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82.パフィリア2
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ホホホホホホ、新妻のパフィリアですわ。今日はエリー様のカウンセリングを受けに来たのよ。エリー様とゆっくりおしゃべりするのは久しぶりですわぁ、胸が高鳴りますわぁ。
「エリー様、ごきげんよう。……あらぁ~、一幅の絵のようですわぁ~。薔薇の女神と戯れる花の精霊といったところかしら。今度画家に描かせて売り出しましょうネ」
「あら、パブちゃん……もうそんな時間でしたのね。失礼しましたわ。……フィー、わたくしこれからパブちゃんとお話しするの。その、また後でね……」
「うん」
「乙女の会話を盗み聞きしないでよねぇ……」
「…………」
「……フィー、お友達とのおしゃべりは聞かないで欲しいの」
「うん、分かった」
「……まあったく、執着が高じて粘着になってますわねぇ……。まぁ、ずっと見てるだけだった宝物が、突然自分の手の中に転がりこんできたんですものね、べったりになるのも仕方ないですわね。それで、どうなんですの? まぁ、お顔にはっきり書いてありますけれど……。フフフ、お幸せなのね?」
「そ、そうね……幸せですわ……。まさか、フィーとおつき合いすることになるとは、思ってもみなかったので……なんだか気づいたらそうなってたって感じで……そのー……」
「ホホホホ、そのお顔、とても外部の者には見せられませんわねぇ。危険物ですわよ。しばらく外出禁止ですからネ」
「……それで、パブちゃんが相談したいことってなんですの?」
「それよ、ちょっと聞いてくださいまし。ワタクシね、幼いときからずーーーーーっとゲオルグに片思いしておりましたでしょう? 秘めた恋でしたから、恋バナをしたくてもずっと我慢してきたのですわ。やっと大っぴらに恋バナができるようになったのに、みんな聞いてくれないのですわ。ひどいですわ」
「ええっと、みんなというと?」
「そうですわねぇ、まずね、家族と我が家の使用人と、ゲオルグの家族とゲオルグ家の使用人ね。この人たちにはね、片思いが始まった当初から、ワタクシの気持ちを伝えていたのよ。ゲオルグ様をいずれものにするから、黙って見ておれと。結婚するまで彼ら以外には秘密だったのですわ」
「どうして秘密にしたのかしら? 早々に婚約してしまえば、秘密にする必要もなかったのでは?」
「あら、だって、そんなのつまらないですわ。政略で婚約するなんて。ワタクシは己れの力でゲオルグを得たかったのですわ。」
「かっこいい」
「それでね、結婚して公になるまで、家族と使用人にゲオルグへの思いを語っていたのですわ。最初はニコニコと聞いていたのに、時が経つにつれて、ひとり去り、ふたり去り……」
「そして誰もいなくなった」
「仕方ないから、お金を払って聞いてもらったのですわ。お仕事だと割り切って笑顔で聞いていた者たちも、しばらくすると死んだ魚の目をするようになったわ。数年後はお金を払うって言っても、いえ、給金は十分いただいてますので、って断るようになったわ。あいつらーーーー」
「……そうねぇ、ちょっと怖いけれど……試しに話してみてくださる? ゲオルグ様について……」
「まあ! 聞いてくださるの? 嬉しいわぁ。出会ったときから今までのくだりを詳細に……語ってしまうと一日では終わりませんわねぇ。それでは、ワタクシが思うゲオルグの魅力百選でいかがかしら?」
「ふふふ、五選でお願いしますわ」
「まずひとつめはね、顔ですわよ」
「あ、顔なんだ」
「ええ、そうですわ。見た目は大事ですわ。だって、自分の好きな顔でなければ、ずっとは見ていられませんわ。ゲオルグはね、なんといっても目が美しいのですわ。静謐な湖のように深みがありますわ。思索に耽る哲学者のような静かで重みのある視線なのですわ。その瞳に映りたくて、ワタクシどれほど努力したでしょう。最初の頃はワタクシの存在を認知してもらえなかったのですわ。ゲオルグは考えることや、やることがたくさんありましたからね。でも側にいられるだけで嬉しかったのですわ。そういえばこんなこともありましたわ……」
「パブちゃん、話がズレていってますわ」
「まあ、ホホホ、失礼いたしましたわ。では、ふたつめ、声ですわ。落ち着きのある澄んだ声なのですわ。ゲオルグはほとんどずっと考えこんでおりますから、めったに発言いたしませんのよ。幼い頃は一日中隣にいても、ひと言も発しないこともよくありましたわねぇ。ええ、父に泣きついて、高額な録音の魔術具を買ってもらいましたわ。初めてパフィリア様って呼ばれたときは、その尊さに気を失ってしまったのですわ。さらに迂闊なことに、こともあろうか録音を忘れたのですわ、ワタクシは。バカバカ、無能なパフィリアですわ。無念ですわ。ゲオルグの初めてのパフィリア様呼び、もう一度聞きたいですわ。ええ、ワタクシ二回目は失敗いたしませんでしたわ。父に泣きついて、録音の魔術具を三つ追加で買ってもらったのですわ。それらを複数の侍女に持たせて、見事成し遂げましたのよ。二回目のパフィリア様もなかなかのものですわ、今でもたまに聞きますわ」
「パブちゃん……」
「あら、ごめんあそばせ。では、みっつめ、髪ですわ。ゲオルグの髪はね、深みのある森の色ですわ。ええ、萌え出ずる若葉ではありませんのよ、悠久のときを経た威厳ある千年樹ですわ。ゲオルグは髪の手入れに時間を取られたくないので、いつも短く切っているでしょう? 考えごとをしているときは、髪をくしゃくしゃにする癖があるのですわ。鳥の巣のようになった頭を、きれいに撫でつけてあげるのが、ワタクシの密かな楽しみですのよ。ゲオルグの髪はとても柔らかくて、いい匂いがするのですわ。不思議ですわ、ワタクシ同じ洗髪剤を使っていますのに、ゲオルグの髪の方がずっといい匂いですのよ。ゲオルグが本を読んでいるときは、邪魔にならないようにソファーの後ろに立って、彼の頭に顔を埋めておりますのよ。何よりも落ち着く時間ですわ」
「パブちゃん、ありがとう。そこまでで充分でしてよ。ええ、もうめいっぱい堪能いたしましたわ。……パブちゃんに、いいものを差し上げますわ。これは砂時計といって、時間を計るものですの。ほら、こうやってひっくり返して使いますのよ」
「まあ、素敵ですわねぇ。サラサラと砂の落ちる様子が優美ですわ」
「パブちゃんにね、恋バナを一緒に楽しめる方をご紹介するわ。その方とお話しするときに、この砂時計を使ってちょうだいな。パブちゃんが話し始めるとき、砂時計をひっくり返すのよ。砂が落ちたらパブちゃんのお話はおしまい。次はお相手が話す番よ。交互に砂時計が落ちるまでお話しし合えばいいわ」
「エリー様、画期的ですわ。素晴らしい考えですわ。ワタクシ、ゲオルグのことを話し始めると止まらないのですわ。でも、これなら大丈夫ですわ。エリー様、ありがとう……次は、エリー様のお話も聞かせてくださいませネ」
ホホホホホホ、その方とお会いする日が楽しみですわぁ~。そのときまでに、ゲオルグの逸話を手短に語れるように、練習いたしましょう。砂時計が落ちるまでにうまく話し終えられるようにしないといけないわ。中途半端に語っては、ゲオルグの良さが伝わりませんもの。
腕がなりますわーーーー。
「エリー様、ごきげんよう。……あらぁ~、一幅の絵のようですわぁ~。薔薇の女神と戯れる花の精霊といったところかしら。今度画家に描かせて売り出しましょうネ」
「あら、パブちゃん……もうそんな時間でしたのね。失礼しましたわ。……フィー、わたくしこれからパブちゃんとお話しするの。その、また後でね……」
「うん」
「乙女の会話を盗み聞きしないでよねぇ……」
「…………」
「……フィー、お友達とのおしゃべりは聞かないで欲しいの」
「うん、分かった」
「……まあったく、執着が高じて粘着になってますわねぇ……。まぁ、ずっと見てるだけだった宝物が、突然自分の手の中に転がりこんできたんですものね、べったりになるのも仕方ないですわね。それで、どうなんですの? まぁ、お顔にはっきり書いてありますけれど……。フフフ、お幸せなのね?」
「そ、そうね……幸せですわ……。まさか、フィーとおつき合いすることになるとは、思ってもみなかったので……なんだか気づいたらそうなってたって感じで……そのー……」
「ホホホホ、そのお顔、とても外部の者には見せられませんわねぇ。危険物ですわよ。しばらく外出禁止ですからネ」
「……それで、パブちゃんが相談したいことってなんですの?」
「それよ、ちょっと聞いてくださいまし。ワタクシね、幼いときからずーーーーーっとゲオルグに片思いしておりましたでしょう? 秘めた恋でしたから、恋バナをしたくてもずっと我慢してきたのですわ。やっと大っぴらに恋バナができるようになったのに、みんな聞いてくれないのですわ。ひどいですわ」
「ええっと、みんなというと?」
「そうですわねぇ、まずね、家族と我が家の使用人と、ゲオルグの家族とゲオルグ家の使用人ね。この人たちにはね、片思いが始まった当初から、ワタクシの気持ちを伝えていたのよ。ゲオルグ様をいずれものにするから、黙って見ておれと。結婚するまで彼ら以外には秘密だったのですわ」
「どうして秘密にしたのかしら? 早々に婚約してしまえば、秘密にする必要もなかったのでは?」
「あら、だって、そんなのつまらないですわ。政略で婚約するなんて。ワタクシは己れの力でゲオルグを得たかったのですわ。」
「かっこいい」
「それでね、結婚して公になるまで、家族と使用人にゲオルグへの思いを語っていたのですわ。最初はニコニコと聞いていたのに、時が経つにつれて、ひとり去り、ふたり去り……」
「そして誰もいなくなった」
「仕方ないから、お金を払って聞いてもらったのですわ。お仕事だと割り切って笑顔で聞いていた者たちも、しばらくすると死んだ魚の目をするようになったわ。数年後はお金を払うって言っても、いえ、給金は十分いただいてますので、って断るようになったわ。あいつらーーーー」
「……そうねぇ、ちょっと怖いけれど……試しに話してみてくださる? ゲオルグ様について……」
「まあ! 聞いてくださるの? 嬉しいわぁ。出会ったときから今までのくだりを詳細に……語ってしまうと一日では終わりませんわねぇ。それでは、ワタクシが思うゲオルグの魅力百選でいかがかしら?」
「ふふふ、五選でお願いしますわ」
「まずひとつめはね、顔ですわよ」
「あ、顔なんだ」
「ええ、そうですわ。見た目は大事ですわ。だって、自分の好きな顔でなければ、ずっとは見ていられませんわ。ゲオルグはね、なんといっても目が美しいのですわ。静謐な湖のように深みがありますわ。思索に耽る哲学者のような静かで重みのある視線なのですわ。その瞳に映りたくて、ワタクシどれほど努力したでしょう。最初の頃はワタクシの存在を認知してもらえなかったのですわ。ゲオルグは考えることや、やることがたくさんありましたからね。でも側にいられるだけで嬉しかったのですわ。そういえばこんなこともありましたわ……」
「パブちゃん、話がズレていってますわ」
「まあ、ホホホ、失礼いたしましたわ。では、ふたつめ、声ですわ。落ち着きのある澄んだ声なのですわ。ゲオルグはほとんどずっと考えこんでおりますから、めったに発言いたしませんのよ。幼い頃は一日中隣にいても、ひと言も発しないこともよくありましたわねぇ。ええ、父に泣きついて、高額な録音の魔術具を買ってもらいましたわ。初めてパフィリア様って呼ばれたときは、その尊さに気を失ってしまったのですわ。さらに迂闊なことに、こともあろうか録音を忘れたのですわ、ワタクシは。バカバカ、無能なパフィリアですわ。無念ですわ。ゲオルグの初めてのパフィリア様呼び、もう一度聞きたいですわ。ええ、ワタクシ二回目は失敗いたしませんでしたわ。父に泣きついて、録音の魔術具を三つ追加で買ってもらったのですわ。それらを複数の侍女に持たせて、見事成し遂げましたのよ。二回目のパフィリア様もなかなかのものですわ、今でもたまに聞きますわ」
「パブちゃん……」
「あら、ごめんあそばせ。では、みっつめ、髪ですわ。ゲオルグの髪はね、深みのある森の色ですわ。ええ、萌え出ずる若葉ではありませんのよ、悠久のときを経た威厳ある千年樹ですわ。ゲオルグは髪の手入れに時間を取られたくないので、いつも短く切っているでしょう? 考えごとをしているときは、髪をくしゃくしゃにする癖があるのですわ。鳥の巣のようになった頭を、きれいに撫でつけてあげるのが、ワタクシの密かな楽しみですのよ。ゲオルグの髪はとても柔らかくて、いい匂いがするのですわ。不思議ですわ、ワタクシ同じ洗髪剤を使っていますのに、ゲオルグの髪の方がずっといい匂いですのよ。ゲオルグが本を読んでいるときは、邪魔にならないようにソファーの後ろに立って、彼の頭に顔を埋めておりますのよ。何よりも落ち着く時間ですわ」
「パブちゃん、ありがとう。そこまでで充分でしてよ。ええ、もうめいっぱい堪能いたしましたわ。……パブちゃんに、いいものを差し上げますわ。これは砂時計といって、時間を計るものですの。ほら、こうやってひっくり返して使いますのよ」
「まあ、素敵ですわねぇ。サラサラと砂の落ちる様子が優美ですわ」
「パブちゃんにね、恋バナを一緒に楽しめる方をご紹介するわ。その方とお話しするときに、この砂時計を使ってちょうだいな。パブちゃんが話し始めるとき、砂時計をひっくり返すのよ。砂が落ちたらパブちゃんのお話はおしまい。次はお相手が話す番よ。交互に砂時計が落ちるまでお話しし合えばいいわ」
「エリー様、画期的ですわ。素晴らしい考えですわ。ワタクシ、ゲオルグのことを話し始めると止まらないのですわ。でも、これなら大丈夫ですわ。エリー様、ありがとう……次は、エリー様のお話も聞かせてくださいませネ」
ホホホホホホ、その方とお会いする日が楽しみですわぁ~。そのときまでに、ゲオルグの逸話を手短に語れるように、練習いたしましょう。砂時計が落ちるまでにうまく話し終えられるようにしないといけないわ。中途半端に語っては、ゲオルグの良さが伝わりませんもの。
腕がなりますわーーーー。
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