22 / 49
21 騎士団長様と筆談①
しおりを挟むベッドに放り込まれたコニーは夕刻遅くに目が覚めた。
しかし困ったことに、それが帰り際のフランソワたちに見つかって。少年たちには『短すぎる!』『もうちょっと寝なさい!』と叱られてしまう。追い立てられて、しおしおとベッドに戻ったコニーだったが……次に彼女が目を覚ましたのは真夜中。もう深夜と言われる時刻であった……
恐る恐る静かに作業場のほうへ戻ると、もうそこには誰もいなかった。
ただ、ランプは誰かが残していったようで、暗闇のなか暖かい灯りが作業場を照らしていた。
と、その灯りのそばに、布がかぶせられた何かが置かれている。
「?」
きれいに片付けられた作業台の一角。布をめくったコニーは、あっと思う。その下には、たくさんの食べ物が並べられていた。
パンやスープ、焼きソーセージや白身魚のフライ。煮物にチーズ、ナッツ入りのクッキーなどなど。
それを見たコニーは、それが厨房の人々が自分へ用意してくれた夕食だとは分かったものの、いつもより内容が豪華なことを不思議に思った。……が……布を持ち上げた拍子に、床に小さな紙がはらりと落ちる。拾うと素っ気なく、『世話になった』という一言が。
それを見て──コニーはなんとなくそれが誰からの、どういう意図で置かれたものかが分かった気がした。
コニーは微笑んで。作業台の椅子に座る。そうして「いただきます」とつぶやいて。ありがたくその料理を賜ることにしたのだった。
「あ、どうしよう……いたた……」
翌日。騎士団本部に来て四日目の昼過ぎ。
コニーは中庭の端で困っていた。
昼食後、昨日までよりちょっぴり厳しくなったフランソワに、少し休憩して来なさいと部屋を追い出されて。
ならば木陰で少し涼んでくるかと、騎士団の中庭へ降りて来たのだが……
今後の作業のことを考えながら中庭へ出て……考え事をしながら歩き、後ろをろくに確認もせずに腰を下ろそうとしたら──その途端、襟巻きの後ろが何かに引っかかってしまった。
しかも、引っ張っても引っ張ってもそれが全然取れないのだ。後ろがどうなっているのか確認しようとしても、引っかかった襟巻きにはあまり余裕がなく、動くと首が締まって苦しい。コニーは変な体勢のまま、わたわたと慌てた。
どうやら……コニーの襟巻きは、後ろにあった騎士の石像の持つ剣の柄の部分に引っかかってしまったようだった。それがまた微妙な高さで。柄の形が返しのようになっていて一筋縄では抜けない。
ならばと、コニーは両手を後ろに回し、必死で襟巻きの後ろの結び目を解こうとするが……
「ど、どこ、どこ? あれ?」
目視もできず、はっきり言って難しい。苦戦してずっと腕を上げ続けていると、疲れてしまってそれがまたうまくいかない要因になった。
「と、取れない……どうしたら……」
──と……コニーがあれこれもがいていると──不意に、首元が楽になった。
「? あ、れ……? っ!? ぅわわ!?」
「…………ワン(何をやっているんだ貴様は……)」
気がつくと、そばにスタンレーが立っていた。
どうやら……彼が襟巻きを石像から取ってくれたらしい。
唐突に解放されたコニーは、驚いたこともあって前のめりに地面に転んでしまった。
そんな娘を見て、呆れた様子のスタンレー。
彼はやれやれと転がったコニーのそばに片膝をつき、ひっくり返ったコニーを起こしてやる。と……
「? スタンレー……様……?」
何を思ったのか、スタンレーはそもまま自分もコニーの斜め前にしゃがみ込んだ。
コニーはキョトンと口をつぐんで彼を見上げる。すると彼女のそばに身を低くした獣人は、地面を見下ろして、そこに己の鋭い爪を突き立た。
「え?」
唐突に地面に何かを書きはじめた騎士団長の手元をコニーも覗き込む。と、それは文字だった。
『このような暑い日になぜそんな暑苦しいものを身につけている? 邪魔だろう』
「わ……」
その文を読んだコニーは、スタンレーが自分に筆談を求めているのだと分かって、思わず嬉しくなった。
地面に質問を書いただけで破顔した娘に、スタンレーは思い切り怪訝そうな顔だ。そんな彼に気がついて、コニーは慌てて、ついつい浮かんでいたニマニマ笑いを消し、彼に向かってペコリと一礼する。
「ええと……まず襟巻き取っていただいてありがとうございました」
「……ワン」
「あのですね、これはええと、確かに暑いんですけど……私頬に大きなアザがあって……」
コニーは恥ずかしそうに襟巻きを押さえながらそう言う。
「あまり人に見られたくなくって……」
「?」
するとスタンレーは分からないと言う顔をして。再びカリカリと地面に文字を書きだした。
0
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら…。
イチイ アキラ
恋愛
「ディアーナ! お前との婚約を破棄する!」
その日、アルテール公爵令嬢のディアーナは国外追放を命じられた。
王太子ヒューバードの愛しき人、ソレイユへの非道の罪により。
ソレイユは義母と義姉より虐げられる哀れな娘であった。
そんな娘をディアーナも、また。
嗚呼、なんて冷たい女だろう――と。
そしてディアーナは、国のお外にほっぽりだされた。

王太子様、丁寧にお断りします!
abang
恋愛
「……美しいご令嬢、名前を聞いても?」
王太子であり、容姿にも恵まれた。
国中の女性にはモテたし、勿論男にも好かれている。
そんな王太子が出会った絶世の美女は少し変……?
「申し訳ありません、先程落としてしまって」
((んな訳あるかぁーーー!!!))
「あはは、面白い冗談だね。俺の事を知ってる?」
「はい、多分王太子殿下ではないかと……」
「……うん、あたりだね」
「じゃあ、落とし物を探して参りますので……さようなら」
「え"っ!?無礼とか、王太子殿下だ、とか考えない?」
「ワーオウタイシサマダ、ステキ……では失礼致します」
「……決めた、俺は彼女を妻にする」
「お断りします」
ちょっと天然なナルシ王太子×塩対応公爵令嬢
「私は平和で落ち着いた愛を育みたいので」
「俺は、キミと愛を育みたいよ」
「却下!」

相手不在で進んでいく婚約解消物語
キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。
噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。
今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。
王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。
噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。
婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆
これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。
果たしてリリーは幸せになれるのか。
5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。
完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。
作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。
全て大らかな心で受け止めて下さい。
小説家になろうサンでも投稿します。
R15は念のため……。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる