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22.気持ちの伝え方 <完結>
しおりを挟む「テルマさん、アタシもう諦めることにする!」
カメリアがプンプンしながら入ってきた。
「一体なんのことだい?」
薬草を干していたテルマが手を止めて振り返る。
「リヒトのことよ。アタシがずーっと好き好き言ってるのに、のらりくらりするのよ」
カメリアは机の上のお茶を断りなく飲み干した。
「にっがー」
「カメリア、それ薬草茶……。あたしの腰痛用……」
「あ、ごめんなさい」
カメリアがしまったという顔で謝る。
「まったくもう。あんたのそういうウカツなところに、リヒトはビビってるんじゃないのかねえ」
「ええー、だってアタシこんなにカワイイのに? 美貌と巨乳を合わせ持つ女、カメリアよ。リヒトがためらう理由がないわよね」
カメリアは腰に両手を当てて高笑いをする。
「あんたのそういう前向きなとこ、あたしは好きだけどね。普通の男はドン引きだろうさ」
「そうなのかな……。最近、リヒトってば他の女の子とちょっと仲いいんだよね。この前、街で女の子と歩いてるの見ちゃったの」
カメリアはボロボロと涙を流した。テルマがハンカチを渡すと、カメリアはブブーッと大きな音を立てて鼻をかむ。
「あ、ごめんなさい。新しいハンカチ買って返すね」
「ああ、そうしておくれ」
テルマは苦笑する。
「まあ、そういうことならさ、最後にもう一度だけ素直に告白してみなよ。それでダメなら別の男に目を向ければいいさ。何もすぐにリヒトを諦めなくてもさ、他の男と同時進行でもいいじゃないか」
「そうね、アタシの若さと美貌を無駄にしてる場合じゃないわよね」
カメリアは両手を握りしめて決意を固める。
「ああ、当たって砕けておいで」
テルマは『落としたい人を前にすると脇汗で服がびしゃびしゃになる』魔方陣を広げた。
「もしかするとリヒトはあんたのことが好きかもしれないだろう。素直になれないだけでさ。脇をよーく見ておきな」
「テルマさん、ありがとう。気合い入れて告白してくるね」
「ほどほどにね」
◆◆◆
「ここで会ったが百年目。リヒト、今日こそ返事をしてもらうわよ」
「うわっ、カメリア、なんでドレス着てるの? それに、化粧がすごいな……。いつもの方がいいのに」
通りで待ち伏せしていたカメリアに、リヒトは思わず後ずさった。
「なんですってー。派手好きの厚塗りババアですってー。よくもよくも、ムキー」
「いや、そこまでは言ってないし」
カメリアはリヒトをギロリとにらむ。
「そういえば、あんたが最近デートしてる女の子、清楚系だったわよねえ。胸もささやかだったし。アタシとは真逆。やっぱりああいう大人しい女がいいのね、キイィィィ」
「いや、買い物中にバッタリ出会っただけだから」
いつも飄々としているリヒトが、珍しく慌てている。
「何買ってたのよ……。なんでそんなに脇汗かいてんのよ、もしかして、ひょっとして、ひょっとしたりするわけーー?」
「カメリア、ずっと答えなくてごめん。お前のことだから、誰かと賭けでもしてんだろうと思ってたんだ。でも、もしカメリアが本当に俺のこと好きなら……」
「好きよ」
「マジで?」
「マジで」
「俺と結婚してくれる?」
リヒトはズサアッと跪くと、指輪を差し出す。
「する」
「ヤッタアーーー」
「ヨッシャーーー」
街中に雄叫びが響き渡り、道ゆく人が拍手喝采した。
◆◆◆
エイミーは気持ちの良い陽気に誘われて、ブラブラ庭を散歩している。マヤも隣を歩いている。ポツリポツリと会話をかわしながら、まったりのんびりだ。
「あんまりこっち側まで来たことなかった。塀があるんだー」
エイミーの頭より少し高いぐらいの石垣が巡らされている。
「あっちは王宮だからね。念のため石垣で囲っているんだ。不埒な者が入ってこないように。離宮に高貴な姫がお住まいのときは、もっと塀を高く積み上げるけど。あまり高くしすぎると、息が詰まるだろう」
「うん、わたし平民だしね。あれ、あっちに誰かいるね。ああ、木の剪定してるんだ」
