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132 マティアス⑫
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この、底のない想いをどう伝えればいいのだろう。
昨日、今日。一日一日、目覚めた瞬間に噛み締める幸せ。
目が覚め、一番最初にこの目に映るのは愛しい妻の寝顔。
時には眉間に皺を寄せ、時には子供のように無防備で、時にはふにゃりと幸せそうな顔をして眠っている妻の、愛らしい寝顔。
何と幸せな光景だろう。幸せで、それでいて胸が苦しい。何とも言いがたい、胸の内。
朝からこの、溢れそうになる想いをどうしたらいいのか分からず、穏やかに眠る妻にちょっかいを掛けては起こしてしまう。
額に、眉間に、瞼に、鼻先に、頬に、耳に、唇に、堪らない気持ちで口付けをすると擽ったそうに体を縮こませ、暫く続けるとゆっくりと瞼が開き、神秘的なまでに美しい、黒い瞳がその姿を現す。
寝起きの、無防備な姿は子供のように。寝ぼけ眼ながら俺の姿を瞳に映すと妻はふにゃりと笑い、少し掠れた舌足らずな声で俺を呼ぶ。
「…まてぃあす、…おはよ…?」
「おはよう、サイカ。」
この瞬間が好きだ。何度同じ事をしても飽きる気がしない。
寝起きで無防備なサイカ。俺を見て安心しきった顔のサイカ。
何と愛らしい事か。この瞬間はいつも胸が高鳴る。まるで心臓を掴まれたように苦しくなる瞬間でもあるが、この胸の苦しみは幸せでしかない。
「…んん、」
「はは、眠そうだ。まだ、寝ていていい。起こしてしまって悪かった。」
「……ん。」
甘えるようにすり寄り、華奢な腕が俺の背に回る。
昨日も堪能した柔らかな体は何も纏っておらず、生まれたままの姿だ。
サイカの可愛らしい胸の先がつん、と腹に当たるだけでごくりと喉が鳴ってしまう。
昨日も…いや、正確には朝日が顔を出す寸前までサイカを抱き潰したというのに。これだけのことで俺の体は素直に反応してしまう。
向かい合って目を閉じている、睡魔に抗えない様子であるサイカの片足を俺の腰元へ移動させ、その開いた足の間から膣内の状態を指で確かめる。
入り口は少し乾いていたが、奥は俺の子種とサイカの愛液でどろどろになったままだった。
「…入り口も滑りがよくなったな…。」
掻き混ぜればいやらしい水音が。
指を抜けば…濁った体液が一部、固まりとなってサイカの膣内から出てきた。
「…これは…俺の子種か。」
固まりになる程の濃いそれ。
膣内から出してしまったなど、勿体無いことをしてしまった。
濡れすぼったサイカの膣、気持ちのいいその穴の入り口に、すっかり硬くなった自身を宛がい腰を進める。
「……はぁ。……温かい…。」
腰を動かさずとも、何もしなくとも、入れただけで気持ちがいい。
きゅ、きゅ、と無意識なのか中の壁が締まる。
このまままた、眠れそうだ。
温かく気持ちよく、幸せな気持ちのまま目を閉じた。
そのまま二時間程度眠った後にまた目覚め、ベッドで眠るサイカの近くで身支度を整えてもらう。
終われば直ぐ、侍女を部屋から出し執務室へ行くぎりぎりまでサイカの寝顔と体を目に焼き付ける。
「行ってくる。」
そう伝え、唇にキスをすれば。
眠っている筈なのにいってらっしゃい、と、ふにゃり顔で笑う最愛の妻に身悶えた。
婚儀を挙げたばかりではあるが、ゆっくりと二人きりで過ごせるかと言われればそうでないのが現状。
初夜とその翌朝は政務も何もせずひたすらベッドの中で愛を育んだが翌々日からはいつも通りに政務執務が舞い込んだ。
だた、初夜の日に伝えたように、夜になるとサイカは俺の寝室で俺の帰りを待ってくれている。
“お帰りなさい。お疲れ様でした、マティアス。”
その言葉と愛しい妻の笑顔を見るだけで…疲れなぞ吹き飛ぶというもの。寧ろ今日も抱かせてくれと言いたくなる。
サイカを妻にしてからサイカとセックスをしていない夜は今の所なく、恋人だった時よりも性欲が強くなっているのではないかとすら思う。
きっと、何事もなければ今日の夜も抱いているだろう。確信がある。
「…はぁ。」
「如何されました?」
「いや。…新婚らしく、もう少し二人きりの時間が欲しいと思ってな。
何せ婚儀の二日後にはもう政務だ。一月とは言わない。せめて七日…いや、五日でもいいから愛する妻とゆっくり過ごしたい。」
「……嫌味か。僕らに対して喧嘩でも売っているのか。
いいぞ。その喧嘩、言い値で買ってやろう。」
「…サイカとの夫婦生活…はぁぁ…私も早くサイカを妻と呼びたい…。陛下が羨ましいです。」
「嫌味でもないし喧嘩も売っていない。
そなたらも自分に置き換えたら分かるだろう?
