔に見えた。

「…あの子たちは、将来どうなるのかな。」

「……ある程度の年齢になれば働く事になりますわ。」

「ですが、ここにいる子供たちは基本的な文字の読み書きも出来ない子たちばかりです。
何処かの店の雑用しか仕事はないでしょう。」

「…ヒルダやラスティは子供の頃、やりたい事はあった?将来の夢とか。」

「……いいえ。何もありませんでした。」

「わたくしもです。ただ、父に言われた通りに毎日過ごしていただけですわね…。屋敷から出るな。人前で姿を現せるなと。
…将来の事も、やりたい事も考えもしませんでしたわ。」

「…そう…」

足は無意識に子供たちの方へ進み、私の姿を目に映した子供たちは緊張したように体を固くさせていた。

「何を植えたの?」

「え!?あ、…えと、……トマト、です。」

「今は何をしてたの?」

「あの、…あの、……土を、やわらかく…してた、です。」

「あのね!土がかたいままだと、おおきくならないの!めもでないの!
だからこれでかたい土をえいってやって、おやさいを助けてあげるのよ!」

「こ、こら!ビー!王妃様にそんな口聞いちゃだめだよ!!失礼だし不敬罪で捕まっちゃうんだ!!」

「え!?あ、あ、ごめんなさい、ごめんなさい、つかまえないで!」

「ぷ!…ふふ、大丈夫、捕まえないわ。
今日は皆と仲良くなりたくて来たんだから、普通に喋って大丈夫よ。」

「…ほんと?」

「捕まえないんですか?」

「しないしない。
それで…土を耕すの、お姉ちゃんもやってみていい?」

『え!!?』

「妃殿下!何を仰るのですか!!」

「いけませんわ!妃殿下がそのような事!護衛の方も止めて下さい!」

「妃殿下、怪我でもされたら!」

「そうです!陛下も悲しみます!!」

「何事も経験って言うでしょう?
土を耕すのは初めてなの。
ね、どうやってやればいいかお姉ちゃんに教えてくれる?」

戸惑う男の子から鍬を受け取り、言われた通りにやってみる。
一回、二回、三回。鍬を振る回数が増えると足腰や手が辛くなってくる。
ディアゴ村で土砂の片付けを手伝ったけれど、あれとはまた別で大変だった。
土砂より固くはなかったけれど、それでも土の中には石とかもあるから中々の重労働。これを子供たちがやっているのかと思うと素直に凄いと思わずにいられなかった。

「ふぅ、…ふう、…これは…大変な作業ね!」

「いつもサイくんとメルくんがしてるの!二人は皆よりお兄ちゃんだから!」

「そうなの…でも凄いね。
見て。お姉ちゃんは大人なのにちょっと鍬を振っただけで手が震えてる!」

「あはは!」

それから私は子供たちと一緒に地べたに座って話を聞いた。
鍬で土を耕していたサイ君とメル君は今年で十歳。今いる子供たち中でこの二人が一番年上らしい。
この孤児院では男の子は十二歳になると孤児院の外で働くようになり、二人もあと二年すれば大人と一緒に働くようになる。
驚くべきは、十歳の二人が大人のような考えを持っている事だった。

「孤児院に来る子は、一人じゃないんだ…です。人数が増えると、その分大変になるから。」

「僕たち二人が働いて、お金を孤児院に入れれば、ちょっとは助かるのかなって。
院長先生もシスターたちも心配しなくていいって言うけど、やだよ。ここがなくなるの、考えただけで…悲しい。」

「うん。ここにいる子たちは、ここしか生きる場所がないんだ。ここでしか、生きられない。
僕たちも住み込みになるか、ここから通うかまだ分からないけど、出ていった兄ちゃんたちも住み込みで働ける所を選んでる。ここの人たちに恩返しがしたいからそうしてるんだよ…です。」

「そっか、偉いね。凄いことだよ。サイ君もメル君も皆も、この孤児院にいる子たちは思いやりがあって優しい子ばかりね。」

照れたようにはにかむ二人はとても可愛い。
この子たちにはやりたい事はないのだろうか。
孤児院の事は別として、自分たちがしたい事やなりたい職業は。将来の夢は。

「もしも叶うとしたら。皆は将来何になりたいとか、ある?やりたい事はある?」

『やりたいこと…?』

きょとん、と皆が同じ顔をした。
それが、答えのような気がした。

「思い付かない…。」

「うん。孤児院の皆を助けたいくらいしか、ないかな…。」

「…お姉ちゃんはね、子供の頃ケーキ屋さんで働きたいって思った事があるの。
ケーキ屋さんだけじゃなくて、お花屋さんも。」

『?』

「ケーキ屋さんになれば、毎日美味しいケーキが食べれると思って。
お花屋さんになれば、綺麗で可愛いお花に囲まれた生活が出来ると思って。
皆は、何がやりたい?将来何になりたい?今、ちょっとだけ考えてみて?」

「……僕、」

「はい!サイ君!言ってごらん?」

「僕、洋服屋さんになりたい…かも。」

「それはどうして?」

「買い物に行く時、綺麗な服を着ている人たちを見るんだ。
いいなって、思う…。僕たちが着てるのは、兄ちゃんや姉ちゃんたちが着てた服で、全部汚れてるから。
自分の、綺麗なの…一度でいいから着てみたい!」

「ビーはねぇ!ビーは、きれいなドレスをきて、王子さまとおどりたい!
あと、あと!お腹いっぱいごはん食べたい!
お姉ちゃんがくれたお菓子みたいな、甘くておいしいものもいっーっぱい!!」

「ふふ。」

「……僕は、貴族になりたい。無理だって分かってるけど、貴族なら、お金があるんでしょう?」

「…メル君は、貴族になって何がしたいの?」

「僕たちみたいな子を助けるんだ。
お金を沢山使って、この孤児院よりうんと大きな孤児院を作って。
僕たちみたいな子を、全部助けるんだ。
僕たちは運がいいって、おばさんたちが言ってた。他の国だと、同じ孤児院でももっと大変だって。」

「……。」

「食べるのも、パン一つだけの所があるって。でもここのご飯はパンだけじゃないんだよ。寝る時も、ベッドで寝てるけど、他の所はベッドもない所がいっぱいあるって聞いたんだ。お金が沢山あれば、パンだけじゃなくてスープも飲めるし、ベッドで眠れるよね?
助けて下さいってお願いしても、誰も聞いてくれないから、僕は自分で貴族になりたい。」

「…助けてくれない、か…。」

「メルが言ってるのは本当の事だよ?先生やシスターたちには内緒で、僕とメルでお願いしに行った事があるんだ。でも皆変な目で見てた。くすくす笑って、“いやしい子供だ”て言ってた。
…いやしい子供って何?意味は分からなかったけど……良くない言葉、なんだ…ですよね?」

「…そうだね。良くはない…酷い言葉よ。大人が、その言葉を貴方たちに言ったのね?」

「…うん。」

「……そう。……そうだったの。」

「…王妃様…?」

何て悲しい世界だろう。
何て理不尽な世界だろう。
皆自分が生きるので精一杯。誰かの世話なんて出来ないし、そんな余裕もない。そんな事分かってる。
綺麗事では食べていけない。生きていけない。
そんな事分かってる。
だけど。必死に生きようとしている人たちを、必死に生にしがみついている子たちを笑うのは違う。
この子たちは自分の事だけじゃなく、この孤児院にいる全員を心配して、協力して、助け合って毎日を必死に、一生懸命生きているのだ。
それを、その純粋な思いを“卑しい”と言ってしまえる人たちがいる。
その現実が余りにも悲しく、理不尽で腹立たしかった。
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