25 / 33
後日談
5 天使と、流血する人狼の決意。
しおりを挟む
その女は、しんとした真顔で言った。
「…………これ、寿命が減るんでしょうか、伸びるんでしょうか……」
真剣に考えている風のその栗色の髪の娘に、本日はルカスの拳骨が飛んでこない。
「……間違いなく伸びるだろ……」
隣から聞こえてきた声に、女、ミリヤム・シェリダンは、音がしそうなくらい大袈裟に振り返る。
「本当に!? だって……今にも心臓が破裂しそうなんですよ!? 身悶えして全身に鳥肌が踊り狂っておりますけど……!? 見てよ、手が……震えている!?」
ルカス!? と、腕に取り縋られた青年は、本日は何やら目尻が下がりきっている。だが、一応「馬鹿じゃねえの」と、ミリヤムをぺいっと振り払うのは忘れなかった。
そんな二人の眼の前。部屋の奥の長椅子の上には。
右端に、黒い見事な毛並みの雄々しい狼獣人、ミリヤムの夫であるヴォルデマーが。
左端には彼女たちの偏愛を一身に受ける金糸の美貌のフロリアンが座っている。
普段は大抵、交代でベアエールデ砦を支える二人が揃う貴重なその光景(献身的なイグナーツの激務と引き換え)は、これだけでも、ミリヤムたちにとっては既に尊過ぎる絵なのだが……
そのちょうど真ん中に……ぽてりぽてりと二人に挟まれるようにして座っているのが──
ミリヤムが萌怯え、ルカスが気味悪いくらい目尻を下げているもの。
可愛い黒髪に、ちょっぴり垂れた黒い耳。瞳も身体つきもまぁるい小さな双子。ランドルフとルドルフの二人だった……
二人はまだつたない様子で母親であるミリヤムに向かってふっくらした両手を差し出している。
そして偏愛二人組が戸惑っている原因が、これだ。
「かーたまー」
「あーたまっ、あーたまぁぁっ」
ひゃー……と、双子の片割れが泣き出して。ミリヤムを必死に呼ぶもので……ミリヤムは「グフっ」と、膝を折る。
「て、天使が、すぎる……泣き顔ですらも母に瀕死のダメージを……ごめんなさいルドルフ、ランドルフ……母さんは今腰が抜けております……お前たち、攻撃力が高すぎです……聞きましたかルカス!? 我が小さき天使達が……私を、よ、呼んでいます!! か、かわゆいっ」
「馬鹿か! お前戯言を言っている場合か……! ルドルフが泣いてるじゃないか! さっさと行け!」
「う、りょ、了解です……這います……這いつくばって天界絵図のようなあの現場に……!! い、今行きますよ我が天使……!」
「……やめなさい」
ひーん、と、本当に這いつくばって自分たちの方へ来ようとする妻に……冷静なヴォルデマーが制止をかける。その有様は、どう見ても変態的だ。
ヴォルデマーはやれやれとフロリアンに双子を任せると、ミリヤムの傍に寄り、妻の身体を軽々持ち上げた。
それを見たフロリアンはころころと楽しそうに笑っている。
さて、相変わらずのミリヤムだが、本日はなぜこのようなことになったかと言うと──……
「っ双子が初めて言葉を喋ったと言うのは本当かぁああああああっっっ!?」
……と、いう事ではあるのだが……それはさて置き。
唐突に。部屋の扉がドカンとド派手に破壊された。
「ぎゃっ!? 匠の業が光る美しき木戸様がっ!?」
「……」
美しい飴色の扉はそのままの勢いで空を舞い、それはミリヤム目掛けて飛んで来る。……が、それが彼女に衝突する直前に、彼女の夫がそれを無言で瞬時に弾き返す。
すると、その大きな人狼サイズの可哀想な木製扉は、飛び込んできた乱入者の方に綺麗に飛んでいき、その顔面にドカーンっ! と、ナイスなコントロールでぶち当たった。
途端にミリヤムとルカスが悲鳴を上げる。
「ひぃっ、わ、若様ーっ!?」
「ギ、ギズルフ様!?」
ミリヤムとルカスは思わず青くなって、ぎゃー!? と、叫んだが……
扉を顔面に受けたはずの当の本人、ギズルフ・シェリダン(推定精神年齢多分10歳くらい)……は、
倒れもせず、よろめきもせず。
