【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり

文字の大きさ
85 / 194

85 憂鬱な故郷

しおりを挟む

 一行は休憩を何度が取りつつ先を急ぎ、太陽が山の向こうに沈む間際に公爵領アムバハイデの領都、グートルーンにたどり着いた。
 グートルーンはなだらかな丘の上にある城壁都市。周りは穀倉地帯で、大河が土地を豊かに潤している。
 公爵邸を中心に据えた都の周囲には、十の塔と五つの門が備えられた分厚く高い堅固な城壁がめぐらされていて。
 グステルは、そのうちの一つの門を馬車でくぐりながら、車窓から夕日に照らされる街を眺めた。
 彼らの馬車の周りには、日暮れ前に都の中に駆け込もうという者たちが足を急がせている。
 こんな風景も、なんだかとても懐かしい。

(……あの頃のままね……)

 彼女は九年前も、この城門を通って領都を離れた。 
 視線を走らせればいくつも見覚えのあるものが目に入り、なんとも感慨深い。
 けれども自分はここを捨てて、この街を治める一族としての義務を捨てて去ったのだと思い出すと、なんとなく、気鬱になってため息が漏れた。



「──大丈夫ですか?」

 宿屋につくと、すぐにヘルムートが部屋にやってきた。
 青年は顔を見るなりグステルの気の沈みを見抜いたようで、心配そうな目をする。
 が、彼の顔を見た途端グステルがうっと身構えたもので。それを気遣ってか、彼は戸口から中へは入ろうとはしなかった。 

「あ……だ、大丈夫です……」

 休憩した宿場での出来事を思い出し、グステルは思わず沈んだ気持ちを忘れて赤くなった。すがる先を探すように視線を泳がせて、ゆ……っくりと、ヘルムートがいる戸口から離れて部屋の奥へ逃げていく。
 そんな気まずそうな彼女を見たヘルムートは、一瞬何かいいたげな顔をしたが。結局指でこめかみを掻くにとどまった。
 代わりに、どうやら何も考えていないらしいヴィムが、せっせとグステルの荷物の運び込みをやってくれている。

「ステラさんお荷物ここに置いておきますね。ローブもスカートも裾が土まみれですよ、着替えを用意しました。お湯も今持ってきます」

 若者は慣れた様子で働いてくれているが、忙しくしているせいか、グステルたちの間に流れる微妙な空気にはあまり気が回っていないらしい。仕事を終えてさっさか外に出て行こうとする彼を、グステルは慌てて呼び止めた。

「ヴィムさん⁉︎ い、行かないで! お──菓子! お菓子ですよ!」

 戸口を出ようとする青年に、グステルはすがるような声を掛け。その別の男宛の懇願には、ヘルムートがちょとムッとした顔をしたが……。
 ヴィムに向かって必死に菓子を振って見せるグステルは、どうやら青年を猫かちびっ子と間違えているふう。
 と、呼び止められた青年は、グステルの必死な様子を見て、そうだったとすぐに彼女のそばに戻ってきた。
 ここにつく前、エドガーの馬車の中で頼まれていたことを思い出した。

『どうか、お願いだからヘルムートと二人きりにはしないでくれ』と。

 グステルも、あんなことがあった後ではやはりヘルムートと二人きりは気まずい。
 しかし、やっと領都にたどり着いたからには、この先のために相談すべきことはたくさんあるわけで……話をしないわけにもいかない。
 自分を一生懸命、菓子で釣って呼び戻そうとする娘に従いながら、ヴィムは呆れた顔。

「はあ、世話が焼けますねぇ……まだ仕事があるのに……」
「ごめん! ごめんね!」

 ちょっと面倒そうに戻ったヴィムに、グステルは謝りながらたんまり菓子を握らせた。
 ヴィムは仕方ないなぁという顔で彼女に勧められたテーブルに着席し、菓子をかじりながら二人を眺めている。
 と、ヴィムという防壁を手に入れたグステルが、ここでようやく意を決したように、ヴィムの陰からヘルムートを見る。

「へ、ヘルムート様? そんなところにお立ちになっていないで、どうぞこちらにお座りください……」

 菓子をもぐもぐしているヴィムの隣の席を示し、やっと自分を呼んでくれたグステルにほっとするも、ヘルムートは複雑。
 彼女が自分を意識しそわそわしてくれているらしいことは嬉しいが……彼が不在の間に、彼女とヴィムとの距離感が明らかに変化してしまっている。
 従者青年の肩に隠れるようにして、こちらを覗く姿にヘルムートは困惑を覚えた。
 グステルとヴィムとの距離は、先ほど宿場町で彼が彼女を引き寄せたときの距離感とほぼほぼ同じ。それなのに、グステルはなんの抵抗感もなさげにヴィムの肩に触れ、ヴィムもまた、そんなグステルを気にしていない。
 この急接近は、もちろん彼自身がヴィムに彼女の世話を命じたせいなのだろうが……気弱なはずのヴィムが、グステルのそばですっかり安心しきっているのも非常に気になった。

(……な……なんなんだ、この二人の意気投合感は……)

 軽薄なエドガーばかりを気にしていたが……。
 寄り添う二人はまるで、仲のいい姉弟のようにも見えて。なんだかヘルムートは、ヴィムに思いがけなく敗北感を感じた。
 自分はこんなに苦労して彼女のそばにいるのに……ヴィムにグステルとの仲を一足飛びに追い抜かれてしまったようで……。
 心中とても穏やかではない。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~〈本編完結済〉

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

処理中です...