式を挙げこれからは甘い夫婦の時間を過ごせる、過ごすと思っていたのに甘い時間は夜だけだ。これが落胆せずにいられるか。」
「……まぁ、自分の事に置き換えれば…折角、晴れて夫婦になったのに…とは…思うな、僕も。分からんでもない。
だが…現実としてまだ処理せねばならないものが多い。国内の事は勿論、リスティアの事やドライトの事もある。当然お前の判断がいるものが殆どだ。
リスティアとドライトの処理が終われば…七日くらいはゆっくり出来るんじゃないか?」
「……今暫くは我慢、か。」
ベルナンドの件で貴族の爵位を失った者は少なくない。
この件があったからこそリュカらがサイカの夫となれる…その基盤は出来たがデメリットも当然大きかった。
ベルナンドと繋がっていたのはそこそこの地位にあった貴族たちで、ベルナンドやバロウズのように死罪とはならなかったものの、奴らは地位と身分を失った。奴らの領地を治める者を見繕うのも大変な作業。
何せ国を思い民を思う誠実な人間というのは探してすぐ見つかるものでもないのだ。
自らの仕事や立場に責任を持つ人間よりも、楽をしたい、面倒な事はやりたくない、自分さえ良ければいいという人間の方が多い。
それが、生まれた瞬間から貴族という恵まれた人間であれば尚更。
膿は全て出しきり、国を新たに変えていくという点ではベルナンドの一件は丁度良かった。
けれどその分大変であり、苦労も大きなものになるのだ。
お陰でサイカとの甘い新婚生活も満足に堪能出来ない。
「…所で。いつになったらサイカに会えるんだ。」
「まだ眠っているのだろう。無理をさせたからな。」
「一つ、答えが分かりきっている事を聞くが。
…夫婦になってからあいつに無理をさせてない日があるのか…?」
「……いや、ないな。」
「…ったく。こっちは数日掛けて帝都まで来てるんだぞ?
