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146 ヴァレリアとのデート
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「と、いう訳だ。今回作ってくれた資料のように…何か思い付いた事や提案があれば真っ先に俺か、この中の誰かに相談する事。そなたを守る為にも約束してくれるか?」
「う、うん。分かった…!約束します…!」
生まれて二十五年間過ごしてきた日本での暮らし、家族の事や私自身の事は何度か話をしたけれど、文明とか科学とか。この世界とは違い、色々と進んだ世界だという事の説明が抜けていた私。
マティアスたちに私のいた世界がどんな世界だったかを詳しく話した後、今まで以上に気を付けなさいと言われた。
気を付けろ、というのは私の秘密を他の人たちに知られないように、だ。
娼婦であったこと。生まれながらの貴族ではないこと。異世界から来たというとても信じられない真実も。
今回の資料は言ってしまうと『出来すぎている』らしく、私をよく思っていない人たちからすると色んな疑念を与え兼ねない出来なのだとか。
ともあれ、私の作った資料はとても見やすく分かりやすいとマティアスたちに評判で、色々相談して形式や型式を取り入れたいと言う話で終わった。
改めて。日本での常識はこの世界では非常識なのだ。うん、もっと気を付けなくちゃ、と心に刻んだ。
「護衛が付いているから問題ないとは思うが…何かあった時はヴァレリア、妃を頼むぞ。」
「お任せ下さい、陛下。」
「それから…余り、食べさせ過ぎぬよう気を付けてくれ。」
「畏まりました。」
「疲れた様子なら直ぐに帰らせるように。」
「はい。お約束致します。」
「あとは「マティアス…ちょっと長いと思うの。」む、そうか…?」
今日はヴァレリアとデート。
以前、二人でゆっくり過ごそうと約束していた私とヴァレリアは二人でゆっくり…ではなく、帝都デートをして休日を楽しむ事にした。
マティアスにも事前に相談して了承も貰った。……うん、あれ?貰った、よね?と思ったのは仕方がない。だって、行ってきますねとマティアスに言って、マティアスからの返事を待つ間までが長かったのだから。
かれこれ十五分くらいは今のようなやり取りをしただろうか…。心配してくれるのはとても嬉しいけれど、今日のデートは相手のヴァレもいるし、護衛も沢山いるし…ちょっと心配しすぎじゃないかな?と思う。
デート地である貴族街へ向かう馬車の中、ヴァレに『マティアスは心配性ですねぇ』と言うと、『いえ、陛下のあれは別の心配ですね。』と返ってきた。はて?
「今日は貴族たちに嫌でも注目されるでしょうから…“サイカ”と呼ばないように気を付けなくてはいけませんね。」
「あ、そ、そうだった…!私も…ヴァレ、じゃなくてヴァレリア卿って呼ばないといけないんですよね…?気を付けます…!」
「夫婦になれば、誰が見ていても気にする必要はありませんよ。もう暫くの辛抱だと、私も自分にそう言い聞かせています。」
「…貴族社会って…面倒な事が多いですね…。」
「ふふ。ええ、本当に。」
貴族街に着いたみたいですね。
と窓の外に目を向けたヴァレが言う。
貴族街は一般市民…所謂平民の人たちが買い物等で利用する場所、市民街よりも人通りはそう多くないけれど、総じてお洒落と言うか…いかにも高級そうなお店が並んでいる場所だ。
「サイカ、貴族街は馬車で移動出来ますが…馬車か歩きか、どうしますか?護衛がいますので歩きでも問題ありませんよ。」
「では、折角なので歩いてデートしたいです!」
「ふふ、私もそうしたいと思っていました。」
ヴァレにエスコートされながら馬車を降りれば、周りの人たちからの視線が一気に私たちへ集まるのを感じた。
当然、いい視線だけじゃない。中には嫌な視線も混じっている。
視線だけじゃない。まるで聞こえるように悪意のこもった言葉も聞こえてきている。
『…あの方は…王妃殿下…!?』
『…なんて美しさだ…姿絵通り…否、姿絵以上に美しいじゃないか…!!』
『隣にいるあの醜い男は誰だ。あんな男が美しい王妃殿下の隣に並ぶなど烏滸がましい!』
『きっと王妃殿下の新たな婚約者になったウォルト宮中伯のご子息ね。馬車の家紋がそうだもの。
…噂通り、本当に醜いのね。』
『あのように醜い男が新たな婚約者に選ばれようとは…!王妃殿下もさぞ、御心を痛めていることだろう。』
聞こえてくる複数の悪意ある視線と言葉を受けて腹立たしさを感じながら、大丈夫だろうかとヴァレを見ると、ヴァレは全く気にしていない素振りで私に笑顔を見せた。
「言わせておけばいいのです。
私は気にしていません。いえ、全く気にならないので。」
「…本当?無理は…してない…?馬車に戻る…?」
「いいえ、無理など全くしていませんので大丈夫ですよ。
あの方たちは可哀想な事に真実を知らないし、知っても現実を見ようとしないでしょう。
私と、サイカ。貴女が心から愛し合っているその真実を、受け入れられない方たちなんです。羨ましくて。」
「確かに…知っても現実を見ようとしなさそう。」
「私の隣に貴女がいるのに、外野の事なんて気にしていられない。
今、私の気が向いているのは貴女だけ。周りで喧しくしている者たちの声も、視線も今の私にはどうでもいいです。」
「ふふ…!じゃあ、気にせず楽しまないとですね!」
「ええ、その通りです。折角のデートなのですから。
それに…今日この場所に来たのは、貴女に食べさせたい物があるからなんですよ。」
「スイーツとか!?」
「ぷ、…ふふふ…!ええ、そうです。
姉たちのお勧めの店なのですが、とても人気らしく…どの料理も素晴らしいと評判の店なんだそうです。勿論、サイカの大好きな甘いものも。」
「…わあ…!」
「店主はとても気さくな方と伺っています。姉たちが言うのですから、きっとそうなのでしょう。特に、旬のフルーツを使ったケーキは格別だそうです。…楽しみですか?」
「っ、旬のフルーツケーキ……はいっ…!すごく、すっごく楽しみ…!」
「ふ、ふふ、…あはは…!目が、瞳が輝いていますね…!
