平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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48 サイカと四人の男たち&お義父様④

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リュカ様が来てくれた翌日。
“恋”を自覚してから、私の心の中は大忙しだ。
なにせ二十五年間生きてきて初めての“恋”なのだ。…それも、四人もの男性に。
四人のひとに“恋”をするなんて、自分はおかしいのかも知れない。
日本の感覚で言えば…おかしいと思われるだろう。
だけど皆、大切なのだ。好きで、大好きなのだ。
離れていかないでと、そう思う程。ずっと一緒にいたいと思う程。


「…う…ああ……恋…これが……私も、…ついに…、」


恋とはどういうものだろうかと想像しか…いや、想像も出来ていなかった時。
友人たちは恋をしてとても可愛くなった。綺麗だった。
悩みも当然あったけれど、皆総じて、きらきらとしていたし楽しそうだった。
だから“恋”は、すごく素敵なものなのだなと私は思っていた。


「…辛くもあるんだなあ、…誰かに“恋”をするって、」

楽しい事ばかりではなく、嬉しい事ばかりでもなく。
嫉妬したり、一人で勝手に傷付いたり。落胆したり、苛立ったり。
遅い初恋に頭も心もパンクしそうだ。いや、パンクしかけていた。


「サイカ様、今宜しいですか?」

「あ、はいっ…!」

「旦那様がお呼びですよ。庭でお待ちしておりますから、ご案内しますね。」

「うふふ!旦那様って、あーんな厳つい顔をしてるのに、かんわいい~んですよ!」

「レジーヌ。…全く、本当に貴女は…もう少し落ち着きなさい。」

「はぁい!サイカ様、早く早く!行きましょう!楽しみにしてて下さいね!驚きますよー?」

「?」


リリアナさんとレジーヌさんに案内された庭。
…庭と言っても驚くなかれ。一軒家でよく見るような庭ではない。
がっつり庭なのだ。庭って何?と思う程に広い。ディーノ様のお屋敷の庭は。
…そう。それこそ…果樹園ですかという程の広さ。お屋敷から一番遠い所へ行こうとしたならば……歩いて一時間はかかる。すごい広い。
そのとんでもない広さの庭に、六人が座れそうな広いテーブルがぽつんと置かれ…花やらリボンやらで可愛らしい飾り付けがされていた。


「来たかサイカ。」

「ディーノ様、…お呼びだと伺いましたが…一体、」

「まあ、取り合えず座りなさい。」

「はい、」


執事さんに椅子を引かれ、座る。
私が座るとチリンとディーノ様がベルを鳴らし……大勢の使用人たちがスイーツを運んで来た。


「わあ……!?こんなに沢山…美味しそう…!!」

「ああ。沢山あるぞ。全部は食べきれないだろう。好きなものを食べなさい。」

「え!?」

「残しても心配はいらない。使用人たちが食べるからな。
少しずつ取って食べてもいいし、一つを食べてもいい。
…お前の好きな物が分からず沢山頼んでしまった。」

「え!?」

「サイカはスイーツが好きだろう?
食後のデザートも紅茶と一緒に出るスイーツも、幸せそうに食べているからな。
美味しいものを、好きなものを食べれば…悩みも消える。
笑い、満足し、幸せを感じれば辛い事も乗り越えられる。食べなさいサイカ。いつものように美味しそうに食べて、幸せそうな笑顔を見せてくれ。」

「ディーノ様…」

昨日出掛けていたのはこれかと察した。
私がもだもだと悩んでいるのをディーノ様は気付いていたとリュカ様も言っていたし…元気付けようと沢山のスイーツを用意してくれたのだと思うと…嬉しくなる。


「いただきます!」

「うむ。」

テーブルの上はまるでスイーツバイキングな状態だった。
どれも美味しそうなので沢山の種類が食べれるように少しずつ皿に取り、頬張る。

「んん~~~…!美味しい~…!幸せ…!」

「…そうかそうか。その顔を見れば幸せなのが伝わる。
お前はそうやって、幸せそうに笑っているのが一番可愛い。
俺も幸せになる。」


ディーノ様には本当に感謝してもしきれない。
このお屋敷に来てからずっと、ディーノ様は私を気にかけ、守ってくれている。
こうして私を元気付けてくれる。
他愛のない話をしながら笑い、美味しいスイーツを食べるとディーノ様の言う通り何でも乗り越えられそうな気がしてきた。

食べ終わると私とディーノ様は散歩へ。
この庭は沢山の木々や草花があって、飽きが来ない。
気持ちのいい日差しの中、いつもの様に手を繋いでゆったりとした歩調で歩けば、風に乗って自然の匂いが辺りを充満していた。


