婚約破棄狙いの王太子が差し向けてくるハニートラップ騎士が…ツンデレかわいくて困る!

あきのみどり

文字の大きさ
上 下
31 / 74

31 ローズの大回復

しおりを挟む

 
 診察してくれた医務官に、重ね重ね礼を言い、ダンスホールから辞してもらったあと。
 他人のいなくなったホールの中で、ローズはキャスリンとヴァルブルガに正座で挑んだ。

 ──この時実は──。
 医務官が出ていったホール前では、リオンが医務官に飛びかからん勢いで詰め寄り、ローズの症状を聞き出そうとして。それをギルベルトに慌てて止められている……などという、医務官には大変申し訳ない一幕が発生していた──が。
 とりあえずローズはまだそれを知らない。

 切腹直前の武士のような顔で、ダンスホールのつややかな床に両方の膝をつけたローズに。キャスリンも、ヴァルブルガもギョッとする。

「姫様⁉︎ 何をなさっておいでなのですか⁉︎」
「ローズ様……おやめください……」

 二人はそれぞれ慌ててローズのそばにやってきて立ち上がらせようとしたが。ローズは手をグッと突き出して、キッパリとそれを制し。神妙な顔で二人を見つめる。

「……あのね……」

 と、ローズの頭がガバッと下がる。

「本当に! 本当に心配かけてごめんなさい! だ、だけど、私、本当に大丈夫なの! 恥ずかしいほどに、申し訳ないほどに、げ、元気なのよ!」

 王女のあまりに必死な様子に、二人は唖然としたが、ローズは赤い顔を上げ二人に告白した。

 リオンの顔を見た自分が、一瞬にして大回復してしまったこと。
 彼の膝から逃げ出すように床にダイブしたのは、リオンに何かされたのではなく、恥ずかしさのあまりであったこと。
 おまけに現在進行形で心がときめき過ぎていて、興奮冷めやらぬ状態であること……。

 それらを聞き終えた侍女二人は、一瞬言葉をなくし顔を見合わせた。彼女らの沈黙に、ローズは冷や汗をかく。

「そ、そうよね……訳がわからないわよね⁉︎ でも、わ、私も訳がわからないの! だって……私、こうなってしまったから言ってしまうけれど、さっきまでは本当に本当に、とても疲れていたのよ!」

 リオンに関する煩悩を打ち払いたくて無理を重ねた。
 しかし、侍女たちに疲れていると言ってしまうと、間違いなくローズの活動は止められてしまう。
 だから彼女は頑として『疲れた』とは言わないように心がけ……もちろん、それでもその強がりは、キャスリンたちにはバレバレではあっただろうとも分かっていた。でも、あえて取り繕って平気なふりを続けた。
 見え見えの強がりでも、それを見た彼女たちが、自分の決意が硬いことを知って、止めるに止められぬようにするために。
 心配してくれる者たちには申し訳なかったが、そうさせてもらった。実際ローズの決意は硬かったし、疲れているだのなんだのと言っている場合ではないと思っていたのだ。

 ──王太子との婚姻は、もう数ヶ月後。ローズには、時がなかった。

 彼女はため息混じりに二人に謝罪する。

「ごめんなさい……だけど、それもリオンのことを考えないようにするには仕方ないと思っていたの……だって、私は“王女”だもの」

 言って、ローズは申し訳なさそうに一瞬うつむいた。その沈んだ背中に、ローズが落ち込んでしまったのかと慌てたキャスリンが、急いで彼女の傍らに寄り添おうとした──その瞬間。
 ローズは勢いよく顔を跳ね上げて、大きな声で訴えた。

「でもね!」
「!」

 その唐突さに、キャスリンはギョッと目を見開いたが、ローズは彼女の手をがしりと握り、訴える。

「私、リオン断ちをし過ぎたのかも……!」
「は、はぁ……?」

 いったいどいうことだとキャスリンは目を白黒させたが……顔を赤らめたローズは恥ずかしそうに続ける。

「さっき、彼の顔を見たら……久々だったせいかしら、こう……愛しさがドバッと溢れ出てしまって……。多分それが私を元気にしてしまったのだろうけど……こんな欲望まみれな色ボケ状態で、リオンのたくましい膝の上になんかいられなかったわ! だ、だ、だって私、自分が何をするか怖くて……! も、もしかしたら、血迷ってリオンを襲ってしまうかもしれないでしょう⁉︎ あんなに可愛らしいリオンをよ⁉︎」

 そんなことできないとドバーンと言い切ったローズは、あくまでも必死な顔で。真剣に、自分の行動を恐れているという表情。
 それを見たヴァルブルガは冷静に微笑つっこんだ。

「ローズ様……可愛らしいお顔で、ご心情は結構アレでいらっしゃったわけですね?」
「そうなのよ!」※否定しない
「……………………」※キャスリン

 何がだ……と、とぼけた二人に呆れながら。この瞬間キャスリンは、どうやら何かを諦めた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...