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7 マティアス③
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部屋に充満する蒸れた生々しい性の匂い。
熱く、華奢であるのにどこに触れても柔らかい肉体。
甘く響く嬌声も、快楽に歪む愛らしい顔も。
サイカの全てが神経を、脳を甘く刺激してくる。
「ーーーく、はあ…また、…出すぞ、サイカ…!」
「ああ、あんっ、んっ!は、いっ、…きて…いっぱ、だしてぇ……!」
「はっ……く、う…!」
サイカの子宮めがけびしゃびしゃと勢いよく飛散する子種。
何度も出しているにも関わらず、それは濃厚なままだった。
興奮覚めない頭と体。出してはすぐ硬さを取り戻し息も整わないまま再びサイカの気持ちいい肉穴に自身を沈める。
『ほんきの、こづくりせっくす、して…?』
全てはサイカのこの言葉から始まった。
子作り。俺とサイカの子を作る為の。愛し合う、思い合う恋人同士の、本気の子作りセックス。
それが例えこの時間だけのことだとしても、沸き上がる喜びを止める事が出来なかった。
『…嫌なの。…無礼な事だって分かってるわ。
大国の王に、小国の王女であるわたくし如きがこんな事を思うのは烏滸がましいのも分かっているの。
…でも、嫌なの!出来ないの!』
『ルシア様…!』
『顔を見ると鳥肌が立つのよ!あのごつごつとした体がわたくしに触れるのが、恐ろしいのよ…!
子を産む義務…?陛下との子供…?…嫌…嫌よ!
だって、もし生まれて来た子が陛下と同じ顔だったら!?陛下と同じ、醜い顔をした子だったら!?
…考えるだけでおぞましい…とても、…我が子を愛せる自信がないの…!』
『ルシア様…もうお止め下さい…!誰かに聞こえてしまいます…!』
息抜きにと庭園へ出てみれば東屋から聞こえてきたのはルシアとその侍女の会話。
あの悪夢のような初夜以降、俺とルシアは義務である子作りを一切しておらず、誰かに何か言われたのだろうルシアは涙声で側付きの侍女に不満を漏らしていた。
『皆他人事だから偉そうに言えるのよ…!
陛下と二人でいるのがどれ程苦痛か…!なのに、子供はいつ、ですって!?
…もう嫌、嫌なの…!わたくしは国の為に嫁いできた、それは分かってる…!でも、無理よ…!』
『…ルシア様…なんとお痛わしい…』
何度も経験してきた痛み。
自分の存在を人から拒絶されるたびに何かを失っていくような気がした。
互いに惹かれ合い、思い合った恋愛結婚ではない。
だいたい、本当であれば誰かを娶るそんな気もそもそも無かったのだ。
ルシアの母国、アスガルト国は周辺を争う国に囲まれており、大国の庇護を受けなければ何れ巻き込まれてしまう可能性があった。
そんなアスガルト国側からの要請を情けで受けた政略結婚であるのにまるで理不尽。
だがきっと、ルシアだけのことではない。
この先もレスト帝国の庇護を求めた国がアスガルト国の王と同じように自身の娘を差し出して、その娘を妻にしても、俺は同じように理不尽な目に合うだろう。
ならばもう、誰でもいい。誰と結婚してもやる事は同じ。
結婚する気はなかったが結婚しなくてはならなかった。
レスト帝国を守っていく子をつくらねばならないのだから。
ルシアでもまだ見ぬ誰かでも誰でもいいからさっさと義務を果たしたい。
誰であっても、そこに愛はないのだから、誰でもいい。
