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第三章 ささえ

(8) 灯台下暗し

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 気づけば、三人は元の場所に帰ってきていた。
 さっきから何度か声を掛けようとしていたものの、わたしが涙を流しながらへらへら笑っていたから、気味悪がってできなかったみたいだ。

 その時、突然耳の奥で別の女性がシオリさんに声を掛けたのを感じた。
 同じユニットのメンバーらしきその人は、少しだけ出掛けるようだ。

 そしてドアの開く音が聞こえた時、目の前のバーから一人の背の高い女性が出てきた。

 なんだ、そこにいたんだ。
 これを灯台下暗し、っていうのかな。

 わたしは思わず笑みを浮かべて立ち上がると、キョトンとする三人を連れてバーの方へと向かった。

 店に入る直前、シオリさんが再び話し始めたようだ。
 彼女の言葉を耳に刻みながら、わたしは木製のドアを思いっきり開ける。

「……それに、あたしは君が変われるって確信してるんだ。
 だって君にもさ、今のあたしと同じで、君のことを見つけ出して、そして支え合っていけるような、大事な仲間がちゃんといるじゃん!」


 バーの中は、お洒落で落ち着いていた。
 カウンターやテーブルはすべて木製で、奥には簡単なステージが用意されている。

 入るなり、ぶっきらぼうな店員さんが訝しげに睨みつけてきた。
 でも奥から、あたしたちの連れだよー、という声を聞いて、渋々店内に通してくれた。

 テーブル席には、大人の女性たちが数人固まって、仲良く喋っていた。
 そして、カウンターの方には黒くてセンスのいい帽子をかぶった女性と、そして梢ちゃんがいた。

 わたしは走って駆け寄るなり、梢ちゃんの身体を思い切り抱きしめる。
 そして、突然のことにあわあわしている彼女に向けて、精一杯謝った。

「ごめん、梢ちゃん! 一人にして。寂しい思いをさせて。本当にわたしたち、先輩失格だよ。こんな可愛い後輩を置いてきぼりにして、先に行っちゃうなんてさ。かなり反省してる。
 だから、こんなわたしたちで良ければ、これからも引き続き応援して、そしてファンでいてくれないかな。厚かましいお願いだってことはわかってるけど、もう二度と一人ぼっちにはさせないから。
 きっと頼れる、かっこいい先輩でいるから!」

 梢ちゃんも、やがて次第に声を震わせながら喋り始める。

「……わたし、わたし、嬉しいです。こうして見捨てないで、ちゃんと捜し出してくれて。今まで、ずっと怖かった。人と接するのが。自分の夢を追うことが。
 でも、今日シオリさんと出会えて、そして先輩方とも遊べて、とても楽しかった。それだけで、わたし、凄く幸せです!
 だから、改めて伝えます。勝手にはぐれてしまって、本当にすみませんでした。そして、こんなわたしですが、これからも、どうかみなさんのファンでいさせてください!」

 最初は小さかった声も、終わりの方では店中に響くような大きな声になっていた。

 わたしは、梢ちゃんから少しだけ離れると、手を前に大きく差し出す。
 そして後ろを振り向くと、早百合たちもそっと腕を伸ばしてきた。

 四本の手が、そして一番上に小さな手が、綺麗に重なった。


 どこからともなく、拍手の音が聞こえてくる。
 気づけば、『ハミングバード』のみなさんが、口笛を鳴らしながら祝福してくれていた。

 シオリさんが、梢ちゃんに近づいてそっと囁く。

「よかったね。みんなにまた会えて。これからもお互い支え合って、頑張りなよ」

 梢ちゃんは、今まで見た中で一番大きく頷いた。

 その逞しい表情にシオリさんは満足気な顔をすると、ふと何かに気づいたように出入口の方を見た。
 その後、何事もなかったかのように戻ったものの、実はわたしにはしっかり見えていた。

 店の出入口のそばで、ナナ様がにこやかに微笑んで、こちらに手を振っていたことが。
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