平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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私、本城 彩歌(ほんじょう さいか)は平凡な人間だ。
普通に学生生活を終え普通に会社で働き、細々と、普通に生きている二十五歳。
今の日本じゃ珍しくもない割りと目鼻立ちのはっきりとした顔に太くも細くもない、平均体重内の体型、黒髪で日本人らしい、象牙色の肌。
平凡。普通。可もなく不可もない、どこにでもいる至って普通の女だ。
一点だけ普通じゃない事を上げるとすれば…一般的な女性と比べて性欲が強いくらいか。

なにせ私は男性と付き合った事はないけど処女ではないのだ。
付け加えると処女ではないけど男性経験は全くないと言っておく。
私の処女は十三の時にちょっと太めのペンで散った。
後悔はしてない。別に処女か非処女かの拘りも初めては好きな人と!的な拘りもなかったので。
一人エッチの気持ちよさに目覚めてからは毎日毎日、一日二回は一人遊びに励む程性的欲求が強い。
一人暮らしをしたかった理由も実家では試せない大人の玩具を使いたかったが為だしその大人の玩具は今となっては私の大切な相棒兼恋人になっている。
家族や友人知人が私にこんなスケベな一面があったと知ったなら『まさかあの子が…?』と驚くことだろう。
私への周りの評価は“至って普通”が正しいからだ。

そんな私がまさかまさか、平凡とは言いがたい…所謂異世界と呼ばれるであろう場所に転移し日本で暮らしていれば私には全く縁がなかっただろう職に就くことになろうとは。


「ああ…、思った通り……いや、思った以上に美しいよ、サイカ!
まさに絶世の美女とはサイカのことだ!サイカの美しさならこの国の男たち皆虜に出来そうだね!」

「……泣きたい。」


その縁がなかった職とは…なんと娼婦である!
性欲の強い、エッチな事が大好きな私には天職じゃないかと思っただろう。
しかしこの異世界、とんでもない世界だった。


「一ヶ月後の水揚げが楽しみだ…。
あ、安心してサイカ!僕が責任を持って君に相応しい、最高の相手を厳選しておくからね!」

「……はは…そんな、はりきらなくても大丈夫ですよ…普通の人でいいんです、普通の人で、ほんと。」

「何を言ってるの。サイカ程の美女はこの国にいないと言っていい!断言できる!そんなサイカの相手をするならそれなり以上でないと!」

「オーナー、あの、本当に…普通でお願いします…」


絶望。そう、私は今、軽く絶望している。
娼婦という職に就いたからじゃない。異世界に来て早々人の良さそうな…善人の皮を被った老夫婦に薬を盛られ売られたからでもない。
私が絶望しているのはそう…この世界の人たちの美醜の定義がおかしいから!!


「大丈夫だよサイカ!国一番の美貌を持つサイカの水揚げは盛大に、金持ちで顔も良しなイイ男を見繕うからね!!」

「…はは…終わったわ…」


この世界での顔がいい=イケメン…いい男の定義は巨漢で糸目、豚鼻で大きな口を持つ男がそう言われている。
なのでオーナーのいう金持ちで顔もいい、イイ男というのは金持ちでゲームに出てくるオークの様な男という事で……初めてする生身の男とのセックスが金持ちのオークと…という現実に私は絶望中なわけで…。

「…おかしい…絶対おかしい…この世界の美醜の定義は狂ってる…」

まず男女で美醜の定義が違うのがおかしい。
男はオーク体型オーク顔がイケメンで細かったり引き締まった筋肉質な体型、目鼻立ちのはっきりとした顔は不細工…顔も体も私基準のイケメンはこの世界の人間にとって生理的に無理レベルな不細工というわけだ。

対して女は太っておらず二重で小さな鼻、小さな口が美人とされている。男とは違いオーク体型オーク顔は不細工。
じゃあ男はともかく美人と呼ばれる女はそこら辺に沢山いるんでは?と思うだろう。
がしかし、そこは流石のトンデモ異世界。
女は皆ぽっちゃり糸目かふくよか糸目しか未だ見た事がない。この娼館にいるお姉様たちもぽっちゃり糸目が多い。
美人と評されている高級娼婦なお姉様たちですらぽっちゃり奥二重だ。
この世界の女はぽっちゃりが普通体型だった。
何より摩訶不思議なのはこの世界の人たち、太ろうと思っても太れない、痩せようと思っても痩せれないらしい。
つまりこの世界の人たちにとって容姿とは神様から与えられた器であり、一生を終えるまで器の質は変わらないもので、不細工と評される人たちは神様から見放された人間として周りから蔑まれてしまう。