さ、では行きましょう、妃殿下。今日は私がエスコート致します。」
「ええ、お願いしますね。ヴァレリア卿…!」
そうして私とヴァレは貴族街を散策しながら目的のお店へ向かう。
やっぱり貴族たちが買い物に来るだけあって、どのお店も中々お高いものばかりが売ってある。
実は、私自身ドレスや装飾品を自ら買った事はない。
娼館にいた時もクライス家にいた頃もマティアスに嫁いでからも…オーナーやお義父様、マティアスが用意してくれていたものを着て、身に付けている。
なので自分が着ているドレスや身に付けている装飾品がいくらくらいするのかも分かっていなかった。
分かっていなかったので、今、私は衝撃を受けているのだけれど…!
「こちらの生地はドライト王国から取り寄せた最高級生地でございます。ただ、刺繍をするには非常に手間をかけなければならない生地でして…細工を行うと料金はぐっと上がります。」
「いくらくらいになるのですか?」
「そうですね…軽く、大金貨一枚は…。」
「では、この生地でお願いします。
形は…そうですね…妃殿下は見ての通り細身ですので、何でも似合うでしょう。形とデザインはお任せします。」
「畏まりました!
貴女、王妃殿下のお体のサイズを測って頂戴。
くれぐれも…くれぐれも!ご無礼のないように。」
「は、はいぃ…!では、お、恐れながら王妃殿下、お、お体を、その、ドレスを作るのに、は、測らないと、なりませんのでっ、」
「あ、はい…お願いします…。」
「で、では、あちらで、ドレスの上からでは、せ、正確なサイズが測れませんのでっ、か、構わないでしょうか…!?」
「え?ええ。お願いしますね。」
「はわっ女神様…!?」
(今、大金貨一枚って言った?言ったよね?ドレス一着で大金貨一枚って言ったよね!?娼婦だった時の私の最初の頃の値段と一緒だよね!?え?ドレスってそんなにするものなの?いや、大金貨が日本円でどれくらいの価値かも分からないけどでも日本で暮らしていた私が絶対買えないだろう値段がしてるんだよね!?)
衝撃の金額に呆然とする私。
別室に連れられ、二人の女性に体のサイズを測ってもらう間…時々「ウエスト細っ!!腰も華奢!!」「肩幅狭い…!なにこれ羨ましい…!腕も足もこんなに細い…!」と彼女たちの恐らく無意識に発しているだろう言葉を聞きながら採寸が終わって、ヴァレの元へ戻った。
ヴァレはまだ買い物を続ける気でいるのか私の手を取って店内を見回る。
そわそわしている私に気付いて、ヴァレが大丈夫ですか?と心配そうに顔を寄せたので、ヴァレの耳近くに手を添えて…内緒話をするみたいにしながら小声で聞いてみた。
「…ドレスって、あんなに高いものなんです…?大金貨一枚って、あの、」
ヴァレは私の質問にきょとんとした顔をして…小さく笑う。
「ふふ。…オーダーメイドですし、生地の事もありますからね。
でも既に出来上がっているものはそうでもないんです。
例えば…このドレス。値段は金貨一枚です。大金貨一枚とはかなり差がありますよね?」
「(かなり差があると言われても大金貨一枚がどれくらいの価値があるか分からない…。)」
「こうして店で売られているものは、令嬢たちが誰でも着れるようなものばかり。形や細工、言わばそれらに掛かる手間が違うんですよ。あと生地の原価も。」
「なる…ほど。…あの、プレゼントは、嬉しいけれど…でも、…別に作ってもらわなくても…置いてあるもので、全然構いませんよ…?」
「…ふふ、サイカ…。貴女に合うサイズのドレスは、この店に置いてありません。いえ、どの店にも置いてないでしょう。」
「あ」
「クライス侯爵も陛下も、貴女の体に合うドレスを作らせているのですよ。大切な貴女の事です。お二人ともきっと、サイズを測らなくても分かります。
でも、一度店で作ってもらえば、型紙が残りますからね。この店も、次に来た時は生地と形、細工を選ぶだけで済むでしょう。」
「…サイズ…そっか…、私…お金がかかる女だ…」
「こら、サイカ。…そんな悲しい事を言わないで。私がお金をかけたいだけなんです。
愛する女に、誰でも着られるような物を贈りたくない。そういう、私の男心を分かって下さい。
それに、貴女に何かを贈るのは楽しい。好きです。喜ぶ顔が見れるから。」
「ヴァレ…」
意識せず出た言葉が、ヴァレの好意を無下にしてしまったんだなと気付く。
ごめんねと謝るとヴァレは笑って許してくれた。
結局、パーティー用と普段着る用にオーダーメイドでドレスを二着作ってもらうようになり、出来上がりは半年掛かるそうだ。手間が掛かってる!
「ドレスが仕上がったら…贈ったドレスを着て、私とデートして下さいますか?」
「勿論です!」
「その日が楽しみです。」
その時はまた、ドレスを贈らせて下さいね。と嬉しそうに微笑んだヴァレの神々しさったら…!天使の微笑みとはあの笑顔の事。
「ヴァレリア卿…このお店ですか?」
「ええ。店の名前が“マグノリア”ですから、ここで間違いありませんよ。」
今日のデートの目的地であるお店に到着…したはいいものの……人気店だと聞いていたのに並んでいるお客さんもいないし、話し声も聞こえなくて中に沢山人がいる気配も感じられなかった。
もしかして…今日はお休みなんじゃないだろうか。
お休みならとても残念だけど、でもまた二人で来ればいいだけの話。
今日はお休みみたいですね、とヴァレに言おうとすれば、ヴァレは気にせずお店のノブに手を掛けたではないか。
「ヴァ、ヴァレリア卿、お店、今日はお休みなんじゃ…」
「開いてますよ。」
カラン、とベルの音が鳴ってドアが開くとお店の中から慌てた様子で十数人がずらりと並んだ。
「ようこそお越し下さりました!出迎えが遅れてしまい、誠に申し訳御座いません…!
私は店のオーナー、ダラン・マグノリアと申します…!
マグノリア従業員一同、お二人の来店を心よりお待ち申し上げておりました…!!早速、お席へご案内致します…!マルカ、お二人を…!」
「はい。本日、担当させて頂くマルカと申します。
心を込めて、おもてなし致します。何なりとお申し付け下さいませ。」
きょろ、とお店を見渡してみたものの、やはり私たち以外のお客は見当たらない。
まだお昼過ぎなのに、と思いながら案内された席に着く。
「…ヴァレ…じゃなかった、ヴァレリア卿、」
「はい。」
「あの、…他のお客さんが見当たらないのだけど…、」
「ああ…、今日は貸切りですからね。」
「…え?かし…?」
「貸切りです。」
「え?」
かしきり…貸切り?貸切りって、あの貸切り?
貸切りの意味を理解するのに時間が掛かってしまったのは仕方ないと思う。
だって、お店を貸切りにした事なんて人生で一度もなかったから。
貸切りという言葉で思い出したのがお義父様との会話。
町に行きたいと言い出した私に“町を封鎖するか”と衝撃の言葉を聞いた時の事を思い出した。
この世界での私の容姿は私自身を危険に晒してしまう容姿だから。
それにあの時は、お義父様の娘として公表されてもいなかったし…今思えばとんでもない我が儘を言ってしまったと思う。
町の封鎖や、今回もお店を貸切りにしないといけない事情が私自身にあるのだ。
それを、今の私は理解している。
理解はしているけれど、やっぱりお店の人たちや今日この店に来たかったお客さんたちには大変申し訳ないと思ってしまう。
ならせめて、私は。
「王妃殿下、メニューの中で食べたいものはありますか?」
「どれも美味しそうで…ヴァレリア卿にお任せしてもいいでしょうか。」
「お任せ下さい。空腹ですか?」
「ええ!とっても!」
「ではコース料理にしましょう。
メインは…お肉の方がいいですね。
飲み物ですがお酒は止めておきましょうね。まだこの後もありますし。
あと…デザートは妃殿下が楽しみにされている旬のフルーツを使ったものにしましょう。マルカ、お願いします。」
「畏まりました。」
運ばれてきた料理はどれもとても美味しくて、つい頬が緩んでしまう。
そんな私をヴァレは嬉しそうに見つめて、楽しく会話をしながら最後のスイーツを待った。
旬のフルーツをふんだんに使ったケーキは…正直頬っぺたが落ちるのではないかというくらい美味しかった。
聞けばこの店のオーナーさんはスイーツが大好きで、誰かの作ったものでは飽き足らず自分で最高に美味しいスイーツを作りたいと日々励んでいたそうな。
オーナーのダランさんは貴族で、しかも男性だ。
当時は父親と兄に“貴族男児が菓子作りなど恥ずかしい!”と言われていたそう。
でも、母親はダランさんの味方をしてくれて…その内、自分の作ったお菓子を美味しいと言って食べてくれるようになった父親と兄もダランさんがお菓子に懸ける情熱を認めてくれたらしい。
家族と使用人たちの、自分が作ったお菓子を嬉しそうに、美味しそうに笑顔で食べる姿を見て、とても嬉しい気持ちになったと私たちに教えてくれた。
美味しいものを食べると誰もが笑顔になる。そう気付いたダランさんは将来、絶対にお店を開こうと夢を追いかけ続け…結果、こうしてお店を持つ事が出来た。
「オーナーが諦めずに夢を追い続けてくれたお陰で…今、私たちがこんなに美味しい料理を頂けるんですね…。ありがとうございます。」
「っ、あ、こ、此方こそっ…此方の方こそ、感謝申し上げます…!王妃殿下にその様に言って頂けて…もう、感激で御座います…!」
お店の経営は大変だけど、大好きなお菓子を作るのだけはやっぱり止められない。
そう笑顔で言うダランさんはその大好きなお菓子で沢山の人を笑顔にする素敵な人だ。
今後も是非、その変わらない情熱で沢山美味しいお菓子を作ってほしい。絶対また食べに来たいし、ダランさんに会いに来たい。そう思わせる人だった。
「ああ…美味しかった…、」
「ふふ、幸せそうに食べていましたから。料理もスイーツも本当に素晴らしいものばかりでしたし…それに、一番は貴女の幸せそうな顔が見られました。…来て良かった。」
にこにこと二人で、幸せな気持ちのまま食べ終わりお店を出ることに。
ダランさんとマグノリアで働くシェフ、従業員たちが並んで見送ろうとしてくれた。
きっと、本来であれば今日も沢山のお客さんがこの店に来ていただろう。
笑って、美味しいと料理やスイーツを口にしながら幸せな気持ちになっただろう。
私自身の容姿、今の身分は“貸切りなんて”と言える立場じゃない。それは理解している。
ならば私は、彼らに心からの感謝を伝えよう。
「マグノリアの皆様。
本日は…とても美味しい料理とスイーツをご馳走さまでした。料理もスイーツも、幸せな気持ちになるくらい美味しかったです。
そして気持ちの良い接客をして頂き…ありがとうございました。」
『!?』
「私がお店に来ることで掛けたご迷惑もあったでしょう。今日このお店に来たいと思った方々にも。
だけど今日、マグノリアに来られて良かったと、心から思います。愛するヴァレと二人で来れたのも勿論嬉しくて幸せですが、美味しい料理とスイーツ、心の込もったもてなしでもっと嬉しい、幸せな気持ちになりました。本当にありがとう。」
「…っ、私も、心から感謝致します。妃殿下を、どうしてもこのマグノリアに連れて来たかったのです。
愛するサイカの幸せそうな笑顔が必ず見れると思ったから。
きっと、気に入ってくれると思ったから。
その想像を越えたサイカの笑顔を今日、見れました。心から、感謝致します。」
「ヴァレ…。ヴァレも、本当にありがとう。連れて来てくれて、本当にありがとう。
ずっとずっと、お店が続いて欲しいと思います。
沢山の人に愛され続けて欲しいとも。
私、このマグノリアが大好きになりました。皆様、本当にありがとう。」
「ひでんか、…王妃殿下、ウォルト伯爵様、…勿体無いお言葉ですっ、
お二人の言葉、心から、…心から嬉しく思いますっ…!
