平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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151 アメリア 中編

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こんなに美しいひとは見た事がなかった。
わたくしも色んな人に“美しい”と言われてきたけれど、次元が違うとはきっと彼女の事だと思うの。
特別とはきっと、彼女の為の言葉。
そう素直に納得出来てしまう程、彼女…レスト帝国の至宝、サイカ王妃殿下はとんでもなく美しい女性だった。

「マティアス陛下、サイカ王妃殿下。
ようこそドライト王国へ。
お二人を歓迎致します。」

「サシャ殿、久しいな。
…そちらは確か…奥方か?」

「ええ、俺の妻です。」

「…アメリアと申します。お二人のご結婚式に参加出来ず…申し訳ありませんでした。
お目にかかれて光栄の至りに御座います。マティアス陛下、サイカ王妃殿下。」

「いや、こうして会えたのだから気にしてはいない。
自身の体調を優先してくれ。」

「有り難う存じます。」

「アメリア妃とは初めてお会いしますね。サイカと申します。本日は宜しくお願い致します。」

「………。」

「アメリア妃?」

「あっ…?も、申し訳御座いません。」

サシャ殿下の妻として恥じない働きを、と殿下に約束しておきながら、わたくしは妃殿下の余りの美しさに見惚れ、反応が遅れてしまう。
幸いなのはこうした反応をしてしまったのがわたくしだけでなく、妃殿下に初めてお会いした者全員だった事。
マティアス陛下とサイカ王妃殿下がご結婚された際にレスト帝国へ直接お祝いに行ったサシャ殿下、ラグーシャ侯爵、他数名の王族や貴族たちでさえ、やはり改めてみるサイカ王妃殿下の美しさに見惚れたまま。

「サイカ。ドライト王国に着いたばかりですまないが…そなたは暫くの間、アメリア妃と過ごしていてくれるか?」

「ええ、分かりました。」

「話し合いが終わり次第そなたの元へ向かう。」

人目も憚らず、マティアス陛下はサイカ王妃殿下の頬へ口付ける。
柔らかな笑みを浮かべ、離れるのが名残惜しいと言わんばかりに。
対するサイカ王妃殿下は…なんとまあ、随分愛らしい方だと感じた。
わたくしとはそう年齢が変わらないと聞いていたけれど、もっとお若く見える。
恥じらいながらも喜びを隠せていない。
頬を可愛らしく赤らめ、まるで宝石を散りばめたように輝いている瞳は愛されていることを理解し、揺らぎない愛情、その自信に満ちた幸せな女性の顔だった。
…本当に。神様は何て方をお作りになったのか。

「…ではサイカ王妃殿下。僭越ながらわたくし、アメリアが妃殿下のお相手をさせて頂きます。」

「ええ、お願いします。アメリア妃。」

わたくしも他の女性たちと比べ細い方だと思っていたけど、妃殿下と並ぶと天と地程の差。
細い肩に腕。胸元は綺麗な鎖骨が浮き出ている。
ウエストは括れ、どの角度から見てもその華奢な体付きが分かるけれど、横から見ると信じられない程の細さ。
細く、華奢であるのにまろみを帯びたお体の何て美しいことでしょうか。
まるで一つの芸術品のよう。これぞ完璧な美。
特別という言葉も、神様に愛されているという言葉も、きっと妃殿下にこそ相応しい。
わたくしはこれまで、個人の容姿については特にどうとも思わなかったけれど、妃殿下に対しては別だった。
妃殿下の美しさはそう…作られた美しさではなく、自然の摂理のような。
作られているものではないから、際立って美しく見える。
羨ましいとは思わないけれど、けれどほんの少しだけ、わたくしを遠ざけた友人たちの気持ちが分かった気がした。


「十一歳で婚約者に選ばれたのですか!?では…当時から王妃になる為の教育を…?」

「え、ええ。特に珍しい事ではありません。ドライト王国はレスト帝国と同じく、王族であろうと貴族であろうと余程の事がない限りは長子が跡を継ぎますので…わたくしも、婚約者に選ばれた当時から王妃教育を受けました。」

「…わあ…十一歳からですか……大変だったでしょう…。」

「いえ…わたくしに比べ妃殿下はマティアス陛下のご婚約者になられてから王妃としての教育を受けたとお聞きしました。
わたくしは幼い頃から積み重ねて、でしたが…妃殿下こそ、大変だったでしょう。」

