49 / 49
48 マリウスの…
しおりを挟む 小指を絡める約束方法など知るはずもなく、ローズは停止する。だが、冨岡が口にした『大人と子どもではなく』という言葉は彼女の心を確実に揺らしていた。
「子ども扱いしないってほんと?」
ローズに問いかけられた冨岡は優しく頷く。
「約束に大人も子どももありませんよ。俺とローズお嬢様の約束です」
「じゃあ、私に押し付けるようなことしない?」
その時ローズが言葉にしたのは素直な気持ちなのだと、冨岡は気づいた。年齢に相応しい話し方と甘えたような声色。それが演技であればすぐさま女優になれるだろう。全米が涙することも、権威ある女優賞を受賞することも間違いない。
その言葉から察するに、これまで様々な大人に『理想のお嬢様』を押し付けられてきたことは間違いない。
彼女には彼女なりの理由がありそうしているのだ、と薄々気づいている冨岡はローズの右手に小指を近づけた。
「押し付けるようなことはしないと約束しますよ。ほら、ローズお嬢様も小指を出してください」
「小指・・・・・・これは一体なんなの?」
「あ、そっか。これは俺の国で約束を交わす時にする、儀式のようなものです」
「儀式?」
「そうですよ、小指で固い約束を交わすんです。これは重い重い儀式ですから、約束を破ると針を千本飲まなければなりません」
冨岡がそう説明するとローズは左手で右手の小指を握って隠す。
「そんなことしたら死んじゃうじゃない!」
「ええ、命がけの約束です」
想像していたよりも彼女が大きく反応したことで、思わずにやけそうになるのを我慢する冨岡。決して馬鹿にしているわけではなく、ローズを子どもらしく可愛いと思ってしまったのだ。
そんなローズは少し怯えた表情で言葉を返す。
「野蛮過ぎないかしら、あなたの国」
「それほど約束を大切にする国なんです。そんな国から来たこんな俺との約束なら安心でしょう? 俺はお嬢様に何かを押し付けるようなことはしません。だから、俺にお嬢様と話す時間をください。約束です」
再び冨岡はローズとの指切りを試みる。
ここまで驚いてばかりのローズだったが、幼いなりに冨岡がまっすぐ自分と向き合ってくれていると気づき小指を絡めた。
「約束を破ったら本当に針を千本飲むのね?」
慎重に確認を怠らないローズ。考えるまでもなく、冨岡は頷いた。彼の根底には『ホース公爵の後ろ盾を得るため』という目的はあったが、今は『ローズの話を聞きたい』と心から思っている。『困っている人がいれば助けられる人間であってくれ』という源次郎の言葉が冨岡の行動に大きく影響していた。
「もちろんですよ」
「私は公爵家の娘よ? 針を用意することなんて簡単なんだから」
「約束は互いにですから、ローズお嬢様が飲むことになるかもしれませんよ?」
「子ども扱いしないってほんと?」
ローズに問いかけられた冨岡は優しく頷く。
「約束に大人も子どももありませんよ。俺とローズお嬢様の約束です」
「じゃあ、私に押し付けるようなことしない?」
その時ローズが言葉にしたのは素直な気持ちなのだと、冨岡は気づいた。年齢に相応しい話し方と甘えたような声色。それが演技であればすぐさま女優になれるだろう。全米が涙することも、権威ある女優賞を受賞することも間違いない。
その言葉から察するに、これまで様々な大人に『理想のお嬢様』を押し付けられてきたことは間違いない。
彼女には彼女なりの理由がありそうしているのだ、と薄々気づいている冨岡はローズの右手に小指を近づけた。
「押し付けるようなことはしないと約束しますよ。ほら、ローズお嬢様も小指を出してください」
「小指・・・・・・これは一体なんなの?」
「あ、そっか。これは俺の国で約束を交わす時にする、儀式のようなものです」
「儀式?」
「そうですよ、小指で固い約束を交わすんです。これは重い重い儀式ですから、約束を破ると針を千本飲まなければなりません」
冨岡がそう説明するとローズは左手で右手の小指を握って隠す。
「そんなことしたら死んじゃうじゃない!」
「ええ、命がけの約束です」
想像していたよりも彼女が大きく反応したことで、思わずにやけそうになるのを我慢する冨岡。決して馬鹿にしているわけではなく、ローズを子どもらしく可愛いと思ってしまったのだ。
そんなローズは少し怯えた表情で言葉を返す。
「野蛮過ぎないかしら、あなたの国」
「それほど約束を大切にする国なんです。そんな国から来たこんな俺との約束なら安心でしょう? 俺はお嬢様に何かを押し付けるようなことはしません。だから、俺にお嬢様と話す時間をください。約束です」
再び冨岡はローズとの指切りを試みる。
ここまで驚いてばかりのローズだったが、幼いなりに冨岡がまっすぐ自分と向き合ってくれていると気づき小指を絡めた。
「約束を破ったら本当に針を千本飲むのね?」
慎重に確認を怠らないローズ。考えるまでもなく、冨岡は頷いた。彼の根底には『ホース公爵の後ろ盾を得るため』という目的はあったが、今は『ローズの話を聞きたい』と心から思っている。『困っている人がいれば助けられる人間であってくれ』という源次郎の言葉が冨岡の行動に大きく影響していた。
「もちろんですよ」
「私は公爵家の娘よ? 針を用意することなんて簡単なんだから」
「約束は互いにですから、ローズお嬢様が飲むことになるかもしれませんよ?」
0
お気に入りに追加
291
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました
柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》
最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。
そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

王太子様、丁寧にお断りします!
abang
恋愛
「……美しいご令嬢、名前を聞いても?」
王太子であり、容姿にも恵まれた。
国中の女性にはモテたし、勿論男にも好かれている。
そんな王太子が出会った絶世の美女は少し変……?
「申し訳ありません、先程落としてしまって」
((んな訳あるかぁーーー!!!))
「あはは、面白い冗談だね。俺の事を知ってる?」
「はい、多分王太子殿下ではないかと……」
「……うん、あたりだね」
「じゃあ、落とし物を探して参りますので……さようなら」
「え"っ!?無礼とか、王太子殿下だ、とか考えない?」
「ワーオウタイシサマダ、ステキ……では失礼致します」
「……決めた、俺は彼女を妻にする」
「お断りします」
ちょっと天然なナルシ王太子×塩対応公爵令嬢
「私は平和で落ち着いた愛を育みたいので」
「俺は、キミと愛を育みたいよ」
「却下!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
Francois and Marius-san are scary...
First Voldemar-sama, now Stanley-sama! Also, I think I saw a fluffy beastmen in the title image of "Maid...pull out the Holy Sword". Is it right?
BEASTMEN!!!
First, I met Voldemar-sama, now I meet Stanley-sama after tracing your works!
AAA!! Fluffy is the best! Beastmen is the best! Wolf-head husband is the best! You are the best!
(Also, I think I saw a fluffy beastmen in the title image of "Maid...pull out the Holy Sword" too. Is it right?)
とても面白いです!
久しぶりに面白い作品を読ませていただきました!(●︎´▽︎`●︎)
更新はもうないのでしょうか……
更新楽しみにしてます!!
はるか様
お読みいただきありがとうございます。
ああー!すみません!長らく放っておいている作品をお読みいただきまして、とても嬉しいです。
もう少ししましたら、今なろうさんで更新中の連載が終わりそうなので、更新はそれからになると思います!
ご感想に感謝です!( ´ ▽ ` )