「ありがとうございます、お義父様。とても美味しかった。」

「ならばいい。お前が喜んだなら何よりだ。」

「はい!」

「…コホン。……それで、…何に悩んでいたか…俺が聞いても?」

視線を逸らしながらそう言うディーノ様に、私は悩んでいた理由を話した。
恥ずかしながら…二十五年生きて一つも恋をした事がなかった故に、自分の気持ちも分からず鈍感であった事。
マティアス様の奥さんが気になってしかたなかった事。
そして、…四人の男性に、恋をしてしまっていると気付いた事を。
節操のない人間と思われるかも知れないけれど、だけど自覚してしまったのだ。
誰が一番と決められる訳もなく、四人の誰もが私にとって大切なひとであると。恋をしていると。
包み隠さずその事をディーノ様に伝え恐る恐る反応を伺うと……ディーノ様は口許に手を当て震えていた。


「…ディーノ様…?」

「…いや、すまん…。なんとまあ、俺の娘は随分愛らしいと思ってな……まさか、…お前が恋をした事がなかったとは……それに……そうか、“四人”という事を今は悩んでいるのか。」

「…ええと、…はい。」

「…そうだな…色々な人間がいる。複数の妻を娶ったり、その逆に複数の夫を持っていたり。夫一人に妻一人、だが愛人はいる…そんな人間もいれば結婚はしたくない、だが沢山の異性と関係を持ちたい、関係を持っている人間も。
一人を愛し、その思いを貫く者もな…。」

「…ディーノ…様…?」

「人それぞれだ。価値観は。
結婚を望まない人間もいる。ずっと、忘れられない恋をしている人間も…。ずっとずっと、…たった一人だけを愛している…そんな愚か者も。」


一瞬だけ遠い目をしたディーノ様は、眩しそうに目を細める。
まるでそこに何か…大切なものがあるかのように、とても…とても優しい笑みを浮かべていた。


「サイカにとって、“四人の男に恋をしている”という状況は…おかしい状況か?認められないか?」

「……普通は、ないと思ってはいます…。認められないかは…分かりません…。周りは…おかしいと思うかもしれない。…私のいた国ではそうでした。」

「では、普通とは何だ?認められないとは誰にだ?
誰にとっての普通が、常識に当てはまるんだ?」

「えと……世間一般として…?」

「はは。世間、か。…世間、なあ。
…なあサイカ。俺は…世間に認められたいとも思わない。
この国は…いいや、この世界は理不尽だ。多くの差別が、大きな格差が当然のようにある。例えばマティアスだ。あいつは、王であるのに臣下たちからも見下されていた。全て“醜い”からという理由でだ。」

「……。」

「能力は誰よりもある。実際、あいつの父親…上皇の時代よりも、多くの人間が生活の変化を感じただろう。…いい方へ。
マティアスはそうあれと努力してきたし、一切を怠らなかった。
だが何故だ。何故、その功績や能力を知っても尚、あいつを見下す事が出来る?
…醜いからだ。たったそれだけのことで、マティアスは下に見られていた。舐められていたんだ。」

「……マティアス…」

「醜い人間は例え王であろうと臣下から下にみられている。敬うべき君主であるはずなのに、敬うどころか嫌な視線を向け、陰口を囁く。本人に聞こえていると知っていながら、止めない。世間が何だ。世間が何を守ってくれる。」

「……。」

「貴族は平民を見下していい。女は軽んじていい。貧しい者は蔑んでいい。醜い者は嫌悪していい。それが世間一般の常識だ。
貴族も平民も変わりない。だからサイカ、お前は好きなように生きなさい。周りの目を気にせず、自由に、豊かに。
世間一般の常識、普通の枠に囚われず…そんな下らないものに、従う必要もない。
お前の幸せを他人が決めた定義で見つけるのではなく、お前の心に従って見つけなさい。」

「…私の心に…」

「四人の男に恋をした。何が問題だ。俺の知っている夫人は十人の男と同時に恋をし、内八人と結婚した。父の友人は十三人の妻がいる。今も増えているか…それは分からないがな。」

「…え……す、すごいですね、」

「そうか?…まあ、情熱的ではあるかも知れん。」


十人の男と恋人…その内の八人と結婚……そして十三人の妻……夜の営みはどうしていたんだろうか。そんな下世話な疑問が浮かぶ。


「国が違えば常識も違う。だが、どこも大概が変わらない。
例えば重婚を認めていない国でも、愛人は作っていい…そんな暗黙の了解みたいなものがある。
ある国では一夫一婦制しか認めていない。だが他に好いた者が出来た場合、離縁して次へ…が難しい。離縁する事を恥と捉えているんだ。だから互いに恋人と楽しみながら夫婦を続けている者も多い。な?普通とは何か分からないだろう?」

