上 下
70 / 87
幕間 ~Sayuri Side~

(三) わたしのせい

しおりを挟む
 それから、立ち上がって部屋中を探したけれど、ピースは全部で六つ、中央部分の一か所だけが綺麗に無くなっていた。

 そこだけ底が白く剥き出しになっていて、惜しくも完成とはいえなかった。

 未完成のパズルを見下ろしながらしばらく黙りこんでいると、外から階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
 その音は次第に大きくなり、やがてドアが恐る恐るノックされる。

 梢が早歩きで駆け寄ると、部屋の外から現れたのは紅葉さんだった。

 紅葉さんはひどく慌てた様子で近づくと、肩を上げ下げしながら尋ねてきた。

「桜良は、大丈夫なの!?」

 まずはゆっくり落ち着かせ、未だに鎌倉で入院していることを伝える。
 真剣な顔で最後まで聞くと、紅葉さんは少し安心した表情で言った。

「そっか。とりあえず、目を覚ましてよかった。今さっき、親から聞いたんだ。桜良のことと、みんなが帰って来たことを。だから、もしかしたらと思って、急いで走って来た。
 実は、みんなが到着したら、伝えようと思っていたことが一つあるんだ。関東に行く前の夜、桜良からラインが来たんだけど、その文の意味がよくわかんなくってさ。それで、心配になって電話したけど全然出ないし、だから、ひとまずそのままにしておいたんだ。
 でも、それからあっちで何かあったって聞いて、いてもたってもいられなくて。ほら、これ」

 そして彼女はコートのポケットからスマホを出すと、さっとその画面を見せてくれた。
 そこには桜良と紅葉さんのやり取りが残されていて、その一部分が指で示された。

『ねえ、想像してみてよ。例えばさ、難しいパズルを頑張って組み立てて、最後になってピースが足りないことに気づくとするじゃん。今まで苦労した分、すっごく悔しくなるよね。
 でも、結局みんなそう。最後までいって、無事に完成、なんてきっとできっこないんだ。
 そして、こうなったのも全部、わたしのせいなんだよ』

 彼女の記した一つ一つの言葉が、鋭い矢となって私の心に突き刺さった。

 桜良は、コンテストの直前、今まで組み立ててきたジグソーパズルを自分で崩して、そして苦しみながら紅葉さんにラインを送った。

 一体、彼女をここまで苦しめたものは何なのか。
 どうして、『わたしのせい』なんて言葉をメッセージの最後に記したのか。

 拳をぎゅっと握りしめて静かに決意すると、私はみんなに向けて叫んだ。

「……私、桜良のこと、もっと知りたい。どうしてあの子はここまで悩んで、そして病院で私たちを拒んだのか。きっと、桜良だけしか知らない何かがあるんだよ。
 だから、それを知りたい。知って、理解して、そして助けてあげたい。だって今までずっと助けてもらってばっかりだったから。
 だから、今度は私の番。きっと、助け出してみせる!」

 精一杯声に出した言葉を、みんなは黙って聞いていた。
 そして、こうしちゃいられないと逸るあまり、勢いよくその場から立ち去ろうとすると、突然野薔薇が強く肩を掴んできた。

「おい、待てよ。今からどこに行くつもりなんだ」

 その問い掛けに少しだけ冷静になると、途端に行く宛てを何にも考えていなかったことを悟る。
 そんな私に、ヤレヤレといった声で彼女は呟いた。

「……ったく。いつも落ち着いてるはずなのに、一体どうしたんだよ。ほら、一緒に考えるぞ」

「え?」

 キョトンとする私に、美樹がニヤッと笑みを向ける。

「あったり前じゃん。うちたちも、桜良にはかなり助けてもらってきたんだもん。だから、早百合一人だけにはやらせないよー」

 梢や椿もうんうんと頷く。
 その横から、紅葉さんが語り掛けてきた。

「早百合さん。桜良のことを思っているのは、君だけじゃない。あの子はみんなを巻き込みながら前に進んだ。
 だからこうして何かあった時にはみんな立ち上がるんだよ。もちろん私もね」

 その言葉に少しだけほろりとしながら、改めて桜良の凄さが身に沁みてくる。
 改めてみんなの顔を見渡して頷くと、椿が恐る恐る私の名を呼んだ。

「……あの、早百合先輩」

「どうしたの?」

 椿は少しだけ悩んだ様子だったけれど、やがて決意したように言った。

「桜良先輩についてなんですけど、一度うちの父に相談してみるのはいかがでしょう?
 あれでも一応神職ですし、実は色々オカルト系方面にも顔が広いので、きっと悩み事とか相談できる人を知っているんじゃないかな、と思ったんですけど……」

 私は椿に感謝を告げると、一旦話し合って、明日の朝病院におじさまのところに行くことに決めた。
 最後にジグソーパズルの小さな穴をもう一度目に焼き付けてから、静かに部室を出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】 ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。 少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。 ※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。

【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!