何事もなかったかのように、ケロリと双子の座る長椅子の方へ飛んで駆け寄って行った。ぶんぶん尻尾が揺れている。
(その頑丈さに、フロリアンが「ギズルフ様凄いですねぇ」と、優雅に笑っている)……それを見たミリヤムとルカスが、微妙そうな顔で眉間に皺を寄せて言葉をなくしている……)
「ルドルフよ! ランドルフよ! 喋ったというのは本当か!? もちろんそれは『ギズルフおじさま』であるはずだな!?」
と、そこでルドルフを抱き上げようとして。はた迷惑に騒がしいギズルフの後頭部に弟ヴォルデマーの鉄拳が飛ぶ。
「ぐ……」(流石に効いた)それを見て、泣いていたルドルフの機嫌が直る)
「戯言か、ギズルフ……」
「ふふ、そうですよギズルフ卿。やっぱり最初は母か、もしくは父君であるヴォルデマー様でないと」
フロリアンは双子を両手に抱え、くすくす笑っている。
それを聞いたギズルフの三角の耳が不満そうにパタパタ動いている。
──が、そんな夫や元主人の冷静な調子に……ミリヤムは──
「ちょっ、それより……っ、」
若様顔面割れてますけど!? ……と、ミリヤムは慄いた。
「……なんだつまらん。俺様の名前じゃないのか……」と、言った人狼は、ミリヤムの顔をムッと睨む。
「相変わらずお前は図々しい女だな……俺様を差し置いて……」
「黙れこら若様め」
嫡男の割れた額にぺシーンと清潔なガーゼを貼りながら。ミリヤムが悪人顔で目を剥く。
「痛い……」
「ご自分のせいすぎるでしょう!? どうして若様はそう、扉を壊すんですか!? 扉は開け閉めするためにあるんですよ!? それに危うく我が愛する方々に木片が激突するところだったじゃやないですか! おかげでびっくりしすぎて天界絵図に這い寄る機会を私めは一つ失いました! いい加減になさいませ! 黒い毛並みが血まみれで……これじゃあ地獄絵図です! 全く……ヴォルデマー様と坊っちゃまと我が子らの聖域を侵そうなんて……なんと言う悪行……」
手当されながらも、くどくど叱られる巨体の人狼は、耳を倒してブスッと横を向く。
「ふん、あんなもの。ヴォルデマーが傍にいて防げないわけがないだろう。それに子らも半分は人狼の血が流れているのだぞ。これしきで怪我をするほど弱々しいものか」
ギズルフの不貞腐れたような顔に。憤慨したミリヤムは、その両の眉間にグリグリと拳で圧を加えた。……全然効いている風ではないが。
不意に、そんな様を微笑んだまま眺めていたフロリアンが優しい調子で言った。その手は泣き止んだルドルフの頬をよしよしと優しくなでている。
「でもギズルフ卿……もしあれがミリーに当たっていたら大変でしたよ? ミリーは人狼じゃないですからね。華奢な身体にあんなに大きなものが激突したらどうなさいます?」
フロリアンが穏やかにそう言った瞬間だった。
ギズルフのそっぽを向いた背がぶるぶると震え始める。……壊れ物怖い、と思っているのは明らかである。
「……」
「それにこんなに愛らしい子供達の前で母親が傷つけられたら……二人もさぞかし悲しむでしょうね……多分二人共、一生ギズルフ卿のことを“叔父上様”とは呼んでくれなくなる──」
「!?」
その言葉にギズルフの背がびくっと跳ねた。そんな、とでも言いたげに振り返った人狼の悲壮な顔を見て、意味ありげに言葉を切り間を取ったフロリアンが、「……かもしれませんね?」と、にこりと笑う。
「………………」
フロリアンの言葉に──ギズルフは──……
嫡男は考えた。いつも以上に考えた。そしてしばし腕を組んで眉間に皺を寄せ──ぐるぐる、ぐるぐると何かを考えて──
その瞳が唐突に、ぎらりとミリヤムを睨む。……ただし、背中はまだ震えている。
「え……? な、なんですか若様……」
気味悪い……と、いうミリヤムの言葉を無視して。辺境伯領嫡男は立ち上がると、高らかに宣言した。
「…………よし、俺様は…………今日から……ちゃんと扉を開けるぞ……!!」
「……」
「……」
その言葉を聞いて、思わず黙り込むミリヤムとルカス。
思い切り、そこからかよ! と、突っ込みたかったのは山々だが……この嫡男にはそれはそれで必要な決意であるような気がして、二人は黙っておいた。何かあるたびに、部屋の扉を破壊されるのは非常に迷惑である。
「それに俺様には“壊れ物”を保護する使命があったしな! よし! 俺様は、もう扉を吹き飛ばさない! だが……あんな薄い(※厚さ7cmほどはある。対ギズルフ仕様で段々厚くなっていた)木の板をどうすれば壊さないで済むんだ……?」
「そうですね、まずは一度扉の前で立ち止まることを習慣化させてみてはどうでしょうか」
にこやかに答えるフロリアンに、ギズルフがそうか! と、応じる。そのやりとりに、「そっからかー」と、再度思った二人組は、やはり突っ込まなかった。
押し黙る二人組と呆れる人狼弟の前で、むふーと息巻いているギズルフに、フロリアンはぱちぱちと手を叩いている。
「ギズルフ卿。ご決意とてもご立派ですよ。是非頑張って下さいね」
「ふんっ! 俺様に出来ぬ事などはない!」
賞賛の声にますますふんぞり返る辺境伯領嫡男ギズルフ(推定精神年齢多分10歳)。
と……、無言で自分たちを見つめている三人の視線に気がついたフロリアンが、言った。
「ふふ。ギズルフ様って可愛いよね」にこり。
「……」(※ヴォルデマー。全然可愛くない、と思っている)
「……」(※ルカス。この領大丈夫か……? ヴォルデマー様がいてよかった、と思っている)
そしてミリヤムは呟いた。
「………………若様がちょろすぎるのか……坊ちゃまが素晴らしいのか……」
この時ばかりは珍しく断言に迷うミリヤムだった。
「次は絶対に双子に“叔父上さま”と言わせてやる!」
「……あれ(※ギズルフ)、早くクローディア様引取りにきてくれないかな……」
とりあえず、可愛い双子たちの為にも、次の扉は是非鉄製に替えて欲しいと思うミリヤムである。
「…………これ、寿命が減るんでしょうか、伸びるんでしょうか……」
真剣に考えている風のその栗色の髪の娘に、本日はルカスの拳骨が飛んでこない。
「……間違いなく伸びるだろ……」
隣から聞こえてきた声に、女、ミリヤム・シェリダンは、音がしそうなくらい大袈裟に振り返る。
「本当に!? だって……今にも心臓が破裂しそうなんですよ!? 身悶えして全身に鳥肌が踊り狂っておりますけど……!? 見てよ、手が……震えている!?」
ルカス!? と、腕に取り縋られた青年は、本日は何やら目尻が下がりきっている。だが、一応「馬鹿じゃねえの」と、ミリヤムをぺいっと振り払うのは忘れなかった。
そんな二人の眼の前。部屋の奥の長椅子の上には。
右端に、黒い見事な毛並みの雄々しい狼獣人、ミリヤムの夫であるヴォルデマーが。
左端には彼女たちの偏愛を一身に受ける金糸の美貌のフロリアンが座っている。
普段は大抵、交代でベアエールデ砦を支える二人が揃う貴重なその光景(献身的なイグナーツの激務と引き換え)は、これだけでも、ミリヤムたちにとっては既に尊過ぎる絵なのだが……
そのちょうど真ん中に……ぽてりぽてりと二人に挟まれるようにして座っているのが──
ミリヤムが萌怯え、ルカスが気味悪いくらい目尻を下げているもの。
可愛い黒髪に、ちょっぴり垂れた黒い耳。瞳も身体つきもまぁるい小さな双子。ランドルフとルドルフの二人だった……
二人はまだつたない様子で母親であるミリヤムに向かってふっくらした両手を差し出している。
そして偏愛二人組が戸惑っている原因が、これだ。
「かーたまー」
「あーたまっ、あーたまぁぁっ」
ひゃー……と、双子の片割れが泣き出して。ミリヤムを必死に呼ぶもので……ミリヤムは「グフっ」と、膝を折る。
「て、天使が、すぎる……泣き顔ですらも母に瀕死のダメージを……ごめんなさいルドルフ、ランドルフ……母さんは今腰が抜けております……お前たち、攻撃力が高すぎです……聞きましたかルカス!? 我が小さき天使達が……私を、よ、呼んでいます!! か、かわゆいっ」
