平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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お礼話 サイカ、騎士たちと戯れる②

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貴女がいなくなって四ヶ月が経ちました。
お屋敷は子供の声で賑やかですけど…やっぱり貴女がいなくて皆、寂しそうではあります。
病気や怪我などしていないでしょうか。陛下に嫁がれ、ご無理はされていないでしょうか。

「ああ、今日も空が青い…。」

俺たちはいつも、貴女を想っています。大切なお嬢様。
サイカ様が毎日健やかであるよう、幸せであるよう、祈っています。
この想いが帝都にいるサイカ様に届きますように。

「いや思ってる事全部言葉に出てて引くわ。」

「今日も空見て涙流してるけど…何が見えてるの?
まさかサイカ様じゃないよね?」

「レナード、気持ち悪い。」

「…発作が無くなったかと思ったらこれか。」

「なあ、ちょっと黙ってもらっていい?」

サイカ様の幸せを願って祈りを捧げている時に!こいつらちょっと酷くない?気持ち悪いってなんだよ!引くってなんだよ!

「おーい、シグルドー!ベンジャミン!アレス!ジェイク!侯爵がお呼びだぞー!あと一応レナードも!」

「ねえ、一応って何!?」

サイカ様。最近、仲間たちの俺に対する扱いが酷いんです。
ていうか!お前らも俺とあんまり変わんないだろーが!って声を大にして言いたい!
俺を変人扱いしてる仲間たちだって、サイカ様が陛下に嫁がれてからというもの…ボーっとしてたり注意力散漫だったりサイカ様が使っている部屋の窓を見てはしょんぼりしてたりしてるんだ。へっ。サイカ様が嫁いで寂しいんだろ?素直になれよって言いたいね俺は。
……素直になってもいいですか?サイカ様…俺、めちゃくちゃ寂しいですっ…!!サイカ様がクライス家のお屋敷を出られてからサイカ様成分が不足し過ぎて禁断症状出そうなんです。もっと頻繁に帰って来て…!!会いたい…サイカ様に会いたい…会いたくて泣けてくる…。

『え?』

「ク、クライス侯…い、今、なんて仰いました…?」

「一月後。帝国騎士とうち、そしてクラフ公爵領合同で訓練を行う予定だ。その際、クライス領からはお前たちを含めて腕の立つ者を三十名程度連れて行く。」

「合同訓練ですか!?」

「それはまた…すげえ話じゃないですか…!」

「気合い入れないと…!」

「…今まで無かった事だよね…!」

「しかもうちだけじゃなくてクラフ公爵様の所も一緒とか…!」

「マティアスとリュカ殿の提案でな。
お前たちもサイカが特別な存在だと理解しているだろう?
ベルナンドにバロウズ、そしてリスティア連合国王太子が企てたあの一件は前代未聞の事件となった。」

『!!』

「王太子を罰した事で…他が危険を犯す可能性は低くなった…と考えているが。同じ事、似た事が絶対に起こらないという保証はない。
故に。国の中心である帝都、そして広大な領地を持つ俺の所とリュカ殿の所で連携を取れないかと。そういう話が出た。」

「…それで合同訓練に繋がると…。」

「ああ。当日はマティアス、リュカ殿、俺も訓練の様子を見る。
…それと、本人の希望でサイカもな。」

『!!』

「他二十五名はお前たちが選抜するように。…頼んだぞ。」

『お任せ下さい!!』

合同訓練に参加するメンバーを決めるのはいいがクライス邸の警護をしているメンバーは大体同等の実力者が揃っているので厳選するのも悩み所。
なのでもうトーナメント制にして、勝者二十五人を合同訓練参加のメンバーにしようという事になった。
…まあ、そのトーナメントが大変だったんだけどな!
陛下やクラフ公爵だけじゃなくサイカ様も見学されるからなー!と伝えた途端、どいつもこいつもこれから戦地にでも向かうのかってくらいの熱の入りようで…いや気持ちは凄く分かるけど。殺意高すぎてやべーと思った。
あと既に合同訓練参加が決定している俺たち五人への圧も勿論凄かった。

『うおおおお!勝つ!勝って絶対サイカ様にお会いするんだあああああああ!!』

『おっしゃあぁぁぁぁ!!参加決定じゃああああああ!!!待ってて下さいサイカ様っ!俺が行きますよおぉぉぉ!!』

『当日サイカお嬢様に会えるのが楽しみ過ぎて今日から寝不足になる気しかしてなぁぁぁい!!』

『くそっ…負けたっ…!くっそおおおお…!!こうなったら…!当日レナードが腹を下すよう願掛けするしかないっ…!!』

『神様女神様サイカ様っ…!!
どうか!どうかお願いします…!!
当日レナードが下痢になりますようにっ…!!』

『レナード腹下せえぇぇぇぇ!!』

あれ?俺たち五人っていうか…俺にだけ皆当たり強くない?と理不尽を感じた。
こうして合同訓練に参加するメンバー三十人が決まり、俺たちは帝都へ向かった。

「き、緊張する…!」

「ああ。…熱気が凄まじいな…。」

「それもあるけどこんだけの人数がいるってのにまだ余裕がある帝国騎士鍛練所がすげーよな。」

「でも流石に帝国騎士全員じゃないけどね。それでも規模が凄いよ。」

クラフ公爵領の奴らと俺たち、そして帝国騎士たちがずらりと整列した鍛練所はもう、圧巻だった。
見渡せば皆、きりりとした真剣な表情で…うおお…!皆カッコ良すぎない…!?何か普段馬鹿っぽいって言われる自分がこの場にいていいのか分からなくなってきたぞ…!?いや、クライス侯爵領の代表として参加してる俺たち全員馬鹿ばっかりになってしまうんだけどいいの!?この場に俺たちいていいの!?
何だか場違いな場所にいるような錯覚すらしてるのは仕方ない。でも、俺たちこう見えてそこそこ実力はある方なんだ。自分で言うのも何だけど!何度か帝国の元精鋭たちに指導してもらったけど、試合では勝つ事だってあるし!流石にダミアン団長とカイル団長には勝てないけど…帝国の精鋭って言ったらそりゃもう実力派中の実力派が揃った所だし!!そういう騎士たちに互角の戦いが出来た事は誇っていいと俺は思う。うん。だから別にこの場にいていいと思う。うん。

『皆静まるように!陛下、そしてクラフ公爵閣下並びにクライス侯爵閣下の御前である!!』

ダミアン団長の一声で少しだけざわついていた空間が一気に静まり返り、視線の先には陛下にクラフ公爵、うちの自慢の領主、クライス侯爵が並んでいて…もう緊張感がもの凄い事になってた。陛下もクラフ公爵も俺たちが普段、おいそれと会える面々じゃない。
国のトップに立つ方々を目の前に緊張しない方が無理だった。
というかクラフ公爵様の目付き鋭すぎない?普段からあんな感じなのか!?だとしたら恐えぇ…!サイカ様大丈夫?クラフ公爵様ってサイカ様の婚約者だよね?
あの恐い視線をサイカ様にも向けてるのだろうかやだ恐い。
うおおお、無理…無理ぃぃぃ…!緊張する…!
もう畏れ多いのとどえらい権力者を前に重圧が凄すぎて体が小刻みに震えてしまう…そんな時だった。

「マティアス、リュカ、お義父様!お待たせしてごめんなさい…!」

女神が降臨なされた!!

「サイカ。」

「お義父様…!お久しぶりです!お会いしたかった…!」

「俺もだ。さ、一月振りに会う父に顔をよく見せてくれ。
…また一段と美しくなったんじゃないか?」

「もう、お義父様ったら。前に会った時と変わらないですよ。」

いや、俺も侯爵と同じ意見ですサイカ様…!
久々に見たサイカ様は心臓に悪いくらい美しさに磨きがかかっていて正直倒れそうになった。
サイカ様は一月前にクライス侯爵家に里帰りをしてたんだけど…その時以上に美しくなっている気がする。絶対そんな気がする。サイカ様が前以上にきらきら輝いて見える。サイカ様は女神だってはっきり確信持てる。

「お義父様に会えないのは寂しくて…こうして会うとやっぱりすごく安心します。」

「全くお前は…可愛い事をさらりと言ってくれる。」

嬉しそうににっこり笑うサイカ様尊すぎない?
俺久々に発作が起こりそうなんですけど?