そして日本ではどこにでもいる普通体型でぱっちり二重、小さな鼻と口を持つ私はこの世界で絶世の美女と評されているわけで…だからこの世界で初めて出会った老夫婦に売られたわけだ…。


「ふふ、サイカの水揚げ、今から楽しみだなあ。
この花街の歴史が変わるかもしれない!」

「…はは…大袈裟ですって…」

「サイカは本当、謙虚だね!ここら辺の美人は皆高飛車なのになあ…。ああ、サイカ程の美女になると性格も最高にいいのか!」

「…ははは…はあ…。」


娼館で働く事になった時はテンション上がったけど今じゃ毎晩枕を濡らしている。
どうせなら…どうせなら私基準のイケメンとあはんうふんしたかった!!
まして初めての生身の男とのセックス!!
もうイケメンでなくとも普通でいい!オークじゃなきゃ誰だっていいのに!!

「じゃあサイカ、僕は仕事に戻るから。
何かあったら遠慮なく呼んでね。」

「はい、オーナー。」

恵まれているんだろうな、とは思う。
私はこの娼館、月光館に売られてから毎日お嬢様扱いされている。
まだ客も取ってない見習いにも関わらず付き人がいるし手習いの指導をしてくれるお姉様方も私に優しい。…優しいというか毎回見惚れられている。もっと粘着質な虐めをされるかと思ってたのに誰よりも可愛がられている。
付き人は本来普通の娼婦ではなく高級娼婦に付くもの。
その高級娼婦になるとお給料がいいのは勿論、相手をする客を自分で選べるし食事も豪華、部屋も豪華になる。
そんな高級娼婦の厚待遇を、見習いの私が受けているのだ。

「…相当期待されてるなあ…。」

高級娼婦は誰もがなれるわけじゃない。
十年娼館にいて未だただの娼婦のままという人が多い。
けれど私は買い取られてすぐに高級娼婦としての教育を受けさせられている。
この世界基準で絶世の美女な私はそれだけオーナーに期待されているんだろう。


「…あー…せめてぽっちゃり普通顔くらいであれば…まだ抵抗感ないのに…」

オーナーが私の為にいい男を相手に探すと言っていたのでそれも無駄だろうなと窓の外に視線を移す。
夕暮れ時に差し掛かり昼間より人の…特に男の姿が目立つ様になった。
あのぽっちゃりたちや巨漢たちは今から娼婦を買って夜を楽しむんだろう。
……くそう、見事にぽっちゃり糸目か巨漢糸目しかいない…!
終わった!一ヶ月後に迫った私の初仕事で初体験はきっと地獄に違いない…!!

ぼろぼろと涙が出てくる。
仕事だからと割りきれたらどれ程楽だろう。
だがしかし、私は欲に忠実、欲に素直な女だ。
イケメンがいい。オークは嫌だ。イケメンが好きだ。オークは嫌だ。イケメンに抱かれたい。オークは嫌だ!
引き締まった筋肉質じゃなくてもいい。普通の体型であれば…!
ぱっちり二重じゃなくてもいい!雰囲気イケメンでもいい!オークじゃなければ!!オークにだけは抱かれたくない!!

「……ふう、ぐす、…ん?」

不意に視線を感じて下を見る。
変わらずぽっちゃりか巨漢集団が外を埋め尽くしているが確かに視線を感じる。

「……あの人かな…」

フード付きのローブを着ているので顔は良く見えないけれど、体型は普通の様な気がする。
ローブでよく分からないけど巨漢でもないしぽっちゃりもしてない気がする。
というかローブの人の側にぽっちゃりが二人いるのはお友だちだろうか。まさか4Pでもするんだろうか…?

「…何であの人だけローブ着て顔隠してるんだろ…逆に目立つと思うけど…。」

ふりふり。
無意識に手を振るとローブを着た人は時を止めた様に固まってしまう。
あ、そうだった。私絶世の美女(笑)だった。

「サイカ様、夕食をお持ちしました。」

「あ、うん!」

最後にもう一度ローブの人に視線を動かすとまだ微動だにしないままその場にいた。


「今日のご飯は何かなー?」


その数時間後、再び部屋にやってきたオーナーに私の初仕事の相手が決まったと告げられたのだが…何故かオーナーの表情が悲壮感漂う顔だった。
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