僕が来ると分かっている時くらい加減しろよ。」
「その加減が難しいのだが。」
「……くっ、分かる、が。」
「だろう?」
ヴァレリアは自身の所属する部署へ戻り、そのまま暫くリュカと雑談を交えつつ仕事の話をしていると起きたサイカの身支度が整ったと報告を受け、リュカが待っていたと言わんばかりに立ち上がる。
サイカは庭の東屋にある石作りのベンチに腰を落ち着かせ、日の光を浴びていた。
「サイカ!」
「リュカ!おはようございます。」
「馬鹿、何がおはようだ。もう昼だぞ。」
「へへ…こんにちは、でしたね。待たせてごめんなさい。」
「…別にいい。お前のせいじゃないのは知ってる。
それより再会の挨拶だ。」
サイカを抱擁したリュカは俺の目の前でサイカに口付けていく。
…まあ、このくらいはな。と暫く見守っていたが…長い。
何度も何度も何度も。角度を変え短く、時折長い口付け。
やはり自分以外の男がサイカに口付けるのを見ると、それが例えリュカだとしても複雑な…否、不愉快な気持ちにはなる。仕方ないと分かっていても、頭で考えている事と心で思っている事はまた違うのだ。
これから先もこうした気持ちに折り合いを付けていかなくてはならない。
きっと俺はサイカが俺以外の所へ行けば、そこで何をしているかが気になるだろうし夫となった皆と何をしているかも気になるのだろう。
夜になればきっと抱かれるだろう。恋人、夫婦であれば自然な行為であっても気になって仕方ないだろう。
今後もずっと、そういう気持ちと付き合って生きていかねばならない苦労はあるが、それ以外は悪くない。
リュカらとの何気ない会話、気安く話せること、からかい合うような話も楽しいと思う自分がいる。
サイカと出会う前にはなかった感情が、リュカらへ芽生えた。
臣下でもあり仲間でもあり、似た苦しみを味わってきた同士でもある。が、今は友のようなものが近いかも知れない。
まあ何であれ、以前の関係よりも今の関係の方が心地よい。互いに嫉妬し合い、牽制したりもするが…悪くないと思っている。だから、サイカという最愛を恋人として、妻として共有することをまだ受け入れられているのだ。
けれどやはり、独占したいと思うのは仕方ない。
夜、疲労を感じながら寝室へ戻る。
リュカが帰りサイカを部屋へと送った後、急を要する案件が出てしまいこの日は夕食をサイカと一緒に取る事が出来なかった。
やっと終わったと時刻を見ればもう真夜中。
流石にサイカも寝てしまっているだろう…今日はおあずけだな、と少し落胆した気持ちを感じつつ寝室の前に立てば夜警が重厚なドアを開く。
真っ暗ではなく燭台が灯された部屋の中で、本を読んでいるサイカがいた。
「あ、マティアス!」
「…こんな遅くまで熱中していたのか?」
「ううん、本は読みはじめた所。マティアスを待ってたんです。」
「……待っていてくれたのか。」
「今日はお昼過ぎまで寝たから中々眠くならなくて。なら、マティアスにお帰りとお疲れ様を言いたいなって。」
眠くならない、というサイカ。なんと可愛い嘘をつくのだろうか。
抱き締めれば分かる。子供のように体温の高くなったサイカは眠たいのを我慢して俺を待っていてくれていたに違いない。
何度も一緒に眠った。何度も、供に夜を過ごし朝を迎えた。
この温かい体温の時、サイカの眠りは早い。昼が過ぎるまで寝ていたと言うが、それは俺が無理をさせたから。行為の疲労は当然あって、だからぐっすりと眠るのだ。
可愛い嘘を吐いてまで俺の帰りを待ってくれていたサイカ。
何といじらしく、健気なことだろう。
また好きになった。また胸が高鳴った。
昨日も今日も、それ以前からも。俺は底の見えない“また”を繰り返している。
「お帰りなさい。お疲れ様でした。」
「ああ…ただいま。…夕食、一緒に食べれずすまなかった。」
「寂しかったけど、大丈夫。
マティアスはちゃんと食べました?」
「それは心配ない。大丈夫だ。」
ちゃんと…ではないかも知れないが片手間で食べられる物を食べた。
それを言うと可愛らしい小言を言われると分かっているので言わないが。
だって勿体ないだろう?愛しい妻がこんな夜中まで眠らずに起きて、俺を待ってくれていたのだから。
小言も可愛いが、小言よりも甘い言葉が聞きたい。
「…サイカ、」
抱き締めていた体、細い腰をもっと引き寄せると照れたようにサイカが右に左にと視線をさ迷わせる。