「サイカ。久々に会うのは僕とも、だろう?僕に会えて嬉しくはないのか?ん?」

「またそんな事を言って。嬉しいに決まってるじゃない!
今日はリュカにもお義父様にも会えて、とても幸せな日です!」

???ああ~~?クラフ公爵様そんなお顔が出来るんですね~~!?サイカ様の前だとそんな優しいお顔が出来るんですね~~!?あれ?さっきまでと本当に同一人物?というかあの鋭い目付きだったクラフ公爵様をこんな優しい表情に出来るサイカ様がすんごいのか!流石サイカ様だ!女神様だからだな!!はーーーー、もう美しすぎなんですが?笑顔が愛らしすぎなんですが?俺倒れていい?

「おい、倒れるなよ。」

「出た。レナード久々の発作。」

「やっぱ空見て涙流すよりは気持ち悪くないね。全然マシ。」

「クライス侯爵領の代表でここに立っている事を忘れるな。」

「…ムリ……サイカ様の美しさが更に進化しててムリ……直視出来ない…」

『そこは同意する。』

一月前に里帰りなさった時も近くにいたり話たりは出来なかったけど…もう今回は直視するだけで無理。
あんまりにも綺麗すぎて出来る事ならずっと見つめていたいけど無理。はーーー、やっぱり女神だ…。

「あ…!」

何かに気付いたような声を出したサイカ様。
何かって言うか…俺たちに気付いたサイカ様は嬉しそうに笑って俺たちに手を振ったではないか…!!
あああ!?いや~~!その嬉しそうな笑顔が尊い~~!!気にかけてくれるなんて嬉しすぎ~~~!!サイカ様ーー!俺ですよーー!貴女のレナードですよーーー!!今日もどえらいお美しさですねサイカ様!!会えてすんごく嬉しいです&すんごく寂しかったです俺!!そしてクラフ公爵領の奴らと帝国騎士たちの視線怖すぎ~~!!

「レナード~!」

ああああ!?ま さ か の名指し!?
もう死んでもいい…!!

『おうおう、レナードって奴…覚悟しとけよ。』

『俺たちが崇拝する愛しの妃殿下に名前呼ばれるなんて羨ま…許せねーな。』

『ぶっ殺。』

やだ皆殺意高い。俺今日本当に死ぬかも。でもいい。サイカ様に可愛い笑顔で名前呼んでもらったから。最高。

「こほん!今後、帝国内で随一を誇る広大な領地を持つクラフ公爵領とクライス侯爵領、そして帝都でレスト帝国全土の守りを更に強固にと陛下はお考えである!
俺たちの仕事は個人もそうだが特に!チームでの連携を必要とする場合が多い!だからこそ、今回の合同訓練は非常に重要な訓練になると心得ておくように!!」

『はっ!!!』

ダミアン団長の言葉で皆の視線がサイカ様に集まったのが分かった。
陛下たちのお考えはサイカ様のあの事件があったからだと皆が理解していたし、実際あんな前代未聞な事件が起こってしまったのだから、『そこまでやらないといけないか?』とは思わない。
それにサイカ様の為だけじゃなくて、レスト帝国の守りを固めるという意味で今回の案には大賛成だった。何が起こるか分からないしな、実際。
というかサイカ様は絶対お守りする!俺が!!二度とあんな事がないようにな!!…と思ったのは当然ながら俺だけじゃなかった。

『妃殿下は俺が絶対にお守りするんだあああああ!!』

『妃殿下の専属護衛として!!俺が一番にお守りするっ!!』

『クラフ公爵の奥方にもなる方だ!私が必ず!お守り差し上げるっっ!!』

『クラフ公爵領で…いや!この国にいる限り妃殿下を拐うなんて馬鹿な行為は二度とさせんぞ…!!』

『クライス侯爵領の護衛を舐めんな!
サイカお嬢様に手を出す奴は俺がぶちのめす!!』

『サイカお嬢様の笑顔をお守りするのが私の役目です!!』

帝国騎士や俺たちだけじゃなくて、クラフ公爵領でも大人気じゃないですかサイカ様…!流石サイカ様!!いや、当然ですね!!だってサイカ様ってば美しくて可愛いだけじゃなくて優しいし気さくだし可愛いし可愛いし尊いから!!守ってあげたい女性ナンバー1だから!!
守ってあげたいっていうのも烏滸がましいか…うん、俺が勝手に守りたいだけです!!

「皆凄い熱気…!真剣そのものですね!」

真剣な表情のサイカ様も尊い。
サイカ様が俺(たち)を見守ってくれていると思うと俄然熱が入るしサイカ様の婚約者になった俺の推し、カイル団長とまた訓練出来るのも嬉しいし尚更熱も入る。

「…終わり。」

「は、はあっ、は、あ、ありがとう、ござい、ましたっ、」

「ん。」

「カイル、凄い…!」

「!!……次、早く来て。」

それからのカイル団長はまさに化け物だった。
向かってくる相手を息も切らさず瞬殺していく俺の推しは最高でしたけど?やっぱり強くて憧れますけどサイカ様に凄いと褒められて張り切っちゃうカイル団長可愛いなおい!!はーー、サイカ様といいカイル団長といい…俺の推したちが尊い。
早朝から始まった合同訓練は昼になり一旦休憩へ。
流石に今日のこの人数全員は騎士団の食堂には入りきらないようで、鍛練所で地べたに座って昼食を食べるらしく、鍛練所では数十人の騎士が使用人たちと一緒にせっせと昼食の準備をしている。

『お、おい…!あれ!!』

お腹減ったなーと待っている間に大きなざわめきが聞こえ視線を向けると…そこには騎士や使用人に混じって一緒に作業をするサイカ様の姿があった。

「ひ、妃殿下!準備は俺たちがやりますので!!」

「あああ、そ、そんな、妃殿下はそんな事をされなくていいのです…!!」

「大丈夫、マティアス…陛下には許可を取ってますから!」

自信満々に騎士たちに伝えるサイカ様は可愛いけれど、…え、いいんです?一国の…それも大国の王妃様が下働きがするような事してるんですけどいいんですか陛下…って思ってたらまさかまさか、陛下たちまでサイカ様を手伝いだしてもう全員唖然とするしかない。

「へ、へへ、陛下あぁぁぁ!!?」

「クラフ公爵様!自分が、自分たちがやりますので!!」

「クライス侯爵様もお止め下さい…!」

「カイル団長!俺たちの仕事なんですからいいですって!」

俺は思った。昼食の準備をしている騎士たちと使用人たちがある意味可哀想だって。
サイカ様とカイル団長なら嬉しい。驚くし畏れ多いけどきっと嬉しすぎてにこにこしちゃう。
でも陛下やクラフ公爵やクライス侯爵に手伝ってもらうとかは無理。手伝ってもらうとかもう恐ろしいよ。

「気にするな。日頃国の為民の為に命を懸けて職務に励んでいる騎士たちを労るいい機会だ。」

「そうだな。こういうのがあってもいい。」

「その通りだ。常日頃から感謝を伝えられればいいが、そうもいかんからな。」

「サイカがしてるから…俺もやりたい。」

四人ともやたら機嫌が良さそうなのは何でなんだろうか。
機嫌が良さそうというか、うきうきしているというか、何やらはしゃいでいる様にも見えたんだけど、その理由は直ぐに分かった。

