14 / 18
③フローレンス・ブラーフ
2.二か月目(後半)
しおりを挟む『黄色い裸族が、ぷらんぷらんさせながら徘徊しているらしい』
そんな都市伝説が巷を騒がしている。
夜更けに街中で見かけた警邏の隊員が「そこのキミ、ちょっと待ちなさい」と声をかけて、うしろから肩を掴んだら、とたんにパシャンと崩れて消えてしまったとか。あとの地面がべっちょりと濡れてオシッコを漏らしたみたいに黄色くなっていたとか。
この話をわたしに聞かせてくれたのは、移住村の女の子。以前より熱心な要望があったので、公園にブランコを増設に行ったときに教えてくれた。
いま子どもたちの間で、一番ホットな話題なんだとか。
子どもってばビビりのくせして、この手の怖い話ってわりと好きだからねえ。
わたしにも覚えがあるよ。小さい頃にテレビでホラー映画とか心霊特番を見ては、夜中にお母さんの布団に潜り込んで、しょっちゅう夫婦の営みを邪魔したものである。もしもあんなことがなかったら、今頃かわいい弟や妹の一人や二人いたのかもしれない。
まぁ、それはともかくとして、この「黄色い裸族」の話を聞いたとき、わたしの脳裏にサッとよぎったのは、かつて魔族領の隅っこにあるダンジョンにて遭遇したヤツのこと。
スーラと呼ばれる、歩くこんにゃくゼリーの塊みたいなモンスター。
ゴミだろうが死肉だろうが生餌だろうが、なんでも消化して食べる。食べた物によって色が変わるというから、おもしろがって光の剣の残骸を与えてみたら、超絶進化して黄色いオッサンになった。
しかしあまりにもウザい言動と、見苦しい股間のぶらぶら具合にイヤ気がさして、穴を掘って地中深くに埋めて、コレを封印。
もしや、そいつが復活したのかっ!
まさか、いや、そんなハズはあるまい。そう思い込み忘れようとした。しかし一抹の不安をどうしても拭いきれない。気になるあまり夢にまで見て、ぷらんぷらんされる始末。
そこでわたしは、この心のモヤモヤを晴らすべく宇宙戦艦「たまさぶろう」にて、確認に赴くことにした。
魔族領の端っこの方にある深い深い森の奥が目的地。
いちおうは魔族領ということもあり、鬼メイドのアルバに先導をさせる。
だが、ひさしぶりに訪れた現地は、すっかり様変わりしていた。
「すごい賑わいですねえ」とアルバ。
「あの寂れっぷりは、いったいどこへ」あまりの盛況ぶりに唖然とするわたし。
「宿屋に武器屋に道具屋に酒場にと、すっかり開拓されていますね」とはルーシー。
訪れる者とてほとんどおらず、世間から忘れさられて、自然に埋没しかかっていたダンジョン。
だが、いまでは周囲の森が開拓され、ダンジョンを中心にして建物が乱立し、ちょっとした町のよう。
そこに集いひしめき合うは、腕に覚えアリと云わんばかりの魔族の猛者たち。
アルバがその辺にいる連中に声をかけて事情をたずねたところでは、すべては聖魔戦線の停戦締結から始まったらしい。
いきなり戦争が終わって、お役御免となり、ヒマになった連中が巷に溢れた。
かつては戦場で勇ましく武器を手に奮闘していたお父ちゃんも、家に帰ればただの置物。
はじめの数日こそは、お母ちゃんも労をねぎらい大切にしてくれていた。それこそ上げ膳据え膳にて。新婚の頃のようにかいがいしく世話を焼いてくれた。
が、十日も過ぎれば「いい加減にしろ! このごく潰し。いつまでも調子こいて、ゴロゴロしてんじゃないよ。掃除の邪魔だ。アンタ、そんなに暇ならダンジョンにでも行って稼いできな」となった。
どこのご家庭も似たり寄ったりにて、家に居場所のないお父ちゃんたちはゾロゾロとダンジョンへと向かうことに。
かくして大盛況となったらしい。おかげで長らく放置されてあった各地のダンジョンが見直され、開発ラッシュの真っ最中。魔族領全域にてダンジョンバブル到来。
前向きなんだか後ろ向きなんだか、よくわからない理由だ。
しかし、そのせいで自ら口を閉ざしていたダンジョンが、ふたたびその口を開いてしまったようだな。
ダンジョンはノットガルド八不思議の一つに数えられる存在にて、その正体は超巨大生物。
体内に招き入れた者らから、生命エネルギーやら魔力をかすめ取って生きている。そんなダンジョンにとって、大挙して押し寄せてくる来客はごちそう。
目の前にそんなものをぶら下げられて、これをガマンしろというのが酷というもの。
念のために、黄色いオッサンを埋めた地点も調べたかったのだが、それは叶わない。
なぜなら、わたしたちは一歩たりともダンジョン内に立ち入ることが許されなかったからだ。
いい加減、アレからずいぶんと時間も経っているし、イケるかと思ったのだが考えが甘かった。
正面入り口に立ったとたんに、バタンとダンジョンの入り口が閉じた。
明確なる拒絶の意志。
どうやらわたしに対する出禁は、まだ解除されていなかったらしい。
いきなりダンジョンの入り口が閉じちゃったものだから、周辺および内部に取り残された連中がパニック。
一時、現場が騒然となる。騒ぎを聞きつけてどんどんと集まって来るゴリゴリの魔族たち。
このままではマズいと判断し、わたしたちがその場を離れてしばらくすると、ダンジョンの口がふたたびゆっくりと開いたので、どうには騒動は自然に収まってくれた。
この一件にて内部調査は諦め、外部での聞き取り調査にシフト。
そしてここでも「黄色いオッサン」の目撃談らしき情報を得る。
あくまでまた聞きのまた聞きなので、正確なところではないが、周辺開拓初期の頃、夜中に「自由への飛翔! 臥薪嘗胆、復讐するは我にアリ!」と叫びながら、ダンジョンからものスゴイ勢いで飛び出してきた、黄色い裸族を見かけたとかなんとか。
って、もう確定だよね。これは……。
その後もリンネ組を動員してウワサや目撃情報を追う。
宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦橋内にて地図を広げて、情報があったところにバツ印を入れていく。
するとそれは魔族領を飛び出し、あちこちを移動しながらも、ある方へとじょじょに向かっていることがわかった。
「これは……、まさかヤツはすでにリスターナに侵入しているのか!」
判明した事実にわたしは戦慄を禁じ得ない。
「いえ、リンネさま。あくまでウワサが先行しているようです。ですがこの分では時間の問題かと」
「ルーシー先輩、ヤツの目的はやはり生き埋めにした我々への復讐でしょうか?」
「目撃証言からはそう推察されますが。アレの言動はちんぷんかんぷんにて、まともに付き合うだけバカをみます。その辺のことはこの際、丸っとムシして、まずは身柄を抑えることに専念すべきでしょう」
ルーシーの提言を受けてわたしは「わかった。いそいで戻って、対策を練ろう」と言った。
だがしかし、そのときすでにリスターナでは……。
1
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました
Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる