にゃんにゃん言ってもダメですよ騎士団長さま! 〜偏愛魔法薬師とワガママな狼の騎士〜

あきのみどり

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18 従騎士たちのヒソヒソ話と、大人気ない思いやり③

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 スタンレーや従騎士たちに、二晩連続の徹夜がバレてしまったコニー。
 スタンレーにつまみ上げられて。そのまま作業場の隣に設けてある寝室に即時連行。
 団長直々にベッドに放り込まれてしまった……

 ──といっても。
 もちろんコニーはベッドの上に放り投げられたりは──しなかった。
 獣人の強靭な腕力に物を言わせ、コニーを軽々つまみ上げ走り出したスタンレーの勢いは、一瞬コニーも、このままベッドに向かって放り投げられてしまうのではないか──と、覚悟するほどのものだった、が……
 そんな彼女の懸念に反し、スタンレーはベッドの前にたどり着くと、腕の中で身を竦ませている娘を横抱きに抱き直した。そしてそのまま布団の上にそっとコニーをおろしたのだった。

「へ……?」

 コニーが声を漏らす。
 腰から着地させ、足もどこかにぶつけぬように気遣われ。直接優しい言葉をかけられたわけではないが……コニーには、なんとなく彼の様子から、スタンレーが自分をずいぶん慎重に扱ってくれていることを理解した。
 もしかしてとコニー。もしかして、徹夜と聞いて心配し、乱暴には扱えぬとでも思ってくれているのだろうか……
 コニーは思わずスタンレーの顔を見る。
 ツンとすました狼の顔。黄金色の凛々しい瞳──……けれどもフカフカの三角の耳はどこか緊張したように横を向いている。

「──……っ」

 ……とりあえず、その時コニーが猛烈に思ったのは──

(………………す──好き!)

 と……、それだけだった。
 垣間見えた優しい素振りは、つい数分前の荒々しい登場と大人気ない様子とは相反し紳士的なように思え、心臓が痛いくらいに高鳴って──いたのだが。

「ぅ、あ、あの……」

 コニーが下されたベッドの上で、真っ赤になってうろたえているうちに……獣人騎士団長スタンレーは、一瞬見えた紳士の顔をかき消して。勝ち誇った顔で鼻からフンッ! と、息を吐き──そのままのっしのしと部屋を出て行った。
 扉が閉じられる直前──戸の隙間からギロリとこちらを見て「ワン……!」と唸るように言っていたが……おそらくあれも「大人しく寝ろ!」という意だったのだろうな……とコニーは察する。

「…………」

 呆然と騎士団長が部屋を出ていく様子を見つめていたコニー。パタンと戸が完全に閉じられてから、やっと緊張が解けたようで……その口から大きく息が吐き出される。どうやら……呼吸をするのを忘れていたらしい。

(い、今──……)

 気のせいでなければ──コニーはスタンレーに抱きかかえられたのだ。

(……スタンレー様に……ベッドに運ばれてしまった……)

 もちろんそれで何かが起こったわけではないし、彼からすれば些細なことだろう。が──なんとなく照れくさくて、とてもとても恥ずかしい。
 コニーは火照った顔の熱を感じながらため息をついて。ひとまず落ち着こうと布団の中にもぐり込んだ。
 ふと、そんなコニーが漏らす。

「……でもそうか……徹夜って、ダメなのね……」

 忙しい時は何日か睡眠を抜いても、後でまとめて眠ればいいと思っていた。
 そんな当たり前のことが分からないなんて……と思うかもしれないが。孤児院育ちのコニーには、そういう概念が少し抜けているところがある。
 孤児院では、朝の鐘が鳴れば起床し、夜の鐘が鳴れば就寝する。大人の決めたスケジュールはきっちりしていて、守らなければなんらかの罰がある。子供たちは皆罰を受けないために時間を守るが、その理由が『夜更かしは身体に悪い』から……などとは考えない。理由よりも先に罰が怖い。それに──考えないというより、教えられていないのである。
 コニーが子供だった頃、国が戦をしたこともあって、孤児院には大勢の戦争孤児がいた。にも関わらず世話人はとても少なく、彼らは忙し過ぎて、子供たちにいちいちそんなことを説明している余裕はなさそうだった。
 特にコニーのように顔のアザにコンプレックスがあって、人を避けていたような子供は余計だ。
 多くは決められたスケジュールに沿って生活するだけというそんな暮らしぶりの中で、残念なことに、コニーには『寝る子は育つ』『徹夜はダメだ』なんて、普通の家庭ではありふれているだろう言葉をかけてもらえる機会には恵まれなかった。
 さらにその後、孤児院を出てからは、自分たちを管理する鐘と大人たちから解放されて、コニーは一人気ままにやってきた。
 幸い真面目な性格のおかげで堕落することはなかったが、寝たい時に寝るし、仕事があれば数日眠らないこともザラ。でも、それが彼女にとっての当たり前。
 それがダメだと誰かに指摘されたことなどなかった。──これまでは。

「……ふふ」

 スタンレーのこともそうだが、フランソワたちの様子を思い出したコニーは、少しだけこそばゆくなって布団の中で笑う。
 てっきりアザについて何か言われるのかとハラハラしてしまったが──彼らがまさかあんなふうに心配してくれるとは。
 スタンレーからの子供扱いは正直微妙だったが、でも──気遣われたのは新鮮で。
 なんだかとても嬉しかった。

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