「コホン。…それで、お前が作ったのはどれなんだ?」

「待てリュカ。…この肉料理じゃないのか?」

「卵も一個丸々入っているな。」

「マティアス、大正解~!
角煮って言うんです。パンと一緒に食べても美味しいと思うし、食べごたえもあると思います!
今日は皆沢山動くでしょう?」

「…俺、楽しみにしてた。
…聞いた時は、驚いたけど。でも、サイカの手料理…楽しみで、嬉しい。」

「はは、俺もだ。今日の訓練に出す昼食を一品、自分が作ってもいいかと聞かれた時は驚いたが…サイカの手料理を是非食べてみたいと思ってな。」

「俺たちだけサイカの手料理を味わうのはヴァレリア殿に申し訳ないが…。」

「あ、ヴァレの分はミーシャに届けてもらいましたから大丈夫です!」

「おお、そうか。なら安心だな。流石俺の娘だ。」

待って。サイカ様たちの話に頭がついていけてないけど……え?何?どゆこと?今日の昼食の、えーっと、カクニ?っていう料理は、ええと、つまり?サイカ様が作ってくれたってコト?そういう話?そういう話で合ってる?え?どういう話それ?夢?夢なのコレ?

「妃殿下、準備が整いました。」

「ありがとう、ヒルダ!」

今起こっている事に理解が追い付かず呆然と陛下たちを見つめていると、サイカ様が大きな鍋の前に立ち、そして我先にとカイル団長がサイカ様の元へ向かった。

「はいカイル!大盛りにしてあげたいけれど…今回はお肉三つと卵一つで我慢して下さいね。午後からも頑張って!」

「ん…、俺、すごく…頑張る…!」

嘘だろ…?サイカ様が作った料理というのだけでもこれ以上ない、一生もののご褒美なのに更にカクニというサイカ様の手料理を推し自ら皿に乗せてもらえる…だと!?しかも応援つき…だと…!!?
そんな光景を目にした俺(たち)の行動は早かった。
自分が一番に!陛下たちは別として一番にサイカ様の手料理にありつきたい!皿に乗せて欲しいし応援されたい!!否、一言話せるだけでも幸せいっぱい!!と配膳の列に並ぼうと駆けた。…が、サイカ様教を帝国騎士団中に広めた幹部たちの足はめちゃくちゃ早かった。流石元精鋭。ベンジャミンが十人目くらいの位置にいて優越感丸出しの顔で俺を見てるし普段クールな男と仲間たちから言われているシグルドも八人目くらいの位置にいた。シグルドお前…そんな足早かった?意味が分からないよ俺。

「熱いですから気を付けて食べて下さいね!」

「は、はいっ!!ありがとうございますっ!!」

「沢山食べて頑張って下さいね!」

「はひ!い、いっぱいたべましゅ!!」

「あれ!?昨日、夜警してましたよね?疲れてない?体調は大丈夫?」

「ちょっと疲れてましたがたった今元気いっぱいになりました!!!」

「昨日護衛をしてくれたでしょう?今日は無理せず頑張ってね。」

「妃殿下の為ならどんな無理も可能ですっ!!」

「シグルド、お疲れ様!皆の代表だなんて凄いです!」

「いえ、自分などまだまだです。
これからもクライス侯爵やサイカ様の為、職務に励みます。
…またサイカ様が…いえ、妃殿下がクライス邸に里帰りされる日を心待ちにしております。」

「ベンジャミン、最近はどう?」

「ぼ、僕ですか!?サイカ様がいなくて泣きそうなくらい寂しいです!あとレナードがすごく気持ち悪いです!」

「アレス、凄く張り切ってましたね!それに楽しそうに見えました。」

「はは!帝国の騎士やクラフ公爵領の兵たちと剣を合わせるのなんか中々ねぇですから!まだまだ強くなりますよ!強くなって、またサイカ様をお守りしてぇっていつも思ってますよ!!
あ、レナードの奴最近面倒くせぇ病気になってんですよ。気持ち悪ぃのなんのって…!」

