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第一章 辺境の村の解体部へようこそ
8話 パーリナイ
しおりを挟む「さ、話もついた事だし、飯にするぞ。」
「メシぃ?おごってくれるんじゃないの?」
ミセリは不満そうだがこれを見てもその態度でいられるかな?
背中に背負いっぱなしだった木箱を下し蓋を開けると、そこには解体の報酬でももらったワイバーンの尻尾が暗緑色のとぐろを巻いて収められている。
「食堂のメシがいいならそれでもいいぞ?俺はこれを食うからな。」
ミセリとアルルはきょとんとして箱をのぞき込んでいる
「尻尾?大きいわね」
「おいしいの?」
「こいつはかの有名なワイバーンの尻尾様だ。頭が高いぞ?」
「ワイバーンですってえええ!?」
即座に反応するミセリ。いいリアクションをありがとう。
ほほーぐらいの反応のアルルとは対照的だ。
「すごいの?」
ミセリは頷いてまくしたてる
「ワイバーンの肉はとっても柔らかく美味で、王様とか貴族様しか食べられないんだから。
そんな偉い人にとってさえ人生でそう何度も食べられるような物ではないそうよ。
庶民じゃお目にかかることすら珍しいわ。一皿食べただけで金貨が飛んでいくぐらいのお値段はするはずよ。
尻尾だけとはいえワイバーンの肉を食べられる日が来るなんて・・・」
ミセリの頬が緩んで目の焦点が合ってない。
感動で意識がどこかに行ってしまっているようだ。
目の前で手を振ってみても反応がない。
「アルル、俺は肉と料理の準備をするからミセリを連れて倉庫の2階にある俺の部屋から調味料とか皿とか持ってきてくれ。」
わかったーと答えてアルルは呆けたミセリの手を引いて倉庫の方へ向かった。
大丈夫だろう。多分。
さてワイバーンのお肉だ。
尻尾は良く動く部分なので、脂肪は少なく締まった肉質で、肉々しい旨味が詰まっている。
かまどで火を熾し、肉の切れ端をナイフに刺してあぶる。
垂れる肉汁、はじける脂。
香ばしい香りが食欲をそそる。
程よく火が通ったところで口に入れる。
『口に入れたとたんに溶けてなくなっちゃう~』みたいな感じではない。
だが程よい脂が肉にからみ噛むほどに肉の旨味があふれてくる。
肉を食ってる!と感じる弾力と食べ応えがありつつもいつの間にか口の中から消えている。
これだ・・・これこそがワイバーンの肉だ・・・
今までもつまみ食いはしてきたがちゃんと食べるのは初めてかもしれない。
やっぱり素材の味を楽しむ料理ならBBQしかないな。
BBQが料理かどうかは審議が必要だが。
ギルドの玄関前にレンガを4か所に30cmほど積み上げ、その上に倉庫から持ってきた鉄板をのせる。
鉄板の下にかまどの火を移せばBBQの準備は完了。
テーブルと椅子もギルドの中からひっぱり出してすっかり庭先ホームパーティーのような雰囲気だ。
ワイバーンの尻尾は皮を剥いで骨を中心に切り分ける。
長さ3mぐらいある尻尾なので5kgぐらいは肉が取れそうだ。
スープもうまいから後日是非作りたい。
肉の半分は塊のまま冷蔵倉庫にしまっておこう。
BBQ用の肉は厚さ1cm程度の肉と5mm程度の肉の2種類を用意し、剥いだワイバーンの皮を皿がわりにして盛り付けると、ちょっとしたお造りのようになった。飾り切りした野菜が似合いそうだ。
アルルとミセリが戻ってきた。
何も持っていないようだが・・・あ、アルルのインベントリの中か。
「おかえり。こっちも準備はできているぞ。持ってきたものはテーブルの上に並べてくれ」
テーブルの上に塩と食器が並べられる。
「これも持ってきたよー」
さらに酒瓶と大量のパンと野菜がぽんぽんと飛び出し並べられていく。
食材まで持ってこいと言った覚えはない。
「パンは一人1個な。それ以外は戻すように。」
俺の朝食がなくなっていしまう。
