1 / 1
エースキラーとか
しおりを挟む
今期、千弦高校サッカー部は大躍進を果たした。
高校総体予選で準決勝まで進出したのだ。
その原動力となったのは背番号10を背負ったエースストライカー、岡田雄一だ。
この大会で岡田は、2年生ながら次々とゴールを奪い、チームを勝利に導いてきた。目下県内で最も注目を集める選手であった。
冬の選手権こそ予選を突破し、初の全国の舞台へ…。
その目標を叶えるため、今日は隣県の有名校と練習試合を組んだ千弦高校であった。
今日の相手は夢見が丘高校。名前はかわいいが、全国大会にも出場経験がある強豪だ。
岡田がウォーミングアップをしていると、夢見が丘の選手が一人、近づいてきた。
「やあ、君が岡田君か。噂はうちの県にも伝わってるよ。躍進著しい千弦の不動のエースだ、とね。ああ、僕は嵯峨春人。…そうだね、きっと今日は僕が君のマークだ」
嵯峨の名は知っていた。
中学時代から近隣では名前を聞く選手だ。
スタミナがあり足が速く、球際で体を張る。精神的にも強いと聞く。
各校のエースと呼ばれる連中を悉く(は言い過ぎかもしれないが)つぶしてきた守備的な選手だ。
「ご存知とは光栄だね。そう、それが僕の役割だ。だからかな」
ふふ、と軽く笑った。
「エースキラー、などと言う人もいるね、僕のことを」
「おいおい『エースキラー』かよ。じゃあ今日は俺をマークしろよ」
「飯塚さん!」
そこに割って入ったのは千弦の3年生だ。
身長は高くないが、体の厚みがある。少々のことでは当たり負けはしないであろうことは、見ただけで理解できる。
飯塚は高校総体予選では、膝の怪我で欠場していた。
ようやく復帰が決まり、選手権予選に全てを賭ける意気込みであった。
治療中に鍛えられるところは全て鍛えなおした。そしてついに、膝も万全だ。
「岡田もたいしたもんだがな、純粋なスコアラーってことなら俺の方だぜ」
岡田のマークを少しでも緩めたいという気持ちもあった。だがやはり点取り屋としての誇りが言わせた言葉だった。
事実飯塚が怪我をする前は、岡田はアシストの方が多いタイプであった。そしてそのラストパスのターゲットこそが、この飯塚なのである。岡田の得点力強化は元々は飯塚の穴を埋めるための手立てだった。
「俺に勝ってもいないのに『エースキラー』なんて称号は無意味だぜ。俺はそう呼ばれていた奴等を悉くぶち抜いてきたからな」
飯塚は“にやり”と嗤う。
「だから俺は『エースキラーキラー』と呼ばれているんだ」
「ふっふふ」
「誰だ!?」
「なるほど、『エースキラーキラー』ね」
「龍堂寺!」
「確かに今時エースのワンマンチームなんて流行らないからね。アタッカーに複数の才能を揃えてないと“上”にはいけない」
夢見が丘陣営から、また一人。
「その『エースキラーキラー』とやらは守備の鍵となる選手を潰すのが役割なんだろ?だったらそこに、潰されない人材を配置すればいい」
「この俺のように、な」
この龍堂寺と呼ばれた男、当然高校生である。しかしその目つき、面構え。普通の高校生にはない鋭さであった。
獲物を狙う肉食獣。
そんな迫力があった。
「さしずめ俺は『エースキラーキラーキラー』ってところかな」
「おいおいおい、面白い話してるじゃないか」
出てきたのは千弦の大垣藤御道だ。
彼は短い時間で、自分がいかに素晴らしい選手かをアピールすると、こう言い放った。
「人呼んで『エースキラーキラーキラーキラー』」
……………
試合は1対1で終了した。
両チームともチャンスを作り、また組織的な守備でそれを凌ぐ。
共に全国大会を狙う強豪同士、手に汗握る好試合であった。
ちなみに『エースキラー』とか『エースキラーキラー』とか『エースキラーキラーキ(略)は試合に出ていない。
試合直前、相手チームの選手の前で、監督の戦術無視で勝手に動くかの言動をとり、しかもその発言が実に馬鹿っぽい。
さすがに監督も怒る。そして出場させるのを取りやめたのだった。
英断である。
ちなみに『エース』岡田雄一は、出場した。
『エースキラーキラーキラー』が喋っているあたりでそっと輪から離れていたのだ。ゆえにとばっちりを受けずにすんだ。
自分以外の人間に注目が集まっているときに、そっとマークを外す。
さすがはエースである。
高校総体予選で準決勝まで進出したのだ。
その原動力となったのは背番号10を背負ったエースストライカー、岡田雄一だ。
この大会で岡田は、2年生ながら次々とゴールを奪い、チームを勝利に導いてきた。目下県内で最も注目を集める選手であった。
冬の選手権こそ予選を突破し、初の全国の舞台へ…。
その目標を叶えるため、今日は隣県の有名校と練習試合を組んだ千弦高校であった。
今日の相手は夢見が丘高校。名前はかわいいが、全国大会にも出場経験がある強豪だ。
岡田がウォーミングアップをしていると、夢見が丘の選手が一人、近づいてきた。
「やあ、君が岡田君か。噂はうちの県にも伝わってるよ。躍進著しい千弦の不動のエースだ、とね。ああ、僕は嵯峨春人。…そうだね、きっと今日は僕が君のマークだ」
嵯峨の名は知っていた。
中学時代から近隣では名前を聞く選手だ。
スタミナがあり足が速く、球際で体を張る。精神的にも強いと聞く。
各校のエースと呼ばれる連中を悉く(は言い過ぎかもしれないが)つぶしてきた守備的な選手だ。
「ご存知とは光栄だね。そう、それが僕の役割だ。だからかな」
ふふ、と軽く笑った。
「エースキラー、などと言う人もいるね、僕のことを」
「おいおい『エースキラー』かよ。じゃあ今日は俺をマークしろよ」
「飯塚さん!」
そこに割って入ったのは千弦の3年生だ。
身長は高くないが、体の厚みがある。少々のことでは当たり負けはしないであろうことは、見ただけで理解できる。
飯塚は高校総体予選では、膝の怪我で欠場していた。
ようやく復帰が決まり、選手権予選に全てを賭ける意気込みであった。
治療中に鍛えられるところは全て鍛えなおした。そしてついに、膝も万全だ。
「岡田もたいしたもんだがな、純粋なスコアラーってことなら俺の方だぜ」
岡田のマークを少しでも緩めたいという気持ちもあった。だがやはり点取り屋としての誇りが言わせた言葉だった。
事実飯塚が怪我をする前は、岡田はアシストの方が多いタイプであった。そしてそのラストパスのターゲットこそが、この飯塚なのである。岡田の得点力強化は元々は飯塚の穴を埋めるための手立てだった。
「俺に勝ってもいないのに『エースキラー』なんて称号は無意味だぜ。俺はそう呼ばれていた奴等を悉くぶち抜いてきたからな」
飯塚は“にやり”と嗤う。
「だから俺は『エースキラーキラー』と呼ばれているんだ」
「ふっふふ」
「誰だ!?」
「なるほど、『エースキラーキラー』ね」
「龍堂寺!」
「確かに今時エースのワンマンチームなんて流行らないからね。アタッカーに複数の才能を揃えてないと“上”にはいけない」
夢見が丘陣営から、また一人。
「その『エースキラーキラー』とやらは守備の鍵となる選手を潰すのが役割なんだろ?だったらそこに、潰されない人材を配置すればいい」
「この俺のように、な」
この龍堂寺と呼ばれた男、当然高校生である。しかしその目つき、面構え。普通の高校生にはない鋭さであった。
獲物を狙う肉食獣。
そんな迫力があった。
「さしずめ俺は『エースキラーキラーキラー』ってところかな」
「おいおいおい、面白い話してるじゃないか」
出てきたのは千弦の大垣藤御道だ。
彼は短い時間で、自分がいかに素晴らしい選手かをアピールすると、こう言い放った。
「人呼んで『エースキラーキラーキラーキラー』」
……………
試合は1対1で終了した。
両チームともチャンスを作り、また組織的な守備でそれを凌ぐ。
共に全国大会を狙う強豪同士、手に汗握る好試合であった。
ちなみに『エースキラー』とか『エースキラーキラー』とか『エースキラーキラーキ(略)は試合に出ていない。
試合直前、相手チームの選手の前で、監督の戦術無視で勝手に動くかの言動をとり、しかもその発言が実に馬鹿っぽい。
さすがに監督も怒る。そして出場させるのを取りやめたのだった。
英断である。
ちなみに『エース』岡田雄一は、出場した。
『エースキラーキラーキラー』が喋っているあたりでそっと輪から離れていたのだ。ゆえにとばっちりを受けずにすんだ。
自分以外の人間に注目が集まっているときに、そっとマークを外す。
さすがはエースである。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
蝶々結びの片紐
桜樹璃音
ライト文芸
抱きしめたい。触りたい。口づけたい。
俺だって、俺だって、俺だって……。
なぁ、どうしたらお前のことを、
忘れられる――?
新選組、藤堂平助の片恋の行方は。
▷ただ儚く君を想うシリーズ Short Story
Since 2022.03.24~2022.07.22
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる