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第一章 極度の男性恐怖症な少女は悪役令嬢に転生する
第二十話 少女は再び眠りにつく
しおりを挟む「よろしいんですか?禁じられた魔法を2度も使用して」
「キリム……」
さすがと言うべきか。もうここに来るなんてね。よくできた執事だよ。
「……陛下に事情は話している。今回のこともきっとお許しになられるだろう」
「しかし……精神に干渉する闇魔法は幼いお嬢様の精神の成長に負担がかかってしまわれるのでは?」
「私は一部分の記憶を眠らせることによって一時的に忘れさせているだけだよ。今回はその空白の記憶はこちらの都合のいいように埋めたけど、そこまで支障はないはずさ」
そう言って私はあらかじめ摘んでおいた彼女の目的のものをその手に握らせた。
「……」
「しかし、さすが私の娘と言うべきか……既に自力で私の魔法から目覚めつつあるとはね……びっくりしたよ。またこの場所に来てしまうなんてね」
そう言って、目の前のかつてお転婆だった“彼女”が残したものを見つめる。
この先は忌々しい“あの事件”のきっかけにもなった地。
「外に恐怖を覚えていた時点でここには来ないと思っていたが…………やはりユリアは“彼女”に似ているよ」
母親に似てないことをこの子は気にしていたが、そんなことはない。
こうして恐怖に立ち向かう姿は彼女とそっくりだよ、ユリア。
彼女は勇敢で優しく、美しかった。
彼女に似ていることに嬉しさを感じると同時に危うく思う。
過去を乗り越えることは大事で必要なことなのだろう。
それでも私は愛おしいこの子にもう傷ついて欲しくないと思ってしまう。
このまま何も知らないままでいて欲しいと、忘れたままでいてほしいと、思ってしまう。
これは私の我儘だ。
決して許されてはいけない願いなのだ。
「もうしばらくはこのまま何も知らない方がこの子にいいだろう」
「……知らないことが幸せだとは限りませんよ。後のほうが辛いことだってあります……」
「そうかもしれないな。ただ私にはこうすることが最善としか思えなかった」
あの時のこの世の終わりと言わんばかりの顔をしたユリアを私は未だに忘れられない。
守れなかった私にできることはこれくらいしかないんだ。
「苦しい過去から遠ざけるのがあなたの優しさだと?いずれ乗り越えなければならないことも事実だというのに。それをご本人の意思関係なく一方的に先送りにするというのは勝手なのでは?」
「反論も何もないよ」
キリムは相変わらずだな、と私は笑い、すやすやと寝息をたてる天使のような愛娘の頬をそっと拭った。
「……すべてを思い出したお嬢様はもちろんのこと、奥様や妹様もあなたを許さないでしょうね。3発殴られるのは覚悟なさったほうがいいかと。あなたがしている事は代償が大きすぎる」
相変わらずキリムは私に厳しい。
でもだからこそ彼は信頼できる。
「はははっ……確かにな。私はまたこの子を泣かせてしまったから」
目を閉じれば思い出す。
禁術をかけたときのユリアの表情は信じられないという言わんばかりに驚きに満ち、そして……悲しげだった。
口は確かに「どうして」と開き、目には涙が零れていた。
無理もない。
ユリアは自ら自分のために動いたというのに、私がそれを阻んだのだから。
私は君の意志をねじ曲げてしまった。
「やはり私は親に向いていないな」
「そうですね」
「うっ………お前もやっぱり冷たいな。すこしは慰めてくれてもいいんじゃないか?」
「自業自得です」
「ぐぅ……」
キリムが冷たい(泣)
「ですが、それでもあなたはユリアス様のお父上であり、このエリストラーヴァ公爵家のご当主様です」
「……そうだな」
「あなたが間違えを犯したと言うなら、それは秘書である私にも止められなかった責任がございます」
「どこまでもお供いたしますよ……ルト様」
「キリム…………」
完璧な私の執事であり我が友はそれに相応しい礼をして笑ってみせた。
「……意外とお前素直じゃないな」
「台無しですね。いつものことですが。でも、それくらい言えるということはもう大丈夫のようですね」
「誰かさんのおかげでな。さぁーて仕事に戻るとしますか。あーやだやだ」
「ほら、駄々を捏ねてないでいきますよ」
「はーい」
なぁ、ユリア。
私は少しも君に父らしいことができていないね。
家族を守る、そんな普通のことですら上手くできない。
むしろ、君を傷つけ苦労させてばかりだ。
この先も私がしたことは結果的に君を苦しめてしまうだろう。
それでも、私なりに君を守りたいと思い、行動する私をどうか許して欲しい。
君にどんなに嫌われようと私はユリアが大切で、愛しているから。
だからどうか、また忘れてしまったとしても、私を君の父でいさせて欲しい。
私は私が思う最善できっと君を守るから。
君が全てを思い出したそのときは、私を許さなくてもいいから。
こんな私でも君の父親でいさせて欲しい。
そしていつか
君が許してくれたそのときは、今度こそ家族4人でピクニックに行こう。
君と彼女が愛した、エイリアの花が咲き乱れるあの丘で…………。
第一章 終。
☆☆☆
どうもお久しぶりです。SAKURAです。
今後の方針?について近況ボードに載せておりますゆえ(こっちに書こうとしたら長すぎました)、散々待たせてどういうつもりやぼけぇっと言う方、今後も読者でいてくださるという心優しい方々は目を通していただけると幸いです。
それではまた2章でお会いしましょう。
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