婚約破棄狙いの王太子が差し向けてくるハニートラップ騎士が…ツンデレかわいくて困る!

あきのみどり

文字の大きさ
上 下
39 / 74

39 うなだれる二人

しおりを挟む

 

「…………」

 ローズは悔いていた。
 寝室の寝台のうえで、入浴し終えてほかほかした己の体を感じながら──頭を抱えて猛烈に悔いていた。

「──ぅ……リオンのあの顔……」

 脳裏に浮かぶのは、自分が避けてしまった彼の驚きと困惑に満ちた顔。
 思い出すと、罪悪感に胸を貫かれ、ローズの口からは「ふぐ……」と不明瞭な呻き声が漏れ、自然と頭が布団に落下した。胃もものすごく痛い……。

 本日の昼。ダンスホールでの一幕の終わり。
 ローズは、自分を待っていてくれたリオンに会うことが……

 ──できなかった。

 それを、今、大いに悔いていた。

(だ──だって! 仕方なかったのよ!)

 ローズは布団のうえでわっと嘆く。

(だって、わ、私……絶対すごく汗臭かったもの!)

 汗の匂いをぷんぷん纏わせて、好きな異性に会いたい女がどこにいるだろう。
 少なくとも、ローズには無理だった……。
 リオンが自分のことをずっと扉の前で待ってくれているとは知っていたし、なんだか異様にニコニコしたキャスリンが彼をローズの前に連れてきてくれようとはしたが──……。あの時のローズは、自分の汚れた姿をリオンに見られるのには耐えられなかった。
 王女たるローズは、とにかく自分の身なりには厳しい。
 自分が王族として、威厳のある姿でいることが、国民にも説得力と安心感を抱かせると知っているからこそ、ふさわしい姿でいるべきという意識が高い。王太子に啖呵を切ったように、汚れたのは鍛錬の結果だから恥だとは思わない。
 ──とはいえ。汗にまみれた姿でもう一度リオンの前に出る勇気はなかった。
 彼にがっかりされたら悲しいし、臭いなんて思われたら──……。

(っ死んじゃう!)

 ローズは布団に悲壮な顔を力一杯押し付けてメソメソしている。
 そのような訳で。どうしてもリオンの前から消えたかったローズは、ヴァルブルガにあとで必ず礼をすると伝言を頼み、ダンスホールを逃げるように後にしてしまった。
 その時──チラリと見えたリオンの心配そうな顔が、ずっと頭から離れなかった。

「ぅあああああ……」

 ローズは悔いた。
 思い出すと、せっかく湯浴みして綺麗にしたというのに、再び汗が噴き出してくる。
 あの時のリオンは、目をまるくしてとても驚いているようだった。

 しかし、悔いておろおろするローズに、キャスリンとヴァルブルガは……。

『え? 姫様の去り際の騎士リオンの顔? ……仏頂面でしたよ?』※さっさとローズを風呂に入れたくてリオンをあんまり見てない。
『? いつもの塩っけの強いお顔にしか見えませんでした』※見てたけどあんまり興味なかった。

 なんて言っていたが……。
 ローズの目のフィルターを通すと、彼は、とてもとても悲しげに見えたのだ。

「ああああ……! リオンにあんなに悲しそうな顔をさせるくらいなら……! 汗臭さなんて気にしなければよかった!」

 なんて意気地なしなの⁉︎ と、ローズ。ぐぬっと表情を歪めている様子は、あまりに必死。
 リオンに臭いと思われるのは死ぬほど嫌だが……しかし、こんなに胸が痛むのならば、羞恥や体裁などかなぐり捨てて、せめて一言。顔を見て、ありがとうと言っていれば──……。部屋に戻ってからこんなに悔やむ事態にはならなかっただろうに。

「あああ……私の愚か者!」

 しかし今更悔やんでも、もう外は暗い。リオンはすでに隊舎に戻ってしまっているだろう。
 明日になるまで、ローズが彼に会うことは叶わない。……そうと分かってはいても、広いベッドの上から転がり落ちそうになるほどに、ローズはその布団の上をのたうちまわって後悔していた。
 今すぐリオンに会いたかった。
 その胸の奥底から湧き上がるような衝動は、少々制御が困難であった。



 ──さて、こちらは騎士隊舎。
 そのエントランスで、近衛騎士隊のギルベルトが二名の部下に羽交い締めにされてどこかに連れ去られようとしている……。

「ちょ、お、おい、待ってくれ……!」
「隊長……いい加減にしてください! 宰相がお待ちなんですよ⁉︎」
「もう時間がないんですってば!」

 部下に叱られつつも、ギルベルトはなおも柱にしがみつこうとして──今、ひっぺがされた。
 ギルベルトは慌てた。しかし、そのまま彼を連行して隊舎を出ようとする部下たちは、止まってくれない。

「ま、待て! 頼むから! だ、誰か……誰かリオンを見ておいてくれよ……⁉︎」

 俺は今から会議が……とオロついているギルベルトの視線の先の壁際には──リオン。
 自分の部屋に戻る気力すらないのか……隊舎のエントランスの隅に据えられたベンチで項垂れる青年の姿はあまりに暗い。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。

ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」 ──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。 「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」 婚約者にそう言われたフェリシアは── (え、絶対嫌なんですけど……?) その瞬間、前世の記憶を思い出した。 彼女は五日間、部屋に籠った。 そして、出した答えは、【婚約解消】。 やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。 なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。 フェリシアの第二の人生が始まる。 ☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...