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出会いと別れ
第3話 不思議な家
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やっとのことでたどり着いた玄関は扉だけがやけに新しいペンキで塗られていた。水仙の匂いはもう毒のように強くていつもの注意力が散漫して立っているのも疲れた。早くこの場から逃げたくて木のドアに手を掛け、力の限り思いっきり開けた。その勢いで体が前に倒れて頭から強く床にぶつかった。
本当は閉めたくなかったけど私はもうこの匂いに耐えられなくて、床にぶつけてヒリヒリする額を右手でさすりながら、もういっぽうの手で扉を静かに閉めた。人の気配は特にしなかった。だがもう私は人がいることはほぼ確信していた。
背にしょった大きめのリュックの中に入っているもので武器になりそうなものは、病院からこっそり持ち出した果物ナイフと少し丈夫なロープだけだった。とりあえず果物ナイフを取り出し、ロープを腕に巻き付けた。家の中は少し裕福な人が住んでいたのか絵画や私には価値がいまいち分からない置物が見えるところに飾ってある。もちろんもう日が落ちたのでとても家の中は暗い。足元に気をつけ、転ばないようそうっと、見つけた扉の方へ進んでゆく。
全体的に木目が多く、木が豊富に取り入れられている天井や床は温かみがあったが、この空気には温かさのかけらもない。もちろん人が潜んでいるという可能性よりきているのかもしれないが、肉体的にももう日が暮れていて肌寒くなってきていた。
目の前にある扉は、玄関から進んで木の廊下の1番奥にかまえていた。廊下と同じ、木目の見えた木の扉。そこへ行くまでも油断出来ないのでその距離は長く感じた。靴は脱がず、そのまま右足から廊下に足をのせた。のせた瞬間気をつけてはいたものの、みしっという家鳴りが廊下中に響き渡った。どくんっと自分の胸の音が波打った。しばらく息を潜めていたが特に変化がなかったので、細心の注意を払って扉の前までたどり着いた。
扉に触れると湿気を多く含んでいて、じめっとしていた。その取っ手を強く握って 下にへこまして、そのまま前に押し出した。
扉の隙間からは廊下と同じような、木を基調としたシンプルな部屋が見えた。広さは20畳くらいで4、5人の家族が住むなら問題ない程度だった。しかしながら、もう疎開してしまっているこの家に家具などはほとんどなく備え付けの棚やキッチンくらいしかなかった。木で温かみを感じるはずが、なんだか寂れた感じになっていた。 そして特に変化はなく───
カンッという甲高い音が突如、この部屋になり響いた。反射的に手元を見ると弾丸がドアノブにめり込んでいた。
銃を打たれていた。この部屋の中に潜んでいる誰かが私を完全に狙って銃を打ったのだ。瞬間、背中から鳥肌が沸き立つように全身に恐怖が広がっていった。足が震えて動こうとしない。こんなことは考えられるのに身を守る行動がまったく思いつかない。本当に嘘ではなく頭が思考を停止して真っ白になった。
「え、」
声がこぼれた。こんな状況で声を出すなんて馬鹿か。敵に自分の位置を教えているようなものだ。
しかし、すぐ来ると思われた追撃は来なかった。いくつ待っても。私が立ち疲れ、腰から床に転ぶまでは音沙汰もなかった。
カチャカチャと五月蝿いブーツの音がこちらに近づいて来る。歩みは遅く、余計にこちらの心を揺さぶる。もう怖くは無かった。ただ、殺されるのを待とう。そう思ってその人の顔を見ようとして顔を上げた。
目が、合った。目をそらせないくらい綺麗なブルーの瞳は見開かれていた。少し濁った白髪は後ろにひとつに縛られている。残った長い前髪は両サイドに分けられていた。同じく白色の無精髭。鼻筋は通っているが唇は薄い。細めの眉。骨格はしっかりとしていた。とても背が高い。歳は30後半から40手前くらいか。
「あ───」
目が合ったと思った瞬間、首筋に鋭い衝撃が走り、そこで意識はプツリと途切れた。
本当は閉めたくなかったけど私はもうこの匂いに耐えられなくて、床にぶつけてヒリヒリする額を右手でさすりながら、もういっぽうの手で扉を静かに閉めた。人の気配は特にしなかった。だがもう私は人がいることはほぼ確信していた。
背にしょった大きめのリュックの中に入っているもので武器になりそうなものは、病院からこっそり持ち出した果物ナイフと少し丈夫なロープだけだった。とりあえず果物ナイフを取り出し、ロープを腕に巻き付けた。家の中は少し裕福な人が住んでいたのか絵画や私には価値がいまいち分からない置物が見えるところに飾ってある。もちろんもう日が落ちたのでとても家の中は暗い。足元に気をつけ、転ばないようそうっと、見つけた扉の方へ進んでゆく。
全体的に木目が多く、木が豊富に取り入れられている天井や床は温かみがあったが、この空気には温かさのかけらもない。もちろん人が潜んでいるという可能性よりきているのかもしれないが、肉体的にももう日が暮れていて肌寒くなってきていた。
目の前にある扉は、玄関から進んで木の廊下の1番奥にかまえていた。廊下と同じ、木目の見えた木の扉。そこへ行くまでも油断出来ないのでその距離は長く感じた。靴は脱がず、そのまま右足から廊下に足をのせた。のせた瞬間気をつけてはいたものの、みしっという家鳴りが廊下中に響き渡った。どくんっと自分の胸の音が波打った。しばらく息を潜めていたが特に変化がなかったので、細心の注意を払って扉の前までたどり着いた。
扉に触れると湿気を多く含んでいて、じめっとしていた。その取っ手を強く握って 下にへこまして、そのまま前に押し出した。
扉の隙間からは廊下と同じような、木を基調としたシンプルな部屋が見えた。広さは20畳くらいで4、5人の家族が住むなら問題ない程度だった。しかしながら、もう疎開してしまっているこの家に家具などはほとんどなく備え付けの棚やキッチンくらいしかなかった。木で温かみを感じるはずが、なんだか寂れた感じになっていた。 そして特に変化はなく───
カンッという甲高い音が突如、この部屋になり響いた。反射的に手元を見ると弾丸がドアノブにめり込んでいた。
銃を打たれていた。この部屋の中に潜んでいる誰かが私を完全に狙って銃を打ったのだ。瞬間、背中から鳥肌が沸き立つように全身に恐怖が広がっていった。足が震えて動こうとしない。こんなことは考えられるのに身を守る行動がまったく思いつかない。本当に嘘ではなく頭が思考を停止して真っ白になった。
「え、」
声がこぼれた。こんな状況で声を出すなんて馬鹿か。敵に自分の位置を教えているようなものだ。
しかし、すぐ来ると思われた追撃は来なかった。いくつ待っても。私が立ち疲れ、腰から床に転ぶまでは音沙汰もなかった。
カチャカチャと五月蝿いブーツの音がこちらに近づいて来る。歩みは遅く、余計にこちらの心を揺さぶる。もう怖くは無かった。ただ、殺されるのを待とう。そう思ってその人の顔を見ようとして顔を上げた。
目が、合った。目をそらせないくらい綺麗なブルーの瞳は見開かれていた。少し濁った白髪は後ろにひとつに縛られている。残った長い前髪は両サイドに分けられていた。同じく白色の無精髭。鼻筋は通っているが唇は薄い。細めの眉。骨格はしっかりとしていた。とても背が高い。歳は30後半から40手前くらいか。
「あ───」
目が合ったと思った瞬間、首筋に鋭い衝撃が走り、そこで意識はプツリと途切れた。
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