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勇者パーティーのハーレム要員ハーフエルフに転生したんだけど、もう辞めさせてくれないか
しおりを挟む「勇者きたよー」
「きたかー、どこの国?」
「日本から、バーバリアン王国ね」
「よっしゃ、日本人。いいね、どれどれ、見せて」
みんなで召喚の間につながっている泉をのぞきこむ。ほっそりした黒髪の、生真面目そうな男子がポカンと口を開けているのが映った。
「ああ、うん。素直そうでいいんじゃない。大学生ぐらいかな」
「陰キャの僕が異世界転移して勇者になったらモテモテなんだが、系ね」
「あれ、俺なんかやっちゃいましたか、チラッチラッ、ね」
「楽勝ね。清純聖女はわたし行くー。今月買いたいものがあるから」
「日本人は、猫耳だよね。獣人枠は、私ね」
「じゃあ、ちびっ子枠はアタシね。カタコト幼児語なら任せてほしいでしゅ」
「ギャー、幼児語はやめろー。かゆくて肌がブツブツになるー」
部屋中の屈強な女子たちから物が投げられた。
「だって、日本男子、幼児語好きじゃん」
「マジで、やめて。無理だから。あんたが幼児語やるなら、私は語尾にニャンつけるニャン」
「ひー、やめんかー。耐えられんー」
部屋を色んな魔法がうずまいた。ひとしきり、みんなが暴れてから、聖女が言う。
「エロ要員は、エリカでいいよね。同じ日本人だし」
「いやだー、もう日本男子はいやだー」
エリカは首をブンブン振る。エリカの豊満な胸が、ブルブル震えた。
「ええー、日本男子、いいじゃーん。素直で真面目だし」
「礼儀正しいし。いきなり押し倒してきたりしないし。大体モジモジして、こっちから来るのを待ってるだけじゃん」
「胸元の開いた服さえ着てりゃ満足っぽいし。とりあえず谷間見せて、超ミニ履いてれば嬉しそうだもんね」
「こんな服装で旅に出られるとでも、って感じだけどね。肌見せた服で野営ができるかっつーの」
「なんだっけ、うっすらスケベだっけか?」
「むっつりスケベな」
エリカは冷静に訂正する。
「それだ。でもいいじゃん。これがさー、ラテン系の国の転移者だとさー、もう、ずーっとグイグイグイグイくるじゃん。仕事になんないじゃん」
「全力で口説いてくるもんね。口を開けば口説き文句だもんね。疲れるよね」
「その点、日本人男子は真面目だもん。きっちり魔物討伐してくれるじゃん。谷間見せてりゃ張り切るしさ」
「教育制度が整ってるから、平均知能が高いしね」
「読み書き計算が全員できるって、すごいよ」
「休みなく毎日討伐でも、文句言わないもんね。社畜魂だね」
褒められているような、けなされているような、いや、やっぱり褒められている。同胞が異世界人からもろ手を挙げて受け入れられているのは、エリカにとっても嬉しい。でもさ、でもでも。
「いたいけな陰キャの日本男子をダマすのは、もうやーだー」
エリカは絶叫した。
エリカは転生者だ。ごく普通の社会人が、死んじゃって、目が覚めたら白い世界にいたってアレだ。そして、転生の神様に「勇者パーティーのハーレム要員やってね」って言われたのだ。
召喚された勇者の力は抜群で、異世界の問題をサクッと解決できる。勇者をつつがなく歓待するためのハーレム要員が、この世界には必要らしい。
妖艶なハーフエルフで、魔法が使えて、給与も休暇もきっちりあって、同僚も気持ちのいいやつらばっかり。転生できて、よかったなって思っている。だけど、純情で不器用な日本男子をそそのかして、その気にさせて魔物討伐の旅に連れて行くのは、心が痛い。
「だって、茶番なんだもん。全部、演技じゃん」
「あらら、エリカったら。今さら何をウブなことを」
「どうしたのよ。もうディスるのはやめたの? よく吠えてたじゃん」
「お前ら、よく考えろ。日本で陰キャでモテなかったヤツが、異世界に来てモテると本気で思ってんのかーって」
ねえー。みんなの声が揃う。
「うっ」
エリカはうなだれる。
「異世界転生して、美人のハーフエルフになって、調子に乗っていた。許してほしい」
「真面目か」
皆から突っ込みが入る。
「深く考えなくていいじゃーん。今や、異世界転生は日本だけじゃなくって、色んな国で流行ってるらしいじゃない。どの国の子も、ノリノリだもんね。待ってましたって感じだよね」
「元の世界に帰してくれーって泣き叫ばれるよりはさ、いいじゃない。楽しんでもらえるように、こっちも全力で盛り上げようって思えるじゃない」
「まあ、そうなんだけどさ。でもさ、オドオドモジモジしてた子がさ、だんだんスレてきちゃってさ。討伐が終わったら、王都でハーレム作るとか堂々と言うようになるとさ。あああー、ってなる」
エリカの嘆きは、あまり受け入れられなかった。
「そうなるってことは、元々そういう素養があったってことだから」
