にゃんにゃん言ってもダメですよ騎士団長さま! 〜偏愛魔法薬師とワガママな狼の騎士〜

あきのみどり

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7 騎士団生活一日目

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 そうしてコニーは、次の日から騎士団本部内の空き部屋に間借りして魔法薬の調合をすることとなった。
 機材を運び入れてくれると約束していたマリウスは、何とコニーの工房から機材を運び入れるのではなく、彼女が使っているのと同じかそれ以上に質の良い機材を全て新品で買い揃えてくれたのだった。

「…………すごい……」

 大小形も様々高価なガラス器具、魔法陣を敷いても焦げたり腐食したりしない耐魔法用の広い作業台。新品ピカピカの機材たちを前に、ぽかんとするコニー。おまけに作業スペースの四隅には、調合中の有事(※魔法の暴発など)に備えて張る結界魔法用の台座まで据えてあった。
 しかも石造りの部屋はコニーの工房兼自宅よりも断然広い。人目を避けるため、場所も騎士団本部棟の最上階。眺めもよく日当たりも良い。
 立派な窓には上等のカーテンがかけてあって、室内には調合道具以外にも立派な調度品がたくさん置いてあった。
 ソファやテーブル、鏡台まで。壁際の本棚にはぎっしりの本。奥には別室があり、ベッドや箪笥まで据えてあった。
 泊まり込んで欲しいとのことだったから、ベッドは貸してくれるのだろうなと思っていたが……何となしにその箪笥を開けて、コニーはギョッとした。
 中には彼女くらいの年頃の娘が着そうな服が何枚も入っていた。
 どの服も、顔のアザがコンプレックスでほとんど着飾らないコニーが着たこともないような可愛らしい服ばかりだ。

「い、至れり尽くせり……」
「あ、来たねコニーちゃん」
「! 騎士マリウス!」

 気がつくと、部屋の戸口に半獣人のマリウスが人懐っこい微笑みを浮かべて立っている。
 コニーは慌てて襟巻きを引き上げて頬を隠した。

「どう? 不足してそうなものある?」
「いえ……十分すぎるほどです……というか贅沢すぎて怖いくらいです……」
「あははそっか、よかった。何か足りなければ言ってね、後で従騎士を一人よこすから。えっと……それでコニーちゃん人族だよね? 爪研ぎ用の板とかは……あ、いらない? ふむふむ……人族は確か雑食だよねぇ? 主食は草……じゃなくて穀物類かな。料理長に言っとくよ。……そうだ、ちなみに今回の経費は全部スタンリー様持ちだから遠慮しないでね。機材も箪笥の中の服も、仕事が終わったら全部持って帰っていいよ」
「え……!? い、いえそんなそこまで……」

 マリウスの言葉を聞いてコニーは慌てて手を振る。が、騎士は、
「物は全部君用だし、騎士団にあんなかわいい服着たいやついると思う?」と、肩を揺すって笑う。
 ……騎士団の騎士たちは皆筋骨隆々。ガタイのいい男世帯である。おまけに半分以上が獣人族だ。一瞬彼らがかわいいフリルの服を着ているところを想像して、なんかかわいいな……と思ったコニーだったが……(※コニー基準)確かに、着たいと名乗り出る騎士はいないかもしれない。
 でもなぁ……と、この高待遇に困惑するちょっと貧乏性コニー。

(あんなかわいい服……私に似合うわけないと思うけど……)

 少し気後れを感じたが──しかし、気合は入った。
 ふむとコニー。この厚遇は、言い換えればそれだけ自分が期待されているということだろう。きっとスタンレーは一刻も早く獣鳴病から回復したいのだ。

「……よぉし……」

 コニーは、しょんぼりとしていたスタンレーの姿を思い出し。胸の中にふつふつと湧き上がってくるような闘志を感じた。
 おや、とマリウスがキョトンとしている前で、服の袖を腕まくり。
 もしここで期待に応えることができなければ、待っていてくれるスタンレーにも、ここまで環境を整えてくれたマリウスにも申し訳なさすぎる。

「とにかく……私、(かわいいスタンレー様のために)頑張ります!」
「お……」

 コニーはマリウスに鼻息荒く宣言して。気合十分という顔でフードを脱ぐ。そこから現れた優しい色の金の髪を頭の上のほうでくくり、自前のエプロンを首に掛けて素早く腰紐を後ろで結ぶ。

(……待っていてくださいねスタンレー様……!)

 コニーは祈るように手を組んで、キラキラした目で天を仰ぐ。……もちろん心の中で拝んでいるのはいかつい男、スタンレーだ……
 その彼を“かわいい”とのたまう娘は、勇んで真新しい作業台のほうへ駆けて行った。



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