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15 従騎士増援
しおりを挟む騎士団本部に来て三日目。
手伝いの従騎士フランソワは、朝にコニーのいる部屋にやってくることになっているのだが……
この日はコニーが扉を開くと、彼の後ろに数人の子供が並んでいる。
それを見たコニーは何事かと驚いたが……なんと皆、彼女の手伝いがしたいと言う。
どうやら、昨晩の食堂の、スタンレーとの一件で……彼女は従騎士たちの篤い支持を集めてしまったらしかった。
それを聞いたコニーは思わず噴き出した。そんなに、これまでのスタンレーの偏食はひどかったのだろうか。
さて、彼らはフランソワと同じ、まだ十代そこそこという年頃。獣人族も人族の子供もいる。まだ色々なことに興味津々な年頃の者ばかりだが、さすが騎士団で見習いをしているだけはあって、皆なかなかに手際がいい。この時来たのは三名だったのだが、彼らだけかと思ったら、入れ替わり立ち替わり少年たちが部屋にやってくる。皆、普段通りの仕事の合間にこうして来てくれているらしい。おかげで手間のかかる素材の仕分けなどがとてもはかどって。コニーはとてもありがたかった。
「へぇ……」
そうしてたいそう賑やかになったコニーの作業場。様子を見にやってきたマリウスは、従騎士たちを見ながら感心したように言う。
「もしかしてコニーちゃん子供の扱いに慣れてるの? みんなすごく懐いてるけど……」
その問いに、作業台の上で薬草を選別していたコニーが顔を上げる。
「そうですか? ああでも……私、孤児院で育ったので下の子の面倒を見ることには慣れてますよ」
「あれ……そうなんだ……?」
「はい」
驚いてちょっとバツの悪そうな顔をしたマリウスに、コニーは薬草の束をより分けながら、屈託なく大丈夫ですよと言った。
コニーはそのことについてはもうあまり気にしていない。親がいないことは不遇だったと思うが、それはすでに幼少期や十代の頃に悩み尽くした。
「幸い手に職をつけることができましたから。これまではとても理想の人生とは言えませんでしたけど、これからは自分でそう変えていけるといいなと思ってます」
落ち着いた様子のコニーにマリウスは頷く。
「へぇ……コニーちゃんなかなか前向きなんだね」
「ふふふ、まあ理想なので、そううまく割り切れない時もありますけど。ああでも……小さい子たちの面倒を見るのに慣れているという話は職業柄もあります。昆虫なんかにも触るのが平気なので男の子たちには特になじみやすいんです」
「そ──」
うなんだ、とマリウスが言いかけた時、コニーが「──まあ……触ると言っても魔法薬の材料としてですけどね」とにっこり微笑んだまま付け加えたので……机の上の調合用のすり鉢やまな板とナイフなどを見て、何かを想像してしまったらしいマリウスが──ちょっと黙った。
「………………ま、まあそれはそうと(※マリウス、何かを呑み込んだ)、今後はどんな感じ? 解呪薬の見通しはついた?」
「そうですね……みんなが手伝ってくれるので材料の前処理はもうすぐ終わりそうです。……できたら症状の程度を見るためにまたスタンレー様にお会いしたいのですが……」
コニーが申し出るとマリウスは分かったと快諾。──と、用事は終わったのか、そのまま部屋を出て行こうとしたマリウスを見て、コニーがそうだったと彼を呼び止めた。
「ああそれともう一つ……料理長様にもお会いしたいのですが……」
「? 料理長?」
しかしマリウスは今度は少しだけためらいを見せた。
「いいけど……あの人結構気難しいけどコニーちゃん大丈夫……? いや、話は通しておくけど、厨房は激しく忙しいから、仕込みとか短い休憩の時間とかを邪魔すると邪険にされるかも……」
マリウスは心配そうだが、コニーはそうですかと素直に頷く。
「そうですよね、これだけの騎士団の皆さんのお食事を作られているんですもの。──分かりました、ではできるだけお邪魔にならないようにしてみます」
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