王妃殿下のお言葉、生涯の、宝とさせて頂きますっ…!」
『従業員一同、心からっ、感謝申し上げます…!』
「またっ、また、店にお立ち寄り下さいっ…!迷惑などと、思うはずがございません!店の事、お客様の事を、我々の事を思って下さる方を、迷惑と思う事など全くありません…!また、是非とも店に来て頂きたく存じます…!お待ち申し上げております、心から…!!」
「サイカ、また来ましょう。また、貴女と来たいです。他の方たちには迷惑を掛けるかもしれませんけど…でも、また来たい。貴女と二人で、幸せな時間を過ごしたい。」
「ヴァレ…。ええ、また来ましょう。
絶対。約束ですよ?」
「ええ。約束です。」
ちゅ、と。頬にヴァレの唇が触れる。
泣きそうな、でも嬉しそうなヴァレと一緒にお店を出ると、マグノリアの皆はお店の外に出て笑顔で見送ってくれた。
お腹も心も満たされているから馬車に乗るのは勿体なくて、歩きながら散策を続ける。
だけどヴァレは、お店を出てから無口だった。
「ヴァレ、どうして喋らないの…?」
聞けばはっとしたように私に顔を向ける。
「…すみません、その…噛み締めていました。」
「?」
顔を赤らめ、ヴァレは目も潤ませていた。
「…サイカ、」
「はい。」
「…惚れ直しました…。いえ、惚れ直す…というのも語弊がありますね…。
会うたび、私は貴女を好きになる。
会うたび、心から好きだと、愛しいと実感するのです。」
「きゅ、急にどうしたの…?う、嬉しいけど、恥ずかしいと言いますか、」
「マグノリアでの事もそうです。きっと、とても嬉しかったでしょう。マグノリアの方々のあの表情。感極まるほど嬉しくなって、誇らしく幸せになったことでしょう。
貴女という素晴らしい一人の人を尊敬し、好意を持ったでしょう。
…私には分かります。分かるのです。」
「そ、そうかな、」
「ええ、そうです。ああして貴女の本質を垣間見るたび、サイカがサイカだから、こんなにも好きで堪らないって自覚するんです。
そして、貴女を好きなって良かったと、心から…そう、強く思うのです。」
好きだー!っていうヴァレの気持ちが強く伝わってきて、嬉しくて、でもくすぐったくて顔が熱くなってしまう。
ヴァレの目が、私を強く愛していると、今すぐ私に口付けたいと雄弁に語っていた。
「馬車に乗りましょう…?」
「は、い…」
手を引かれ、馬車に乗ると直ぐにヴァレはカーテンを引いて…薄暗くなった馬車の中で、口付けてきた。
「ん、…ふぅ、……サイカ、…サイカ…」
「ん、…んんっ、…ぷぁ、…んっ…!」
「サイカ、好きです、…好きだ、サイカ、…サイカっ、」
「んっ、んっ、…ばれ、」
その後のデートは、馬車の中でずっと口付けしてるだけだった。
※いつも読んで下さりありがとうございます!
気付けば書き始めて一年過ぎていました…(吃驚)
こんなにも長く続くとは思わなくて、今もこうして楽しく書いていられるのも読んで下さる皆様のお陰です。
気落ちしている時に嬉しいコメントをくれたり、応援のコメントを見るととても励みになって、一年続けられました。
本当にありがとうございます!!
細やかなお礼ではありますが、以前のように何かお礼話を書きたいなと思っています。
どんな話にしようか迷っていて、またアンケートを取ろうと思います。
①マティアスたち四人各々とのラブラブエピソード
②サイカ、騎士たちと戯れる!第二弾(クライス領の私兵を添えて~)
③サイカ、二十年後の異世界に行く!?
④サイカはやっぱり絶世の美女
この四つのテーマからアンケートを取り、一番希望の多かった話を一つだけ書き上げようと思います。
アンケートは以前同様、近況ボードで集計を取りたいと思います。
短い期間ですが、8月22日までをアンケート実施期間に致します。
近況ボードのコメント欄に何番の話が読みたいか記載して下さい。お待ちしております!
