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88.ゾーイさん

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 ようこそいらっしゃいませ、ゾーイさん。わたくしがエリザベートですわ。

 さあ、どうぞ、こちらに座ってくださいな。緊張してますのね。分かりますよ、無理もないことです。そういうときは甘いものがいいですわ。甘いものはお好きかしら? では、ココアとパンケーキにいたしましょう。パンケーキはクリームと蜂蜜、どちらがいいかしらねぇ……。半分ずつそれぞれかけましょう、そうすればふたつの甘さを楽しめるわよ。

 ふふふ、おいしい? よかった、気に入っていただけて。


 ゾーイさんの目安箱の手紙、読みましたわ。とても端的にまとまっていて、大変分かりやすかったですわ。


 そう、お父さまが町長の補佐官をされていたのね。ええ、お母さまは早くに亡くなられて、お父さまとおふたりで暮らしていられたのね。そして、お父さまが病気で亡くなられたと……。それは悲しいですわね……。


 今は生活はどうされているの? ええ、家はありますのね。お仕事が長く続かないのですか。なるほど、真面目に一生懸命働いてるのに、クビになると。それはどうして? 不器量で愛想がないから……まあ。


 今まではどういうところで働いたのかしら? はい、お父さまが亡くなられるまでは、お父さまのお仕事の手伝いを……。お父さまが亡くなってからは、食堂の給仕や皿洗い、八百屋の店番、洗濯屋の受付と配達、町長の家の下働き、あとは日雇いを色々ですか……。


 まあ、一緒に働いてた女の子たちはサボってばかりで、ゾーイさんがその分多く働いていたの? それなのに、その子たちは見た目がいいから雇われ続けて、ゾーイさんがクビになるのね……。それは腹が立ちますわね……。ええ、不公平ですわね。


 かわいい子はさっさと結婚して、旦那さんの稼ぎがある上に、適当な仕事ぶりでも許される……なるほど。ゾーイさんは結婚の予定はありますの? まあ、この顔ではもらい手がないですって? もう行き遅れ? ええ、まさか、だってまだ二十代ですわよね?


 まあ、早ければ十五ぐらいで結婚、二十半ばを過ぎると誰も見向きもしないのですか? なんと厳しい世界……。あの、ちなみに結婚相手はどのように見つけますの? はい、母親同士のつながりで……ああ、ゾーイさんはお母さまがお亡くなりですものね……。器量のいい子は、祭りで声をかけられたり、ははあ。


 ゾーイさんは、結婚したいのかしら? ええ、なるほど、できればしたいけれど、それより先に仕事がほしいと。確かに、結婚できなくても生きていけますけど、仕事がないと飢え死にですものね……。


 ゾーイさんは計算はおできになる? あら、できますのね。ふーむ。


 ゾーイさん、長く雇ってもらうのも、結婚相手をみつけるのも、見た目と愛嬌というのはやはり大事だと思いますのよ。お金があったり、地位が高ければ、それ目当てで近づく男性もいるでしょうけれど。

 そのままのゾーイさんを好きになってくれる人がいればいいのですけれど……。世の中甘くないですからねぇ。


 ゾーイさんは読み書きと計算は、お父さまから教わったのですわよね? ええ、読み書きと計算ができるのは大きな強みですわ。誰もができるわけではありませんもの。

 ゾーイさん、読み書きと計算を習ったように、愛嬌と見た目も教わりましょう。何もあなたの性格を矯正する必要はないのよ。少し生きやすくするために、コツをならうだけでいいわ。愛嬌がある風、可愛げがある風、まずは真似からで十分。


 そうねぇ、まずその猫背がもったいないわ。え、背が高いのを気にしてる? ははあ、それはどうして? 男の人は小さくてかわいらしい女の子が好きだから? ふむ、ゾーイさん、いったん結婚は忘れましょう。仕事を見つけて、長続きさせることに集中よ。


 よろしくて、自信のなさそうな人は雇ってもらいにくいわ。ピシッと立つ、そう、よくできました。そうねぇ、そうだわ、ゾーイさん、これから会う人の頭部の状態を書き留めて、百人分たまったら、わたくしに届けてくださらない? もちろんお代ははずみますわよ。


 あら、本気でしてよ、わたくしの新しい事業に必要ですのよ。この紙に書き取ってくださいね。いいかしら、まず性別、年齢、職業、体格は必須でしてよ。頭部の状態は髪の残り具合を割合で書いてくださいね。次にどのように薄くなっているのか、まだらなのか、両側から進行しているのか、上だけなのか、などですわ。絵にしていただけると尚よしですわ。


 ほほほ、話がそれてしまったわね、ごめんなさいね。頭部の件はそんな感じでよろしくね。さて、ゾーイさんの見た目ですわ、前髪が長いわねぇ。自信がないからって前髪で隠すのはよくないわ。どのみち、あなた背が高いから、隠したって下から見えますわよ。


 まあ、盲点でした? ふふふ、さあ、このように横に流してピンでとめればいいわ。あら、知的で素敵な女性に見えてきましたわよ。


 次は服よね。せっかくスラリとかっこいいのですから、体の線がある程度見える服の方が似合うと思うわ。今のダボっとしたのは、ゾーイさんの良さを隠してるわ。えーっと、確か試作品であなたに似合いそうな服が……ああ、これですわ。このブラウスとタイトスカート、ペンシル型っていいますの、これがいけるに違いないわ。試してくださらない?


……いい、実にいい。ゾーイさん、この線でいきましょう。キリッとした有能な女性路線ですわ。それなら、無理に愛嬌を振りまく必要もありませんわ。冷たいぐらいがむしろいいですわ。ちょっと、流し目いただけます? ……いい、実にいい。採用。


 え、本気ですわ。異例ですけど今決めましたわ。わたくし事業をたくさん抱えておりますの。読み書き計算ができて、新しいペンシル型スカートの広告塔になれる方なら雇いますわ。ただし、わたくしもわたくしの仲間も、仕事には厳しいですから、そこは覚悟してくださいね。ああ、愛嬌だけで仕事しない女の子は、うちにはおりませんから安心してね。


 女教師コーデ、爆誕。
 

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