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17 従騎士たちのヒソヒソ話と、大人気ない思いやり②
しおりを挟むドバーンッッッ──!
と、扉を破壊する勢いで跳ね開けて来た男は──なぜだか勝ち誇ったような顔でコニーを見ている。
「ス、スタンレー様……?」
突然の登場にコニーはび驚いて。手にしていた薬草を取り落とす。……が、周囲の従騎士たちは彼のガサツ行動には慣れているのか、振り返る素振りも見せなかった。気配で既に彼の登場を予測していたのかもしれない。
スタンレーは目をまるくしているコニーに、ニヤッと立派な牙を見せて笑う。その顔にさらに戸惑うコニー。
「え……あ、あの……?」
含みのある笑みの意味が読み取れず(嫌な予感はする)うろたえる彼女に、スタンレーは何かをワンワン言っている。しかし彼女にはその吠え声の内容が分からない。──と、見かねた狼族の従騎士がコニーに言った。
「……コニーさん、スタンレー様が『ダメに決まっているだろう!』……だって」
「へ……?」
「ワンワンワン!」
「『まったく徹夜だと? お子様め! 体調管理は大人の責務、片腹痛い。人に草を食わせている場合か!』……て言ってるよ」
「あ、コニーさんスタンレー様、昨日の食堂でのこと根に持ってるね」
「本当だぁ……」
相変わらず大人気ないなぁと子供たちの視線は生暖かい。しかしスタンレーは知らん顔である。コニーはそんなスタンレーを唖然と見ていた。
食堂のこと、とは──もしかして、昨日薬草スープを食べてもらう時に、『従騎士(子ども)たちの前で大人気ないことをしてはいけない』と言った件だろうか……
団長は、なおも勝ち誇った調子で吠えている。
「ワンワンワン!」
「『お子様め、わははは! 寝る子は育つと言うだろう! さっさと寝ろ! お子様め!』だって」
「え……えぇ……?」
なんかいやに“お子様”を強調してるよーという従騎士の言葉に、コニーが目を瞠る。
「お、お子様、ですか……?」
コニーは少しショックを受けたようだ。
スタンレーに言われるとなんだか余計だ。が、その言葉には従騎士たちも頷いている。
「でもそれはそうかも。コニーさんの顔色、どうも二日くらいは寝てない感じがするし。……スタンレー様はものすごく根に持ってるけど」
「そうだね、僕もコニーさん寝たほうがいいと思う、スタンレー様は大人気ないけど」
「そうだよ、睡眠大事だよ? ね?」
そう言ったフランソワは、ふかふかの手でそっとコニーの手を取る。その手は柔らかくて、暖かくて。彼らの気遣いそのもののような温もりを持っていた。
だが、コニーは困ったような顔で。
彼女にも、彼らが自分を思いやってくれていることは分かるのだが、コニーとしては、早めに下処理を終わらせて次の作業に移りたかった。そうすれば少しでも早くスタンレーを獣鳴病から解放することができる。
でも、やはりフランソワたちの優しい配慮も無碍にできず。分かったわとコニー。
「ええっと、じゃああともう少しだ──」
け……と、娘が言おうとしたその瞬間。
そんな娘の目の前に、スタンレーがグイッと顔を迫らせてきた。
「……っ」
コニーが息を呑む。
目の前にスタンレーの黄金の瞳があった。その距離の近さにコニーの青い目が目一杯見開かれる。
「ス──スタンレーさ……」
「ワン!」
「う……」
身に響くような鳴き声。コニーは思わず身を竦めるが……その意味はなんとなく分かった。
おそらく……『関係ある!』とかなんとか……
「あ、で、でも私眠らないのには慣れていますから、多分五日くらいは大丈夫──」
と、言いかけた瞬間、コニーはスタンレーにつまみ上げられていた。
「ひ、ひえっ!?」
「ワン! (つべこべ言っていないでさっさと寝ろ!)」
「!? !?」
──問答無用。そうしてスタンレーは、コニーをそのまま寝室へと連行して行ったのだった。
──その後ろ姿をやれやれと見つめている従騎士たち──の中で、フランソワがハラハラしている。
「……寝室に二人きりにして……大丈夫かなコニーさん……」
作業場に残されたクマッ子は、心配そうに扉のほうを見ている。と、そんな少年に、メガネのウサギっ子が冷静な顔で心配ないよと言う。
「大丈夫、スタンレー様だから。重大なセクハラ案件には発展しないよ」
「スタンレー様だし」
「スタンレー様だしね」
「スタンレー様だけど……!」※フランソワ
仲間は平気平気と言うが、コニーの世話係を任されているフランソワは厳しい顔でポケットから懐中時計を取り出した。
「一応タイムを測ろ」
「タイム?」
「一分過ぎたらマリウス様に即通報」
「……一分……て……短くない? 結構厳しいんだなフランソワ……」
過保護……と呆れた様子の従騎士たち。真剣な子熊少年の顔に……これは絶対通報されるな……と皆が思った。
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