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12.泣き寝入りなんてするもんですか
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「トビー、またなの? 少しは文句言えばいいのに」
アルマが両手を腰に当ててトビーを見下ろす。
「言えないよ……だって上司だもん」
トビーは床に這いつくばってグズグズ泣いている。
「だもんとか言ってる場合じゃないから。あなた、ずっとあのクソ上司に手柄横取りされてるじゃない」
「ううう」
「あなたがあの資料作るために、どれだけ時間かけてたか……。それをあいつ、自分がやったかのように提出したんでしょう。恥知らずにもほどがあるわ」
アルマがギリギリとエプロンを引き絞る。ブチブチっとイヤな音がした。
「あの人は奥さんが男爵家の出だから、平民の僕には逆らえないよ」
「だったら、平民はずっと泣き寝入りってことじゃない。上級市民だかなんだか知らないけど、そんなの許せない。アタシに任せて、ひと泡ふかせてやる」
「ア、アルマ……。ごめんね、僕が気が弱いせいで」
「いいのよ、あなたのそういう優しいところが好きなんだから。大丈夫、その分アタシが気が強いからね。守ったげる。見ちょれーー」
トビーはアルマをうっとり見上げた。僕の奥さん、なんてカッコイイんだろう。
「テルマさん、アタシの髪の毛と畑で取れたじゃがいも。これでなんか仕返ししてよ。あいつーシャルロめーーー、腹たつーーーー」
アルマが机をガタガタ揺らす。
「アルマ、分かったから、机を壊さないでおくれ。なんだっけ、あんたの旦那さん、商会で契約書作る仕事だっけ?」
「そうなの。頭いいのよ~素敵なのよ~、好き……」
「はいはい。そういうのはよそでやっとくれ。てことはそのシャルロってヤツも契約書使うってことだよね?」
テルマは棚をゴソゴソあさる。
「そうなの、そいつも自分で契約書作れるんだけど、いっつもトビーにやらせるのよ。で、自分はサボっておいしいとこどりするわけ。シネバイイノニネ」
「相変わらずあんたは物騒だね。そういうこと、外で言うんじゃないよ。誰が聞いてるか分からないんだから」
「はーい」
「そしたら、これがちょうどいいんじゃないかい」
テルマが『大切な契約書などを必ず一行飛ばして読んでしまう呪い』の魔法陣を見せる。
「ありがと~ん、テルマさん。愛してる~ん」
「はいはい、気持ち悪いから。そういうのは旦那に言ってやんな」
「はーい」
◆◆◆
「おい、トビー、トビーはいないのか?」
「トビーさんなら、カルデリ商会に言ってますよ。契約書の文言で確認が必要って呼び出されてました」
「そうか……仕方がない。自分でやるか。えーっと、確か他国との売買契約のひな形どっかにあったよなあ。お、これだ。これをそのままちょいちょいっと変えればいいな。よし、できた。天才か、俺」
「契約書ヨマセテもらいますヨネ」
「はい、こちらでございます」
「ふんふん、ほうほう…………ナルホドナルホドナルホド」
「何か問題でも?」
「いえいえ、問題ないデスヨネ。すぐ署名するヨネ」
「シャルロ、この契約はなんだ!」
「あ、社長、急にどうされました?」
「どうしたもこうしたもあるか。このヨーンホーン商会との契約書、先方から納品遅れた場合の違約金条項が入ってないじゃないか」
「ええ、そんなまさか」
「バカ野郎。これだと、うちは前金で払って、商品が届かなくても文句が言えねえんだぞ。うちの丸損じゃねえか」
「え、でもそんな……。ひな形見てその通りに作ったのに……」
「もういい、お前はクビだ。後任はトビーにやらせる。トビーはいつも真面目に仕事しているからな。お前と違って社員からの信頼も厚い」
◆◆◆
「それで、その契約書はうまく修正できたのね?」
ニコールが影から契約書の報告を聞く。
「はっ、ダルトナン子爵が交渉して、納品遅れの違約金なしは一年だけで収めてもらえました。先方も、この条項が抜けているのはおかしすぎると分かっており、一年儲けられれば十分と」
「そう、それならよかったわ。本来なら一商会の契約に口を挟むべきではないですが。我が国の損害が大きすぎましたからね。ダルトナン子爵に褒美を用意しましょう」
「ダルトナン子爵ですが、商談中に微妙な腹痛に襲われるらしです。よい胃薬があればそれをとのことでした」
「ダルトナン子爵は侍女長ケイトの主人でしたわね。ケイトが確かそのような魔法陣を使ったと言っていたわね。分かりました、ケイトに聞いてみます」
「ケイト、ダルトナン子爵の褒美に胃薬を与えようと思うのですけど。あなたの意見を聞かせてちょうだい」
ケイトは背筋を正してニコールをまっすぐ見る。
「ありがとうございます。そろそろ魔法陣の効果が切れる頃だとは思いますが、ありがたき幸せでございます。主人も喜びます」
「分かったわ。夫婦仲は少しはよくなったの?」