政略結婚でも夫婦となってから互いに惹かれたという話も聞くが、俺には夢物語、きっと一生訪れることはないだろうなと、そう思っていた。
なのに俺は今、この世で一番美しい女と愛し合いっている。子作りをしている。
互いの名を呼び、口付けをし、体を密着させ熱を分け与えている。
「…はあ…サイカ…!…俺の子を、孕んでくれるか…?」
「あ、んんっ…!は…、んっ、まてぃあす、さま、ああっ、はあ、はあ……、はらませてっ、んっ、…わたしの、なか、…しきゅ、どろどろに、して、」
「サイカ!!」
何て甘美な、贅沢な時間だろうか。
恋人ごっこの、遊びの延長線での話だと理解もしている。
それでも嬉しくて仕方がない。まるで本当に思い合い、愛し合う恋人のようだ。愛し合って子を望む夫婦のようだ。
「まてぃあすさま、まてぃあすさま、んんっ、…まてぃあす、さまっ…!」
「サイカ…サイカっ…」
「はあっ…!きて、きてっ、すき、だいすき、…はあ、だいすき、まてぃあすさま、」
「ーーーっ、俺も…、俺も好きだ…好きだ、好きだ好きだ好きだっ……愛している、」
愛している。
そう、言葉にした途端、胸の中にすとんと、その言葉が落ちて染み込んで。
サイカの小さな、可愛らしい唇を貪りながら、サイカの胎の中、子種を求め吸い付いてくる奥を集中的に突き上げる。
ぶちゃぶちゃと聞いたこともない下品で濁った音が鼓膜から脳へ刺激を呼び、夢中になって腰の律動を早めた。
睾丸から尿道を拡げるように精液の固まりがせり上がってくるのが分かる。
今までより一番濃い子種をサイカの子宮口に吐き出し、子宮の中へ子種が入り込むように腰を動かし撹拌した。
混ざり、溶けろと。サイカと俺の何もかもを混ぜ溶かしそのままサイカの、子の部屋の中に入れてくれと子宮に先を押し付ける。
ああそうか。そうか。
俺はサイカを愛しているのか。只の好意ではなく、愛しているのか。
まだたったの二回しか会っていないのに。
娼婦と客の、それだけの関係なのに。
嫌な気分ではなかった。寧ろ清々しいほどさっぱりとした気持ちだった。
そうか。そうか。俺はサイカを愛している。
愛してしまった。
自然に。そう、至って自然に。それが必然であるように。
「…はぁ…は、……まてぃあす…さま…」
「……サイカ…」
にこりと、頬だけでなく顔中を赤くさせたサイカが蕩けた笑みを俺に向ける。
その細い両腕をゆっくり俺の頭に回し引き寄せ、サイカの胸元に収まった俺の頭を優しく、優しく撫でた。
「………、」
「…まてぃあすさまは、すてきな、ひとです……かっこ、よくて、おとこ、らしくて…わたしは、ぜんぶ…まてぃあすさまが、じぶんを、きらいでも、すきです…。
みにくくない、わたしには、…すごく、かっこよく、みえる……ほんと、です。
…ぜんぶじゃ、なくて、いいの…すこしでもいい、…しんじて」
「…!」
呆然と。サイカの、まだ落ちついていない鼓動を聞きながら、サイカの熱に触れながら、サイカの優しさに包まれながらゆっくりと目を閉じる。
どうしてこんなに、この女は優しいのだろう。そんな事を言われてしまえばもう、この温もりを手離せなくなる。
サイカを手離したくない気持ちがどんどん育ってゆく。
信じたい。サイカの言葉や行動、その全てを信じたい。
俺を見るサイカの目が、言葉が、気遣う心が、嘘だと思えない。
「……信じる。」
サイカは俺の女神だ。
俺を癒し、幸せを与えてくれる女神。
容姿も心も美しい、俺の女神。
その女神が俺を醜く思わず、好きだと言ってくれるならそれを信じよう。
