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87.ネッタ商会長
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どうも、ネッタです。旦那が死んじまってから商会長の後を継いで、今まで必死にやってきました。おかげさまで商会を潰すこともなく、むしろ売上も増えてねぇ。マヌエッタちゃんが、なにかと仕事を回してくれたおかげだねぇ。情の厚い、いい娘さんだよほんとに。
マヌエッタちゃんとこの商会が苦しいときに、お金を貸してあげたんだけど、未だに恩義を感じてくれてねぇ。お金はとっくに、三倍返ししてくれたっていうのに。
うちの息子の嫁にどうかって、密かに願ってたけど、妙な記者にかすめ取られちまったよ。惜しいことしたね。だったらもっと早くにマヌエッタちゃんに聞いてみればよかった。
……いや、それはなんねえ。あの娘は、あたしが頼んだら、無理にでも嫁に来てくれただろうよ。マヌエッタちゃんの商会は今や泣く子も黙る、この国を代表する商会だ。やり手のマヌエッタちゃんに、うちの商会を押しつけるわけにはいかねぇ。
いやだねえ、歳とって暇になると、ろくでもないことばっかり考えるよ。ああ、やっぱり息子に後を継がせたのは早すぎたかね。暇で腐っちまうよ……。
また愚痴愚痴とみっともないねぇ、あたしゃ。息子が結婚して、商会長の座をゆずったんじゃないか。嫁さんと二人三脚で商会を盛り立てていきなって。あたしがいつまでも居座ってちゃあ、商会員だってどっちに相談していいか混乱するしさ。すっぱり引退したんだ、それをなんだい、未練たらしいったらありゃしない。
ああ、暇だねぇ……。昔は忙しかったけど、楽しかったねぇ。海千山千の商人どもと、丁々発止の交渉をやってさ、お互いが納得できる取り引きができたときは、仕事帰りの一杯がうまかったもんだよ。あたしはね、そこいらの男には負けないよ。商会員とその家族の生活を背負ってんだ。女だからって舐めてくるやつは、こてんぱにやってやったものさ。
揉めごとの仲立ちだってお手のものよ。あたしの目の黒いうちは、この街で賃金の不払いなんて許しゃしないよ。日雇い女たちから頼まれて、賃金の取り立てに行ってやったこともあるのさ。向こうがゴネたり、暴力を匂わせたら、椅子でも机でも叩き割ってやりゃあ、ビビって解決よ。
バカなやつらには、力を見せてやるのが手っ取り早いのさ。見な、このたくましい力こぶを。荷運びから商会を育てたあたしの腕力を見くびるんじゃないよ。
まあ、この街であたしに歯向かうやつは、もういないね。なんたって、あたしの後ろには街中の女がついてる。ネッタ姐さんって、慕ってくれてるのさ。女を敵に回したら、この街で生きていけないからねぇ。
「ネッタさん、おはようございます。今少しいいですか?」
「あらあ、マヌエッタちゃんじゃないか。新婚旅行から帰ってきたのかい?」
「はい、これお土産です。老眼にいいメガネだそうです。試して感想を聞かせてください。良ければ仕入れを増やします」
「……マヌエッタちゃん……。いや、ありがとうねえ、助かるよ。あたしゃまだ目ははっきり見えるんだけどねぇ……」
「ネッタさん、最近手紙読む時、離したり近づけたり、目をこすったりしています。それは老眼の印だそうです。どうぞ、試してください」
「……なんと、読める、読めるぞ! ふははははは。これは素晴らしいよマヌエッタちゃん。たくさん仕入れて、あたしにもいくつか売っておくれよ。全部の部屋に置きたいのさ。メガネを探し回るのはいやだからねぇ」
「分かりました。ところでネッタさんにご相談があります。エリー様が便利屋ギルドを設立する予定です。平民の女性たちに、安定した仕事をしてもらおうって。日雇いでも、前もって予定が分かったり、賃金がちゃんともらえる仕組みを作りたいって。エリー様がおっしゃってました」
「それは、すごいことじゃないか。さすがエリザベート様だねぇ、平民にまで気を配ってくださるんだねぇ」
「はい、エリー様は慈悲の女神ですから。なーむ~」
「なーむ~」