「ジェイク、調子はどう?」

「うーん、まずますです。でも、サイカ様に声掛けてもらったから午後からは違いますよ。
あと、最近レナードが気持ち悪いんですけどどうしたらいいんですかね。」

シグルド以外酷くない?
何で俺を攻撃するのかな?蹴落とそうとするのは良くないと思うぞー?
いやそれよりも…それよりも…!もうすぐ、もうすぐ俺の番だ…!ヤバい、久しぶりのサイカ様だし俺耐えれるかな?久しぶりのサイカ様を堪能する前に倒れたりしないかな?
ドキドキしながらサイカ様の前に立つ。

「レナード、皆が言ってたけど…何処か調子が悪いの?
ゆっくり休む事もしなくちゃ駄目ですよ?レナードがいなくなったら、私もお義父様も、皆も悲しいですからね?」

「うっそだろ目の前に本物の女神様がいるんだけど後光差してるよサイカ様!!」

「…ぷっ!初めて会った時みたい…!」

「…あ、…あ…?覚えて……?…もうムリ、尊い、しゅき。」

「おあーーー!?シグルド!レナードの奴倒れるぞ!!」

「分かっている!」

「馬鹿!サイカ様が作ってくれた料理を台無しにする気!?」

「やっぱりレナードはレナード。」

頼もしい仲間もとい友人たちに背を支えられ何とかサイカ様の手料理を死守した俺。…いや、死守してくれたのはシグルドだったけど。ありがとう。心からありがとう。危うく一生もののご褒美を無にする所だった。

「ふふ、美味しく出来てると思うんだけど…、美味しくなかったらごめんね。」

少しだけ自信なさそうに笑うサイカ様。
サイカ様が作ってくれたってだけで美味しいに決まってます!と心の声が漏れた所でサイカ様自ら配膳してくれるのは終わりを迎えた。…一緒に食べたくてサイカ様を待っていた陛下たちの声によって。
丁度タイミングよく俺の番で終わってしまったので、俺の後ろに並んでいた人たちから“レナードとやら、許さん”と恨みのこもった視線が超絶恐かった。


「!!!うまっ!!何だこれ!?」

「サイカ様が言ってたでしょ。カクニって。…でも、本当美味しい…!」

「ああ、肉がとても柔らかい。柔らかいのに食べごたえもあって、味付けもくどくない所か咀嚼するたび旨味が増しているように感じる…。卵も味が染みてて旨いな…。」

「これ、普通にお店出せるよね。
……ねえ、レナード昇天してるよ。」

美味しい…サイカ様が作った手料理、カクニ美味しい…。旨味しかない…サイカ様みたい…。これを作っているサイカ様はどんな様子だったんだろう…俺たちの為に一生懸命料理してくれたサイカ様が好きしかない…。

『旨い……めちゃくちゃ旨い…旨いし嬉しいしで涙出る…』

『生きてて良かった…今日参加出来て本当に良かった…』

『嫁にするならカクニを作れる女だ…今この瞬間そう決めた。俺はカクニを作れる女と結婚する。』

『五十過ぎた俺もカクニを作れる女性と結婚出来るだろうか。』

『無理じゃね?』

『四十歳独身男の心と体に妃殿下の優しさと愛らしさとカクニの旨さが染み渡る…』

『俺も妃殿下に優しい言葉を掛けてもらったしカクニも旨いし妃殿下が愛しいしで恋人もいない寂しい男だけどものすごい幸せを感じるぜ…。』

『そんなお前がカクニになればいいのに…。』

見渡せば鍛練所にいる男たちは幸せそうに昼食を食べている。
カクニ以外にも結構な品数があって、俺も他のメニューを山盛りで皿に盛り付けてもらったんだけど、他のメニューは既に食べ切ってもカクニだけはいつまでも咀嚼しちゃう。食べ終わりたくない。この幸せな一時を終わらせたくない…ありがとうサイカ様、ありがとう…サイカ様は一生、死ぬまで俺の推しです!!
そんな俺の推し、女神サイカ様は割りと近くで陛下たちと談笑しながら昼食を取っていた。
久しぶりに見るサイカ様の『美味しいー!』と言わんばかりの幸せな表情に胸が高鳴りすぎてどうにかなりそう。やっぱり可愛い。美しいし綺麗だし絶世の美女なんだけど実際は絶世の美女っていうよりも、もうものすんごい、どうしようもないくらい可愛いひとなんだよサイカ様って。存在が愛し過ぎて毎回どうにかなりそう。
今だって、サイカ様は作った料理を陛下やクラフ公爵、クライス侯爵やカイル団長に美味しい美味しいと褒められ…

