平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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118 マティアス⑪

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国を治めるというのは簡単な事ではない。
どんな国でもそれは同じ。
どこの国も様々な問題を抱えている。
問われるのは王の手腕と、王と共に国を支える臣下の忠義や能力が求められる。
勿論民の協力も必要ではあるが、それは国、上に立つ人間、王やその臣下らが彼らの生活を少しでも良くするなど、何らかの見返りを示さなければならない。

例えば、今苦しい生活をしている者たちに「お前たちの生活は何も変わらないが国の利益の為に協力して欲しい」と言った所で誰が協力してくれる。誰も協力しないだろう。
だがドライト王国の現状はまさに“それ”だった。


「これは俺の独断です。恥を忍んで伝えるけど、このままじゃドライト王国は滅びるかも知れない。百年先か二百年先かは分からないけど…そうなる可能性がある事を、母…女王は気付いていない。
兄は女王の補佐をしてるけど…だから見えていない部分がある。」


臣下から渡される書面を見る、報告を聞く。
どれも物事を決める判断材料にはなるけれど、必ずしもそれが事実とは限らない。
事実と言うよりは認識の違いが発生する。
提出された書面の数字を見る事、誰かから聞いた話のみの状況はそれだけしか判断材料を得られない。
そこに自分の目で見たものが加わるとまた全く違う結論にもなる。
領地に関わるものはその土地を管理する領主が報告を纏め国に提出するのがこの国でも一般的だ。
何故なら俺の身は一つしかなく、実際にレスト帝国内全ての村や町を見て回ろうと思うととても一年では足りない。
だからこそ領地の事は各領主に任せているのだ。
そして更に、各領主の上に王宮で働く人間がいる。
何か問題があった時対処出来るように、不正がないように部署で働く人間が監査をしている。
監査する人間がいるからと言って不正は無くなりはしないが誰かの目が無いよりは抑止に繋がる。
ドライト王国でも同じ方法を取っているが……話を聞くと監査はかなり緩いようだった。


「実際問題、大国ドライト王国と言えど小さな町村では餓死者や劣悪な環境から病になって病死している者が多い。
死者の数は年々増えているというのに、女王や臣下は動かないんだ。
数字だけを見て判断している。
実際に目で見てみれば、対策は必要と分かる事なのに。」

「…報告に上がる数字の変化は大きいか?」

「大した変化じゃない。じわじわと、少しずつ増えていっているのが現状なんだ。
だけどそれは、民が必死になって…生活や何かを犠牲にして税を納めているだけだよ。
でも納めているからその数字だけしか見てない。」

「ああ…そんなものだろう。
ここ数年、ドライト王国では日照りが続いている所もあると聞く。
昔よりも環境や生活が厳しいだろう。
それに対しての対策は?」

「何も。物資を支援するでもなく、見舞金を渡すわけでもなく。
女王は大国という言葉を過信しすぎているんですよね。
自分が子供だった頃の、豊かで強い国のまま変わっていないと思っているんだ。
仕事はする人だよ。母というより女王が相応しい人だけど、国の恩恵は王都や大きな町にしかいっていない。国に利益をもたらしてくれるからね。利益重視なんだ。」

「…成る程。サーファス殿の望みはその小さな町や村の生活が改善出来るようにする事か。」

「…俺だけじゃ耳を貸さないし動かない。
女王が一番嫌なのは自国の恥を他国に晒す事だ。
国の恥は女王の恥。視察でも何でもいい。苦しみながら今も懸命に生活をしている彼らの姿を女王と兄、臣下に見せつける事が俺の目的なんだよ。」

「…数字や臣下の報告だけでは見えないものを直接見させるって事だな。……はぁ、耳が痛い。僕も随分、仕事をしない身内に苦しめられた。
何をやっているんだ、担当者たちは…。
仕事をしろ、仕事を…!」

「しているのだろう、彼らなりの“仕事”を。
国を、民の命を背負っているという意識は低いがな。
現実を女王らに見せるのはいいがそれで変わるとも思えん。
女王や王太子は兎も角、臣下が。」

「女王と兄が少しでも現実を知って、考えてくれるのなら手はあるよ。
一番は女王と兄の二人かな。二人は国のトップだ。トップが分からないままであるのが一番不味いでしょう?」


思う。
ドライト王国の王太子がどんな能力を持っていてどんな人間かまで詳しくは分からないが、サーファスが国王になった方がドライト王国はより良い国になるのではないかと。
だがドライト王国の王位継承は余程の事がない場合は長子にある。
サーファスの観察眼、洞察力、考察力は侮れない。
悔しい事だがサイカの事もある。
サーファスの言う通り、サイカにはサーファスのような存在もまた必要なのだと痛感している。
サイカは自分の思う様に生きていると言うが自己中心的ではない。
周りを見て気を使い、周りの雰囲気、気分を察している部分も多い。
相手を思うからこそ自分の悩みや苦しみをぎりぎりまで溜め込む事もある。
誰かの思いに応えようとする、そういう人間であると分かっていたのに俺は自分の事しか考えていなかったのだ。

同じ間違いを犯すつもりはないが、今後も同じく、気付かない、気付けなかったという事もきっとあろう。
サイカ自身でも気付けない事を俺が先に気付けるかと言われると自信がない、というのが本音だ。
サイカの事はどんな事でも知っておきたい。
悩みも苦しみも怒りも、何もかも。
だがそれは、サイカにその自覚があって初めて共有出来る。
サイカが伝える事で俺が知り、サイカを労る事、慰める事、諭す事、怒る事が出来る。
言ってしまえば言われないと気付かない。
気付く事が出来るのはサイカに自覚があって、態度に変化があった時だ。
その様子から考え、察して気付く事もある。
が、悔しいがサーファスのような能力は俺に備わっていない。

経験だとサーファス本人は言うが、経験だけでもないだろう。
元々、カイルのように人の感情に敏感な部分があり、経験でそれが磨かれたと言った方が正しい。
そうなるとカイルも同じ能力を得る事が出来るのだが…サーファスの域まで達するには圧倒的に経験が足りないだろうな。
自分の目で見て、考えて、悩み苦しむサーファスは王の器だと素直に思える。


「目を覚まさせる…は分かった。
が、その後も問題があるのではないか?
失礼ではあるが…国の資産は十分なのか?
環境を変えるのはかなりの資金が必要になると思うが。」

「……正直に言うと足りないね。
恩恵は王都と大きな町にあるって言った通り、そういう所に沢山お金を使ってるんだ。
ドライト王国の全ての領地へ回すには圧倒的に足りない。
だから、レスト帝国にはドライト王国にある鉱山を二つか三つ程、買ってもらいたい。」

「鉱山?……金が取れる鉱山か!
レスト帝国も金は殆どドライト王国から輸入していたし…マティアス、僕はいいと思うぞ。
金は装飾に使うだけじゃなく硬貨の原料だ。
かねはいつだって必要だ。いらない時がない。」

「金が取れなくなった時は別の鉱山を渡す。
とは言っても鉱山はドライト王国にあるわけでレスト帝国に移す事は当然出来ない。
手数料的なものは貰い続ける事になるけれど悪くないはずだよ。」

「それは此方にとっても有り難い話だが…いいのか?」

「鉱山はまだ幾つかあるし構わないよ。改革にはお金も手間も掛かる。何をするにも最初は特にね。幸いドライトは他にも安定して他国へ輸出出来る資源がある。でもそれは必要な時に欲しい大金にはならないんだ。女王と兄の目が覚めてくれれば大国ドライト王国をこの先も維持出来る。目が覚めなければドライト王国は終わりだ。」


サーファスは紛れもなく王族だった。
国が滅びるかも知れない、その覚悟を決めた男の目はとても強く、愛する国の未来を憂いている。


「条件を飲もう。
まずは女王と王太子の目を覚ます事が出来たならこの取引は成立。覚めなければ取引は成立せず、これまで通りという事…その認識でいいか?」

「その認識で合ってます。」

「…だが取引が成立した場合、こちら側が得をする方が大きい。
それはフェアではないな。…さて、どうしたものか。」


恐らくサーファスはドライト王国を立て直す事に対し、これ以上の協力は求めないだろう。
自国の問題はどうしようもない場合を除き自国で解決する。ドライト王国に住む自分たちの問題と考え、この最低限の取引を持ち出した。
王族としての真っ直ぐな自尊心から。不要な自尊心は持たず、必要な自尊心だけを持っている。
そしてこの話は取引という取引でもない。これは国同士の正当な商売の話だ。
金の取れる鉱山をレスト帝国が買う、その代金をドライト王国に渡す。大金を貸し付ける、ではなく正当な売り買いにより、一方は鉱山を、一方は大金を得る、そんな話だ。
恐らくサーファスも公平ではないと、その事に気付いているし何なら態とかも知れない。。
であれば…この件の貸し借りはこの場できっちりと清算しておいた方がいい。
後から色々と言われた方が面倒でもある。


「…サーファス殿。何か望みはあるか?」

「いえ、今得に思い付かなくて。」


サーファスは油断ならない男だ。
ドライト王国の王子たちの中で恐らく一番、王としての資質を持っている。
油断していると足元をすくわれ兼ねない。
が、サーファスは自分が王になる事は望んでいない。
王族という立場も。
国を愛しているし民に対して責任感や罪悪感を持っている。
王族であるが故にその責任感や罪悪感からは逃れられない。
けれどそれがなければ、この男は王や王族貴族など本来どうでもいいと考えている。
それに、これ以上の協力や援助を求めないのであればサーファスの望みなどサイカ関連しかあるまい。


「…そうだな…。
サーファス殿、そなたはドライト王国の王族だ。
この国にずっと居られるという事は出来ない立場。いつか…というか、本来は今すぐにでも自国へ帰り己の務めを果たさなくてはならない。
医療を学ぶという口実も長くは続くまい。サーファス殿は優秀な人材だ。求められてもいるだろう。」

「…そうですね。」

「俺からの取引はサーファス殿がこの国に居られるようにする事としよう。
レスト帝国、ドライト王国がこれまで以上により良い関係を築いていけるように、サーファス殿をレスト帝国専門の外交官に推薦する。
一年の内数ヵ月の間でもこの国に滞在出来るように、それが出来たら「いいんですか!?」あ、ああ。」

「よっしゃ…!!流石にそこまでは図々しいかなと思ってたんですけど、マティアス陛下がそう言ってくれるなら遠慮なく!!」

「…やはり此方に有利な取引は態とだったか…。」

「……恐ろしい男だな。
ここで終わらさなければ後から無理難題を言ってきそうな気がしていたぞ、僕は。」

「お前もかリュカ…。」

「…まあ、サイカの恋人になるかどうかはサーファス殿下の運と努力次第ですしね…。
カイル殿はどうですか?」

「……政治的な事は、よく分からない…から。
陛下が、判断したなら、…それに従う。」

「では皆異論なしと言う事だな。」


ふう、とサーファス以外の皆が溜め息を吐いた所で話し合いは終わり、再びサイカの元へ足を運ぶ。
お疲れ様です、と笑顔で俺たちを労ってくれる言葉に癒される。
ディーノの隣に座るサイカを持ち上げ膝の上に座らせると周りの刺す様な視線が集まるが気にしない。

「…陛下、…ずるい。」

「おいマティアス。お前はこれまでずっとサイカを独り占めしていたんだ。僕に譲れ。」

「…リュカ殿も婚約してから独り占めなさっていたではありませんか…。私やカイル殿はまだ先なのです…少しくらい譲って下さったって構わないと思うのですが…。」

「俺は隣でいいです。陛下の膝の上に座ったサイカの隣で十分なんで。サイカ、さっきぶり。クライス侯爵がいるから大丈夫とは思うけど退屈しなかったかい?」

「…ちゃっかりいい席取ってるんだが…何なんだこの男は。」

「…サーファス、そこ、退いて。」

「そうですね。サーファス殿下は立場的にはサイカの友人ですので…隣はどうかと。」

「俺ドライト王国の王族だよ?立場的には君たちより少し上だと思うんだけどな。一応、ドライトも大国だからね。」

「はぁ……癒される。」

ぎゅっとサイカを抱き締めると更に周りが騒ぎ出す。
ぎゃいぎゃいと主にリュカの声が響く中、ふふ、とサイカが笑う。
それはそれは嬉しそうに、楽しそうに。

「…皆一緒だと、やっぱり嬉しい。私、この時間が大好きだなって、そう心から思います。」

そんな可愛らしい笑みを見てしまえばもう騒ぎ立てる事はなかった。

「そうか、嬉しいか。」

「はい。嬉しくて、楽しくて、幸せだなって感じます。」


ふと考え、俺もだ。と思う。
一番はやはりサイカと二人きりの時間だが、こういう時間も悪くない。…いや、楽しいと思う。
それはリュカたちとの付き合いが変わったからだろう。
ヴァレリアもカイルも、少し前まではただの臣下だった。
仕事に対して誠実で、真面目で優秀な臣下。それだけだった。
リュカに対してもそうだ。従兄弟という間柄ではあったが今程気安くはなかった。
醜い容姿で生まれた仲間、互いに愚痴を言い合う仲ではあったがそれだけ。どこかで気を使っていたし、リュカに伝えてもいい事、伝えない事を選び、線引きしている事も多々あった。
ディーノは師であり友でもある。けれど今の方が…互いに言いたい事を伝えている気がしている。
少しずつ、俺たちの仲も変わっていったのだ。
サイカという存在に出会い、少しずつ自分が変わっていくと共に周りの関係も変わっていったのだ。

「…悪くない時間だ。」


愛するのはサイカ。
そしてディーノ、リュカ、ヴァレリア、カイルは俺が最も信頼し、信用出来る者たちへと気持ちが変化していた。
皆がいれば何も恐れる事はない。
皆がいれば、きっとどんな困難にも立ち向かえるに違いない。
今は素直にそう思う。
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