辺境ギルドの解体部へようこそ

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第一章 辺境の村の解体部へようこそ

11話 ワイバーンの逆鱗ナイフ

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 ワイバーン素材武器の仕上げを行う。

 まずは低温の焼き入れ。これを行うことで素材がなじみ強靭さが増す。
 ざらざらしていた表面が気持ち滑らかになった。

「まずは普通のワイバーン・・・ワイバーンで普通って言い方もおかしな話だが、こいつの仕上げをしよう」

 炉の温度の見立てはガイエル任せだ。ドワーフは目で見て正確な温度がわかるらしい。
 ガイエルは火魔法で炉の温度を上げていく。

 じわじわと赤熱していく刀身の様子を見ながら熱を入れていく。熱の入れ具合や引き上げるタイミングは完全に職人の経験だ。ここぞというタイミングで刀身を引き出し水に漬けると薄緑色の艶が美しいナイフになる。

「これがワイバーンの色合いか。美しいな。研いだ後が楽しみだ。」
 ガイエルは満足そうだ。


「次は逆鱗素材の方をやるぞ。バラシ、覚悟はいいか?」

「合点承知」
 上着を脱いでできるだけ身軽になる。

 炉の温度は火魔法でも上げられるが、1800度ともなると絶対的に空気の量が足りないらしく、ふいごあるいは風魔法のサポートが欠かせないという。
 魔法を使わない場合はどれだけ頑張っても1000度そこそこが限界らしい。

「最初はゆっくりでいいからな」

 指示通りゆっくりとしたペースでふいごを動かす。
 ふいごと言っても天井から下がったロープを全力で引っ張るだけだ。
 ロープを引っ張るとふいごが縮み、空気が炉に入る。ロープを放すとふいごが元に戻りながら空気を取り込むのでまたロープを引っ張る。この繰り返しだ。

「よし、だいぶ温度が上がってきたぞ。ここからは全力だ。オレがよしと言ったらペースを維持しろ。休んだらやり直しだから覚悟しろよ。」

 ガイエルの無慈悲な指示が飛ぶ
 地獄の始まりだ。俺は全力で屈伸運動を繰り返す。

「もっとだ!もっと上げろ!」

 腕と指と肩の筋肉が悲鳴を上げる
 まだか。まだなのか。

「よし、そのまま維持しろ!」

 ガイエルは焼き入れを行っているようだがそちらを見る余裕は全くない

「バカ野郎ペースが落ちてるぞ!死ぬ気でやれ!」
「んぎぎぎ」
 もはや言葉にならない。力を振り絞りロープを引き続ける。
 永遠とも思える時間が過ぎ

「よしもういいぞ!よくやった」

「おわっだあああああぁぁぁ」
 ついに解放され、俺はバタンと床に倒れこみただ呼吸を繰り返すだけの肉塊となった。

「バラシ見てみろ、いい色になったぞ」

「・・・」
 返事がない。ただのしかばねのようだ。



 いつの間にか気を失っていたようだ。
 目を覚ますと頭に濡れた布が乗せられていた。
 寝かされていたベンチから起き上がりテーブルに置いてあったジョッキに入った水を一気に飲み干す。

「あー、死ぬかと思った・・・」
 正直な感想である。


「目が覚めたか。」
 ガイエルが仕上がった武器を持ってやってきてテーブルに並べる。

「これが完成品だ。オレはいい仕上がりだと思うが現物を知ってるバラシから見てどうだ?」

 高温で焼き入れされた逆鱗入りワイバーンの刃は美しく深いワインレッドに輝いている。
 エッジにかけて濃くなるグラデーションはもはや美術品のそれだ。

「確かにいい色ですね。記憶にあるモノよりも美しい気がします。苦労したせいかもしれませんがね。」

 たしかにな。と言いながらガイエルは直径3cmぐらいの鉄の棒を取り出す。

「見た目もすごいが性能も驚きだぞ。まずは普通のワイバーン素材だが・・・」

 ワイバーン素材のナイフで勢いよく鉄棒を切りつけると高い金属音と共に鉄棒が二つになる。

「これでも十分凄いわけだが、問題は逆鱗入りワイバーン素材の方だ。」

 同じように紅い刀身のナイフで鉄棒を切りつけると鉄棒が床に落ちる音だけが響く。
 空振りしたのかな?

「ちゃんと切ってくださいよ。切れるんでしょ?」

「よく見ろ。切ったんだよ。」
 言われてみれば鉄棒は3つになっている。2度切断した証拠だ。
 ほとんど音を立てずに切断したという事になる。
 ガイエルに逆鱗ワイバーンナイフと鉄棒を手渡されたので鉄棒を削ってみると、木材を削るかのように削げていく。なんて切れ味だ。

「やばいものを作ってしまった・・・」
 思わず口から本音がこぼれる。想像以上だ。
 このナイフならどんな肉でもしゃぶしゃぶ肉にできる。


「こいつの前では鉄の鎧など板切れと変わらん。おそらく武器で受ける事すら不可能だろう。この素材ならあるいはドラゴンをも切り裂く剣を作れるかもしれないな。
 最後にいいもの作らせてもらったよ。感謝する。」

 今、聞き捨てならない事をさらっと言ったな?
「最後?」

「ああ。言ってなかったがこの国の情勢があまりに怪しいんでな、今の仕事が終わったら一度故郷に戻ろうと思っているんだ。落ち着いたら戻ってくるさ。」

 ガハハと笑っているが職人や商人が移動するレベルの情勢不安は割と笑い事ではない。

「今回の工賃はタダでいい。
 里帰りにいい土産話ができたってもんだ。」

「何言ってるんですか。土産話にするなら現物がなけりゃ説得力がないでしょうよ」
 逆鱗ワイバーンナイフをガイエルに差し出す

「これは俺からの餞別です。あなたの腕を証明するモノがあれば仕事も取りやすいでしょう?」

 気持ちはありがたいが・・・と言いながらガイエルは普通のワイバーンナイフを手にする。
「オレの腕を証明するならこっちの方が都合がいい。」

 それにな、と続ける
「『もっとすごいものがある』って方が話は盛り上がるんだよ」

 ガイエルはガハハと笑った。
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