「嬉しくて堪らない。本当…そなたはいつも、簡単に俺を癒して、喜ばせてくれる。」
今暫くは夜だけしか夫婦の甘い時間が取れないから。
だからこそ甘い、とびきり甘い言葉を交わし、触れ合っていたい。そしてあわよくば、今日も抱かせて欲しい。いつも以上に愛しい気持ちを受け取って欲しい。
愛していると叫びたい、喉元まで出かかっている想いを受け止め、受け取ってほしい。
熱のこもった視線で見つめ、硬くなったものをサイカの下腹部に押し付ける。
「愛してる。今日も…子作り、していいか?」
自分で発した言葉は、まるで乞うようだった。
堪え性がない。愛する女が欲しくて堪らない。
毎日毎日盛りのついた動物のように飽きもせず、限りがない。
結婚してからより一層、可愛い妻と愛し合うことが楽しみで仕方ない。
「…マティアス、…明日も仕事でしょう?」
「ああ。」
「……少しだけね。」
「ああ。」
とは言いつつ。約束出来るかは分からない。
いつだってそうだ。夢中でサイカを抱いている。時間も忘れ、サイカを貪っている。
抱き潰してぐったりとしているサイカを見てさえ、申し訳ないと思いつつ喜び、また無理をさせてしまう。本当にどうしようもない男だ、俺は。
「あ、あっ、マティアス、…んん、あ、まてぃあす、まてぃあすっ、」
「サイカ、っ、サイカ、サイカ、サイカ、」
「あああ、あ、あんっ、あっ、ああっ、すき、だいすき、あ、あっ、すき、すき、まてぃあす、あんっ、あっ、あああ、」
生きていてよかった。生きるとは素晴らしい。
この瞬間、いつも天に昇るような気持ちになる。
愛と、欲と、感謝と、多幸感で胸が満たされる。
「可愛い、…可愛い、サイカ…。
俺の妻、俺の、愛しい妻。俺の宝、俺の全てっ。
愛してる、…愛してる、…はは、…締め付ける程、嬉しいか…?ほんと、そなたは、可愛い、なっ…!」
何度出しても足りない。何度抱いても飽きない。
出会って、益々貪欲になっている。
些細な望みだったのが、益々欲深くなっている。
ああ、人間とは愚かな生き物だ。欲に対しては底のない生き物なのだと実感してしまう。
もっともっともっと、愛し合いたい。
ただ愛し合う、それだけの時間を過ごしたい。
この世が俺とサイカの二人だけの世界であればいいのに。
煩わしいものなど何もないそんな世界で、ただ、溶け合うように日々を過ごせたらどんなに幸せか。
もっともっともっと、サイカの頭も心も、俺だけで埋めたい。
俺を一番に、誰よりも一番に優先してくれ。
「ああーーーーーーー…!」
「は、…くぁ…!」
悲鳴のような、一際高いサイカの声。
はっとしてサイカを見れば…顔だけでなく全身を真っ赤にさせ、がくがくと痙攣しながら達し、定まらない視線を向けていた。
「…また、やってしまった…。」
初夜以降、漸くサイカと夫婦になれた事実が嬉しすぎて止まらず…何度もサイカに無理をさせてしまった。…今回のように。
嬉しすぎて感情を制御出来ない、欲を抑えられないなど、これではまるで子供ではないか。そう思うのに止められない。
「…すまない、サイカ。また…無理をさせてしまった…。」
俺の下でぐったりとしているサイカの体を抱え、挿入したまま俺の体の上に仰向けで寝かせるように体勢を変える。
肩で息をするサイカの汗ばんだ頭を撫でれば、きゅ、とまた膣内が反応した。
可愛い。俺の妻は、俺の妃は本当に可愛い。可愛すぎるから、堪らない。
ちゅ、ちゅと控えめな音を立て口付けを繰り返す。
可愛い、可愛い。愛しい。何もかも、何処もかしこも可愛い、愛しい。そんな、もうどうしていいか分からない気持ちを吐き出すように。
「…やぁ、も、」
「分かってる。…許せ、そなたが可愛すぎて、止められなかった。」
「あ、…も、らめ、」
「ああ。今日はもうしない。…悪かった。」
本当に、俺はどうしようもない男だ。
悪かった、など。半分程も思っていないのに。
ぐったり力なく俺の体に寝そべり、涙と涎でぐしょぐしょの顔がまた可愛くて。悪いことをしたと思う以上に喜んでしまう自分がいる。
きっと死ぬまで、欲は消えない。
きっと、何年、何十年経っても、底が見えないまま。
年老いてもきっと、俺の欲は消えなくて、落ち着きもしなくて。
きっとこの先だって、こうして何度も何度もサイカを困らせるのだろう。
そう思うとまた一つ、幸せな気持ちになった。
昨日、今日。一日一日、目覚めた瞬間に噛み締める幸せ。
目が覚め、一番最初にこの目に映るのは愛しい妻の寝顔。
時には眉間に皺を寄せ、時には子供のように無防備で、時にはふにゃりと幸せそうな顔をして眠っている妻の、愛らしい寝顔。
何と幸せな光景だろう。幸せで、それでいて胸が苦しい。何とも言いがたい、胸の内。
朝からこの、溢れそうになる想いをどうしたらいいのか分からず、穏やかに眠る妻にちょっかいを掛けては起こしてしまう。
額に、眉間に、瞼に、鼻先に、頬に、耳に、唇に、堪らない気持ちで口付けをすると擽ったそうに体を縮こませ、暫く続けるとゆっくりと瞼が開き、神秘的なまでに美しい、黒い瞳がその姿を現す。
寝起きの、無防備な姿は子供のように。寝ぼけ眼ながら俺の姿を瞳に映すと妻はふにゃりと笑い、少し掠れた舌足らずな声で俺を呼ぶ。
「…まてぃあす、…おはよ…?」
「おはよう、サイカ。」
この瞬間が好きだ。何度同じ事をしても飽きる気がしない。
寝起きで無防備なサイカ。俺を見て安心しきった顔のサイカ。
何と愛らしい事か。この瞬間はいつも胸が高鳴る。まるで心臓を掴まれたように苦しくなる瞬間でもあるが、この胸の苦しみは幸せでしかない。
「…んん、」
「はは、眠そうだ。まだ、寝ていていい。起こしてしまって悪かった。」
「……ん。」
甘えるようにすり寄り、華奢な腕が俺の背に回る。
昨日も堪能した柔らかな体は何も纏っておらず、生まれたままの姿だ。
サイカの可愛らしい胸の先がつん、と腹に当たるだけでごくりと喉が鳴ってしまう。
昨日も…いや、正確には朝日が顔を出す寸前までサイカを抱き潰したというのに。これだけのことで俺の体は素直に反応してしまう。
向かい合って目を閉じている、睡魔に抗えない様子であるサイカの片足を俺の腰元へ移動させ、その開いた足の間から膣内の状態を指で確かめる。
入り口は少し乾いていたが、奥は俺の子種とサイカの愛液でどろどろになったままだった。
「…入り口も滑りがよくなったな…。」
掻き混ぜればいやらしい水音が。
指を抜けば…濁った体液が一部、固まりとなってサイカの膣内から出てきた。
「…これは…俺の子種か。」
固まりになる程の濃いそれ。
膣内から出してしまったなど、勿体無いことをしてしまった。
濡れすぼったサイカの膣、気持ちのいいその穴の入り口に、すっかり硬くなった自身を宛がい腰を進める。
「……はぁ。……温かい…。」
腰を動かさずとも、何もしなくとも、入れただけで気持ちがいい。
きゅ、きゅ、と無意識なのか中の壁が締まる。
このまままた、眠れそうだ。
温かく気持ちよく、幸せな気持ちのまま目を閉じた。
そのまま二時間程度眠った後にまた目覚め、ベッドで眠るサイカの近くで身支度を整えてもらう。
終われば直ぐ、侍女を部屋から出し執務室へ行くぎりぎりまでサイカの寝顔と体を目に焼き付ける。
「行ってくる。」
そう伝え、唇にキスをすれば。
眠っている筈なのにいってらっしゃい、と、ふにゃり顔で笑う最愛の妻に身悶えた。
婚儀を挙げたばかりではあるが、ゆっくりと二人きりで過ごせるかと言われればそうでないのが現状。
初夜とその翌朝は政務も何もせずひたすらベッドの中で愛を育んだが翌々日からはいつも通りに政務執務が舞い込んだ。
だた、初夜の日に伝えたように、夜になるとサイカは俺の寝室で俺の帰りを待ってくれている。
“お帰りなさい。お疲れ様でした、マティアス。”
その言葉と愛しい妻の笑顔を見るだけで…疲れなぞ吹き飛ぶというもの。寧ろ今日も抱かせてくれと言いたくなる。
サイカを妻にしてからサイカとセックスをしていない夜は今の所なく、恋人だった時よりも性欲が強くなっているのではないかとすら思う。
きっと、何事もなければ今日の夜も抱いているだろう。確信がある。
「…はぁ。」
「如何されました?」
「いや。…新婚らしく、もう少し二人きりの時間が欲しいと思ってな。
何せ婚儀の二日後にはもう政務だ。一月とは言わない。せめて七日…いや、五日でもいいから愛する妻とゆっくり過ごしたい。」
「……嫌味か。僕らに対して喧嘩でも売っているのか。
いいぞ。その喧嘩、言い値で買ってやろう。」
「…サイカとの夫婦生活…はぁぁ…私も早くサイカを妻と呼びたい…。陛下が羨ましいです。」
「嫌味でもないし喧嘩も売っていない。
そなたらも自分に置き換えたら分かるだろう?
式を挙げこれからは甘い夫婦の時間を過ごせる、過ごすと思っていたのに甘い時間は夜だけだ。これが落胆せずにいられるか。」
「……まぁ、自分の事に置き換えれば…折角、晴れて夫婦になったのに…とは…思うな、僕も。分からんでもない。
だが…現実としてまだ処理せねばならないものが多い。国内の事は勿論、リスティアの事やドライトの事もある。当然お前の判断がいるものが殆どだ。
リスティアとドライトの処理が終われば…七日くらいはゆっくり出来るんじゃないか?」
「……今暫くは我慢、か。」
ベルナンドの件で貴族の爵位を失った者は少なくない。
この件があったからこそリュカらがサイカの夫となれる…その基盤は出来たがデメリットも当然大きかった。
ベルナンドと繋がっていたのはそこそこの地位にあった貴族たちで、ベルナンドやバロウズのように死罪とはならなかったものの、奴らは地位と身分を失った。奴らの領地を治める者を見繕うのも大変な作業。
何せ国を思い民を思う誠実な人間というのは探してすぐ見つかるものでもないのだ。
自らの仕事や立場に責任を持つ人間よりも、楽をしたい、面倒な事はやりたくない、自分さえ良ければいいという人間の方が多い。
それが、生まれた瞬間から貴族という恵まれた人間であれば尚更。
膿は全て出しきり、国を新たに変えていくという点ではベルナンドの一件は丁度良かった。
けれどその分大変であり、苦労も大きなものになるのだ。
お陰でサイカとの甘い新婚生活も満足に堪能出来ない。
「…所で。いつになったらサイカに会えるんだ。」
「まだ眠っているのだろう。無理をさせたからな。」
「一つ、答えが分かりきっている事を聞くが。
…夫婦になってからあいつに無理をさせてない日があるのか…?」
「……いや、ないな。」
「…ったく。こっちは数日掛けて帝都まで来てるんだぞ?
僕が来ると分かっている時くらい加減しろよ。」
「その加減が難しいのだが。」
「……くっ、分かる、が。」
「だろう?」
ヴァレリアは自身の所属する部署へ戻り、そのまま暫くリュカと雑談を交えつつ仕事の話をしていると起きたサイカの身支度が整ったと報告を受け、リュカが待っていたと言わんばかりに立ち上がる。
サイカは庭の東屋にある石作りのベンチに腰を落ち着かせ、日の光を浴びていた。
「サイカ!」
「リュカ!おはようございます。」
「馬鹿、何がおはようだ。もう昼だぞ。」
「へへ…こんにちは、でしたね。待たせてごめんなさい。」
「…別にいい。お前のせいじゃないのは知ってる。
それより再会の挨拶だ。」
サイカを抱擁したリュカは俺の目の前でサイカに口付けていく。
…まあ、このくらいはな。と暫く見守っていたが…長い。
何度も何度も何度も。角度を変え短く、時折長い口付け。
やはり自分以外の男がサイカに口付けるのを見ると、それが例えリュカだとしても複雑な…否、不愉快な気持ちにはなる。仕方ないと分かっていても、頭で考えている事と心で思っている事はまた違うのだ。
これから先もこうした気持ちに折り合いを付けていかなくてはならない。
きっと俺はサイカが俺以外の所へ行けば、そこで何をしているかが気になるだろうし夫となった皆と何をしているかも気になるのだろう。
夜になればきっと抱かれるだろう。恋人、夫婦であれば自然な行為であっても気になって仕方ないだろう。
今後もずっと、そういう気持ちと付き合って生きていかねばならない苦労はあるが、それ以外は悪くない。
リュカらとの何気ない会話、気安く話せること、からかい合うような話も楽しいと思う自分がいる。
サイカと出会う前にはなかった感情が、リュカらへ芽生えた。
臣下でもあり仲間でもあり、似た苦しみを味わってきた同士でもある。が、今は友のようなものが近いかも知れない。
まあ何であれ、以前の関係よりも今の関係の方が心地よい。互いに嫉妬し合い、牽制したりもするが…悪くないと思っている。だから、サイカという最愛を恋人として、妻として共有することをまだ受け入れられているのだ。
けれどやはり、独占したいと思うのは仕方ない。
夜、疲労を感じながら寝室へ戻る。
リュカが帰りサイカを部屋へと送った後、急を要する案件が出てしまいこの日は夕食をサイカと一緒に取る事が出来なかった。
やっと終わったと時刻を見ればもう真夜中。
流石にサイカも寝てしまっているだろう…今日はおあずけだな、と少し落胆した気持ちを感じつつ寝室の前に立てば夜警が重厚なドアを開く。
真っ暗ではなく燭台が灯された部屋の中で、本を読んでいるサイカがいた。
「あ、マティアス!」
「…こんな遅くまで熱中していたのか?」
「ううん、本は読みはじめた所。マティアスを待ってたんです。」
「……待っていてくれたのか。」
「今日はお昼過ぎまで寝たから中々眠くならなくて。なら、マティアスにお帰りとお疲れ様を言いたいなって。」
眠くならない、というサイカ。なんと可愛い嘘をつくのだろうか。
抱き締めれば分かる。子供のように体温の高くなったサイカは眠たいのを我慢して俺を待っていてくれていたに違いない。
何度も一緒に眠った。何度も、供に夜を過ごし朝を迎えた。
この温かい体温の時、サイカの眠りは早い。昼が過ぎるまで寝ていたと言うが、それは俺が無理をさせたから。行為の疲労は当然あって、だからぐっすりと眠るのだ。
可愛い嘘を吐いてまで俺の帰りを待ってくれていたサイカ。
何といじらしく、健気なことだろう。
また好きになった。また胸が高鳴った。
昨日も今日も、それ以前からも。俺は底の見えない“また”を繰り返している。
「お帰りなさい。お疲れ様でした。」
「ああ…ただいま。…夕食、一緒に食べれずすまなかった。」
「寂しかったけど、大丈夫。
マティアスはちゃんと食べました?」
「それは心配ない。大丈夫だ。」
ちゃんと…ではないかも知れないが片手間で食べられる物を食べた。
それを言うと可愛らしい小言を言われると分かっているので言わないが。
だって勿体ないだろう?愛しい妻がこんな夜中まで眠らずに起きて、俺を待ってくれていたのだから。
小言も可愛いが、小言よりも甘い言葉が聞きたい。
「…サイカ、」
抱き締めていた体、細い腰をもっと引き寄せると照れたようにサイカが右に左にと視線をさ迷わせる。