「はい。主人は一時仕事を休みました。その間に屋敷内の仕事がいかに多岐にわたるか身をもって知りました。それ以来、わたくしと屋敷内の仕事を分担してくれるようになりました。エイミーさんのおかげです」
「そう、それならいいのよ。あなたはいつもよく働いてくれているもの。ありがとう」
「もったいないお言葉でございます」
アルマが両手を腰に当ててトビーを見下ろす。
「言えないよ……だって上司だもん」
トビーは床に這いつくばってグズグズ泣いている。
「だもんとか言ってる場合じゃないから。あなた、ずっとあのクソ上司に手柄横取りされてるじゃない」
「ううう」
「あなたがあの資料作るために、どれだけ時間かけてたか……。それをあいつ、自分がやったかのように提出したんでしょう。恥知らずにもほどがあるわ」
アルマがギリギリとエプロンを引き絞る。ブチブチっとイヤな音がした。
「あの人は奥さんが男爵家の出だから、平民の僕には逆らえないよ」
「だったら、平民はずっと泣き寝入りってことじゃない。上級市民だかなんだか知らないけど、そんなの許せない。アタシに任せて、ひと泡ふかせてやる」
「ア、アルマ……。ごめんね、僕が気が弱いせいで」
「いいのよ、あなたのそういう優しいところが好きなんだから。大丈夫、その分アタシが気が強いからね。守ったげる。見ちょれーー」
トビーはアルマをうっとり見上げた。僕の奥さん、なんてカッコイイんだろう。
「テルマさん、アタシの髪の毛と畑で取れたじゃがいも。これでなんか仕返ししてよ。あいつーシャルロめーーー、腹たつーーーー」
アルマが机をガタガタ揺らす。
「アルマ、分かったから、机を壊さないでおくれ。なんだっけ、あんたの旦那さん、商会で契約書作る仕事だっけ?」
「そうなの。頭いいのよ~素敵なのよ~、好き……」
「はいはい。そういうのはよそでやっとくれ。てことはそのシャルロってヤツも契約書使うってことだよね?」
テルマは棚をゴソゴソあさる。
「そうなの、そいつも自分で契約書作れるんだけど、いっつもトビーにやらせるのよ。で、自分はサボっておいしいとこどりするわけ。シネバイイノニネ」
「相変わらずあんたは物騒だね。そういうこと、外で言うんじゃないよ。誰が聞いてるか分からないんだから」
「はーい」
「そしたら、これがちょうどいいんじゃないかい」
テルマが『大切な契約書などを必ず一行飛ばして読んでしまう呪い』の魔法陣を見せる。
「ありがと~ん、テルマさん。愛してる~ん」
「はいはい、気持ち悪いから。そういうのは旦那に言ってやんな」
「はーい」
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「おい、トビー、トビーはいないのか?」
「トビーさんなら、カルデリ商会に言ってますよ。契約書の文言で確認が必要って呼び出されてました」
「そうか……仕方がない。自分でやるか。えーっと、確か他国との売買契約のひな形どっかにあったよなあ。お、これだ。これをそのままちょいちょいっと変えればいいな。よし、できた。天才か、俺」
「契約書ヨマセテもらいますヨネ」
「はい、こちらでございます」
「ふんふん、ほうほう…………ナルホドナルホドナルホド」
「何か問題でも?」
「いえいえ、問題ないデスヨネ。すぐ署名するヨネ」
「シャルロ、この契約はなんだ!」
「あ、社長、急にどうされました?」
「どうしたもこうしたもあるか。このヨーンホーン商会との契約書、先方から納品遅れた場合の違約金条項が入ってないじゃないか」
「ええ、そんなまさか」
「バカ野郎。これだと、うちは前金で払って、商品が届かなくても文句が言えねえんだぞ。うちの丸損じゃねえか」
「え、でもそんな……。ひな形見てその通りに作ったのに……」
「もういい、お前はクビだ。後任はトビーにやらせる。トビーはいつも真面目に仕事しているからな。お前と違って社員からの信頼も厚い」
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「それで、その契約書はうまく修正できたのね?」
ニコールが影から契約書の報告を聞く。
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「そう、それならよかったわ。本来なら一商会の契約に口を挟むべきではないですが。我が国の損害が大きすぎましたからね。ダルトナン子爵に褒美を用意しましょう」
「ダルトナン子爵ですが、商談中に微妙な腹痛に襲われるらしです。よい胃薬があればそれをとのことでした」
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「そう、それならいいのよ。あなたはいつもよく働いてくれているもの。ありがとう」
「もったいないお言葉でございます」
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