信じられない幸運を、信じたい。いいや、俺はサイカを信じると決めた。
この女神には何もかも、包み隠さず打ち明けようと俺はサイカに自分の事を話す決意をした。
この国の王である事も、側妃がいる事も、何もかもを。
「……サイカ、話を…聞いてほしい。」
「…?」
王であると身分、更に妻もいるという事実を明かした俺にサイカは最初こそ驚いていた様子だったが、続く話に涙を流した。
その涙が同情なのか、憐れみなのか、何の涙なのかはまだ分からない。
「…ルシアには、悪夢のような初夜から一切触れていない…。
それでも…黙っていて、悪かった…。」
「……。」
「…気分が悪い話をしてすまない…嫌に…なっただろうか…。」
一国の、しかも大国の王が一人の女に縋っている様子はさぞみっともなく滑稽な姿だろうと思う。
でもサイカに受け入れてほしかった。
同情も憐れみもいらない。サイカに俺を受け止めてほしかった。
涙を流しながら沈黙するサイカに、ああ、やはり駄目なのかと。サイカも、俺を受け入れてはくれないのか。客としてのマティアスは受け入れてくれるがレスト帝国の皇帝であるマティアスは受け入れられないかと、気分が落ち込んだ時だった。
「…違うの。」
「…?」
「…知ったつもりでいた自分が、恥ずかしくなっただけなの…。
マティアス様は、私が思っていた以上に、ずっとずっと、辛い気持ちを…肉親にも、伝えられずに、…耐えていたんだって、そう思うと…苦しくて、」
「……サイカ、」
「…ずっとずっと、そんな苦しみを耐えてきたんだって、私、マティアス様を癒したいなんて、簡単に考えて、…そんな、軽いものじゃなかったのに、」
拭っても、次から次へと溢れるサイカの涙は…心から俺を労っている、それは美しい涙だった。
「…いいや。初めて会った日から、サイカはずっと俺を癒してくれている。
傷ついてきた心も体も、包むような優しさで癒してくれている…。俺がサイカにどれだけ救われているか、救われたか。」
「…マティアス様。私、…私ね。私といる間は、マティアス様に安心して欲しいって、思ってたの…。
容姿も何もかも、気にしないで、楽しんで、幸せになって、私との時間を過ごしてほしいって、」
「…サイカ…そんな事を…」
「だって、私はマティアス様と会って、楽しくて、幸せだから、…でも、ちゃんと言わなくちゃ駄目ですね…。
私の美的感覚は、他の人と違うって。…私は、本当にマティアス様を素敵だと思ってるし、格好いいと思ってるんです。…そう、見えるんです。
だからマティアス様、安心して、遠慮なんてしないで、ここに、私と会っている時くらいは…安らいで…?」
「本当に…俺が…サイカには格好よく見える…?
本当に、…サイカにとって、魅力的に…」
「はい。…誓って、嘘じゃありません。」
体が震えた。労るように撫でられ、優しい言葉に許されて。
気付けば俺はサイカの胸元で静かに涙を流していた。
「……ん…?」
目を開けると部屋の中は真っ暗だった。
…どうやら少し眠ってしまっていたらしい。
勿体無い事をしてしまったとサイカを見ると、幸せそうな顔で寝息を立てている。
「……可愛いな…」
起きているサイカも、寝ているサイカも愛らしい。
もし、サイカと夫婦になれたなら、サイカが俺の妃になったなら、毎日この愛らしい寝顔を見れるのかと幸せな気持ちになる。
「……誰でもいい、ではなくなったな…。
…俺はサイカがいい。…サイカを妻にしたい…。
妻にして、サイカに俺の子を生んでほしい…。」