※尚、大変申し訳ありませんがアンケートでのコメント返信は控えさせて頂きます。
「う、うん。分かった…!約束します…!」
生まれて二十五年間過ごしてきた日本での暮らし、家族の事や私自身の事は何度か話をしたけれど、文明とか科学とか。この世界とは違い、色々と進んだ世界だという事の説明が抜けていた私。
マティアスたちに私のいた世界がどんな世界だったかを詳しく話した後、今まで以上に気を付けなさいと言われた。
気を付けろ、というのは私の秘密を他の人たちに知られないように、だ。
娼婦であったこと。生まれながらの貴族ではないこと。異世界から来たというとても信じられない真実も。
今回の資料は言ってしまうと『出来すぎている』らしく、私をよく思っていない人たちからすると色んな疑念を与え兼ねない出来なのだとか。
ともあれ、私の作った資料はとても見やすく分かりやすいとマティアスたちに評判で、色々相談して形式や型式を取り入れたいと言う話で終わった。
改めて。日本での常識はこの世界では非常識なのだ。うん、もっと気を付けなくちゃ、と心に刻んだ。
「護衛が付いているから問題ないとは思うが…何かあった時はヴァレリア、妃を頼むぞ。」
「お任せ下さい、陛下。」
「それから…余り、食べさせ過ぎぬよう気を付けてくれ。」
「畏まりました。」
「疲れた様子なら直ぐに帰らせるように。」
「はい。お約束致します。」
「あとは「マティアス…ちょっと長いと思うの。」む、そうか…?」
今日はヴァレリアとデート。
以前、二人でゆっくり過ごそうと約束していた私とヴァレリアは二人でゆっくり…ではなく、帝都デートをして休日を楽しむ事にした。
マティアスにも事前に相談して了承も貰った。……うん、あれ?貰った、よね?と思ったのは仕方がない。だって、行ってきますねとマティアスに言って、マティアスからの返事を待つ間までが長かったのだから。
かれこれ十五分くらいは今のようなやり取りをしただろうか…。心配してくれるのはとても嬉しいけれど、今日のデートは相手のヴァレもいるし、護衛も沢山いるし…ちょっと心配しすぎじゃないかな?と思う。
デート地である貴族街へ向かう馬車の中、ヴァレに『マティアスは心配性ですねぇ』と言うと、『いえ、陛下のあれは別の心配ですね。』と返ってきた。はて?
「今日は貴族たちに嫌でも注目されるでしょうから…“サイカ”と呼ばないように気を付けなくてはいけませんね。」
「あ、そ、そうだった…!私も…ヴァレ、じゃなくてヴァレリア卿って呼ばないといけないんですよね…?気を付けます…!」
「夫婦になれば、誰が見ていても気にする必要はありませんよ。もう暫くの辛抱だと、私も自分にそう言い聞かせています。」
「…貴族社会って…面倒な事が多いですね…。」
「ふふ。ええ、本当に。」
貴族街に着いたみたいですね。
と窓の外に目を向けたヴァレが言う。
貴族街は一般市民…所謂平民の人たちが買い物等で利用する場所、市民街よりも人通りはそう多くないけれど、総じてお洒落と言うか…いかにも高級そうなお店が並んでいる場所だ。
「サイカ、貴族街は馬車で移動出来ますが…馬車か歩きか、どうしますか?護衛がいますので歩きでも問題ありませんよ。」
「では、折角なので歩いてデートしたいです!」
「ふふ、私もそうしたいと思っていました。」
ヴァレにエスコートされながら馬車を降りれば、周りの人たちからの視線が一気に私たちへ集まるのを感じた。
当然、いい視線だけじゃない。中には嫌な視線も混じっている。
視線だけじゃない。まるで聞こえるように悪意のこもった言葉も聞こえてきている。
『…あの方は…王妃殿下…!?』
『…なんて美しさだ…姿絵通り…否、姿絵以上に美しいじゃないか…!!』
『隣にいるあの醜い男は誰だ。あんな男が美しい王妃殿下の隣に並ぶなど烏滸がましい!』
『きっと王妃殿下の新たな婚約者になったウォルト宮中伯のご子息ね。馬車の家紋がそうだもの。
…噂通り、本当に醜いのね。』
『あのように醜い男が新たな婚約者に選ばれようとは…!王妃殿下もさぞ、御心を痛めていることだろう。』
聞こえてくる複数の悪意ある視線と言葉を受けて腹立たしさを感じながら、大丈夫だろうかとヴァレを見ると、ヴァレは全く気にしていない素振りで私に笑顔を見せた。
「言わせておけばいいのです。
私は気にしていません。いえ、全く気にならないので。」
「…本当?無理は…してない…?馬車に戻る…?」
「いいえ、無理など全くしていませんので大丈夫ですよ。
あの方たちは可哀想な事に真実を知らないし、知っても現実を見ようとしないでしょう。
私と、サイカ。貴女が心から愛し合っているその真実を、受け入れられない方たちなんです。羨ましくて。」
「確かに…知っても現実を見ようとしなさそう。」
「私の隣に貴女がいるのに、外野の事なんて気にしていられない。
今、私の気が向いているのは貴女だけ。周りで喧しくしている者たちの声も、視線も今の私にはどうでもいいです。」
「ふふ…!じゃあ、気にせず楽しまないとですね!」
「ええ、その通りです。折角のデートなのですから。
それに…今日この場所に来たのは、貴女に食べさせたい物があるからなんですよ。」
「スイーツとか!?」
「ぷ、…ふふふ…!ええ、そうです。
姉たちのお勧めの店なのですが、とても人気らしく…どの料理も素晴らしいと評判の店なんだそうです。勿論、サイカの大好きな甘いものも。」
「…わあ…!」
「店主はとても気さくな方と伺っています。姉たちが言うのですから、きっとそうなのでしょう。特に、旬のフルーツを使ったケーキは格別だそうです。…楽しみですか?」
「っ、旬のフルーツケーキ……はいっ…!すごく、すっごく楽しみ…!」
「ふ、ふふ、…あはは…!目が、瞳が輝いていますね…!