「かぶってた猫がはがれたってことで」
「勇者のハーレムだったら入ってもいっかなって女子もいるわけだし」
「利害の一致ということで」
「大人なんだし、いいじゃないの」
身も蓋も、ニベもない。
「大学生は、日本ではまだ子どもの枠なんだってばー」
「こっちでは成人だからねえ。仕方ないわよねえ」
ウダウダ言っているエリカを、今回の勇者パーティー仲間が転移陣にズリズリ引きずっていく。
「やーだー」
往生際の悪いエリカの口に、エリカの長い三つ編みが押し込まれた。つき合いが長いので、みんな遠慮がない。
「さーて、今回の勇者ちゃんは、誰をロックオンするかなー」
聖女がニヤニヤと、清純という言葉からは程遠い笑みを浮かべる。
毎回、清純、獣人、妖艶、ちびっ子と、勇者の好みを幅広く受け止められるようなメンバー構成にしているのだ。年齢は、詐称しまくっているが、みんな大分年上なのだが、それはそれ。バレなきゃいいのだ。
スレまくった女たち。勇者サトシといざ旅をするようになると、徐々にほだされていった。
「歴代一位の健気さ。なんだこのかわいい生き物は」
野営が多い勇者の旅。慣れていないし疲れるだろうに、朝誰よりも早く起き、焚き火をおこし、湯を沸かしてくれる。
「朝起きてすぐ、温かいものが飲めると、目が覚めるかなと思って」
なんて、できた子なのー。推せるー。すれっからしの女たち、割とチョロい。
「サトシは、どうしてそんなに気が利くのよ」
「姉がいるんですよ。姉に鍛えられました」
ああー、なるほどねー。姉って暴君だもんねー。みんなが納得する。
サトシのウブなところも、いいのだ。
「あのー、目のやり場に困るので、胸元と脚は隠してもらえないですか。どうしても、見ちゃうんで」
「あ、はい。変なもん見せて、すみませんでしたー」
ちょっと頬を赤らめて言うサトシ。全員、即座に肌を隠した。
「ねえねえ、サトシはさ。彼女とかいるの?」
「幼馴染の子がずっと好きだったんですけど。ただの片思いです」
くうー、帰してやりてー。お姉さんたちは、こっそり涙を拭う。サトシが川で体を洗ってるとき、女たちはコソコソと話し合う。
「ねー、神様にさー、みんなで頼んでみない?」
「サトシを帰す方法があるといいよね。幼馴染と家族の元に帰してあげたいよね」
「じゃあ、ダメ元で、頼んでみよう」
今まで、召喚した勇者を帰した事例はない。どの勇者も、異世界でハーレムを作るのに夢中で、帰りたいと言わなかったのだ。
四人で座禅を組み、瞑想状態で神様と交信する。
「えー、テステス。ああ、かみさまー、聞こえますかー」
「サトシ、めっちゃいい子」
「かわいそう。帰したげて」
「いや、もちろんサトシがさ、こっちでハーレム作るってんならいいんだけどさ」
「ハーレムより幼馴染ってなったら、帰してあげたいじゃない」
「うんうん、ああ、なるほどね。わかったー、はーい」
パチリと皆が目を開ける。
「いけるな」
「うちらの本気、見せるか」
「やったんでー」
「サトシを幸せにー」
それから、勇者パーティーは、怒涛の快進撃を見せた。魔物を狩りまくり、魔王を倒しまくり、悪しき国王を王座から引きずりおろし、奴隷を解放し、税金の上限を決めた。
勇者パーティーは、民の大歓声を受けながら、王都に戻る。
「サトシ、おつかれ」
「長旅、よくがんばったね」
「さあ、望みを言いなさい。お姉さんたちが叶えてあげるよ」
「異世界ハーレムか、日本で幼馴染か。どっちがいい?」
四人は母親のような愛情たっぷりの目でサトシを見つめる。サトシはポリポリと頬をかく。
「えーっと。異世界で幼馴染がいいかな。だって、エリカさんは、エリちゃんだよね?」
ビィーン エリカの脳みそに、昔々、遊んであげていた少年の記憶がよみがえった。
「ええー、さっちゃんなのー」
「そうー」
「うそー、大きくなったねー」
「エリちゃんは、変わってないね。あ、中身がね。よく、もうやーだーって言ってた」
「ぐわー」
エリカは頭を抱えてうずくまる。サトシもうずくまって、エリカの顔をのぞきこんだ。
「僕と結婚してよ、エリちゃん。昔、約束したよね」
「したけど、私、めっちゃ年上だよ」
「四つぐらい、なんてことないよ」
「いや、転生してから、かれこれ四百年」
「大丈夫、会えて嬉しい」
「あざといー、うちのさっちゃんがあざといー」
わーパチパチパチ。目を丸くして眺めていた三人が、泣きながら拍手喝采する。
「おめでとう」
「次元とか世界線とか時間とか」
「色々超越して、結ばれた、純愛」
推せるわー。珍しく、ハーレムではなくひとりの女性を選んで愛しぬいた勇者サトシ。
一途な純愛好きの民から、抜群の人気を集め続けたのであった。
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