コップに酒を注ぎ音頭をとる
「それじゃあ始めようか。新しい友人である勇者アルルに乾杯!」
「「かんぱーい」」
熱された鉄板に肉を次々と並べていく。
ジュワーと音を立てながら焼けていく肉。
「あまり焼きすぎないぐらいがうまいぞ。
この辺はちょうどいいな。少し塩をつけるのがオススメだ。」
トングで食べごろの肉を二人の皿に盛ってやる。
「これがワイバーンのお肉・・・」
ミセリはしげしげと皿の上の肉を眺めている。気持ちはわかるが冷める前に食え。
「うわこれすんごいおいしいね!もっとちょうだい!」
アルル、お前はもうちょっと味わって食え。
次々と焼かれていくワイバーンの肉。
ミセリはにやけた顔で黙々と、アルルはうまいうまいと上機嫌で食べている。
やはり美少女が笑顔で飯を食う姿は癒されるな・・・
ふと横を見ると村の子供たちがよだれを垂らしながら鉄板の上の肉を見ていた。
匂いに釣られてきたのかもしれない。
うわーとかおいしそーとかキラキラしてるーとか声が聞こえる
「お前らも味見してみるか?親には内緒だぞ。」
「いいの!?」
「やった!」
子供たちは飛び上がって大喜びだ。
ワイバーンの肉は子供達をも魅了する魔性の肉なのだな。
焼けた肉を皿に取って子供達に渡す
「ひとり1枚ずつだぞ。熱いから気をつけてな」
食べた子供達の反応はどうだろうか
「うわなんだこれうめぇ!」
「ほんと?わたしにもちょうだい!・・・あっすごい」
「こんなのはじめて・・・」
リアクションが徐々に怪しい方向に行ってる気がするが気のせいだろう。
「バラシのあんちゃんこれは何のお肉なの?」
「これはワイバーンという魔物の肉だ。うまいだろ?」
「うん!すごくおいしい!」
「もっとほしい・・・」
「このお肉はとっても珍しいものなの。もっと食べたかったら強い冒険者になるといいわ。
そしたらおなかいっぱい食べられるようになるわよ!」
ミセリが美食をエサに冒険者教育を施す。ギルド職員の鑑だな。
子供たちの間で冒険者になると食えるらしいぜとか冒険者なろうかなとか声が聞こえる。
いいぞいいぞ。冒険者よもっと増えろ。ついでに解体部も人材募集中だ。
「お前らも飯の時間じゃないのか?そろそろ暗くなるから帰れ帰れ。」
すでに日は沈み黄昏がわずかに残るばかりだ。
「ごちそうさまーまたねあんちゃーん」
子供たちは礼を言って三々五々帰っていく
すっかり暗くなり肉もだいぶ減ってきた。
ミセリは満足したようだがアルルは「あるだけ食べるよ」とまだまだ食えるアピールをしてくる。1kgは食ってるはずだが勇者は胃袋もアイテムボックス並に広いのかな?
残った肉をつまみつつまったりしていると、ランタンの明かりとともに人が近づいてきた。
さっきの子供とその親のキーンさん夫婦だ。手には酒瓶を持っている。
「うちの子がたいそうなお肉をご馳走になったそうでお礼を・・・」
と酒瓶を俺に差し出す。傍から見れば礼儀正しい親ではないかと思うかもしれない。
だが俺は知っている。サテイハの村人がそんな殊勝な心がけをするはずがないことを。
その証拠に体はこちらを向いているが目は肉にくぎ付けだ。
「せっかくなんで食べてってくださいよ」
そう言うしかないではないか。
「「いいんですか!?」」
待ってましたとばかりに喜ぶ夫婦。ハイタッチしそうなテンションだ。
間にいろいろ挟むものがあるだろう「いえいえ悪いですし」とか「そういうつもりで来たわけじゃないですが断るのも失礼なんで」とかさ。
「でもあんまり食べないでくださいよ。」
ワイバーンの肉に舌鼓を打つキーンさん夫婦を横目に注意する。
「他の人の分がなくなっちゃうんでね。」
いくつものランタンの明かりがこちらに向かってくるのが見える。
その日の夜は宴会になった。
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