さ、では行きましょう、妃殿下。今日は私がエスコート致します。」
「ええ、お願いしますね。ヴァレリア卿…!」
そうして私とヴァレは貴族街を散策しながら目的のお店へ向かう。
やっぱり貴族たちが買い物に来るだけあって、どのお店も中々お高いものばかりが売ってある。
実は、私自身ドレスや装飾品を自ら買った事はない。
娼館にいた時もクライス家にいた頃もマティアスに嫁いでからも…オーナーやお義父様、マティアスが用意してくれていたものを着て、身に付けている。
なので自分が着ているドレスや身に付けている装飾品がいくらくらいするのかも分かっていなかった。
分かっていなかったので、今、私は衝撃を受けているのだけれど…!
「こちらの生地はドライト王国から取り寄せた最高級生地でございます。ただ、刺繍をするには非常に手間をかけなければならない生地でして…細工を行うと料金はぐっと上がります。」
「いくらくらいになるのですか?」
「そうですね…軽く、大金貨一枚は…。」
「では、この生地でお願いします。
形は…そうですね…妃殿下は見ての通り細身ですので、何でも似合うでしょう。形とデザインはお任せします。」
「畏まりました!
貴女、王妃殿下のお体のサイズを測って頂戴。
くれぐれも…くれぐれも!ご無礼のないように。」
「は、はいぃ…!では、お、恐れながら王妃殿下、お、お体を、その、ドレスを作るのに、は、測らないと、なりませんのでっ、」
「あ、はい…お願いします…。」
「で、では、あちらで、ドレスの上からでは、せ、正確なサイズが測れませんのでっ、か、構わないでしょうか…!?」
「え?ええ。お願いしますね。」
「はわっ女神様…!?」
(今、大金貨一枚って言った?言ったよね?ドレス一着で大金貨一枚って言ったよね!?娼婦だった時の私の最初の頃の値段と一緒だよね!?え?ドレスってそんなにするものなの?いや、大金貨が日本円でどれくらいの価値かも分からないけどでも日本で暮らしていた私が絶対買えないだろう値段がしてるんだよね!?)
衝撃の金額に呆然とする私。
別室に連れられ、二人の女性に体のサイズを測ってもらう間…時々「ウエスト細っ!!腰も華奢!!」「肩幅狭い…!なにこれ羨ましい…!腕も足もこんなに細い…!」と彼女たちの恐らく無意識に発しているだろう言葉を聞きながら採寸が終わって、ヴァレの元へ戻った。
ヴァレはまだ買い物を続ける気でいるのか私の手を取って店内を見回る。
そわそわしている私に気付いて、ヴァレが大丈夫ですか?と心配そうに顔を寄せたので、ヴァレの耳近くに手を添えて…内緒話をするみたいにしながら小声で聞いてみた。
「…ドレスって、あんなに高いものなんです…?大金貨一枚って、あの、」
ヴァレは私の質問にきょとんとした顔をして…小さく笑う。
「ふふ。…オーダーメイドですし、生地の事もありますからね。
でも既に出来上がっているものはそうでもないんです。
例えば…このドレス。値段は金貨一枚です。大金貨一枚とはかなり差がありますよね?」
「(かなり差があると言われても大金貨一枚がどれくらいの価値があるか分からない…。)」
「こうして店で売られているものは、令嬢たちが誰でも着れるようなものばかり。形や細工、言わばそれらに掛かる手間が違うんですよ。あと生地の原価も。」
「なる…ほど。…あの、プレゼントは、嬉しいけれど…でも、…別に作ってもらわなくても…置いてあるもので、全然構いませんよ…?」
「…ふふ、サイカ…。貴女に合うサイズのドレスは、この店に置いてありません。いえ、どの店にも置いてないでしょう。」
「あ」
「クライス侯爵も陛下も、貴女の体に合うドレスを作らせているのですよ。大切な貴女の事です。お二人ともきっと、サイズを測らなくても分かります。
でも、一度店で作ってもらえば、型紙が残りますからね。この店も、次に来た時は生地と形、細工を選ぶだけで済むでしょう。」
「…サイズ…そっか…、私…お金がかかる女だ…」
「こら、サイカ。…そんな悲しい事を言わないで。私がお金をかけたいだけなんです。
愛する女に、誰でも着られるような物を贈りたくない。そういう、私の男心を分かって下さい。
それに、貴女に何かを贈るのは楽しい。好きです。喜ぶ顔が見れるから。」
「ヴァレ…」
意識せず出た言葉が、ヴァレの好意を無下にしてしまったんだなと気付く。
ごめんねと謝るとヴァレは笑って許してくれた。
結局、パーティー用と普段着る用にオーダーメイドでドレスを二着作ってもらうようになり、出来上がりは半年掛かるそうだ。手間が掛かってる!
