辺境ギルドの解体部へようこそ

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第二章 魔王の国の解体部へようこそ

29話 殿下

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「おはようございまーす」

「バラシさんおはよっス。昨日はご馳走様した」

 近所の宿屋マウンテンで朝食をとって解体部に顔を出す。
 解体部の作業場ではジャンくんとポールくんが朝の掃除をしている所だ。
 晩秋でもあり山が近いのもあって朝の気温は低いが、すでに村の門に向かう狩人や木こりなどの姿は多く、目抜き通りは活気が出始めている。

 ギルドもぼちぼち営業開始ということで、小さく切った葛餅に蜜をかけたものが盛られた木皿を手にあいさつ回りに向かう。

 ギルドには解体部以外に部署が4つあり、それぞれに職員が配置されている。

 まずは販売部からだ。
 販売部は解体部で買い取った素材などを販売する部署で、今は昨日大量に回収されたキングチキンの羽毛が袋詰めにされて大きなスペースを占拠している。

 カウンターの若い女性に声をかける。

「おはようございますー。しばらくギルドに居候する事になったバラシです。よろしくお願いします」

「あら、お客じゃなかったのね。私はラハ。あなたと同じ人間族よ。」

 ラハと名乗った女性は20代前半、茶色の髪を1つにまとめてお団子にしている。
 明るく活発そうな雰囲気だ。

「よろしくおねがいしますラハさん。これ手土産がわりのお菓子です。どうぞ」

 と葛餅の木皿を差し出す。
 食べやすいようにあらかじめつまようじ的な棒を刺してある。

「あらありがとう。なんだかキラキラしてて素敵なお菓子ね!」

 ラハは琥珀色に輝く葛餅を一切れ口に運ぶ。

「おいしいわね!これどこで売ってるのかしら?ナカの街?」

「ナカの街?街はハイランドって名前じゃありませんでしたっけ?」

「それを言ったらここも一応ハイランドシティよ? ソトの村とナカの街は通称ね」

 外の村と中の街か。
 そのままだな。

「こちらに来たばかりなもので知りませんでした。ありがとうございます。それじゃまた」

 礼を言って去ろうとしたら肩を掴まれた。

「このお菓子どこで手に入るの?」

「も、もらいものなんでそこまではちょっと」

「あ、ちょっと!」

 はははと誤魔化し逃げるように立ち去る。
 世の女性のスイーツに対する執念を甘く見ると痛い目に合う。気をつけよう。


 引き続き登録部、依頼部、会計部と回って挨拶を済ませる。
 葛餅は概ね好評だったがもれなく問い合わせが来た。
 ごまかす方法は考えておかないとな。

 残り少なくなった葛餅の皿を持って解体部に戻る。
 残った分はジャンくんとポールくんにもあげないとな。


「ん?」

 解体部に来客のようだ。
 子供と大人の魔族。子供は人間で言うと6歳児ぐらいの身長で金髪は切り揃えられ身なりもよく、いいところのお坊ちゃん風。大人の方は明らかに武人といった風格だ。腰に下げているのは刀か?あるところにはあるものだな。

 子供と親方はなにやら談笑している様子だ。
 接客中なら声をかける事もなかろう。

 邪魔にならないようにそそっと作業場に消えようとすると

「新しく来た人間というのはお前か?」

 少し高めの少年の声で呼び止められる

「はい。バラシと申します。えーと、どちら様で……」

 親方が横から口を挟む

「そちらはスピカ・ヘンドリック・ハミルトン王太子殿下だ。頭が高いぞバラシ。」

 え?王太子殿下?てことは

「魔王の子供!?」

 思わず声に出すと親方と殿下の後ろで控える護衛の武人の目が光る

「あっ、いや、魔王様のご子息で……」

 慌てて訂正し跪く。
 どうしてこんな所に大物がいるんだ。もしかして親方も偉い人なのか?
 今の失言で首が飛ばなかったのを喜ぶべきかもしれない。

「バラシとやら、そなた剣を作りにわざわざ来たそうだな?」

 どこから聞いたかは知らないが耳が早い事で。

「はい。仰せの通りでございます。」

「面白そうだ。完成したら僕にも見せてくれ。」

 無邪気な笑顔で殿下は言うが、それってもしかして見せる=徴発って事?
 ただ見せるだけの可能性もあるが心配事が増えてしまったな。

「あっ、はい。仰せのままに。」

 でも今は了承以外の返事はできないわけだが。


「ところでバラシよ、手に持っているものは何だい?」

「食べ物にございますが、殿下のお口に入れるようなものではございません」

 厳密な衛生管理などしないで作った葛餅だ。
 何かあったらヤバい。

「いいから見せてみよ」

「見るだけですよ殿下」

 おそるおそる木皿を見せる
 木皿の上で琥珀色のラメが入った葛餅がぷるぷるふるえてアピールしている。
 殿下の顔色をそっとうかがうとキラキラした食べ物に期待している様子が見て取れた。
 まずいぞ、これは食う気だ。とはいえ万が一の為に自己責任の言質は取りたい。

 殿下が木皿に手を伸ばすが手を離すわけにはいかない

「殿下お待ちください。この食べ物は安全ではございません。あとで作り直しますので――」

「ネス!よせ!」

 親方が叫ぶと同時にチンと金属音がした。

 一瞬親方を見て目線を戻すと俺が持っていた木皿は護衛の武人の手を経て殿下に渡るところだった。え?手を離した覚えはないが?

「殿下は人間族に甘すぎます。これでは示しがつきませぬ。」

 と護衛の武人はこちらに何かを投げてよこす。
 慌てて受け取ろうとしたが受け取りきれずに『それ』は地面に落ちる。

 それもそのはず、投げてよこされたのは切断された俺の右手首だったのだから。
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