「…確かに…」


そう言われてみれば…日本にだってそういう部分はある。
一夫一婦でも、他に気になる異性が現れると浮気をしたりする人もいる。
中には刺激を求めて、だったりセックスレスの夫婦はパートナーには魅力は感じなくなってしまったが、他の人には…という理由で不倫をしたりもする。
全ての人がそうではないし、私が生きていた時代は不倫に対して厳しかった。芸能人が不倫をすれば誰に向けているのか分からない謝罪会見がよく開かれていたし…。
だけど少し前までは不倫はそこまで“悪”ではなかったのだ。
『不倫や浮気は芸の肥やし』とそんな言葉があったくらいだ。
時代が時代なら、日本でだって笑って許されていた。

今の日本で生きていれば、“四人の男を好き”という状況はおかしいと指を差されただろう。
それで四人とお付き合いが始まればとんだ悪女だ。性悪女だ。
けれどこの国では何人と付き合おうと、複数のパートナーがいようと“普通”のことになる。それが当たり前に許されている。


「…だったら…私、皆の事を、同時に…好きでいていいんですね…。」

「問題ないな。」

「…そっか……そうなんだ…」

「後は…それぞれがどういう選択をするか、だ。それだけのことだな。
…恋も人による。一人だけか、四人か。それは人によって様々だ。
だが…今サイカが感じている恋心を大切に育みなさい。
恋は瞬間だ。相手が変われば全く違う。幸せな思い出にするも思い出したくないものにするかも、はたまた未来への系譜となるかも。…それは育み、時が経たなければ分からないだろう。どうなるか分からないからこそ、…大切に日々を過ごしなさい。」

「…はい…!…私の初めての恋心を…大切にします。」

ふと思った。
ディーノ様もまた、誰かに恋をしていたのかも知れないと。
誰かに恋をし、愛し、そのひととの恋がディーノ様にとってとても大切な思い出になっているのではないかと。
“恋をしましたか?”そう、聞いてもいいのだろうか。
表情に出てしまっていたのかも知れない。
ディーノ様は優しく微笑みながら、私へ自分の思いを伝えた。


「一生に一度の恋をした。他の女はいらないと思う、そのひとしか愛せないと思う、そんな恋を。
俺と彼女の恋は実らなかった。…だが、俺はな、とても幸せだった。
彼女と過ごした全てが、幸福であり、尊いものだった。
その思い出を生涯の宝として生きてく。」

「……素敵な恋を…しているんですね。…今も。」

「ああ。サイカの言う通りだな。今もまだ、恋をしている。
互いに年を取っただろう。人は老いる。誰でもだ。
だが…きっと俺は…老いた彼女を見ても、また恋をするだろう。」

「……。」

「昔とは違う幸せが、今の俺にはある。
…彼女に恋をしていた時は、彼女だけが俺の全てだった。
だが…今はマティアスやお前がいる。違う幸せだが、全く悪くない。
サイカ。お前がここに来てから…俺は毎日が楽しい。幸せだ。
毎日毎日、明日の楽しみを考えながら眠る。お前の笑った顔を明日もまた見れる。そう思うとな、生きる力が沸いてくる。
ありがとうサイカ。俺を、“父”にしてくれて。お前は俺の、可愛い娘だ。愛している。」

「…私もです!私も、お義父様が大好きです!」

「ああ。おいでサイカ。抱えてあげよう。…お前の小さな頃も…それはそれは愛らしい子供だったのだろうな。」

「ふふ…両親を随分困らせたみたいですよ?
私、一人っ子だったんです。兄弟がいないから…両親の愛情を一身に受けて…だから、我が儘で泣き虫で。ぐずると長くて、母がよく困ったって言ってました。」

「ははは!そうか、だが…今も泣き虫には変わりない。
今だって目が潤んでいるぞ?」

「こ、これはあれです、嬉し涙ですから…!」

「そうかそうか。であればいい!
…サイカ、思うように生きなさい。人生を彩り豊かなものに。お前の人生を謳歌しなさい。」

「!!」


ああ。本当にこの人は……。
どうして、こうも。


「やりたい事をしなさい。時には思い通りにいかない事もある。人生とはそういうものだ。四人に恋をしたお前は…これから難しい問題にも直面するだろう。その時はその時に悩めばいい。どうにもいかなくなれば俺もお前の力になろう。必ず。
恋をし、そして愛し愛され、幸せになりなさい。
お前の幸せを、俺も、お前のご両親も望んでいる。」

「…お義父様…」

大好きです。ディーノ様。お義父様。
両親のように温かい貴方が、私は大好きです。
だからディーノ様。貴方にも、幸せになってほしい。
恋をし、愛し愛され、幸せになってほしい。
どうか、そうなりますように。


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