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92.ダニエル2

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 よう、ダニエルだ。カトリンさんという最強の人を手に入れた幸運の男とは俺のことだ。

 ちっ、本当なら仕事が終わったら、カトリンさんと手合わせ百本勝負をするのが日課なのに、どこぞのアホウが妊婦の嫁さんを追い出しやがったせいで、来たくもねえ酒場に来ることになっちまった。

 俺はカトリンさんに出合ってから、酒はほとんど飲んでねえ、酒飲むと体のキレが悪くなるし、筋肉によくねえからな。

 まあ、たまにビール飲むぐらいならいいだろう。カトリンさんも、今日は飲んでうさばらししといでって言ってたしな。


 ああ、なんだ? 女どもがまとわりついてくんなぁ、なんだってんだ。俺はカトリンさん一筋なんだ。カトリンさんに誤解されたらエレーことだから、こっちくんな。

 おおん、なんだあ? 今度は男かよ、今日はやけに絡まれんなあ。ああん? カトリンさんと結婚して幸せかって? なんだそのバカな質問は。幸せに決まってんじゃねえか。くだらねえこと聞いてんじゃねえ。

 たまには若い女たちと遊ばないか? カトリンさんは大分年上だからアレでしょうだと? なんだよ、アレって、はっきり言ってみろよ。はあ、肌の張り、初々しさ、なんじゃそりゃ。あ、やべっ、軽く叩いたら飛んでいっちまった。まあいっか。

 ふ、バカどもに教えてやるよ。カトリンさんがいかに素晴らしいお方かなあ。あ、やっぱやめた。お前らなんかにカトリンさんの話なんてしたら、カトリンさんが減る。カトリンさんのことは俺だけが知ってればいいんだ、もったいねえ。

 ああん? 若い女連れ込んで妊娠してる嫁を追い出したやつ? ここにいんのかよ? どこだよ。あいつかー、カトリンさんの手をわずらわせてるやつは。てめえ、ちょっとこっちこい。来なって、殴りゃしねえよ、腰抜けが。

 おお、そんで、お前今どうしてんだ? 新しい女とうまくいってんのかよ? ああ、なんだってー? 息子からのお手紙を壁に貼られて、女が出ていっちまったあ? 近所の人にも冷たくされるう? バッカおめー、自業自得だろうが。

 はあ? 嫁に謝って戻ってきてもらうだあ? おい、やっぱりお前いっかい殴らせろ。歯を食いしばれー。バカだなあ、お前。そう言って腹殴るのがお約束だろうが。おいおい、吐くんじゃねえぞ。


 ちっ、情けねえ野郎だぜ。いいか、嫁さんのことはもう諦めな。女はなあ、情が深い生き物だけど、一回見切るとそれでおしまいよ。こいつはもうダメ認定される前に、態度改めるんだったな。手遅れさ。

 ああん、なんだってー? 昔の俺みたいに女をとっかえひっかえしたかっただとー? おいおい、僕ちゃん、俺のせいにする気かよ。まだ殴られ足りねえらしいな。歯を食いしばれー。アホだな、お前。ここはマジで顔殴る場面だろうが。おいおい、鼻血ふけよう。


 あのな、確かに昔の俺はアホだったの。でも、もう変わったの。分かるー? 真の愛を手に入れて最強の男になった俺が。いいか、背中を預けられる妻がいるってのがどれほど男にとって大事か。

 若い女を食い散らかすのがカッコイイとか、もう古いんだって。今はなあ、心に決めた、たったひとりに永遠につくすってのがいいんじゃねえか。それこそが騎士道だろうがよ。

 な、騎士がころころ仕える主を変えてたらダッセーだろう? それと同じよう。

 ま、お前も心入れ替えてな、真面目に生きろよ。だーかーらー、嫁さんはもう戻ってこねえって。俺の母親が言ってたけどな、女性は妊娠中に受けた仕打ちを一生忘れないんだってさ。あの時の母親の顔は、ちっとばかし怖かったぜ。ちびるかと思ったぜ。オヤジなにやったんだろ……。

 そうだなあ、お前ができることっつったら、毎日真面目に働いて、嫁さんと息子へ仕送りするぐらいじゃねえの。直接会ってもらおうなんて思うんじゃねえぞ。一生許されねえことしたんだろうが。お前の反省なんて、嫁さんにとっちゃあ流しのゴミくらいの価値もねえよ。

 遠くから嫁さんと息子と、そういえば、赤ちゃん女の子だってよ。そう、遠くから家族の幸せを祈るぐらいしかできねえよ。あ、でも金はなにかと入り用だから、人づてに渡しておけよ。ああ、そうだよ、一生だよ。なにヒヨってんだバカたれ。

 おいおいおい、泣くなよー。情けねえ男だなー。お前の嫁さんの方がもっと泣いてただろうよ。バカ野郎。

 まあ、これからはちっとはマシな人間になれよ。俺だってカトリンさんに会う前はクソ野郎だったしな。

 ああ、そうだった。お前、有り金全部出せ。こんだけかよ、しけてんなあ。これは嫁さんにきっちり渡しておくから。なっ、働いて金ためとけよ。また誰かが取り立てに行くさ。


 じゃあなー。
 わーい、カトリンさんと一緒に寝る時間だ~。

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