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86.ドナテッラ子爵夫人

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 ごきげんよう、ドナテッラですわ。しがない子爵夫人です。子供を四人育て上げ、これからはのんびり慈善事業に勤しもうと思った矢先に、夫に逃げられましたわ。若い女中と真実の愛を見つけたんですって。単に若い体によろめいただけでしょうに。ものは言いようですわね。

 こともあろうに、あのアホは債権証書をいくつか持って逃げたのです。辛抱強く行方を追って、女中の故郷で暮らしてるところに乗り込みましたが、後の祭りでしたわ。もう既に売りさばいていました。金を返せと詰め寄りましたが、女中のお腹に赤ちゃんがいると泣きつくので、諦めましたわ。子爵家に今後一切関わらないと署名させて、縁を切りましたのよ。高い手切れ金でしたわ。

 ということで、わたくし、四十半ばにして働かなくてはなりませんの。なんということでしょう。

 恥を忍んで王宮にある求人掲示板を見に来ましたのよ。娘に聞いたところ、エリザベート様が作られた制度だそうですわ。ありがたいことですわ。

 まあ、随分たくさん求人がございますのね。驚きましたわ。ふむふむ、女性の求人は家庭教師や経理などの事務仕事が多いのですね。残念ながらわたくしには無理そうですわ。子育てと社交ぐらいしかしてきておりませんもの。こんなことなら、若い時分に王宮の女官として、経験を積んでおけばよかったですわ。

 おや、これは……。


『求む!~平民の育児施設の立ち上げ責任者~
 平民の労働状況を改善するため、
 平民用の育児施設を設立します。
 子育て経験があり、平民と円滑な
 交流ができる女性を募集中!
 予算と給金は応相談、詳しくは面接にて』


 まあ、ちょっと、なんでしょうかこれは。うさんくさくありません? 怪しいですわ。こんなものに釣られるドナテッラではありませんわよ。……でも、そうねぇ、少し気になるわねぇ。

 いえね、わたくし四人の子供を育てあげましたでしょう。こう言ってはなんですが、どの子も立派になりましたわ。あのアホの父親の血が入ってるとは思えないぐらいでしてよ。ええ、わたくしが子育てを全面的に取り仕切りましたもの。あのアホは口も手も出しませんでしたわ。わたくしに丸投げ。

 もちろん乳母や侍女の手は借りましたけれど……。貴族としては例を見ないほど、わたくしは真剣に子育てに取り組みましたわ。ええ、子育てに関しては一家言を持っておりますわ。

 平民との交流だって、できると思いますわ。だってね、わたくしの乳母は平民だったのですもの。乳母の娘がわたくしの腹心の侍女ですわ。ええ、平民と親しいことを恥ずかしいだなんて全く思いませんわ。

 そうですわ、平民は家畜と同じと考える貴族もおりますわ。わたくしに言わせると、バカも休み休み言え、ですわ。あら、この言い回し、初めて使いましたわ。嬉しいですわ。

 まあ、ともかく、平民を見下すのは不合理ですわ。平民の方が圧倒的に数が多いんですもの。貴族としての礼節をわきまえながら、適度に平民と親しくすればいいのですわ。ねぇ、そうすれば、いざというとき力を貸してもらえますわ。

 わたくし、まさに今が、いざというときですもの。

 そうと決まれば、面接を申し込みましょう。申し込み先は、あら、ディートリッヒ様ですわね。まあ、紅薔薇の紋章も下の方に入っておりますわ。ならば安心ですわね。あの方のなさることに、間違いはございませんもの。


 いざ!!


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