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31 ローズの大回復
しおりを挟む診察してくれた医務官に、重ね重ね礼を言い、ダンスホールから辞してもらったあと。
他人のいなくなったホールの中で、ローズはキャスリンとヴァルブルガに正座で挑んだ。
──この時実は──。
医務官が出ていったホール前では、リオンが医務官に飛びかからん勢いで詰め寄り、ローズの症状を聞き出そうとして。それをギルベルトに慌てて止められている……などという、医務官には大変申し訳ない一幕が発生していた──が。
とりあえずローズはまだそれを知らない。
切腹直前の武士のような顔で、ダンスホールのつややかな床に両方の膝をつけたローズに。キャスリンも、ヴァルブルガもギョッとする。
「姫様⁉︎ 何をなさっておいでなのですか⁉︎」
「ローズ様……おやめください……」
二人はそれぞれ慌ててローズのそばにやってきて立ち上がらせようとしたが。ローズは手をグッと突き出して、キッパリとそれを制し。神妙な顔で二人を見つめる。
「……あのね……」
と、ローズの頭がガバッと下がる。
「本当に! 本当に心配かけてごめんなさい! だ、だけど、私、本当に大丈夫なの! 恥ずかしいほどに、申し訳ないほどに、げ、元気なのよ!」
王女のあまりに必死な様子に、二人は唖然としたが、ローズは赤い顔を上げ二人に告白した。
リオンの顔を見た自分が、一瞬にして大回復してしまったこと。
彼の膝から逃げ出すように床にダイブしたのは、リオンに何かされたのではなく、恥ずかしさのあまりであったこと。
おまけに現在進行形で心がときめき過ぎていて、興奮冷めやらぬ状態であること……。
それらを聞き終えた侍女二人は、一瞬言葉をなくし顔を見合わせた。彼女らの沈黙に、ローズは冷や汗をかく。
「そ、そうよね……訳がわからないわよね⁉︎ でも、わ、私も訳がわからないの! だって……私、こうなってしまったから言ってしまうけれど、さっきまでは本当に本当に、とても疲れていたのよ!」
リオンに関する煩悩を打ち払いたくて無理を重ねた。
しかし、侍女たちに疲れていると言ってしまうと、間違いなくローズの活動は止められてしまう。
だから彼女は頑として『疲れた』とは言わないように心がけ……もちろん、それでもその強がりは、キャスリンたちにはバレバレではあっただろうとも分かっていた。でも、あえて取り繕って平気なふりを続けた。
見え見えの強がりでも、それを見た彼女たちが、自分の決意が硬いことを知って、止めるに止められぬようにするために。
心配してくれる者たちには申し訳なかったが、そうさせてもらった。実際ローズの決意は硬かったし、疲れているだのなんだのと言っている場合ではないと思っていたのだ。
──王太子との婚姻は、もう数ヶ月後。ローズには、時がなかった。
彼女はため息混じりに二人に謝罪する。
「ごめんなさい……だけど、それもリオンのことを考えないようにするには仕方ないと思っていたの……だって、私は“王女”だもの」
言って、ローズは申し訳なさそうに一瞬うつむいた。その沈んだ背中に、ローズが落ち込んでしまったのかと慌てたキャスリンが、急いで彼女の傍らに寄り添おうとした──その瞬間。
ローズは勢いよく顔を跳ね上げて、大きな声で訴えた。
「でもね!」
「!」
その唐突さに、キャスリンはギョッと目を見開いたが、ローズは彼女の手をがしりと握り、訴える。
「私、リオン断ちをし過ぎたのかも……!」
「は、はぁ……?」
いったいどいうことだとキャスリンは目を白黒させたが……顔を赤らめたローズは恥ずかしそうに続ける。
「さっき、彼の顔を見たら……久々だったせいかしら、こう……愛しさがドバッと溢れ出てしまって……。多分それが私を元気にしてしまったのだろうけど……こんな欲望まみれな色ボケ状態で、リオンのたくましい膝の上になんかいられなかったわ! だ、だ、だって私、自分が何をするか怖くて……! も、もしかしたら、血迷ってリオンを襲ってしまうかもしれないでしょう⁉︎ あんなに可愛らしいリオンをよ⁉︎」
そんなことできないとドバーンと言い切ったローズは、あくまでも必死な顔で。真剣に、自分の行動を恐れているという表情。
それを見たヴァルブルガは冷静に微笑んだ。
「ローズ様……可愛らしいお顔で、ご心情は結構アレでいらっしゃったわけですね?」
「そうなのよ!」※否定しない
「……………………」※キャスリン
何がだ……と、とぼけた二人に呆れながら。この瞬間キャスリンは、どうやら何かを諦めた。
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