「それで、便利屋ギルドのギルド長を、ネッタさんにお願いできないでしょうか。エリー様は、女性が使うギルドの長は、女性がいいって強く希望されています。人選はアタシに任せるってエリー様が。アタシはネッタさんが適任だと思います」
「やる!」
もうひと花咲かせたるー
マヌエッタちゃんとこの商会が苦しいときに、お金を貸してあげたんだけど、未だに恩義を感じてくれてねぇ。お金はとっくに、三倍返ししてくれたっていうのに。
うちの息子の嫁にどうかって、密かに願ってたけど、妙な記者にかすめ取られちまったよ。惜しいことしたね。だったらもっと早くにマヌエッタちゃんに聞いてみればよかった。
……いや、それはなんねえ。あの娘は、あたしが頼んだら、無理にでも嫁に来てくれただろうよ。マヌエッタちゃんの商会は今や泣く子も黙る、この国を代表する商会だ。やり手のマヌエッタちゃんに、うちの商会を押しつけるわけにはいかねぇ。
いやだねえ、歳とって暇になると、ろくでもないことばっかり考えるよ。ああ、やっぱり息子に後を継がせたのは早すぎたかね。暇で腐っちまうよ……。
また愚痴愚痴とみっともないねぇ、あたしゃ。息子が結婚して、商会長の座をゆずったんじゃないか。嫁さんと二人三脚で商会を盛り立てていきなって。あたしがいつまでも居座ってちゃあ、商会員だってどっちに相談していいか混乱するしさ。すっぱり引退したんだ、それをなんだい、未練たらしいったらありゃしない。
ああ、暇だねぇ……。昔は忙しかったけど、楽しかったねぇ。海千山千の商人どもと、丁々発止の交渉をやってさ、お互いが納得できる取り引きができたときは、仕事帰りの一杯がうまかったもんだよ。あたしはね、そこいらの男には負けないよ。商会員とその家族の生活を背負ってんだ。女だからって舐めてくるやつは、こてんぱにやってやったものさ。
揉めごとの仲立ちだってお手のものよ。あたしの目の黒いうちは、この街で賃金の不払いなんて許しゃしないよ。日雇い女たちから頼まれて、賃金の取り立てに行ってやったこともあるのさ。向こうがゴネたり、暴力を匂わせたら、椅子でも机でも叩き割ってやりゃあ、ビビって解決よ。
バカなやつらには、力を見せてやるのが手っ取り早いのさ。見な、このたくましい力こぶを。荷運びから商会を育てたあたしの腕力を見くびるんじゃないよ。
まあ、この街であたしに歯向かうやつは、もういないね。なんたって、あたしの後ろには街中の女がついてる。ネッタ姐さんって、慕ってくれてるのさ。女を敵に回したら、この街で生きていけないからねぇ。
「ネッタさん、おはようございます。今少しいいですか?」
「あらあ、マヌエッタちゃんじゃないか。新婚旅行から帰ってきたのかい?」
「はい、これお土産です。老眼にいいメガネだそうです。試して感想を聞かせてください。良ければ仕入れを増やします」
「……マヌエッタちゃん……。いや、ありがとうねえ、助かるよ。あたしゃまだ目ははっきり見えるんだけどねぇ……」
「ネッタさん、最近手紙読む時、離したり近づけたり、目をこすったりしています。それは老眼の印だそうです。どうぞ、試してください」
「……なんと、読める、読めるぞ! ふははははは。これは素晴らしいよマヌエッタちゃん。たくさん仕入れて、あたしにもいくつか売っておくれよ。全部の部屋に置きたいのさ。メガネを探し回るのはいやだからねぇ」
「分かりました。ところでネッタさんにご相談があります。エリー様が便利屋ギルドを設立する予定です。平民の女性たちに、安定した仕事をしてもらおうって。日雇いでも、前もって予定が分かったり、賃金がちゃんともらえる仕組みを作りたいって。エリー様がおっしゃってました」
「それは、すごいことじゃないか。さすがエリザベート様だねぇ、平民にまで気を配ってくださるんだねぇ」
「はい、エリー様は慈悲の女神ですから。なーむ~」
「なーむ~」
「それで、便利屋ギルドのギルド長を、ネッタさんにお願いできないでしょうか。エリー様は、女性が使うギルドの長は、女性がいいって強く希望されています。人選はアタシに任せるってエリー様が。アタシはネッタさんが適任だと思います」
「やる!」
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