辺境ギルドの解体部へようこそ

I/O

文字の大きさ
上 下
32 / 32
第二章 魔王の国の解体部へようこそ

30話 加護

しおりを挟む
 右手がないという現実を目にしたからか右腕に激痛が走る
 たまらずうめき声をあげ左手で右腕を押さえる。

「チッ、ヒョロ! 回復魔法使えるやつ呼んで来い。マユゲ! 湯ときれいな布探してこい!」

「「りょ、了解っス!」」

 親方が指示を飛ばしているのが聞こえるが足に力は入らないし意識もふわふわしている。
 なんで切られてんだよ。意味わからん……
 次第に痛みも感じなくなってきた。

 魔法があるみたいだし死ぬことはないんだろうけど……
 死ぬことはない……
 そういえば誰かに言われた気がする。

 それも割と最近。


 2か月は死なないとか言われたな。
 森の王に。
 じゃあ死なないのでは?

 ぱっと目を開いて冷静に傷口を見る。
 すでに出血は止まり、傷がふさがり始めていた。再生効果だ。

 このままだと追加で右手が生えるかもしれないので慌てて切断された右手を拾い、向きを確認して切断面を合わせると、30秒ほどで右手の感覚が戻ってきた。

「セーフ……いやアウトだがセーフ」

 右手をグーパーしながら安堵のため息を漏らす。

「ひっ……!」

 ふと顔を上げると殿下と護衛の武人と目が合って思わず小さな悲鳴が漏れる。
 やばいまた切られたらたまらん。
 首を落とされても生きているという保証はないし試したくもない。

 ダッシュで親方の後ろに隠れる。

「親方、あの人マジでヤバイっす。あとはお願いします」

 対処は親方に丸投げし急いで寮の部屋に戻って鍵をかける。
 鍵に意味があるかどうかはわからないが今日は部屋で大人しくしていよう。


 そうとも。俺は武器を作りにここに来たんだ。
 余計な事をする必要はないんだ。
 などとブツブツ言いながら小一時間素材を削ったり砕いたりしているとドアがノックされる。

「バラシさーん、親方が呼んでるっすよー」

 ジャンくんだ。

「いないって言っといて」

「大丈夫っスよ。殿下は帰られましたから心配ないっスよー」

 そっとドアを開けて周囲を伺うが他には誰もいない。
 しぶしぶと部屋を出て解体部に向かう。


 親方が椅子に座って待っていた。
 ヒョロくんは作業中だ。

「カリアゲ、手首は大丈夫なのか?」

「ええまぁ、ごらんの通りです」

 と手首をぷらぷら振って見せる

「聞きたいことはいろいろあるが、ひとまず魔族を代表して謝らせてもらおう。すまなかったな。」

「親方が謝ってどうするんですか。謝るならあの刀野郎ですよ! マジ許さん。」

 許さんならどうすると言われても困るが、絶対に許さん。

「魔族ってのは結構ああいうのが多いんですか? 話せばわかるもんだと思って油断してましたよ。」

 親方に当たっても仕方がないが感情を抑えられない。
 あームカムカする。

「奴……ネス・ネイピアはいわゆる近衛騎士という立場だが、王家に対する忠誠心が異常でな。王家に仇なすと判断すれば人間族だろうが魔族だろうがためらいなく斬る。独自の判断なのでトラブルは多いが迷いがないので護衛としては有用ってわけだ。魔族全員が奴のようなわけじゃない。」