「馬鹿か! お前戯言を言っている場合か……! ルドルフが泣いてるじゃないか! さっさと行け!」
「う、りょ、了解です……這います……這いつくばって天界絵図のようなあの現場に……!! い、今行きますよ我が天使……!」
「……やめなさい」
ひーん、と、本当に這いつくばって自分たちの方へ来ようとする妻に……冷静なヴォルデマーが制止をかける。その有様は、どう見ても変態的だ。
ヴォルデマーはやれやれとフロリアンに双子を任せると、ミリヤムの傍に寄り、妻の身体を軽々持ち上げた。
それを見たフロリアンはころころと楽しそうに笑っている。
さて、相変わらずのミリヤムだが、本日はなぜこのようなことになったかと言うと──……
「っ双子が初めて言葉を喋ったと言うのは本当かぁああああああっっっ!?」
……と、いう事ではあるのだが……それはさて置き。
唐突に。部屋の扉がドカンとド派手に破壊された。
「ぎゃっ!? 匠の業が光る美しき木戸様がっ!?」
「……」
美しい飴色の扉はそのままの勢いで空を舞い、それはミリヤム目掛けて飛んで来る。……が、それが彼女に衝突する直前に、彼女の夫がそれを無言で瞬時に弾き返す。
すると、その大きな人狼サイズの可哀想な木製扉は、飛び込んできた乱入者の方に綺麗に飛んでいき、その顔面にドカーンっ! と、ナイスなコントロールでぶち当たった。
途端にミリヤムとルカスが悲鳴を上げる。
「ひぃっ、わ、若様ーっ!?」
「ギ、ギズルフ様!?」
ミリヤムとルカスは思わず青くなって、ぎゃー!? と、叫んだが……
扉を顔面に受けたはずの当の本人、ギズルフ・シェリダン(推定精神年齢多分10歳くらい)……は、
倒れもせず、よろめきもせず。
何事もなかったかのように、ケロリと双子の座る長椅子の方へ飛んで駆け寄って行った。ぶんぶん尻尾が揺れている。
(その頑丈さに、フロリアンが「ギズルフ様凄いですねぇ」と、優雅に笑っている)……それを見たミリヤムとルカスが、微妙そうな顔で眉間に皺を寄せて言葉をなくしている……)
「ルドルフよ! ランドルフよ! 喋ったというのは本当か!? もちろんそれは『ギズルフおじさま』であるはずだな!?」
と、そこでルドルフを抱き上げようとして。はた迷惑に騒がしいギズルフの後頭部に弟ヴォルデマーの鉄拳が飛ぶ。
「ぐ……」(流石に効いた)それを見て、泣いていたルドルフの機嫌が直る)
「戯言か、ギズルフ……」
「ふふ、そうですよギズルフ卿。やっぱり最初は母か、もしくは父君であるヴォルデマー様でないと」
フロリアンは双子を両手に抱え、くすくす笑っている。
それを聞いたギズルフの三角の耳が不満そうにパタパタ動いている。
──が、そんな夫や元主人の冷静な調子に……ミリヤムは──
「ちょっ、それより……っ、」
若様顔面割れてますけど!? ……と、ミリヤムは慄いた。
「……なんだつまらん。俺様の名前じゃないのか……」と、言った人狼は、ミリヤムの顔をムッと睨む。
「相変わらずお前は図々しい女だな……俺様を差し置いて……」
「黙れこら若様め」
嫡男の割れた額にぺシーンと清潔なガーゼを貼りながら。ミリヤムが悪人顔で目を剥く。
「痛い……」
「ご自分のせいすぎるでしょう!? どうして若様はそう、扉を壊すんですか!? 扉は開け閉めするためにあるんですよ!? それに危うく我が愛する方々に木片が激突するところだったじゃやないですか! おかげでびっくりしすぎて天界絵図に這い寄る機会を私めは一つ失いました! いい加減になさいませ! 黒い毛並みが血まみれで……これじゃあ地獄絵図です! 全く……ヴォルデマー様と坊っちゃまと我が子らの聖域を侵そうなんて……なんと言う悪行……」
手当されながらも、くどくど叱られる巨体の人狼は、耳を倒してブスッと横を向く。
「ふん、あんなもの。ヴォルデマーが傍にいて防げないわけがないだろう。それに子らも半分は人狼の血が流れているのだぞ。これしきで怪我をするほど弱々しいものか」
ギズルフの不貞腐れたような顔に。憤慨したミリヤムは、その両の眉間にグリグリと拳で圧を加えた。……全然効いている風ではないが。
不意に、そんな様を微笑んだまま眺めていたフロリアンが優しい調子で言った。その手は泣き止んだルドルフの頬をよしよしと優しくなでている。
「でもギズルフ卿……もしあれがミリーに当たっていたら大変でしたよ? ミリーは人狼じゃないですからね。華奢な身体にあんなに大きなものが激突したらどうなさいます?」
フロリアンが穏やかにそう言った瞬間だった。
ギズルフのそっぽを向いた背がぶるぶると震え始める。……壊れ物怖い、と思っているのは明らかである。
「……」
「それにこんなに愛らしい子供達の前で母親が傷つけられたら……二人もさぞかし悲しむでしょうね……多分二人共、一生ギズルフ卿のことを“叔父上様”とは呼んでくれなくなる──」
「!?」
その言葉にギズルフの背がびくっと跳ねた。そんな、とでも言いたげに振り返った人狼の悲壮な顔を見て、意味ありげに言葉を切り間を取ったフロリアンが、「……かもしれませんね?」と、にこりと笑う。
「………………」
フロリアンの言葉に──ギズルフは──……
嫡男は考えた。いつも以上に考えた。そしてしばし腕を組んで眉間に皺を寄せ──ぐるぐる、ぐるぐると何かを考えて──
その瞳が唐突に、ぎらりとミリヤムを睨む。……ただし、背中はまだ震えている。
「え……? な、なんですか若様……」
気味悪い……と、いうミリヤムの言葉を無視して。辺境伯領嫡男は立ち上がると、高らかに宣言した。
「…………よし、俺様は…………今日から……ちゃんと扉を開けるぞ……!!」
「……」
「……」
その言葉を聞いて、思わず黙り込むミリヤムとルカス。
思い切り、そこからかよ! と、突っ込みたかったのは山々だが……この嫡男にはそれはそれで必要な決意であるような気がして、二人は黙っておいた。何かあるたびに、部屋の扉を破壊されるのは非常に迷惑である。
「それに俺様には“壊れ物”を保護する使命があったしな! よし! 俺様は、もう扉を吹き飛ばさない! だが……あんな薄い(※厚さ7cmほどはある。対ギズルフ仕様で段々厚くなっていた)木の板をどうすれば壊さないで済むんだ……?」
「そうですね、まずは一度扉の前で立ち止まることを習慣化させてみてはどうでしょうか」
にこやかに答えるフロリアンに、ギズルフがそうか! と、応じる。そのやりとりに、「そっからかー」と、再度思った二人組は、やはり突っ込まなかった。
押し黙る二人組と呆れる人狼弟の前で、むふーと息巻いているギズルフに、フロリアンはぱちぱちと手を叩いている。
「ギズルフ卿。ご決意とてもご立派ですよ。是非頑張って下さいね」
「ふんっ! 俺様に出来ぬ事などはない!」
賞賛の声にますますふんぞり返る辺境伯領嫡男ギズルフ(推定精神年齢多分10歳)。
と……、無言で自分たちを見つめている三人の視線に気がついたフロリアンが、言った。
「ふふ。ギズルフ様って可愛いよね」にこり。
「……」(※ヴォルデマー。全然可愛くない、と思っている)
「……」(※ルカス。この領大丈夫か……? ヴォルデマー様がいてよかった、と思っている)
そしてミリヤムは呟いた。
「………………若様がちょろすぎるのか……坊ちゃまが素晴らしいのか……」
この時ばかりは珍しく断言に迷うミリヤムだった。
「次は絶対に双子に“叔父上さま”と言わせてやる!」
「……あれ(※ギズルフ)、早くクローディア様引取りにきてくれないかな……」
とりあえず、可愛い双子たちの為にも、次の扉は是非鉄製に替えて欲しいと思うミリヤムである。
12
お気に入りに追加
1,017
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる