平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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51 男たちの裏話

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四人の男は自室に戻るサイカを見送り、ドアが閉まるのを確認すると一斉に互いを牽制し合うような、そんな空気になる。
そんな様子を見てディーノは一つ、溜め息を吐いた。


「…サイカがいては本音で話せんだろう。…今の状態ではサイカを怯えさせる。」

「…ああ、そうだな。」


皆が様々な思いで其々を気にしている中、サイカを交えての話は到底本音でぶつかり合えない。
其々がサイカを強く思っている。きっと穏便にはいかないだろうとそう考えたディーノはサイカを部屋へ戻らせ、男たちだけの空間で本音を話し合うべきとした。


「…正直…複雑な気持ちだな。そなたらの事はそれぞれ気に入っている。
だが、サイカの事となるとまた別だ。」

「……はい。私も…陛下がサイカを知っているのではと…何となく察しておりました。…公爵閣下とカイル殿は…其ほどお会いしないので…分かりませんでしたが…。」

「……俺も、陛下、サイカの相手…気付いた。…他は…予想、だけど。」

「……まあ、俺はマティアスがあいつに会いに行っていると知ってサイカに会いに行ったからな。そこは何とも思わん。」

「…そなたらに言っておく。俺は、サイカを妃にするつもりだ。
妾でも側妃でもなく、正妃に。」

「!!…で、ですが、サイカは………あ…!それで、クライス候に…!」

「ああ。ディーノにはサイカを養子に…養女に迎えてくれと相談してある。…ディーノ、今、返事を聞いても?」

「構わん。…俺は、サイカを養女に迎える。そのつもりでいる。
あの子は可愛い。愛らしい。外見だけの話でなく、存在そのものが愛しい。共に過ごし、あの子を慈しみ守りたいと思うようになった。
同情ではなく、“父”として見守っていきたいとそう思った。
…マティアス、俺はお前の提案を受けよう。」

「感謝する。」


ヴァレリアとカイルはその話を聞いて顔をしかめる。
もうそんなところまで話が進んでいるという事実に。そして自分たちの仕える主は…やはり食えない男だと改めて知って。
リュカはこの事態を予想していたのか両腕を組み、目を瞑って話を聞いていた。


「……ずるい、陛下…。」

「…ですが……サイカが娼婦である限り私たちのどの家とも釣り合わないでしょう。娶るにしても…妾が精々…といった所。
正式な妻にするには必ず反対されます。そんな中強行すれば…サイカが辛い思いをしますからね…。」

「…別に構わないだろう。史実にも記載されているが400年前、レスト帝国では男児が生まれず、当時王女だったイシアル・バーティン・レストが即位しただろう?女帝には複数の皇配がいた。その娘である王女も複数の夫を持った。
それから230年前の王女は他国に嫁いだ際にハーレムを作っていたしな。
マティアスがあいつを正妃にする事に僕は何ら異論はない。」


にやりとリュカは笑い、自分以外の男に向けてこう言う。

「クライス候は力のある方だ。現在この国にはクライス候を含めた四つの家が侯の爵位を持っている。…敢えて序列をつけるならばクライス候がその筆頭だろう。その養女になるんだ。これ程心強い事はない。
加えてサイカのあの美貌。マティアスだけでなく僕たちも夫になるとして…反対する奴らは当然いるがきっと手はある。まぁ何とかなるだろう。」

「…俺は他の夫を迎えさせるつもりはないのだが。」

「そうか?まあ、現段階ではそうでもいいさ。
兎も角、クライス候の援助、そして僕の爵位、あと二人もそれなりに格の高い家柄だ。
…カイル殿は弟が家を継ぐから別か。…だが、御前試合でも優勝した実力がある。武功を立て続け別の爵位を貰う事も出来るだろうしな。」

「…そなたらが夫になる前提で話を進めるな。俺はそんなつもりはない。…そなたら個人の事は気に入っているし、同じ“醜い容姿”を持つ者同士だ。
同情もある、サイカへの気持ちが本物であるとも分かる。
…だがそれとこれとは別の話だ。サイカが娼婦に戻った場合、俺がそなたらとサイカの逢瀬を止めることはせん。…だが、俺の妻になれば別だ。」

「…では俺の家は俺の代限りになるな。
他の女を娶るつもりはない。…いや、そんな女は現れないと言ったほうがいいか。」

「…脅しか?」

「何とでも。…だがマティアス。お前が一番、理解しているんじゃないか?小国の王女を娶った後…その夫婦生活はどうだ。…子は?国を存続出来そうか?僕が聞いた話では……初夜以降、夜の営みはないと聞いているが。…まぁ、そろそろ周りからせっつかれもするだろうから、子作りはその内するだろうな。だが…愛を知って、今更他の女を相手出来るか?」