夕姫
ライト文芸
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の1期生として活動する、清楚担当Vtuber『姫宮ましろ』。そんな彼女にはある秘密がある。それは中の人が男ということ……。 そんな『姫宮ましろ』の中の人こと、主人公の神崎颯太は『Fmすたーらいぶ』のマネージャーである姉の神崎桃を助けるためにVtuberとして活動していた。 同じ事務所のライバーとはほとんど絡まない、連絡も必要最低限。そんな生活を2年続けていたある日。事務所の不手際で半年前にデビューした3期生のVtuber『双葉かのん』こと鈴町彩芽に正体が知られて…… この物語は正体を隠しながら『姫宮ましろ』として活動する主人公とガチで陰キャでコミュ障な後輩ちゃんのVtuberお仕事ラブコメディ ※2人の恋愛模様は中学生並みにゆっくりです。温かく見守ってください ※配信パートは在籍ライバーが織り成す感動あり、涙あり、笑いありw箱推しリスナーの気分で読んでください AIイラストで作ったFA(ファンアート) ⬇️ https://www.alphapolis.co.jp/novel/187178688/738771100 も不定期更新中。こちらも応援よろしくです

『Happiness 幸福というもの』 

設樂理沙
ライト文芸
息子の恋人との顔会わせをする段になった時「あんな~~~な女なんて 絶対家になんて上げないわよ!どこか他所の場所で充分でしょ!!」と言い放つ鬼畜母。 そんな親を持ってしまった息子に幸せは訪れるでしょうか? 最後のほうでほんのちょこっとですが、わたしの好きな仔猫や小さな子が出て来ます。 2つの小さな幸せを描いています。❀.(*´◡`*)❀. 追記: 一生懸命生きてる二人の女性が寂しさや悲しみを 抱えながらも、運命の男性との出会いで幸せに なってゆく・・物語です。  人の振れ合いや暖かさみたいなものを 感じていただければ幸いです。 注意 年の差婚、再婚されてる方、不快に思われる台詞が    ありますのでご注意ください。(ごめんなさい)    ちな、私も、こんな非道な発言をするような姑は    嫌いどす。 ・(旧) Puzzleの加筆修正版になります。(2016年4月上旬~掲載) 『Happiness 幸福というもの』  ❦ イラストはAI生成有償画像 OBAKERON様 ◇再掲載は2021.10.14~2021.12.22

ホシは誰だか知っている、が

崎田毅駿
ライト文芸
 京極はかつて大学で研究職を勤めていた。専門はいわゆる超能力。幸運な偶然により、北川という心を読める能力を持つ少年と知り合った京極は、研究と解明の躍進を期した。だがその矢先、北川少年ととても仲のいい少女が、鉄道を狙った有毒ガス散布テロに巻き込まれ、意識不明の長い眠りに就いてしまう。これにより研究はストップし、京極も職を辞する道を選んだ。  いくらかの年月を経て、またも偶然に再会した京極と北川。保険の調査員として職を得ていた京極は、ある案件で北川の力――超能力――を借りようと思い立つ。それは殺人の容疑を掛けられた友人を窮地から救うため、他の容疑者達の心を読むことで真犯人が誰なのかだけでも特定しようという狙いからだった。

猫と幼なじみ

鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。 ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。 ※小説家になろうでも公開中※

三角形のディスコード

阪淳志
青春
思いがけない切っ掛けで高校の吹奏楽部でコントラバスを弾くことになった長身の少女、江崎千鶴(えざき・ちづる)。 その千鶴の中学時代からの親友で吹奏楽部でフルートを吹く少女、小阪未乃梨(こさか・みのり)。 そして千鶴に興味を持つ、学外のユースオーケストラでヴァイオリンを弾く艷やかな長い黒髪の大人びた少女、仙道凛々子(せんどう・りりこ)。 ディスコードとは時に音楽を鮮やかに描き、時に聴く者の耳を惹き付けるクライマックスを呼ぶ、欠くべからざる「不協和音」のこと。 これは、吹奏楽部を切っ掛けに音楽に触れていく少女たちの、鮮烈な「ディスコード」に彩られた女の子同士の恋と音楽を描く物語です。 ※この作品は「小説家になろう」様及び「ノベルアッププラス」様でも掲載しております。 https://ncode.syosetu.com/n7883io/ https://novelup.plus/story/513936664

百々五十六の小問集合

百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ ランキング頑張りたい!!! 作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。 毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。

怪談あつめ ― 怪奇譚 四十四物語 ―

ろうでい
ホラー
怖い話ってね、沢山あつめると、怖いことが起きるんだって。 それも、ただの怖い話じゃない。 アナタの近く、アナタの身の回り、そして……アナタ自身に起きたこと。 そういう怖い話を、四十四あつめると……とても怖いことが、起きるんだって。 ……そう。アナタは、それを望んでいるのね。 それならば、たくさんあつめてみて。 四十四の怪談。 それをあつめた時、きっとアナタの望みは、叶うから。

処理中です...