若い男が、塀の向こう側でハシゴに登って木を切っている。男はエイミーたちの方を向くと、帽子を取った。
「こんにちは。いい天気ですね」
「こんにちは」
男の笑顔につられて、エイミーもニコニコする。男がためらいがちに口を開く。
「あのー、エイミーさんですよね? 俺、相談したいことがあって。今少しいいですか?」
エイミーはマヤを見る。マヤは頷いた。
「はい、なんでしょう?」
「王宮の庭園のひとつを大がかりに改築しなきゃならなくて。だけど時間も人手も足りないんですよね。臨時の庭師の募集をかけてるけど、なかなか人が来なくて。なんかいい魔法陣とかないでしょうか?」
「えーっと具体的にどういう風にすればいいのかしら」
エイミーには何をどうすればいいのか見当がつかない。
「今までは使われてなかった庭園で、雑草が生い茂ってるんです。もし草を一気に枯らす魔法陣とかあったらなあって」
エイミーは目をつぶって棚に保管している魔法陣を思い出す。
「あったような気がします。少し待っててもらえますか?」
エイミーはマヤと共に急いで離宮の部屋に戻った。エイミーはしばらくゴソゴソして、ひとつの魔法陣を取り出す。
「あった」
エイミーは上機嫌で塀のところまで戻り、男に魔法陣を見せる。
『庭の手入れをしようとしたら、ほぼ坊主状態になる』
「おお、すごい。ありがとうございます。えーっと、髪となにかお守りでいいんでしたっけ? 髪、俺短いけど、いいですか?」
「はい、いいですよ。少しだけください」
男は剪定バサミで髪を切ると、塀の上からエイミーに渡す。
「お守りは今度持ってきますね。あ、俺ギルって言います」
男はニコニコしながら言った。
***
「エイミーさーん、庭が一気にきれいになりました。ありがとうございます。これ、約束のお守り。ばあちゃんがくれたものです」
ギルは塀の上から、小さな木彫りをエイミーに渡す。鼻の長い動物だ。
「悪い夢を吸いとってくれるらしいです。あ、ちょっとだけ待っててください」
ギルは走って行く。しばらくすると花束を持って駆けてきた。
「これ、お礼。エイミーさんに似合いそうな花を選んできました」
ギルは照れながら、塀越しに花束をエイミーに渡す。淡い色合いの小さな花々。
「わあ、かわいい。ありがとうございます。花束もらったの、初めて」
「本当? 信じられないな。俺でよければいつでも贈りますよ」
ギルが満面の笑顔で言う。エイミーは少し顔が赤くなった。マヤは遠くを見て、かすかに微笑んでいる。
それから、エイミーは毎日散歩し、塀越しにギルとたあいない話をするようになった。
「今度、ごはんでも食べに行かない?」
ギルがマヤを気にしながら聞いてくる。エイミーがマヤを見ると、マヤは頷いた。
「行きたい」
「やった」
エイミーに初めての恋が訪れたかもしれない。
◆◆◆
「レナ、これを受け取ってくれないかな?」
ティモシーが跪いて、真っ白なベールを渡す。
「わあーー、すっごく細かいレース編み。キレイだね。ありがとうティム」
「僕が編んだ、気に入ってもらえてよかった。レナ、これをかぶって、僕と結婚式を挙げてくれる? これは指輪と首飾り。僕とレナの瞳の色で作らせたんだ。本当は自分で作りたかったけど、無理だった」
鮮やかな緑と淡い水色の宝石がきらめいている。ティモシーはレナの指に指輪をはめ、立ち上がると首飾りをかける。レナはうっとりと指輪と首飾りに触れる。ベールを両腕で広げると、もう一度まじまじと見つめた。
「ティム、ありがとう。嬉しい。こんなに細かいレース編み、大変だったでしょう? これかぶってティムと結婚する。楽しみだね」
ティモシーが柔らかく微笑む。
「よかった。レナ、ふたりで幸せになろうね」
「うん、今でも十分幸せだよ」
「そう、僕もだよ。ずっと一緒にいよう」
「うん、ずっと一緒」
ティモシーはレナの頭にそっとベールをかけ、口づけした。
<完>
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