「リュカ…その言葉は俺を侮辱していると取ってもいいな…?」

「さて…そう聞こえたならそうだろう。」


一触即発の空気だった。
リュカはマティアスを挑発するように。マティアスはリュカの挑発が分かり、忌々しいと言わんばかりの目を向ける。


「……そのくらいにしろ。リュカ殿、マティアスを挑発して言質を取ろうとするのは止めなさい。それからマティアス、お前もだ。
よくよく考えろ。ここに集まる者たちの見目は、女たちに受け入れられるものではない。それは其々が十分過ぎる程理解している。」

『……。』

「事はお家存続の問題にも関わろう。
養子を迎えればいい話にもなるが…本人たちにその意思がない。
加えて、サイカという存在がいる。あの子がお前たちの前に現れ、其々が希望を見出だしただろう。“幸せな家庭”というものをだ。
サイカが現れる前であれば、現状を受け入れていたはずだ。」

「……ええ。候の仰る通りです。サイカに会う以前であれば…私の妻になってくれるなら誰でもよかった。
妻になって、子を生んでくれる女性であれば。養子も考えていました…。
そこに愛情がなくとも、愛されなくとも。それで構わないと…。」

「……俺は、…結婚したいと思う気持ち、少しだけ…。……でも、無理だって思った。こんな、見た目だし。
家督は、弟が継ぐから、…俺が結婚しなくても、…問題ない、から。
……でも俺、…サイカを奥さんに、したい。…サイカと、一緒になりたい。」

「…あいつと結婚出来ないならあんな家、潰れてしまっても構わない。
僕は…愛のない家庭がどれ程辛いものか、よく知っている。
マティアス、お前だってそうだろう?お前だって、そうだっただろう?」

「……ああ。よくよく、知っている。」

「お前は皇帝だ。この中で一番力を持っている。
そのお前が強行してしまえば…僕たちは手も足も出ないじゃないか。
…サイカと出会って、僕は人生に喜びを感じた。希望を感じた。
…その希望を、同じ思いをしてきたお前が奪うのか!?
お前がサイカを愛しているその思いを、僕も持っていると分かっているんだろう!?分かっていながらお前だけの妻にするのか!?」

「…リュカ殿!落ち着きなさい!」

「っ、……すまない…取り乱した。」


しんと静まり返る部屋。
ぴりぴりとした空気は一向に収まらず、其々が冷静ではなかった。
誰もが譲れない思いを抱いている。
それは十分、其々に痛い程伝わっていた。


「……ふぅ、…これでは埒が明かないな。お前たちの気持ちはよく分かる。だがな、俺は…サイカが幸せであればいい。
マティアス、お前も俺にとっては子供のように思う存在だ。
だが、サイカが幸せになれないのであればそれは別だ。
…少し待っていなさい。」


ディーノは立ち上がり、サイカの部屋へ向かう。
あの場では個人の思いが優先されている。その気持ちは痛い程分かる。
ディーノとてルイーザという一人の女に今だ恋い焦がれているのだ。
誰かを本気で愛してしまったその気持ちは、よく知ってもいた。
そして…手に入らなかった時の身を引き裂かれるような苦しみを既に経験していたからこそ、皆が幸せであればと思う。

あの場を纏めさせるにはサイカが必要だった。
サイカの思いを皆に伝え、サイカの幸せとそして自分たちの幸せの折り合いを着けさせるべきだとディーノは考えた。
個人の欲を優先させたい気持ちは分かるがそれでは落としどころがない。
こういう時こそサイカの出番だ。サイカが抱いている四人への気持ちを彼らに伝えさせ、あのぴりぴりとした空気を打破させる。
愛する女の気持ちを聞けば、その涙の一つでも見れば本来聡い彼らのこと。
直ぐに冷静になり、纏まってくれるだろうと。


結果、彼らは冷静さを取り戻し…いや、逆に悶えていた。
恥じらいながら、羞恥で目を潤ませながら好意の気持ちを伝えるサイカの、愛する女の告白を聞いた四人の男たちは皆同じような反応を示した。

“嫌いにならないで”“しゅき”

まあ最後こそ噛んでしまったが…その効果は抜群だった。
マティアスは拳を握りしめ衝動に耐えていた。
ヴァレリアは胸に手を当てぐらりと傾く体を留まらせようとしていた。
カイルは呆然とサイカを見つめ、リュカはサイカのいじらしい姿に全身を震えさせていた。
この時の皆の心の中は“もう絶対に嫁にする”だった。
ディーノは娘の可愛さに悶えながら落としどころはついたなと、そう感じていた。


