にゃんにゃん言ってもダメですよ騎士団長さま! 〜偏愛魔法薬師とワガママな狼の騎士〜

あきのみどり

文字の大きさ
上 下
8 / 49

7 騎士団生活一日目

しおりを挟む


 そうしてコニーは、次の日から騎士団本部内の空き部屋に間借りして魔法薬の調合をすることとなった。
 機材を運び入れてくれると約束していたマリウスは、何とコニーの工房から機材を運び入れるのではなく、彼女が使っているのと同じかそれ以上に質の良い機材を全て新品で買い揃えてくれたのだった。

「…………すごい……」

 大小形も様々高価なガラス器具、魔法陣を敷いても焦げたり腐食したりしない耐魔法用の広い作業台。新品ピカピカの機材たちを前に、ぽかんとするコニー。おまけに作業スペースの四隅には、調合中の有事(※魔法の暴発など)に備えて張る結界魔法用の台座まで据えてあった。
 しかも石造りの部屋はコニーの工房兼自宅よりも断然広い。人目を避けるため、場所も騎士団本部棟の最上階。眺めもよく日当たりも良い。
 立派な窓には上等のカーテンがかけてあって、室内には調合道具以外にも立派な調度品がたくさん置いてあった。
 ソファやテーブル、鏡台まで。壁際の本棚にはぎっしりの本。奥には別室があり、ベッドや箪笥まで据えてあった。
 泊まり込んで欲しいとのことだったから、ベッドは貸してくれるのだろうなと思っていたが……何となしにその箪笥を開けて、コニーはギョッとした。
 中には彼女くらいの年頃の娘が着そうな服が何枚も入っていた。
 どの服も、顔のアザがコンプレックスでほとんど着飾らないコニーが着たこともないような可愛らしい服ばかりだ。

「い、至れり尽くせり……」
「あ、来たねコニーちゃん」
「! 騎士マリウス!」

 気がつくと、部屋の戸口に半獣人のマリウスが人懐っこい微笑みを浮かべて立っている。
 コニーは慌てて襟巻きを引き上げて頬を隠した。

「どう? 不足してそうなものある?」
「いえ……十分すぎるほどです……というか贅沢すぎて怖いくらいです……」
「あははそっか、よかった。何か足りなければ言ってね、後で従騎士を一人よこすから。えっと……それでコニーちゃん人族だよね? 爪研ぎ用の板とかは……あ、いらない? ふむふむ……人族は確か雑食だよねぇ? 主食は草……じゃなくて穀物類かな。料理長に言っとくよ。……そうだ、ちなみに今回の経費は全部スタンリー様持ちだから遠慮しないでね。機材も箪笥の中の服も、仕事が終わったら全部持って帰っていいよ」
「え……!? い、いえそんなそこまで……」

 マリウスの言葉を聞いてコニーは慌てて手を振る。が、騎士は、
「物は全部君用だし、騎士団にあんなかわいい服着たいやついると思う?」と、肩を揺すって笑う。
 ……騎士団の騎士たちは皆筋骨隆々。ガタイのいい男世帯である。おまけに半分以上が獣人族だ。一瞬彼らがかわいいフリルの服を着ているところを想像して、なんかかわいいな……と思ったコニーだったが……(※コニー基準)確かに、着たいと名乗り出る騎士はいないかもしれない。
 でもなぁ……と、この高待遇に困惑するちょっと貧乏性コニー。

(あんなかわいい服……私に似合うわけないと思うけど……)

 少し気後れを感じたが──しかし、気合は入った。
 ふむとコニー。この厚遇は、言い換えればそれだけ自分が期待されているということだろう。きっとスタンレーは一刻も早く獣鳴病から回復したいのだ。

「……よぉし……」

 コニーは、しょんぼりとしていたスタンレーの姿を思い出し。胸の中にふつふつと湧き上がってくるような闘志を感じた。
 おや、とマリウスがキョトンとしている前で、服の袖を腕まくり。
 もしここで期待に応えることができなければ、待っていてくれるスタンレーにも、ここまで環境を整えてくれたマリウスにも申し訳なさすぎる。

「とにかく……私、(かわいいスタンレー様のために)頑張ります!」
「お……」

 コニーはマリウスに鼻息荒く宣言して。気合十分という顔でフードを脱ぐ。そこから現れた優しい色の金の髪を頭の上のほうでくくり、自前のエプロンを首に掛けて素早く腰紐を後ろで結ぶ。

(……待っていてくださいねスタンレー様……!)

 コニーは祈るように手を組んで、キラキラした目で天を仰ぐ。……もちろん心の中で拝んでいるのはいかつい男、スタンレーだ……
 その彼を“かわいい”とのたまう娘は、勇んで真新しい作業台のほうへ駆けて行った。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

王太子様、丁寧にお断りします!

abang
恋愛
「……美しいご令嬢、名前を聞いても?」 王太子であり、容姿にも恵まれた。 国中の女性にはモテたし、勿論男にも好かれている。 そんな王太子が出会った絶世の美女は少し変……? 「申し訳ありません、先程落としてしまって」 ((んな訳あるかぁーーー!!!)) 「あはは、面白い冗談だね。俺の事を知ってる?」 「はい、多分王太子殿下ではないかと……」 「……うん、あたりだね」 「じゃあ、落とし物を探して参りますので……さようなら」 「え"っ!?無礼とか、王太子殿下だ、とか考えない?」 「ワーオウタイシサマダ、ステキ……では失礼致します」 「……決めた、俺は彼女を妻にする」 「お断りします」 ちょっと天然なナルシ王太子×塩対応公爵令嬢 「私は平和で落ち着いた愛を育みたいので」 「俺は、キミと愛を育みたいよ」 「却下!」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...