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47 月明かり ⑧
しおりを挟む混乱のあまり、これが夢と納得した王女は──それならばと、リオンの前で凛と背筋を伸ばした。──まとっているのはリオンの布団だが……顔と姿勢だけは、いつも通り威厳たっぷりに見えた……。
「そうですか、そうですよね。これが現実なはずがない。わかりました、そういうことでしたら……」
ローズは何やら生真面目に続けているが、傍のリオンからはまだ反応がない。まだ、彼は混乱中なのだが、夢の中の人はそんなものなのだろうとローズは解釈した。
「ええ、でしたら、これは貴重な機会です。私、いつもあなたのことは夢に見慣れていますが、常々、あなたが夢においでになったことにオロオロするばかりの夢でした」
ローズは、ご本人の前で、しょっちゅう彼を夢に見ていることを白状してしまった。──が、その失態には彼女はまだ気が付いていない……。
「──ですが、さすがに少し慣れて来た気も致しますし、今日こそは言わせていただきましょう」
「………………」
ローズは自分の胸に手を当てて、すぅはぁと深呼吸し、フリーズ中のリオンをキリリと見つめた。
その顔が……ものすごく冷静に見えるだけに、なんだかとてもまぬけであるが──訳もわからず渦中に立たされているリオンには、ローズを止めることはできなかった。こう言ってはなんだが、彼にはつっこみスキルが皆無である。
そんな生真面目に唖然としているリオンに、ローズは真正面から言った。
「私は──あなたが好きです」
「っ!」
その唐突なる告白を聞いて──硬直していたリオンが弾かれたように身体を震わせた。
暖かな色のランプの灯りに照らされた彼の青い瞳が目一杯に見開かれているのを見て、ローズは、夢人も驚いたりするのねぇと思いながら。両手を組み合わせ、にっこり微笑んだ。
「好きですよ」
本当ですと念を押すように告げると、相手はさらに言葉を失くしたようだった。
そんな彼を見たローズは、夢なのに、意外にリアルな反応を見せるなぁと、夢の主である自分に感心した。
「……再現力がちゃんとしているわ……それだけ私がリオンをよく見ていると言うことかしらね?」
「…………」
尋ねるが、夢人からは返事がない。(そんなことを尋ねられて答えられるわけがない)が、それでもローズはとても嬉しかった。
これは夢だからこその貴重な機会である。
(夢でないと、こんなこと言い出せないのだもの……)
本来なら、立場的にもローズが彼に告白をするなんてことはやってはいけないことだ。
そんなことを言われても、身分などという面倒なしがらみがある限り、きっとリオンは困ってしまうだろう。
(断り一つ入れるにしても、忠義なリオンは、“王女を悲しませてしまうのでは?”なんてことですごく悩んでしまいそうよね……?)
ローズは、そんなことでリオンを困らせたくはない。
それに、ローズはそもそも自分に自信がない。今まで王太子にも、ハニートラップ男たちにも、陰で散々に言われてきた。本当なら、リオンに面と向かって告白する勇気などないのだ。
おまけにもし万が一想いが通じたとしても、しがらみが多すぎて先の展望のない恋である。
自分は祖国を背負い、王太子妃を目指していて。
リオンは家名を背負って、近衛騎士として身を立てようとしている。
そんな二人の道の先は、きっとずっと交わることができない。
だから。せめて夢の中ならと、ローズはありったけの感謝をこめて告げた。
「──夢に出て来てくれてありがとう。そして、この世に生まれて来てくれてありがとう。天とあなた、そしてご両親に感謝します」
「………………」
咲たての薔薇のような爽やかで甘い微笑みを向けられたリオンは、息を呑む。
間近から降り注いでくる彼女の視線は、あたたかで慈愛深い。
「っ⁉︎ っ⁉︎ っ⁉︎」
これにはローズとは違い、現在をしっかり現実と受け止めているリオンには、とてもではないが情報処理が追いつかない。
あまりに唐突で、驚きで──そして嬉しすぎて。
とにかく純情なリオンは、胸がいっぱいすぎて。今にもひっくり返って倒れてしまいそうであった。
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