父には母が。ルシアにはライズがいる。
誰からも愛される事はないと諦めていた俺の人生にサイカが現れた。
諦めて、でも本当は諦められなかった。
いつか誰かが俺を愛してくれるのではないか。
醜い俺をまるごと受け入れてくれる誰かが現れてくれるのではないか。
大きな絶望と、僅かな希望を繰り返して、そして今、俺はサイカという唯一無二に出会えた。
「……本当に、子が出来ればいいのにな。」
白くまろいサイカの腹を撫でながら想像する。
出した子種が子宮の中で尊い命を授かるその瞬間を。
「避妊薬を飲んでいるのが惜しい…。」
そうでなければあれ程出したのだ。
今ごろ孕んでいてもおかしくはないだろう。
俺の子を、サイカが。
想像するだけで未だサイカの中に埋まったままでいたモノが硬くなっていく。
結合部はサイカの中に収まりきらなかった子種が溢れて、勿体無いと感じるもそれ以上に満ち足りた気分だった。
まるで憑き物が取れ新しく生まれ変わったかのように。
初めて会った時よりも、今までよりも。
より一層サイカが可愛く見え、愛しく思う。
サイカをこのまま娼婦のままでいさせるつもりはもうない。
きっとサイカが本気になればこの国…いや、世界中の、多くの男を虜に出来るだろう。
その他大勢とサイカを共有するつもりもない。
今暫くはサイカが娼婦を続ける事を仕方なしと諦めなければならないが…いずれ必ず、時が来れば…サイカを俺の妃に迎え入れたい。
「…サイカ、愛している。」
サイカの中に埋めたまま。サイカの胸に顔を埋め幸せに微睡み…気付けば朝を迎えていた。
「…はぁ…。…もう、時間になってしまったな…。
サイカと一緒にいるとあっという間に時間が過ぎてしまう…。
もう帰らねばならないが…また、すぐ会いに来る。」
「はい…!…それまでは…すごく、寂しいけれど…。
でも、またマティアス様が私に会いに来て下さるを楽しみに待っていますから…!」
「ああ。それまで寂しい思いをさせるが…許してくれ…愛しいサイカ。」
「んっ…!」
サイカを抱き締めながら口付ける。
今までであれば、熱に浮かされている時でならば兎も角、そうでない時にこんな大胆な、甘さを含んだやりとりは出来なかっただろう。
どこか遠慮して、したくとも出来なかったが今は違う。
気分はすっきりと、今までにない解放感で満たされ、何でも出来そうな、そんな気分だった。
「愛している。サイカ。」
「…嬉しい…、私も…マティアス様…。」
離れる事が名残惜しく、何度も何度も口付ける。
ああ、連れて帰りたい。城へ連れて帰り、傍にいさせたい。妻にしたい。
「…いってらっしゃい、マティアス様。」
「…!!
っ、ああ…、行ってくる…!」
その言葉はまるで、俺の帰る所がサイカの傍であるような、そんな甘い言葉で。
その瞬間、頭を過ったのは俺の妻になったサイカの姿。
今と同じように優しい、愛らしい笑顔で政務に向かう俺を見送り、疲れて部屋を訪れると変わらない笑顔で出迎えてくれるだろう。
そんな事を考え、幸せに満ちた気持ちのまま俺は娼館を後にした。
勿論、キリムの元へ向かい、次回の予約を取り付ける事も忘れずに。
「お帰りなさいませ、陛下。」
「ああ。ただいま、爺。」
「ふふ…。陛下のその様なお顔は初めてみました。幸せを詰め込んだようなお顔をしておりますよ、陛下。」
「ああ…今、とても幸せなんだ。
生きていてよかったと思える程、幸せな気分なんだ。」
「っ、それは、それはようございました…!
本当に、陛下のこんな穏やかな表情を見られるなど…嬉しく思います…!」
「はは!何を涙ぐむ必要がある。…爺は大袈裟だな、全く。」
「…申し訳ありません、…嬉しさの余り、」
爺と、数人の優しい人間。そしてサイカ。
俺は恵まれていたのだなと温かな気持ちになる。
「…爺、娼婦を妃にすると言ったら…どう思う?」
「!!……養子に出せば問題ありませんな。
…ふふ、それこそ、クライス侯爵閣下ならば…喜んで引き受けられるやも知れません。」
「ディーノか…。確かに。」
次にサイカに会えるのは五日後。
別れたばかりなのにもう会いたくてたまらない。
「次は五日後に会う。それまでに出来るだけ政務を片付けておきたい。」
がしかし。
俺が次にサイカに会えたのは一月後だった。
熱く、華奢であるのにどこに触れても柔らかい肉体。
甘く響く嬌声も、快楽に歪む愛らしい顔も。
サイカの全てが神経を、脳を甘く刺激してくる。
「ーーーく、はあ…また、…出すぞ、サイカ…!」
「ああ、あんっ、んっ!は、いっ、…きて…いっぱ、だしてぇ……!」
「はっ……く、う…!」
サイカの子宮めがけびしゃびしゃと勢いよく飛散する子種。
何度も出しているにも関わらず、それは濃厚なままだった。
興奮覚めない頭と体。出してはすぐ硬さを取り戻し息も整わないまま再びサイカの気持ちいい肉穴に自身を沈める。
『ほんきの、こづくりせっくす、して…?』
全てはサイカのこの言葉から始まった。
子作り。俺とサイカの子を作る為の。愛し合う、思い合う恋人同士の、本気の子作りセックス。
それが例えこの時間だけのことだとしても、沸き上がる喜びを止める事が出来なかった。
『…嫌なの。…無礼な事だって分かってるわ。
大国の王に、小国の王女であるわたくし如きがこんな事を思うのは烏滸がましいのも分かっているの。
…でも、嫌なの!出来ないの!』
『ルシア様…!』
『顔を見ると鳥肌が立つのよ!あのごつごつとした体がわたくしに触れるのが、恐ろしいのよ…!
子を産む義務…?陛下との子供…?…嫌…嫌よ!
だって、もし生まれて来た子が陛下と同じ顔だったら!?陛下と同じ、醜い顔をした子だったら!?
…考えるだけでおぞましい…とても、…我が子を愛せる自信がないの…!』
『ルシア様…もうお止め下さい…!誰かに聞こえてしまいます…!』
息抜きにと庭園へ出てみれば東屋から聞こえてきたのはルシアとその侍女の会話。
あの悪夢のような初夜以降、俺とルシアは義務である子作りを一切しておらず、誰かに何か言われたのだろうルシアは涙声で側付きの侍女に不満を漏らしていた。
『皆他人事だから偉そうに言えるのよ…!
陛下と二人でいるのがどれ程苦痛か…!なのに、子供はいつ、ですって!?
…もう嫌、嫌なの…!わたくしは国の為に嫁いできた、それは分かってる…!でも、無理よ…!』
『…ルシア様…なんとお痛わしい…』
何度も経験してきた痛み。
自分の存在を人から拒絶されるたびに何かを失っていくような気がした。
互いに惹かれ合い、思い合った恋愛結婚ではない。
だいたい、本当であれば誰かを娶るそんな気もそもそも無かったのだ。
ルシアの母国、アスガルト国は周辺を争う国に囲まれており、大国の庇護を受けなければ何れ巻き込まれてしまう可能性があった。
そんなアスガルト国側からの要請を情けで受けた政略結婚であるのにまるで理不尽。
だがきっと、ルシアだけのことではない。
この先もレスト帝国の庇護を求めた国がアスガルト国の王と同じように自身の娘を差し出して、その娘を妻にしても、俺は同じように理不尽な目に合うだろう。
ならばもう、誰でもいい。誰と結婚してもやる事は同じ。
結婚する気はなかったが結婚しなくてはならなかった。
レスト帝国を守っていく子をつくらねばならないのだから。
ルシアでもまだ見ぬ誰かでも誰でもいいからさっさと義務を果たしたい。
誰であっても、そこに愛はないのだから、誰でもいい。
政略結婚でも夫婦となってから互いに惹かれたという話も聞くが、俺には夢物語、きっと一生訪れることはないだろうなと、そう思っていた。
なのに俺は今、この世で一番美しい女と愛し合いっている。子作りをしている。
互いの名を呼び、口付けをし、体を密着させ熱を分け与えている。
「…はあ…サイカ…!…俺の子を、孕んでくれるか…?」
「あ、んんっ…!は…、んっ、まてぃあす、さま、ああっ、はあ、はあ……、はらませてっ、んっ、…わたしの、なか、…しきゅ、どろどろに、して、」
「サイカ!!」
何て甘美な、贅沢な時間だろうか。
恋人ごっこの、遊びの延長線での話だと理解もしている。
それでも嬉しくて仕方がない。まるで本当に思い合い、愛し合う恋人のようだ。愛し合って子を望む夫婦のようだ。
「まてぃあすさま、まてぃあすさま、んんっ、…まてぃあす、さまっ…!」
「サイカ…サイカっ…」
「はあっ…!きて、きてっ、すき、だいすき、…はあ、だいすき、まてぃあすさま、」
「ーーーっ、俺も…、俺も好きだ…好きだ、好きだ好きだ好きだっ……愛している、」
愛している。
そう、言葉にした途端、胸の中にすとんと、その言葉が落ちて染み込んで。
サイカの小さな、可愛らしい唇を貪りながら、サイカの胎の中、子種を求め吸い付いてくる奥を集中的に突き上げる。
ぶちゃぶちゃと聞いたこともない下品で濁った音が鼓膜から脳へ刺激を呼び、夢中になって腰の律動を早めた。
睾丸から尿道を拡げるように精液の固まりがせり上がってくるのが分かる。
今までより一番濃い子種をサイカの子宮口に吐き出し、子宮の中へ子種が入り込むように腰を動かし撹拌した。
混ざり、溶けろと。サイカと俺の何もかもを混ぜ溶かしそのままサイカの、子の部屋の中に入れてくれと子宮に先を押し付ける。
ああそうか。そうか。
俺はサイカを愛しているのか。只の好意ではなく、愛しているのか。
まだたったの二回しか会っていないのに。
娼婦と客の、それだけの関係なのに。
嫌な気分ではなかった。寧ろ清々しいほどさっぱりとした気持ちだった。
そうか。そうか。俺はサイカを愛している。
愛してしまった。
自然に。そう、至って自然に。それが必然であるように。
「…はぁ…は、……まてぃあす…さま…」
「……サイカ…」
にこりと、頬だけでなく顔中を赤くさせたサイカが蕩けた笑みを俺に向ける。
その細い両腕をゆっくり俺の頭に回し引き寄せ、サイカの胸元に収まった俺の頭を優しく、優しく撫でた。
「………、」
「…まてぃあすさまは、すてきな、ひとです……かっこ、よくて、おとこ、らしくて…わたしは、ぜんぶ…まてぃあすさまが、じぶんを、きらいでも、すきです…。
みにくくない、わたしには、…すごく、かっこよく、みえる……ほんと、です。
…ぜんぶじゃ、なくて、いいの…すこしでもいい、…しんじて」
「…!」
呆然と。サイカの、まだ落ちついていない鼓動を聞きながら、サイカの熱に触れながら、サイカの優しさに包まれながらゆっくりと目を閉じる。
どうしてこんなに、この女は優しいのだろう。そんな事を言われてしまえばもう、この温もりを手離せなくなる。
サイカを手離したくない気持ちがどんどん育ってゆく。
信じたい。サイカの言葉や行動、その全てを信じたい。
俺を見るサイカの目が、言葉が、気遣う心が、嘘だと思えない。
「……信じる。」
サイカは俺の女神だ。
俺を癒し、幸せを与えてくれる女神。
容姿も心も美しい、俺の女神。
その女神が俺を醜く思わず、好きだと言ってくれるならそれを信じよう。
信じられない幸運を、信じたい。いいや、俺はサイカを信じると決めた。
この女神には何もかも、包み隠さず打ち明けようと俺はサイカに自分の事を話す決意をした。
この国の王である事も、側妃がいる事も、何もかもを。
「……サイカ、話を…聞いてほしい。」
「…?」
王であると身分、更に妻もいるという事実を明かした俺にサイカは最初こそ驚いていた様子だったが、続く話に涙を流した。
その涙が同情なのか、憐れみなのか、何の涙なのかはまだ分からない。
「…ルシアには、悪夢のような初夜から一切触れていない…。
それでも…黙っていて、悪かった…。」
「……。」
「…気分が悪い話をしてすまない…嫌に…なっただろうか…。」
一国の、しかも大国の王が一人の女に縋っている様子はさぞみっともなく滑稽な姿だろうと思う。
でもサイカに受け入れてほしかった。
同情も憐れみもいらない。サイカに俺を受け止めてほしかった。
涙を流しながら沈黙するサイカに、ああ、やはり駄目なのかと。サイカも、俺を受け入れてはくれないのか。客としてのマティアスは受け入れてくれるがレスト帝国の皇帝であるマティアスは受け入れられないかと、気分が落ち込んだ時だった。
「…違うの。」
「…?」
「…知ったつもりでいた自分が、恥ずかしくなっただけなの…。
マティアス様は、私が思っていた以上に、ずっとずっと、辛い気持ちを…肉親にも、伝えられずに、…耐えていたんだって、そう思うと…苦しくて、」
「……サイカ、」
「…ずっとずっと、そんな苦しみを耐えてきたんだって、私、マティアス様を癒したいなんて、簡単に考えて、…そんな、軽いものじゃなかったのに、」
拭っても、次から次へと溢れるサイカの涙は…心から俺を労っている、それは美しい涙だった。
「…いいや。初めて会った日から、サイカはずっと俺を癒してくれている。
傷ついてきた心も体も、包むような優しさで癒してくれている…。俺がサイカにどれだけ救われているか、救われたか。」
「…マティアス様。私、…私ね。私といる間は、マティアス様に安心して欲しいって、思ってたの…。
容姿も何もかも、気にしないで、楽しんで、幸せになって、私との時間を過ごしてほしいって、」
「…サイカ…そんな事を…」
「だって、私はマティアス様と会って、楽しくて、幸せだから、…でも、ちゃんと言わなくちゃ駄目ですね…。
私の美的感覚は、他の人と違うって。…私は、本当にマティアス様を素敵だと思ってるし、格好いいと思ってるんです。…そう、見えるんです。
だからマティアス様、安心して、遠慮なんてしないで、ここに、私と会っている時くらいは…安らいで…?」
「本当に…俺が…サイカには格好よく見える…?
本当に、…サイカにとって、魅力的に…」
「はい。…誓って、嘘じゃありません。」
体が震えた。労るように撫でられ、優しい言葉に許されて。
気付けば俺はサイカの胸元で静かに涙を流していた。
「……ん…?」
目を開けると部屋の中は真っ暗だった。
…どうやら少し眠ってしまっていたらしい。
勿体無い事をしてしまったとサイカを見ると、幸せそうな顔で寝息を立てている。
「……可愛いな…」
起きているサイカも、寝ているサイカも愛らしい。
もし、サイカと夫婦になれたなら、サイカが俺の妃になったなら、毎日この愛らしい寝顔を見れるのかと幸せな気持ちになる。
「……誰でもいい、ではなくなったな…。
…俺はサイカがいい。…サイカを妻にしたい…。
妻にして、サイカに俺の子を生んでほしい…。」
父には母が。ルシアにはライズがいる。
誰からも愛される事はないと諦めていた俺の人生にサイカが現れた。
諦めて、でも本当は諦められなかった。
いつか誰かが俺を愛してくれるのではないか。
醜い俺をまるごと受け入れてくれる誰かが現れてくれるのではないか。
大きな絶望と、僅かな希望を繰り返して、そして今、俺はサイカという唯一無二に出会えた。
「……本当に、子が出来ればいいのにな。」
白くまろいサイカの腹を撫でながら想像する。
出した子種が子宮の中で尊い命を授かるその瞬間を。
「避妊薬を飲んでいるのが惜しい…。」
そうでなければあれ程出したのだ。
今ごろ孕んでいてもおかしくはないだろう。
俺の子を、サイカが。