 ネスか。覚えたぞ。
 心のデスノートに名を刻んでやる。

「まぁ、間違って斬っても生きていれば魔法で何とかできるからお目こぼしされている部分もあるが……そこでカリアゲ、お前の話だ。どうやって傷を治した?」

「あー、話ってそれですか。」

 俺は森の王の呪いで2か月(厳密には残り50日程度)以内に剣を作らないと死ぬが、その間は加護(?)によってそうそう死なないと言われた事を伝えた。

「森の王自身の再生能力が異常でしたからね。加護も似たような効果があるんだと思います。」

 できれば体感したくはなかったが、ちょっとだけ森の王に感謝した。

「そういう事だったのか。魔法も使わず傷を治したのは俺もそうだが殿下も驚いておられたからな。詳細を知りたがっておいでだった。」

 しかし……と親方が続ける。

「その森の王とやらは相当格が高い魔物のようだな。古代種エルダーや神獣の類かもしれぬ。そんな魔物が剣を欲しがる理由は興味があるな。」

 横で話を聞いていたジャンくんがテンション高めでまくしたてる

「バラシさんすごいっスね! 人間なのに期間限定で不死身じゃないスか! ちょっとドラゴン狩りに行きましょうよ」

「そんないいもんじゃないよ。痛いのは変わらないし、戦闘に関しては手首切られても気づかないぐらいの素人だよ。冒険なんて無理無理。」

 ついでに言うと時間は惜しいしな。
 ていうか近所にドラゴンいるの?

「ネスの剣技が優れてるとはいえ一切反応できないのはこの辺りでは珍しい。生きてる魔物と戦うのはやめた方がいいだろうな。」

 親方、ダメな方で認定するのはやめてもらいたい。
 それが事実だとしても。


「自分は解体屋ですからね。危ない事はしませんよ」

 早いとこ剣を作り上げて、こんな物騒な所とはおさらばしたいところだ。
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

yue
2019.06.13 yue

面白くて一気に読み進めてしまいました!
続きを楽しみにしています。

I/O
2019.06.13 I/O

感想ありがとうございます。
楽しんでいただけて嬉しいです。

第二章前に閑話を入れますんでしばらくお待ちください!

解除
もみさん
2019.06.13 もみさん

続きを楽しみにしていますね。

I/O
2019.06.13 I/O

感想ありがとうございます。

ただいま鋭意準備中です!

解除
のぶ
2019.06.12 のぶ

続き楽しみにしてます!!

I/O
2019.06.12 I/O

感想ありがとうございます。

アルファポリスの皆さんあったかくて感謝しかないです。

解除

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

魔帝戦記

愛山雄町
ファンタジー
 魔帝。それは八人の魔を司る王、すなわち魔王を統べる至高の存在。  強靭な肉体、卓越した武術、他を圧倒する魔力、絶対的な防御力……神の祝福を受けた勇者以外に傷つけることはできず、人族からは最強の魔族として恐れられている。  派遣社員、真柄(まつか)嵐人(らんと)はその魔帝として、グレン大陸の中央に位置するグラント帝国の帝都に召喚された。  しかし、ラントに与えられた能力は歴代の魔帝が持っていた能力のごく一部、それも個人の戦闘力に全く関与しない“情報閲覧”と“自動翻訳”のみ。  あまりの弱さに部下の中にはあからさまに侮蔑する者もいる。  その頃、勇者を有する人族側も神の啓示を受け、“人類の敵”、魔帝を討つための軍を興していた。  チート能力もなく、日本人のごく平均的な肉体しか持たない彼は、自身の知識と魔帝の権威を最大限に利用し、生き残るために足掻くことを決意する。  しかし、帝国は個々の戦士の能力は高いものの、組織としての体を成していなかった。  危機的な状況に絶望しそうになるが、彼は前線で指揮を執ると宣言。そして、勇者率いる大軍勢に果敢にも挑んでいく……。 ■■■  異世界転移物です。  配下の能力を上げることもできませんし、途中で能力が覚醒して最強に至ることもありません。最後まで自分の持っていた知識と能力だけで戦っていきます。  ヒロインはいますが、戦争と内政が主となる予定です。  お酒の話はちょっとだけ出てくる予定ですが、ドリーム・ライフほど酒に依存はしない予定です。(あくまで予定です) ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも公開しています。 ■■■  2022.2.14 タイトル変更しました。 「魔帝戦記~常勝無敗の最弱皇帝(仮)~」→「魔帝戦記」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。