にゃんにゃん言ってもダメですよ騎士団長さま! 〜偏愛魔法薬師とワガママな狼の騎士〜

あきのみどり

文字の大きさ
上 下
18 / 49

17 従騎士たちのヒソヒソ話と、大人気ない思いやり②

しおりを挟む
 
 ドバーンッッッ──! 

 と、扉を破壊する勢いで跳ね開けて来た男は──なぜだか勝ち誇ったような顔でコニーを見ている。

「ス、スタンレー様……?」

 突然の登場にコニーはび驚いて。手にしていた薬草を取り落とす。……が、周囲の従騎士たちは彼のガサツ行動には慣れているのか、振り返る素振りも見せなかった。気配で既に彼の登場を予測していたのかもしれない。
 スタンレーは目をまるくしているコニーに、ニヤッと立派な牙を見せて笑う。その顔にさらに戸惑うコニー。

「え……あ、あの……?」

 含みのある笑みの意味が読み取れず(嫌な予感はする)うろたえる彼女に、スタンレーは何かをワンワン言っている。しかし彼女にはその吠え声の内容が分からない。──と、見かねた狼族の従騎士がコニーに言った。

「……コニーさん、スタンレー様が『ダメに決まっているだろう!』……だって」
「へ……?」
「ワンワンワン!」
「『まったく徹夜だと? お子様め! 体調管理は大人の責務、片腹痛い。人に草を食わせている場合か!』……て言ってるよ」
「あ、コニーさんスタンレー様、昨日の食堂でのこと根に持ってるね」
「本当だぁ……」

 相変わらず大人気ないなぁと子供たちの視線は生暖かい。しかしスタンレーは知らん顔である。コニーはそんなスタンレーを唖然と見ていた。
 食堂のこと、とは──もしかして、昨日薬草スープを食べてもらう時に、『従騎士(子ども)たちの前で大人気ないことをしてはいけない』と言った件だろうか……
 団長は、なおも勝ち誇った調子で吠えている。

「ワンワンワン!」
「『お子様め、わははは! 寝る子は育つと言うだろう! さっさと寝ろ! お子様め!』だって」
「え……えぇ……?」

 なんかいやに“お子様”を強調してるよーという従騎士の言葉に、コニーが目を瞠る。

「お、お子様、ですか……?」

 コニーは少しショックを受けたようだ。
 スタンレーに言われるとなんだか余計だ。が、その言葉には従騎士たちも頷いている。

「でもそれはそうかも。コニーさんの顔色、どうも二日くらいは寝てない感じがするし。……スタンレー様はものすごく根に持ってるけど」
「そうだね、僕もコニーさん寝たほうがいいと思う、スタンレー様は大人気ないけど」
「そうだよ、睡眠大事だよ? ね?」

 そう言ったフランソワは、ふかふかの手でそっとコニーの手を取る。その手は柔らかくて、暖かくて。彼らの気遣いそのもののような温もりを持っていた。
 だが、コニーは困ったような顔で。
 彼女にも、彼らが自分を思いやってくれていることは分かるのだが、コニーとしては、早めに下処理を終わらせて次の作業に移りたかった。そうすれば少しでも早くスタンレーを獣鳴病から解放することができる。
 でも、やはりフランソワたちの優しい配慮も無碍にできず。分かったわとコニー。

「ええっと、じゃああともう少しだ──」

 け……と、娘が言おうとしたその瞬間。
 そんな娘の目の前に、スタンレーがグイッと顔を迫らせてきた。

「……っ」

 コニーが息を呑む。
 目の前にスタンレーの黄金の瞳があった。その距離の近さにコニーの青い目が目一杯見開かれる。

「ス──スタンレーさ……」
「ワン!」
「う……」

 身に響くような鳴き声。コニーは思わず身を竦めるが……その意味はなんとなく分かった。
 おそらく……『関係ある!』とかなんとか……

「あ、で、でも私眠らないのには慣れていますから、多分五日くらいは大丈夫──」

 と、言いかけた瞬間、コニーはスタンレーにつまみ上げられていた。

「ひ、ひえっ!?」
「ワン! (つべこべ言っていないでさっさと寝ろ!)」
「!? !?」

 ──問答無用。そうしてスタンレーは、コニーをそのまま寝室へと連行して行ったのだった。


 ──その後ろ姿をやれやれと見つめている従騎士たち──の中で、フランソワがハラハラしている。

「……寝室に二人きりにして……大丈夫かなコニーさん……」

 作業場に残されたクマッ子は、心配そうに扉のほうを見ている。と、そんな少年に、メガネのウサギっ子が冷静な顔で心配ないよと言う。

「大丈夫、スタンレー様だから。重大なセクハラ案件には発展しないよ」
「スタンレー様だし」
「スタンレー様だしね」
「スタンレー様だけど……!」※フランソワ

 仲間は平気平気と言うが、コニーの世話係を任されているフランソワは厳しい顔でポケットから懐中時計を取り出した。

「一応タイムを測ろ」
「タイム?」
「一分過ぎたらマリウス様に即通報」
「……一分……て……短くない? 結構厳しいんだなフランソワ……」

 過保護……と呆れた様子の従騎士たち。真剣な子熊少年の顔に……これは絶対通報されるな……と皆が思った。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

王太子様、丁寧にお断りします!

abang
恋愛
「……美しいご令嬢、名前を聞いても?」 王太子であり、容姿にも恵まれた。 国中の女性にはモテたし、勿論男にも好かれている。 そんな王太子が出会った絶世の美女は少し変……? 「申し訳ありません、先程落としてしまって」 ((んな訳あるかぁーーー!!!)) 「あはは、面白い冗談だね。俺の事を知ってる?」 「はい、多分王太子殿下ではないかと……」 「……うん、あたりだね」 「じゃあ、落とし物を探して参りますので……さようなら」 「え"っ!?無礼とか、王太子殿下だ、とか考えない?」 「ワーオウタイシサマダ、ステキ……では失礼致します」 「……決めた、俺は彼女を妻にする」 「お断りします」 ちょっと天然なナルシ王太子×塩対応公爵令嬢 「私は平和で落ち着いた愛を育みたいので」 「俺は、キミと愛を育みたいよ」 「却下!」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...