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75.イグナーツ(作家)

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 えぇ、結婚が続いてますんで、もう大変なんですわ。書いても書いても即完売。笑いと悲鳴が止まりませんでね。

 まずね、アレクサンドル第一王子殿下と聖女リリアンヌ様ね。本当にありがたい話しですわ。今をときめくお二方、ずどーんとど真ん中を突き抜く大恋愛ね。国を背負うという重圧に、ともすれば心が折れそうなこともある殿下ですよ。それをね、孤児院上がりの聖女がそっと手を差し伸べる。

 身分差、これが刺さるんですわ。特に女性読者はね、障害のある恋愛に弱いからね。もう、びっくりするくらい売れちゃった。刷っても刷っても間に合わない。うちの借金全部消えたから。ワシもう王宮に足向けて寝れないね。


 次がね、ええ、度肝を抜かれましたよ、まさかこの二人がーーですわ。王国の白百合パフィリア様とゲオルグ様ね。ゲオルグ様? え、誰それ? てなもんでしたから。まさかあの華やかなパフィリア様がねー。よもやあんな、えー地味目な男性と結婚されるとは。分からないもんですなぁ。

 幼馴染のお二人がゆっくり愛を育んで、最後はゲオルグ様が押して押して結婚にこぎつけた、そんな話しですわ。ええ、パフィリア様にそんな感じでよろしくって言われたんですわ。まあ、空気と権力を読むには定評のあるイグナーツですから、そのように書かせていただきましたですよ、はい。

 ところがね、ワシの見立てではね、逆なんだなー。ありゃあね、パフィリア様が囲い込んで外堀りを埋めて気づいたら結婚してたって感じですわ。


 さらにさらに、騎士団長のご子息ダニエル様が、エリザベート様の侍女兼護衛のカトリン様に婿入りってね。どないなってんのってね。もうぶったまげましたよ。意味が分からないですわ。

 身分差っていうか、えー格下に婿入りーー? 前代未聞が過ぎるでしょう? 事実しか書いてないのに、全部与太話に見えちゃう。話し盛るんも、たいがいにしときやーってね。いえいえ奥さん、これでもだいぶ抑えて書いてるんでっせーってね。作家泣かせ。



 まあ、そんなこんなでね、大忙しなんですわワシ。あ、申し遅れました、作家のイグナーツです。


 ということでね、次はね、マヌエッタさんでしょう? そうでしょう? 一体どなたとご結婚されるのかなー、おじさんちょっと早目に知りたいなーってね。それで今日はマヌエッタさんの取材に来たんですわ。

 え? 本当っすか? 目のつけ所がいいっすか? ありがとうございます。

 え? 本当っすか? 売れる本を書く手腕が素晴らしい? ありがとうございます。

 え? ワシは独身っす。忙しくて結婚どころじゃありゃしませんでしてねぇ。

 え? 採用? どういう意味っすか? 

 え? 嫁入りでも婿入りでもどっちでもいい?

 え? 結婚? ワシとマヌエッタさんが?

 ええええええーーーーそうきたかー。
 これは次回作もバカ売れ必至ですわ。




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