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プロローグ

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 私の名前はエルフィ・アルセイデス。
 突然ですが……我が家の上に、ドラゴンが巣を作った。


 ……のだけど。

 その顛末を語る前に、今は現状について述べておきたい。
 ポカンとする私の前には、見知らぬ異形の美丈夫が立っている。
 ちなみに……諸事情で今私は女性を一人押し倒しているけど気にしないでほしい。
 まるで私が襲ったみたいな格好だけど──違うので、お願いだから誤解しないで……。
 別に女性が嫌いというわけではないけど、私はついさっきこの方に思い切り張り手を食らったばかり。ま、それは置いておくとして。

「え──え? あ、なた……」

 私がポカンと見上げたその人は、髪は世にも珍しいライトグリーン。ふわふわした猫っ毛で──そこに、二本のツノが生えていた。
 のどかな春の草原……みたいな髪の中に、そそり立つ恐ろしく攻撃的なヴィジュアルのツノ。
 咄嗟に魔族かと思って身構えたけれど、そのツノの根本に挿されたピンク色の小花オキザリスは、私が愛する同居人(?)にあげたはずの花。
 髪の色が、愛しの“あの子”の鱗の色と重なって……私は一瞬戸惑った。
 この奇妙な一致はなんだろう。そう困惑していると──美丈夫の黄金の目が私を睨み下ろす。

「……お前、そんなに俺様が好きなのか?」
「──は?」

 言ってる内容はともかく、まるで領主様みたいな口調だなと思った。いや──こちらを見る表情は領主様よりも尊大で。どこかおもしろがっているような顔だった。
 けれども。
 このとき私はハッとした。そうだった、私はこんなことをしている場合じゃなかった。
 そのことを思い出すと、もう気がそぞろになって。正直、これ以降の彼の言葉はあまり耳に入ってこなかった。

(あ、あの子、どこに行ったんだろう……)

 そんな不安に駆られて視線が周囲に彷徨う。──その前で、異形の青年が自分に向かって手を伸ばしていたことにすら気がつかなかった。
 青年の指先には鋭利な爪。ふいに、その爪先がぽっと美しい黄金の光を灯す。
 青年は静かに言った。

「……おいぼんやりするな人間。返答次第では、お前を俺様の妻に迎えてやってもよいぞ」

 高慢な言葉とともに、彼の光を宿した爪先が頬にかすった、とき──

 私は悲鳴のような声を上げていた。

「──レタス‼︎」
「な、何⁉︎」
「レタスはどこ⁉︎」

 私のかわいいレタスー‼︎ ……と、力一杯吐き出すと、目の前の男が唖然としていたようだった。が、今の私はそれどころではなかった。

 あとから考えると大変申し訳なかったが……。
 拗ねた彼曰く、『あれは求婚だったんだぞ! 馬鹿者め!』だ……そうだった。


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