それから一週間後。四人とディーノは王宮にあるマティアスの執務室で再び話をしていた。


「これからは其々がサイカを恋人とする。そのことに異論はないな?」

「ありません。」

「……ない、…です。」

「異論ない。」

「もう一つ。サイカは娼婦を続けると言っているが…その事についてだ。
勿論、恩を返したいと言うサイカの手前…構わないと言っているだろうが。建前でなく本音でいこう。
恐らく、同じ事を思っているだろうからな。」

「……オーナーに頼むつもりでした。」

「……俺も。」

「……今後他の男を相手させないように…だな。」

「…成る程。やはりか。…俺も、そうさせるつもりでいた。
ではキリムには、今後サイカの客は俺たち以外取らない様に伝えておく。例の件もあってサイカの金額を最低でも大金貨一枚から大金貨五枚へ変えるようにと提案もするが…そなたらなら問題ないな?」

マティアスの提案に、四人は頷く。
皆、サイカの手前では娼婦を続ける事を認めていたが、心の中はそうではなかった。
理解を示す振りをして、その実、他の客を取らせないようにするつもりだったのだ。
自分以外の、自分たち以外の男は。


「…全く……これはサイカも苦労するな…。いや、悟らせることもないか…。」

「そんなヘマはしない。サイカには望み通り娼婦を続けさせるさ。
…だが、その客は俺たち以外にない。
残る問題は順番だな。予め月光館に行く日程を決められればいいが…其々の仕事を考えると難しい。」

「では僕は固定してくれ。帝都から離れているんだ。それくらい構わないだろう?」

「ああ…リュカはそうだな…。希望はあるか?」

「…そうだな…領地から帝都まで…往復で八日。それを考慮すると…月二回が限度か……日程については予定を確認して手紙で伝えたい。それでもいいか?」

「構わん。」

「…陛下、一つ伺っても宜しいですか?」

「何だ?」

「月光館が移転したはいいとして…またあの男のような者が娼館に乗り込んだ場合の事が気になって…」

「衛兵の数を増やしている。
それから、カイル。」

「…ん。……陛下から、相談受けた。……団長と相談して、精鋭から、毎日交代で、一人、月光館に見張り、つける。…したい奴ら…いたし。」

「…大方あの時護衛した奴らだろう。」

「…そう、です。……皆、意気込んでた。サイカ、また…襲われないように、…俺が守るって、……ちょっと、嫉妬。」

「…それは…心強いですね…。」

「…話は戻るが…サイカに会う日程の事だ。
僕は固定、他は月の予定を確認し、埋めるというのはどうだ?
仮に政務やらで行けない日はもう諦めるとしてだ。
恐らく誰も彼も、予定通りにとはいかないだろう。」

「ああ…そうだな。確かにそれぞれ予定を決めても、その通りにはいかない事の方が多い。
であれば…月決めで最初に固定し、以後変動がないようにするか…。」

「ええ、それがいいでしょう。」

「…被るより、マシ…。会えると思って、…行って、先に誰かの相手してたら、…会えなかった、がっがりが、凄い…。」

「では俺が皆の予定を纏め、それぞれに伝えるとしよう。
月始めに纏めたものを送るようにする。」

「…纏まったな。お前たちが今後どんな事をしようと、サイカを傷付ける事だけはするな。やるなら悟らせるな。いいな?」


その言葉に笑みを浮かべ頷く四人を見て、ディーノは自分の心配が全くの杞憂であったと悟った。



「こほん。…話は変わるがマティアス…サイカを妃にするなら、側妃をどうにかしなければ話にならないぞ。
少しでもサイカが悲しむ要素がある内は、嫁にやらん。」

「…ああ、そのことか…。それなら問題ない。ルシアにはライズの子を孕んでもらう事にした。…ライズが俺の期待通りの行動をしてくれていてな。まぁ何れ“いい報告”が聞けるだろう。
そうなればルシアは降格させライズと夫婦になってもらうさ。
ライズには兄がいるが…父親が複数の領地を持っているからな。兄は伯爵位、ライズには子爵位を。王女と言えど小国。しかも…俺より先に愛人の子を作るんだ。…アスガルト国も何も言えまいよ。」

「……は…、…全く、お前という奴は……恐ろしい男だな…。」

「ああ、クライス候の言う通りだな…。お前という人間を知った気でいたが…長い付き合いでもまだ見えていなかった部分があったようだ。まあ、らしいと言えばらしいんだが……今程、お前が敵でない事にほっとしたこともない…。」

「そうか?」


にやりと笑みを浮かべたマティアス。
その悪い笑みを見て、ディーノたちは鳥肌が立つ思いがした。
腹の底で巨大な化け物を飼っている、そんな気がした。
“敵”と見定めた人間には容赦ないだろう。
だが、“味方”であれば、マティアス程頼りになる存在はいない。
サイカにとって、マティアスは最も強い守りになるだろうともその場にいた全員が思った。

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