「ええ…長らく貴族社会から離れていましたから…文字通り初めから、の状態でしたね。
けれど学びは楽しいものでもあります。何故、どうしてという疑問。その答えが分かった時は嬉しいですし…。」

「……妃殿下は、」

「?」

「…いえ。何でもありません。」

変わった方だと思った。
学びが楽しいなんて、女性ではわたくし以外にいないと思っていた。
令嬢たちは学ぶ事より見た目の方が大事で、パーティーでもお洒落や化粧、ドレス、靴にアクセサリー、お金、そして男性の話や恋の話ばかりしているから、そういうものなのだと。

「妃殿下の仰る通り。知らない事を知るというのは楽しいものです。」

「ええ!それに、知識が増える事は助けにもなります。立場柄色んな方とお会いする機会がありますが…私には分からない話だったり、知らない話だったり。
そういう時は余り会話も続かなくて。
分からなかった事や知らなかった事はその時に聞いたり調べたりすれば、次にも生かせますよね。」

「え、ええ…本当に仰る通りです。
女に勉学は必要ないと周りは言います。
ですが勉学とは、計算や歴史を学ぶだけではないと思うのです。
文字を書くのも、読むのも、学ばなくてはなりません。それもまた、勉学と言えるのではないでしょうか。」

「ええ、ええ。」

「こんなにも身近な所にあるのに、必要ないと仰る方々の考えがわたくしには分かりかねます。
計算だって、結婚して屋敷の管理などを任されるようになれば…おのずと必要になるはずなのです。」

「お金の管理は大変ですから、家計簿を付けるのは大切です!」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

『…ぷ。ふふふふふ…!』

見つめ合いながらの沈黙。
その後、自然と笑い声が出た。
妃殿下との会話は…今までにない有意義なものだと感じた。
博識で政治への関心も高い。
美しい、愛らしいその容姿からは想像も出来ない。
容姿だとか、お洒落だとか、化粧だとか。
ドレスに宝石、靴にアクセサリー、男性の話に恋の話。そういった話ではなく、こうした会話が出来る女性は周りに居なかった。
妃殿下は学ぶ事が好きとわたくしに言った。
大変だけど、知識が増えるのは嬉しいと。
知らない事を知るのは、楽しいと。
本を読むのも好きと言った。
わたくしもそうだった。幼い頃からよく本を読んだ。
絵本から始まり、沢山の本を。
知らない言葉、知らない文字、文の組み合わせ方。
計算、歴史、マナー、領地のこと。
学び出せば奥深く、楽しい。
わたくしが学んだ分、何かあった時にお父様やお母様、皆の役に立てるのではと思った。お父様とお母様、ダンお兄様にロン。皆の笑顔が、当時のわたくしは大好きだったから。
けれど、大好きだった家族でさえ、わたくしを怪訝な目で見ていた。

『何もかも私たちとは違い過ぎて…本当に、自分の子かしらと疑ってしまうの。』

『アメリアは特別なんだよ。
持って生まれた才能は神様から与えられたものだ。
あの子が私たちと違って異質なのは、あの子が特別な子だからだ。』

『アメリアお嬢様の方が頭がいいなんて、長子のダン様が可哀想だわ…。』

『だって、どうしたって比べられるでしょう?
私たちはダン様の味方でいましょ。』

『不公平よね。容姿も特別、才能も特別。おまけに生まれてきた家がドライト王国でも有数の名家、ライオット侯爵家よ。もう何の嫌味かしら。』

『お嬢様って子供っぽくないのよね…。まるで大人と会話してるみたいで…少し気味が悪いのよ。
でもダンお坊っちゃまとロイお坊っちゃまは可愛いのよねぇ!』

まるで人を化け物みたいに。
特別?わたくしは特別じゃない。
身分や容姿の事は確かに持って生まれたものでしょう。
けれど他は違う。皆の役に立ちたくて学んだものだってあった。
何もせずに得られるものなんてないのに、皆がわたくしを特別だ、自分たちとは違うと言うの。
人より物覚えがいいだけ。学ぶ事が好きなだけ。
沢山本を読んだ。大人たちの会話の意味を、考えたりもした。
分からない事も沢山あって、分からない事は調べた。
そうやって毎日を積み重ね得たものだってあるのに知ろうともしてくれない。
持って生まれた才能、神様から与えられた能力と決めつけて、結果だけを見て過程を知ってはくれない。

「…妃殿下も、学ぶ事が好きなのですね。……安心しました。」

「…安心ですか?」

「周りの令嬢たちは余り…そういった環境でもない限りは自ら学ぼうとはしないので。
わたくしが変なのかしら、と。思った事もあります。」

女でなく男であれば、さぞ喜ばれただろう。
美しい容姿に優れた能力、才能。
女ではなく、男であればまだ良かったのにと言われた事もあった。

「…同じでなくては、と思ったこともありました。昔のことですけれど。」

「…おかしな話ですよね。」

「…え?」

「十人いれば十人、皆各々違う。容姿だって性格だって、才能だって能力だって。誰かの良さは誰かにはなくて、でも別の良さがあって。それがいいのに。
個性だとか、違いって大切だと思いませんか?」

「個性…?」

「皆が皆同じだなんて、考えるだけで恐ろしい。例えば。顔も容姿も皆同じだとか、性格が皆同じだとか、皆同じ服しか着ないとか、そんな世界が実在したなら…考えるだけでぞっとしません!?」

「…それはまた……恐ろしい世界ですね…。」

「同じ価値観を共有する事が良い場合もありますよね。犯罪者が何故犯罪者なのか、とか。これをしたら悪い事、良い事。善悪の基準が全くではないにしろ同じであればきっと、物事はもっと楽に運ぶでしょう。だけどそうはいかない。
だって皆同じじゃないから。」

「……。」

「性格一つ、考え方一つ、各々が違う。
だから色んな差別や区別があるのだと思います。
そうやって考え方は皆各々違うのに、女はこうでなくてはならないとか、男はこうでないとだとか。変な所で一緒なんて…おかしな話だなぁってつくづく思うんですよね。」

そんな事を当たり前のように妃殿下が仰るから、もうどうにもならない事を聞いてみたくなった。
誰かではなく、妃殿下のお考えを聞いてみたくなった。

「あの…、」

「はい、何でしょう。」

「昔、こんな物語を本で読んだ事があるのです。
本の主人公は高位貴族の家に生まれた女の子。
その子は…何もかもに恵まれて生まれました。」

家柄、身分、容姿、才能、そして何れ大きな地位も。

「女の子は、家柄や容姿だけでなく才能にも恵まれていました。
頭も良く、一度学べばすぐに覚えてしまう。そういった才能でした。」

「純粋に羨ましい…。」

「大好きな家族と友人に囲まれ…女の子は幸せでした。ある日までは。」

「?」

大好きな家族の本音を聞いてしまった。
それまで兄弟と変わらない愛情をわたくしにも注いでくれていたと疑問にも思わなかったのに、明らかな差に気付いてしまった。
よくよく見ようとすれば…使用人たちの恐れにも気付いた。
心の拠り所だった友人たちも、友人と思っていたのはわたくしだけだった。
体が子供のそれから、少しずつ大人へと変わる成長期。
周りとの違いが浮き彫りになり始めた途端、わたくしは一方的に友人を失った。
それからは。男性からは異性を見る熱のこもった視線を送られ、令嬢たちからは遠巻きに嫌な視線や陰口を言われる日々。

『やはりアメリア嬢がいると華やぐな。見ろ、あの容姿。美しい…。』

『アメリア嬢は王太子殿下の婚約者だぞ。滅多な事は言わない方がいい。』

『人生の勝ち組だな。』

『ねえ、声掛けてみなさいよ。同じ侯爵位でしょう?
美容に秘訣とか聞けるかも知れないわ。』

『いやよ!隣に並んだらみじめじゃない!』

『友人にはなれないわね。嫌な思いをしそうだもの。』

『不公平よね、何もかもに恵まれて。
彼女、さぞ幸せだと思うわ。』

わたくしは何もかも恵まれているけれど、何一つ恵まれていない。
特別なんていらない。
ただ、ただ普通の女の子だった方が、きっと今よりずっと幸せだったことでしょう。
家族と今も笑い合い、友人たちと過ごし、恋もしたかも知れない。
特別なわたくしが出来ないことが、普通のわたくしなら出来たかも知れない。

「妃殿下。妃殿下も…女の子は恵まれていたと思われますか?」

「……。」

「物語の結末は書かれていません。
…大人の女性になった彼女は、幸せになれたと思いますか?」

もう、どうしようもない。
家族の本音を知らなかった頃には戻れない。
何も知らない素振りで過ごす事は出来るけれど、昔のように純粋な気持ちのまま、家族が大好きだと思ってもいない。
失った友人たちと再び懇意になりたいとも思わない。
他人が煩わしい。もううんざりなの。
作り笑いを浮かべるのも、話を合わせるのも。沢山の誰かが思い描くアメリアを演じるのも。もう、うんざりなのよ。
けれど、わたくしはこれから先も沢山の人間と関わっていかなくてはならない。
ドライト王国の次期王妃として。
いつまで、恵まれたアメリアを演じ続ければいいのかも分からない。
どうにもならない。わたくしの自身の問題を誰もどうする事も出来ない。
分かってはいるけれど、もう、随分休んでいないから…きっと疲れてしまっていた。

「難しいですね…。恵まれているけれど、恵まれてはいない。きっと、環境が違えば物語の女の子は誰よりも恵まれていたと思います。」

「…環境?」

「身分もある。美しい容姿も。才能も。先ほども話しましたけど、全部、個性でもあると私は思います。
沢山の個性に恵まれた女の子。だけど、その素晴らしい個性を生かす環境が無かった。」

「…環境とは、そのままの意味ではなく……人も、含まれていますね。」

「その通りです。」

「では、…いえ、…やはり意味のない質問でした。申し訳ありません。」

ああ、やはりどうしようもない事だった。
もうどうにもならない事だと分かっていたのに、どうして、こんな意味のない質問を妃殿下にしてしまったのか。
どうして、何かが変わるかも、なんて希望めいた事を思ったのか。
ラグーシャ侯爵を変えたのが妃殿下だから。
妃殿下が、ああも生き生きと人生を楽しむようになった彼へ変えたから。もしかして、と思って。

「意味は無くない。だって、物語の女の子は…アメリア妃ご自身ですよね?」

「……どうして、」

「身分とか、家族構成だとか余りにも似ていたので…そうじゃないかなと思いました。
…ごめんなさい、踏み込まれたくなかったと思います。
…でも、でもね。そんな顔で意味のない、だなんて嘘ですよ。」

「……。」

つんと、鼻の奥が痛んだ。
込み上げてくる何かが、喉元までせり上がってきていた。

「…ごめんなさ、……少し、待って、」

何か話さなくてはと思えば思うほど、言葉が出ない。
詰まったような言葉しか出なくて困っていると、向かい合って座っていたはずの妃殿下がわたくしの目の前で膝を折り…わたくしの手を握った。
その瞬間何故か、もう過ぎた沢山の出来事が頭を過った。

わたくしが他人の子かも知れないなんて酷い。
わたくしは特別なんかじゃない。見ていない部分は沢山あるのに、勝手な事ばかり言わないで。
知らない事を知れる、だから本を読むのは好きだった。だけどお兄様は教師が付くまで、遊んでばかりだったじゃない。
自ら学んできたわたくしと、教師が付くまで学んでこなかったお兄様の差なんて、あって当然の事じゃない。
どうしてよ。どうして、皆わたくしを除け者にするの。どうして、皆わたくしだけを仲間外れにするの。自分たちとは違うだなんて酷い事を言うの。
どうして無視をするの。
どうして避けるの。
どうして、話し合おうともしてくれないの。
わたくしたちが過ごした日々は、何だったの。
容姿の違いはそんなに駄目な事なの?
人より物覚えがいい事が、そんなに気味の悪い事なの?
分からない。わたくしには分からない。
酷い、酷い。あんまりよ。
自分たちとは違うなんて言わないで。
あの子は特別だなんて、そんな事言わないで。
皆が勝手にわたくしを特別にしたのよ。
わたくしは望んでもいないのに!周りが勝手に別のわたくしを作り上げて、勝手な区別を付けたのよ!