「嬉しくて堪らない。本当…そなたはいつも、簡単に俺を癒して、喜ばせてくれる。」
今暫くは夜だけしか夫婦の甘い時間が取れないから。
だからこそ甘い、とびきり甘い言葉を交わし、触れ合っていたい。そしてあわよくば、今日も抱かせて欲しい。いつも以上に愛しい気持ちを受け取って欲しい。
愛していると叫びたい、喉元まで出かかっている想いを受け止め、受け取ってほしい。
熱のこもった視線で見つめ、硬くなったものをサイカの下腹部に押し付ける。
「愛してる。今日も…子作り、していいか?」
自分で発した言葉は、まるで乞うようだった。
堪え性がない。愛する女が欲しくて堪らない。
毎日毎日盛りのついた動物のように飽きもせず、限りがない。
結婚してからより一層、可愛い妻と愛し合うことが楽しみで仕方ない。
「…マティアス、…明日も仕事でしょう?」
「ああ。」
「……少しだけね。」
「ああ。」
とは言いつつ。約束出来るかは分からない。
いつだってそうだ。夢中でサイカを抱いている。時間も忘れ、サイカを貪っている。
抱き潰してぐったりとしているサイカを見てさえ、申し訳ないと思いつつ喜び、また無理をさせてしまう。本当にどうしようもない男だ、俺は。
「あ、あっ、マティアス、…んん、あ、まてぃあす、まてぃあすっ、」
「サイカ、っ、サイカ、サイカ、サイカ、」
「あああ、あ、あんっ、あっ、ああっ、すき、だいすき、あ、あっ、すき、すき、まてぃあす、あんっ、あっ、あああ、」
生きていてよかった。生きるとは素晴らしい。
この瞬間、いつも天に昇るような気持ちになる。
愛と、欲と、感謝と、多幸感で胸が満たされる。
「可愛い、…可愛い、サイカ…。
俺の妻、俺の、愛しい妻。俺の宝、俺の全てっ。
愛してる、…愛してる、…はは、…締め付ける程、嬉しいか…?ほんと、そなたは、可愛い、なっ…!」
何度出しても足りない。何度抱いても飽きない。
出会って、益々貪欲になっている。
些細な望みだったのが、益々欲深くなっている。
ああ、人間とは愚かな生き物だ。欲に対しては底のない生き物なのだと実感してしまう。
もっともっともっと、愛し合いたい。
ただ愛し合う、それだけの時間を過ごしたい。
この世が俺とサイカの二人だけの世界であればいいのに。
煩わしいものなど何もないそんな世界で、ただ、溶け合うように日々を過ごせたらどんなに幸せか。
もっともっともっと、サイカの頭も心も、俺だけで埋めたい。
俺を一番に、誰よりも一番に優先してくれ。
「ああーーーーーーー…!」
「は、…くぁ…!」
悲鳴のような、一際高いサイカの声。
はっとしてサイカを見れば…顔だけでなく全身を真っ赤にさせ、がくがくと痙攣しながら達し、定まらない視線を向けていた。
「…また、やってしまった…。」
初夜以降、漸くサイカと夫婦になれた事実が嬉しすぎて止まらず…何度もサイカに無理をさせてしまった。…今回のように。
嬉しすぎて感情を制御出来ない、欲を抑えられないなど、これではまるで子供ではないか。そう思うのに止められない。
「…すまない、サイカ。また…無理をさせてしまった…。」
俺の下でぐったりとしているサイカの体を抱え、挿入したまま俺の体の上に仰向けで寝かせるように体勢を変える。
肩で息をするサイカの汗ばんだ頭を撫でれば、きゅ、とまた膣内が反応した。
可愛い。俺の妻は、俺の妃は本当に可愛い。可愛すぎるから、堪らない。
ちゅ、ちゅと控えめな音を立て口付けを繰り返す。
可愛い、可愛い。愛しい。何もかも、何処もかしこも可愛い、愛しい。そんな、もうどうしていいか分からない気持ちを吐き出すように。
「…やぁ、も、」
「分かってる。…許せ、そなたが可愛すぎて、止められなかった。」
「あ、…も、らめ、」
「ああ。今日はもうしない。…悪かった。」
本当に、俺はどうしようもない男だ。
悪かった、など。半分程も思っていないのに。
ぐったり力なく俺の体に寝そべり、涙と涎でぐしょぐしょの顔がまた可愛くて。悪いことをしたと思う以上に喜んでしまう自分がいる。
きっと死ぬまで、欲は消えない。
きっと、何年、何十年経っても、底が見えないまま。
年老いてもきっと、俺の欲は消えなくて、落ち着きもしなくて。
きっとこの先だって、こうして何度も何度もサイカを困らせるのだろう。
そう思うとまた一つ、幸せな気持ちになった。
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