「…嬉しい…、頑張って良かった…!」

な に そ の 笑 顔
はーーーーーーー!?地面を叩くだけじゃ抑えられない衝動…!これは何!!?
サイカ様が可愛くて可愛くて愛らしさが上限突破で尊さ天井知らずなんだけどーーーーー!!?

「私もね、クライス領とか、このお城でだとか。皆に守ってもらっているから、何かお礼が出来たらなって思って。
こんなすごい量は作った事がなくて少し大変だったけど、楽しかった。…喜んでくれるかな、喜んでくれたらいいなって。
…良かった、皆美味しそうに食べてくれて。それが一番嬉しい。」

ファーーーーーー!!?
やめ、やめてっ…!尊い…!尊過ぎて心臓潰れそう…!!痛い痛い痛い…!本当に心臓痛いこれ…!!あああもう抱き締めたい…!それは絶対出来ないけどもう無性にサイカ様を抱き締めて大好きですって伝えたいこの衝動よ…!!

『俺、あの方の為にいつか死ぬわ。』

『俺も。妃殿下守って死ねるなら本望。だって妃殿下、俺が死んでも絶対泣いてくれるに違いないから。そうなったら幸せじゃん。』

『いや寧ろ死ぬ気で生きて一生守るしかないだろ。妃殿下の可愛さを堪能する為にも。』

『ああ。それにあの可愛さはただ事じゃない。屑野郎共から絶対守らないとと思った。』

『これからも殺意高く持っていこーぜ。』

『同意する。』


『サイカお嬢様はやっぱ女神様だよな。同じ人間じゃないと俺は常々思っていた。』

『可愛いの女神。一瞬で恋に落ちるわ。ってかたった今崇拝から恋に変わった。報われないけど全然いいとか不思議。』

『いや天使だろあれ。あんな可愛い天使が迎えにきたら喜んで着いていくしかない。』

『いやあの可愛さは女神兼天使兼妖精という可能性もあるかも知れない。』

『どっちでもいいし全員一致で可愛いの権現。
そしてサイカお嬢様に手を出す奴は兎に角抹殺、という気持ちが一層強まった。』

『違いない。』


『あんなに美しいのにあんなに可愛い方だったとか聞いてない。』

『と、言うか。あんなに美しい、絶世の美女というだけでもこの世に二人といないのにあんなに可愛くていいのか?駄目だろ。あんなとんでもなく可愛いひとが現実にいたらそりゃ狙われる。』

『うちの領主様が溺愛するくらいだぞ。あの仕事仕事で女性に興味がなさそうな…否、女性だとしても厳しい目で見るリュカ様が溺愛している女性だぞ?
……いや、あれは誰でも惚れるわ。可愛すぎて。あともう何か優しい性格が滲み出てる。なのに絶世の美女とか意味が分からない。分からないけど実際いるんだよねこれが。』

『…いいかお前たち。あの方が未来のクラフ公爵夫人だ。妃殿下でもあるが。言わば国の宝でありクラフ公爵領の宝である。それ即ち俺たちの宝ということだ。そしてクラフ公爵領の宝を狙う愚か共は……地獄を見るだろう。』

『死んだ方がマシって思えるくらいの地獄ですね。』


今日この日、また多くの人間がサイカ様の魅力にやられ虜になって…そしてサイカ様の信者になった事を…俺は瞬時に理解したのだった。







※お待たせ致しました!
お礼話を読んで下さってありがとうございます(^^)
少しでも楽しんで頂けたなら嬉しい限りです!
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