「ドレスが仕上がったら…贈ったドレスを着て、私とデートして下さいますか?」
「勿論です!」
「その日が楽しみです。」
その時はまた、ドレスを贈らせて下さいね。と嬉しそうに微笑んだヴァレの神々しさったら…!天使の微笑みとはあの笑顔の事。
「ヴァレリア卿…このお店ですか?」
「ええ。店の名前が“マグノリア”ですから、ここで間違いありませんよ。」
今日のデートの目的地であるお店に到着…したはいいものの……人気店だと聞いていたのに並んでいるお客さんもいないし、話し声も聞こえなくて中に沢山人がいる気配も感じられなかった。
もしかして…今日はお休みなんじゃないだろうか。
お休みならとても残念だけど、でもまた二人で来ればいいだけの話。
今日はお休みみたいですね、とヴァレに言おうとすれば、ヴァレは気にせずお店のノブに手を掛けたではないか。
「ヴァ、ヴァレリア卿、お店、今日はお休みなんじゃ…」
「開いてますよ。」
カラン、とベルの音が鳴ってドアが開くとお店の中から慌てた様子で十数人がずらりと並んだ。
「ようこそお越し下さりました!出迎えが遅れてしまい、誠に申し訳御座いません…!
私は店のオーナー、ダラン・マグノリアと申します…!
マグノリア従業員一同、お二人の来店を心よりお待ち申し上げておりました…!!早速、お席へご案内致します…!マルカ、お二人を…!」
「はい。本日、担当させて頂くマルカと申します。
心を込めて、おもてなし致します。何なりとお申し付け下さいませ。」
きょろ、とお店を見渡してみたものの、やはり私たち以外のお客は見当たらない。
まだお昼過ぎなのに、と思いながら案内された席に着く。
「…ヴァレ…じゃなかった、ヴァレリア卿、」
「はい。」
「あの、…他のお客さんが見当たらないのだけど…、」
「ああ…、今日は貸切りですからね。」
「…え?かし…?」
「貸切りです。」
「え?」
かしきり…貸切り?貸切りって、あの貸切り?
貸切りの意味を理解するのに時間が掛かってしまったのは仕方ないと思う。
だって、お店を貸切りにした事なんて人生で一度もなかったから。
貸切りという言葉で思い出したのがお義父様との会話。
町に行きたいと言い出した私に“町を封鎖するか”と衝撃の言葉を聞いた時の事を思い出した。
この世界での私の容姿は私自身を危険に晒してしまう容姿だから。
それにあの時は、お義父様の娘として公表されてもいなかったし…今思えばとんでもない我が儘を言ってしまったと思う。
町の封鎖や、今回もお店を貸切りにしないといけない事情が私自身にあるのだ。
それを、今の私は理解している。
理解はしているけれど、やっぱりお店の人たちや今日この店に来たかったお客さんたちには大変申し訳ないと思ってしまう。
ならせめて、私は。
「王妃殿下、メニューの中で食べたいものはありますか?」
「どれも美味しそうで…ヴァレリア卿にお任せしてもいいでしょうか。」
「お任せ下さい。空腹ですか?」
「ええ!とっても!」
「ではコース料理にしましょう。
メインは…お肉の方がいいですね。
飲み物ですがお酒は止めておきましょうね。まだこの後もありますし。
あと…デザートは妃殿下が楽しみにされている旬のフルーツを使ったものにしましょう。マルカ、お願いします。」
「畏まりました。」
運ばれてきた料理はどれもとても美味しくて、つい頬が緩んでしまう。
そんな私をヴァレは嬉しそうに見つめて、楽しく会話をしながら最後のスイーツを待った。
旬のフルーツをふんだんに使ったケーキは…正直頬っぺたが落ちるのではないかというくらい美味しかった。
聞けばこの店のオーナーさんはスイーツが大好きで、誰かの作ったものでは飽き足らず自分で最高に美味しいスイーツを作りたいと日々励んでいたそうな。
オーナーのダランさんは貴族で、しかも男性だ。
当時は父親と兄に“貴族男児が菓子作りなど恥ずかしい!”と言われていたそう。
でも、母親はダランさんの味方をしてくれて…その内、自分の作ったお菓子を美味しいと言って食べてくれるようになった父親と兄もダランさんがお菓子に懸ける情熱を認めてくれたらしい。
家族と使用人たちの、自分が作ったお菓子を嬉しそうに、美味しそうに笑顔で食べる姿を見て、とても嬉しい気持ちになったと私たちに教えてくれた。
美味しいものを食べると誰もが笑顔になる。そう気付いたダランさんは将来、絶対にお店を開こうと夢を追いかけ続け…結果、こうしてお店を持つ事が出来た。
「オーナーが諦めずに夢を追い続けてくれたお陰で…今、私たちがこんなに美味しい料理を頂けるんですね…。ありがとうございます。」
「っ、あ、こ、此方こそっ…此方の方こそ、感謝申し上げます…!王妃殿下にその様に言って頂けて…もう、感激で御座います…!」
お店の経営は大変だけど、大好きなお菓子を作るのだけはやっぱり止められない。
そう笑顔で言うダランさんはその大好きなお菓子で沢山の人を笑顔にする素敵な人だ。
今後も是非、その変わらない情熱で沢山美味しいお菓子を作ってほしい。絶対また食べに来たいし、ダランさんに会いに来たい。そう思わせる人だった。
「ああ…美味しかった…、」
「ふふ、幸せそうに食べていましたから。料理もスイーツも本当に素晴らしいものばかりでしたし…それに、一番は貴女の幸せそうな顔が見られました。…来て良かった。」
にこにこと二人で、幸せな気持ちのまま食べ終わりお店を出ることに。
ダランさんとマグノリアで働くシェフ、従業員たちが並んで見送ろうとしてくれた。
きっと、本来であれば今日も沢山のお客さんがこの店に来ていただろう。
笑って、美味しいと料理やスイーツを口にしながら幸せな気持ちになっただろう。
私自身の容姿、今の身分は“貸切りなんて”と言える立場じゃない。それは理解している。
ならば私は、彼らに心からの感謝を伝えよう。
「マグノリアの皆様。
本日は…とても美味しい料理とスイーツをご馳走さまでした。料理もスイーツも、幸せな気持ちになるくらい美味しかったです。
そして気持ちの良い接客をして頂き…ありがとうございました。」
『!?』
「私がお店に来ることで掛けたご迷惑もあったでしょう。今日このお店に来たいと思った方々にも。
だけど今日、マグノリアに来られて良かったと、心から思います。愛するヴァレと二人で来れたのも勿論嬉しくて幸せですが、美味しい料理とスイーツ、心の込もったもてなしでもっと嬉しい、幸せな気持ちになりました。本当にありがとう。」
「…っ、私も、心から感謝致します。妃殿下を、どうしてもこのマグノリアに連れて来たかったのです。
愛するサイカの幸せそうな笑顔が必ず見れると思ったから。
きっと、気に入ってくれると思ったから。
その想像を越えたサイカの笑顔を今日、見れました。心から、感謝致します。」
「ヴァレ…。ヴァレも、本当にありがとう。連れて来てくれて、本当にありがとう。
ずっとずっと、お店が続いて欲しいと思います。
沢山の人に愛され続けて欲しいとも。
私、このマグノリアが大好きになりました。皆様、本当にありがとう。」
「ひでんか、…王妃殿下、ウォルト伯爵様、…勿体無いお言葉ですっ、
お二人の言葉、心から、…心から嬉しく思いますっ…!
王妃殿下のお言葉、生涯の、宝とさせて頂きますっ…!」
『従業員一同、心からっ、感謝申し上げます…!』
「またっ、また、店にお立ち寄り下さいっ…!迷惑などと、思うはずがございません!店の事、お客様の事を、我々の事を思って下さる方を、迷惑と思う事など全くありません…!また、是非とも店に来て頂きたく存じます…!お待ち申し上げております、心から…!!」
「サイカ、また来ましょう。また、貴女と来たいです。他の方たちには迷惑を掛けるかもしれませんけど…でも、また来たい。貴女と二人で、幸せな時間を過ごしたい。」
「ヴァレ…。ええ、また来ましょう。
絶対。約束ですよ?」
「ええ。約束です。」
ちゅ、と。頬にヴァレの唇が触れる。
泣きそうな、でも嬉しそうなヴァレと一緒にお店を出ると、マグノリアの皆はお店の外に出て笑顔で見送ってくれた。
お腹も心も満たされているから馬車に乗るのは勿体なくて、歩きながら散策を続ける。
だけどヴァレは、お店を出てから無口だった。
「ヴァレ、どうして喋らないの…?」
聞けばはっとしたように私に顔を向ける。
「…すみません、その…噛み締めていました。」
「?」
顔を赤らめ、ヴァレは目も潤ませていた。
「…サイカ、」
「はい。」
「…惚れ直しました…。いえ、惚れ直す…というのも語弊がありますね…。
会うたび、私は貴女を好きになる。
会うたび、心から好きだと、愛しいと実感するのです。」
「きゅ、急にどうしたの…?う、嬉しいけど、恥ずかしいと言いますか、」
「マグノリアでの事もそうです。きっと、とても嬉しかったでしょう。マグノリアの方々のあの表情。感極まるほど嬉しくなって、誇らしく幸せになったことでしょう。
貴女という素晴らしい一人の人を尊敬し、好意を持ったでしょう。
…私には分かります。分かるのです。」
「そ、そうかな、」
「ええ、そうです。ああして貴女の本質を垣間見るたび、サイカがサイカだから、こんなにも好きで堪らないって自覚するんです。
そして、貴女を好きなって良かったと、心から…そう、強く思うのです。」
好きだー!っていうヴァレの気持ちが強く伝わってきて、嬉しくて、でもくすぐったくて顔が熱くなってしまう。
ヴァレの目が、私を強く愛していると、今すぐ私に口付けたいと雄弁に語っていた。
「馬車に乗りましょう…?」
「は、い…」
手を引かれ、馬車に乗ると直ぐにヴァレはカーテンを引いて…薄暗くなった馬車の中で、口付けてきた。
「ん、…ふぅ、……サイカ、…サイカ…」
「ん、…んんっ、…ぷぁ、…んっ…!」
「サイカ、好きです、…好きだ、サイカ、…サイカっ、」
「んっ、んっ、…ばれ、」
その後のデートは、馬車の中でずっと口付けしてるだけだった。
※いつも読んで下さりありがとうございます!
気付けば書き始めて一年過ぎていました…(吃驚)
こんなにも長く続くとは思わなくて、今もこうして楽しく書いていられるのも読んで下さる皆様のお陰です。
気落ちしている時に嬉しいコメントをくれたり、応援のコメントを見るととても励みになって、一年続けられました。
本当にありがとうございます!!
細やかなお礼ではありますが、以前のように何かお礼話を書きたいなと思っています。
どんな話にしようか迷っていて、またアンケートを取ろうと思います。
①マティアスたち四人各々とのラブラブエピソード
②サイカ、騎士たちと戯れる!第二弾(クライス領の私兵を添えて~)
③サイカ、二十年後の異世界に行く!?
④サイカはやっぱり絶世の美女
この四つのテーマからアンケートを取り、一番希望の多かった話を一つだけ書き上げようと思います。
アンケートは以前同様、近況ボードで集計を取りたいと思います。
短い期間ですが、8月22日までをアンケート実施期間に致します。
近況ボードのコメント欄に何番の話が読みたいか記載して下さい。お待ちしております!
※尚、大変申し訳ありませんがアンケートでのコメント返信は控えさせて頂きます。
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