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96.ディートリッヒ3

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 うううう、気持ち悪い……うううう。ああ、失礼しました、ディートリッヒです。うゔゔゔゔゔ。もう駄目だ、私は死ぬのかもしれない。

 どういうことなのだこれは。なぜなのだ。カトリンさんはあれほどケロリとしていたのに。

 ううう、なにも考えられない、ムカムカする。なんだこれは、そう、パブの結婚式でリンゴ酒を飲み過ぎたときのようではないか。酒も飲んでないのに、このように気分が悪いとは、なんという理不尽……。

 いっそ、吐いてしまえればいいのに、唾液しか出ぬ。ああ、リンゴ、リンゴを食べよう。リンゴを食べてるときだけは、胸焼けがおさまるからな……。



「はい、リンゴ持ってきましたわよ。大丈夫ですの? 顔色が……なんでしょう、熟れてないトマトみたいな……。もう、寝てなさい、リンゴむいてあげますわ」

「パ、パブ……リンゴむけるのか?」

「ホホホホ、当たり前ですわ。ほうっておいたら何も食べないゲオルグに、小さい頃からリンゴをむいて食べさせておりますもの。熟練のリンゴむき師でしてよ。まあ、どうしたのよ、泣いていますの?」

「わ、私は死ぬのだろうか……」

「え、死なないでしょ。だって、ツワリなんですわよね? ツワリでは死なないと思いますけど……。ワタクシもなったことがないから分かりませんけれど……」

「ヨハネスもそう言ってた。あらゆる文献をあたったけれど、ツワリで死ぬ人はそれほどいないらしいと……。むしろ出産時の方が死に近いと……」

「……ちょっと、あなたたち……。おめでたい妊娠初期に、なんて物騒なことを調べてますの。あとでバーバラに聞いておきますわよ。さあ、リンゴ食べて寝なさい」

「……寝ると何か口から出てきそうなんだ……」

「……枕をたくさん使って、横向きなってみたらどうかしら? あら、ちょっとマシみたいね。もう、背中さすってあげますわ。バーバラがこれが効くって言ってましたわ」

「パブ……ありがとう。私が死んだら、エリー様を頼む。あとヨハネスも……」

「いや、だから死なないから。どうしてそんなに後ろ向きなのかしら……。カトリンさんはずっと元気でしたわよねぇ」

「文献によると、人によるんだそうだ。おおむね三ヶ月ぐらいでマシになるらしい……。人によっては産むまで気持ち悪いらしい……。絶望的だ……」

「あ、そうでしたわ、バーバラが妊婦はとにかく水を飲まなきゃダメですって。炭酸水が飲みやすいらしいわよ。持ってきたんでしたわ。試してみなさいな」

「う、うん。おゔうぇ……。う、確かに飲みやすいかもしれない……。泡と一緒に胸焼けが口から抜けていくような……おゔぇ……」

「……大変ねぇ……。妊娠がこんなにしんどいとは思わなかったわ。カトリンさんは気づいたら産まれてたのに。食欲もないのよね?」

「リンゴ、リンゴしか食べたくない」

「まあ、たくさん手配しておくわ。気のすむまで食べなさいな」


  
 はっ、いつのまにか寝ていたのか。パブはもう帰ったようだな……あっ、リンゴが山盛りに切ってある……。ありがとう、この恩は一生忘れぬ。


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