「わたくしは特別じゃない、なのに、どうして、…どうして皆、勝手な事言うのよ…!どうして、…どうしてぇ…、」

「………支えて欲しかったですよね、誰よりも一番、家族や友達に。一番の味方でいてほしかったですよね。
だから色んな感情を誰にも伝えられなくなって、自分一人で処理するしかなくて。」

堰を切ったように涙が止まらないわたくしを、妃殿下は抱き締めて下さった。
相手がレスト帝国の王妃殿下という事も忘れ、わたくしは妃殿下の体に力一杯しがみついて泣いていた。

「家族や友達に、一番に支えて欲しかった。
でも、一番味方になって欲しい人たちは味方じゃなくて…じゃあ他に、誰に自分のこの苦しい、辛い気持ちを伝えたらいい?
辛い気持ちを誰にも伝えられないから、一人で耐えるしか無かった。一人で気持ちを処理するしか…。
それは、…それはとても悲しくて、とても苦しくて、辛い事ですよね。」

「うう、うううう…、つらい、…つらかった………誰も、わたくしを、…わたくしの気持ちを、分かってくれない…!」

「うん。……どうしてって、思う。私だったら、そう思う。
家族じゃないの。友達じゃないの。
そう、思ってしまいますよね。
大好きな人たちが味方になってくれないのは、……一番、辛かったよね。」

「わ、わたくしは、大好きだったのよ…!お父様もお母様も、ダンお兄様も、ロンのことも、お友達のことだって…!
…でも、でもっ、…彼らはそうじゃなかった…!
笑顔を向けながら、心の中ではわたくしを気味悪がってた…!
わたくしの容姿が少し違うだけで、勝手に態度を変えて…!わたくしは、誰かにとって、っ、…簡単に捨ててしまえる存在だった…!」

皆嫌い。大嫌い。
家族も友人たちも、誰も彼も大差ない。
皆同じだった。
誰も、本当のわたくしを見てくれない。
誰も、わたくしの気持ちを考えてはくれない。
想像も、知ろうとも、どれだけ伝えようとしても、“アメリアは特別だから”で終わってしまう。
アメリアは特別だから。
身分ある家柄に生まれたのも、美しい容姿で生まれたのも、高い能力を持っていたのも、特別だから。
何もかも、神様の思し召し。だからこその特別。

「特別なんて、いらないの…!
特別よりも、普通がいい…!
どうして誰も、本当のわたくしを見ようとしてくれないの…!
わたくしは特別じゃない!恵まれてなんか!特別のせいで、わたくしは、」

「うん。アメリア妃は普通の女の子だったんです。
何処にでもいる、一人の女性。
周りと変わらない。私もそうですよ。
何処にでもいる、一人。…容姿は、違うみたいだけど。私は自分を特別だと思ってなかった。今もそう。容姿の事だけは…そうじゃないと考えを変えたけれど。皆が、私を特別と言うから。」

「……!」

「絶世の美女、女神のようだと皆が言うの。サイカは優しい、サイカは美しい、サイカは特別な存在だって。
自分自身ではそう思わないけれど、周りがそう言うから、そうでなくてはならないって思ってしまった部分もあったんです。望まれた私でいなくちゃとも思っていました。」

「……今は、違うのですか…?」

「うん、今は違う。
周りの私を見る目は変わらないけれど……私の大切な人たちが、私がどこにでもいる普通の女だって知ってくれたから…それで十分です。皆に知って、分かってもらわなくていい。少なくとも私の大切な人たちが知ってくれていれば、それだけでいい。
一人でも、分かってくれている人がいる…それだけで、随分救われるんです。そして貴女にも、そういった誰かが必要なんです。…でないとずっと辛いままだから。」

この方もまた、わたくしと同じように苦しんでいた時期があったのだと気付いた。
悩み、葛藤し、どうしようもない感情に苦しんでいた時期があったのだと。
当然だろう。これだけの美しい容姿。
絶世の美女、女神のような。
このとんでもなく美しい容姿で戸惑い、傷付いた事も、危険も沢山あったに違いない。

「アメリア妃。私と、お友達になって下さいませんか?」

「……。」

「アメリア妃の苦しみが、私には他人事とは思えない。
アメリア妃の辛さや苦しみが全部ではないにしろ、私にも分かるの。
私も、そうだった時があったから。」

「…ひでんか、」

「もっとアメリア妃と話したい。もっと、アメリア妃の事を知りたい。
私が、本当のアメリア妃を知っている一人になっちゃ駄目ですか?」


見上げたそのひとはとても美しく笑っていた。
澄んだ、黒い美しい瞳で真っ直ぐわたくしを見つめ、涙を流しながら。
わたくしの痛みを自分の痛みのように、そんな温かな心を感じて…わたくしは、彼女に縋り付くように泣いた。
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