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エースキラーとか

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今期、千弦せんげん高校サッカー部は大躍進を果たした。
高校総体予選で準決勝まで進出したのだ。
その原動力となったのは背番号10を背負ったエースストライカー、岡田雄一だ。
この大会で岡田は、2年生ながら次々とゴールを奪い、チームを勝利に導いてきた。目下県内で最も注目を集める選手であった。
冬の選手権こそ予選を突破し、初の全国の舞台へ…。
その目標を叶えるため、今日は隣県の有名校と練習試合を組んだ千弦高校であった。

今日の相手は夢見が丘高校。名前はかわいいが、全国大会にも出場経験がある強豪だ。

岡田がウォーミングアップをしていると、夢見が丘の選手が一人、近づいてきた。
「やあ、君が岡田君か。噂はうちの県にも伝わってるよ。躍進著しい千弦の不動のエースだ、とね。ああ、僕は嵯峨春人。…そうだね、きっと今日は僕が君のマークだ」

嵯峨の名は知っていた。
中学時代から近隣では名前を聞く選手だ。
スタミナがあり足が速く、球際で体を張る。精神的にも強いと聞く。
各校のエースと呼ばれる連中を悉く(は言い過ぎかもしれないが)つぶしてきた守備的な選手だ。

「ご存知とは光栄だね。そう、それが僕の役割だ。だからかな」
ふふ、と軽く笑った。
「エースキラー、などと言う人もいるね、僕のことを」

「おいおい『エースキラー』かよ。じゃあ今日は俺をマークしろよ」
「飯塚さん!」

そこに割って入ったのは千弦の3年生だ。
身長は高くないが、体の厚みがある。少々のことでは当たり負けはしないであろうことは、見ただけで理解できる。
飯塚は高校総体予選では、膝の怪我で欠場していた。
ようやく復帰が決まり、選手権予選に全てを賭ける意気込みであった。
治療中に鍛えられるところは全て鍛えなおした。そしてついに、膝も万全だ。

「岡田もたいしたもんだがな、純粋なスコアラーってことなら俺の方だぜ」

岡田のマークを少しでも緩めたいという気持ちもあった。だがやはり点取り屋としての誇りが言わせた言葉だった。
事実飯塚が怪我をする前は、岡田はアシストの方が多いタイプであった。そしてそのラストパスのターゲットこそが、この飯塚スコアラーなのである。岡田の得点力強化は元々は飯塚の穴を埋めるための手立てだった。

「俺に勝ってもいないのに『エースキラー』なんて称号は無意味だぜ。俺はそう呼ばれていた奴等を悉くぶち抜いてきたからな」
飯塚は“にやり”と嗤う。
「だから俺は『エースキラーキラー』と呼ばれているんだ」

「ふっふふ」
「誰だ!?」
「なるほど、『エースキラーキラー』ね」
「龍堂寺!」
「確かに今時エースのワンマンチームなんて流行らないからね。アタッカーに複数の才能タレントを揃えてないと“上”にはいけない」

夢見が丘陣営から、また一人。
「その『エースキラーキラー』とやらは守備のキーとなる選手を潰すのが役割なんだろ?だったらそこに、潰されない人材を配置すればいい」

「この俺のように、な」
この龍堂寺と呼ばれた男、当然高校生である。しかしその目つき、面構え。普通の高校生にはない鋭さであった。
獲物を狙う肉食獣。
そんな迫力があった。
「さしずめ俺は『エースキラーキラーキラー』ってところかな」

「おいおいおい、面白い話してるじゃないか」
出てきたのは千弦の大垣藤御道おおがきふじみどうだ。
彼は短い時間で、自分がいかに素晴らしい選手かをアピールすると、こう言い放った。

「人呼んで『エースキラーキラーキラーキラー』」

…………… 



試合は1対1で終了した。
両チームともチャンスを作り、また組織的な守備でそれを凌ぐ。
共に全国大会を狙う強豪同士、手に汗握る好試合であった。
ちなみに『エースキラー』とか『エースキラーキラー』とか『エースキラーキラーキ(略)は試合に出ていない。
試合直前、相手チームの選手の前で、監督の戦術無視で勝手に動くかの言動をとり、しかもその発言が実に馬鹿っぽい。
さすがに監督も怒る。そして出場させるのを取りやめたのだった。
英断である。
ちなみに『エース』岡田雄一は、出場した。
『エースキラーキラーキラー』が喋っているあたりでそっと輪から離れていたのだ。ゆえにとばっちりを受けずにすんだ。
自分以外の人間に注目が集まっているときに、そっとマークを外す。
さすがはエースである。
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