想像するだけで未だサイカの中に埋まったままでいたモノが硬くなっていく。
結合部はサイカの中に収まりきらなかった子種が溢れて、勿体無いと感じるもそれ以上に満ち足りた気分だった。
まるで憑き物が取れ新しく生まれ変わったかのように。
初めて会った時よりも、今までよりも。
より一層サイカが可愛く見え、愛しく思う。
サイカをこのまま娼婦のままでいさせるつもりはもうない。
きっとサイカが本気になればこの国…いや、世界中の、多くの男を虜に出来るだろう。
その他大勢とサイカを共有するつもりもない。
今暫くはサイカが娼婦を続ける事を仕方なしと諦めなければならないが…いずれ必ず、時が来れば…サイカを俺の妃に迎え入れたい。
「…サイカ、愛している。」
サイカの中に埋めたまま。サイカの胸に顔を埋め幸せに微睡み…気付けば朝を迎えていた。
「…はぁ…。…もう、時間になってしまったな…。
サイカと一緒にいるとあっという間に時間が過ぎてしまう…。
もう帰らねばならないが…また、すぐ会いに来る。」
「はい…!…それまでは…すごく、寂しいけれど…。
でも、またマティアス様が私に会いに来て下さるを楽しみに待っていますから…!」
「ああ。それまで寂しい思いをさせるが…許してくれ…愛しいサイカ。」
「んっ…!」
サイカを抱き締めながら口付ける。
今までであれば、熱に浮かされている時でならば兎も角、そうでない時にこんな大胆な、甘さを含んだやりとりは出来なかっただろう。
どこか遠慮して、したくとも出来なかったが今は違う。
気分はすっきりと、今までにない解放感で満たされ、何でも出来そうな、そんな気分だった。
「愛している。サイカ。」
「…嬉しい…、私も…マティアス様…。」
離れる事が名残惜しく、何度も何度も口付ける。
ああ、連れて帰りたい。城へ連れて帰り、傍にいさせたい。妻にしたい。
「…いってらっしゃい、マティアス様。」
「…!!
っ、ああ…、行ってくる…!」
その言葉はまるで、俺の帰る所がサイカの傍であるような、そんな甘い言葉で。
その瞬間、頭を過ったのは俺の妻になったサイカの姿。
今と同じように優しい、愛らしい笑顔で政務に向かう俺を見送り、疲れて部屋を訪れると変わらない笑顔で出迎えてくれるだろう。
そんな事を考え、幸せに満ちた気持ちのまま俺は娼館を後にした。
勿論、キリムの元へ向かい、次回の予約を取り付ける事も忘れずに。
「お帰りなさいませ、陛下。」
「ああ。ただいま、爺。」
「ふふ…。陛下のその様なお顔は初めてみました。幸せを詰め込んだようなお顔をしておりますよ、陛下。」
「ああ…今、とても幸せなんだ。
生きていてよかったと思える程、幸せな気分なんだ。」
「っ、それは、それはようございました…!
本当に、陛下のこんな穏やかな表情を見られるなど…嬉しく思います…!」
「はは!何を涙ぐむ必要がある。…爺は大袈裟だな、全く。」
「…申し訳ありません、…嬉しさの余り、」
爺と、数人の優しい人間。そしてサイカ。
俺は恵まれていたのだなと温かな気持ちになる。
「…爺、娼婦を妃にすると言ったら…どう思う?」
「!!……養子に出せば問題ありませんな。
…ふふ、それこそ、クライス侯爵閣下ならば…喜んで引き受けられるやも知れません。」
「ディーノか…。確かに。」
次にサイカに会えるのは五日後。
別れたばかりなのにもう会いたくてたまらない。
「次は五日後に会う。それまでに出来るだけ政務を片付けておきたい。」
がしかし。
俺が次にサイカに会えたのは一月後だった。
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そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
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