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69.アレクサンドル(第一王子)
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私はアレクサンドル、この国の第一王子だ。あぁ、エリザベートとパフィリアに連続で袖にされた、ヘタレ王子とは私のことだ。笑いたければ笑えばいいさ。くっ、殺せ!
ハッ、妃はまだおらぬ。結婚できるのか不安になっておるわ……どうしよう。
分からぬ、なぜ、なぜなのだ。どうして振られたのか。王国の後継として申し分ない実績を積んできた。……エリザベートには及ばないがな……。麗しの第一王子として、学園での人気も抜群だ。……エリザベートには負けるが……。成績も良い、ディートリッヒとエリザベートの次だが……。
フッ、エリザベートに負けてばかりではないか……。分かってはいたが、残酷なことだ。幼き頃から国を担うものとして生きてきた。帝王教育、武術、語学、外交、音楽など、次々増える勉強をただがむしゃらにこなしてきた。自由な時間などほとんどなかった。……そこまでして尚、エリザベートには届かないのか……。もういっそエリザベートに女王として国を治めてもらえばいいのでは……。
……私は何を考えている。王家の血を引く者としての矜恃さえ失ったというのか私は。どれほどエリザベートに劣ろうとも、国を統べる責務は私が負わねばならぬ。それさえできぬなら、私に存在意義などなかろう。
それにしても、エリザベートは不思議な女性だ。学園に入学するまでは一切の社交もせず、屋敷に閉じこもって、幻の紅薔薇姫と呼ばれていたな。顔に傷があるだの、病気で寝たきりだの様々に噂されていたが……。いざ学園に入学するやいなや、圧倒的な美貌と生まれながらの統治者たる威厳で、学園の頂点に立ってしまった。
あらゆる生徒がエリザベートの歓心を買おうと試みていたが、エリザベートはどの生徒とも一定の距離を置いていたように思う。特に有力貴族の男子は避けていたな。そういう態度も、高潔な貴族女性の鏡と讃えられる一因であった。
エリザベートを伴侶として得られれば、王国の未来も安泰と考えていたのだが。……ままならぬものよ。なぜだ、なぜ私では駄目だったのか……。
「まーた暗くなってる。いつまでグズグズ引きずっているのですか。早くその釣書の中から、王妃候補を選んでくださいよ」
「くっ……簡単に言ってくれるなぁ、クリストフ。それができれば悩みはせぬ……」
「じゃあ、俺が選んであげますよ。十人ぐらいに競わせればいいですよね?」
「なっ……、まぁ……それも一興か……?」
「まず、大本命は聖女リリアンヌ様。頭はやや心許ないが、国民人気と顔は抜群」
「しかし、彼女に王妃としての責務が果たせるであろうか……。やや理解力に欠け、先を見通すことも苦手であろう?」
「まぁ、アホの子ですからねぇ。ただ、飾りとしては申し分ない。周りに有能な者を固めて補えばなんとかなるでしょう。……エリザベート様が手厚く保護してますしね」
「うっ……」
「次、財務大臣の末娘セラフィナ様。アレクサンドル様との年の差はありますが、王妃教育に時間が取れるということは利点です。また、エリザベート様の同年代ではないので、彼女の威光を直接目にしていない。わずかですが、萎縮しない可能性があります」
「……それは、一度エリザベートに会ってしまえばおしまいなのではないか……? エリザベート様、お姉さまと呼ばせてください~、とつきまとう未来しか見えぬぞ……」
「た、確かに……。次、辺境伯の二女ユリア様。乗馬と狩りが趣味で、騎乗弓射が得意だそうです。心が強いと評判ですから、エリザベート様の威圧にも怯まないでしょう……きっと」
「クリフ、よく考えてから発言しろ。エリザベートの周囲は隕鉄並みの心臓を持った者ばかりではないか。心の強い者ほどエリザベートに惹かれるのは自明のこと。……もうよい、適当に選んでくれ。誰になったところで、エリザベートの影響下に置かれるだけと、覚悟しておればよかろう……」
「御意。……悟りを開いた殿下は魅力的ですよ。少しでも殿下が心惹かれる女性が現れることを祈ります」
……心惹かれる女性などとっくに出会っておる。玉砕したがな……。ハハッ。
ハッ、妃はまだおらぬ。結婚できるのか不安になっておるわ……どうしよう。
分からぬ、なぜ、なぜなのだ。どうして振られたのか。王国の後継として申し分ない実績を積んできた。……エリザベートには及ばないがな……。麗しの第一王子として、学園での人気も抜群だ。……エリザベートには負けるが……。成績も良い、ディートリッヒとエリザベートの次だが……。
フッ、エリザベートに負けてばかりではないか……。分かってはいたが、残酷なことだ。幼き頃から国を担うものとして生きてきた。帝王教育、武術、語学、外交、音楽など、次々増える勉強をただがむしゃらにこなしてきた。自由な時間などほとんどなかった。……そこまでして尚、エリザベートには届かないのか……。もういっそエリザベートに女王として国を治めてもらえばいいのでは……。
……私は何を考えている。王家の血を引く者としての矜恃さえ失ったというのか私は。どれほどエリザベートに劣ろうとも、国を統べる責務は私が負わねばならぬ。それさえできぬなら、私に存在意義などなかろう。
それにしても、エリザベートは不思議な女性だ。学園に入学するまでは一切の社交もせず、屋敷に閉じこもって、幻の紅薔薇姫と呼ばれていたな。顔に傷があるだの、病気で寝たきりだの様々に噂されていたが……。いざ学園に入学するやいなや、圧倒的な美貌と生まれながらの統治者たる威厳で、学園の頂点に立ってしまった。
あらゆる生徒がエリザベートの歓心を買おうと試みていたが、エリザベートはどの生徒とも一定の距離を置いていたように思う。特に有力貴族の男子は避けていたな。そういう態度も、高潔な貴族女性の鏡と讃えられる一因であった。
エリザベートを伴侶として得られれば、王国の未来も安泰と考えていたのだが。……ままならぬものよ。なぜだ、なぜ私では駄目だったのか……。
「まーた暗くなってる。いつまでグズグズ引きずっているのですか。早くその釣書の中から、王妃候補を選んでくださいよ」
「くっ……簡単に言ってくれるなぁ、クリストフ。それができれば悩みはせぬ……」
「じゃあ、俺が選んであげますよ。十人ぐらいに競わせればいいですよね?」
「なっ……、まぁ……それも一興か……?」
「まず、大本命は聖女リリアンヌ様。頭はやや心許ないが、国民人気と顔は抜群」
「しかし、彼女に王妃としての責務が果たせるであろうか……。やや理解力に欠け、先を見通すことも苦手であろう?」
「まぁ、アホの子ですからねぇ。ただ、飾りとしては申し分ない。周りに有能な者を固めて補えばなんとかなるでしょう。……エリザベート様が手厚く保護してますしね」
「うっ……」
「次、財務大臣の末娘セラフィナ様。アレクサンドル様との年の差はありますが、王妃教育に時間が取れるということは利点です。また、エリザベート様の同年代ではないので、彼女の威光を直接目にしていない。わずかですが、萎縮しない可能性があります」
「……それは、一度エリザベートに会ってしまえばおしまいなのではないか……? エリザベート様、お姉さまと呼ばせてください~、とつきまとう未来しか見えぬぞ……」
「た、確かに……。次、辺境伯の二女ユリア様。乗馬と狩りが趣味で、騎乗弓射が得意だそうです。心が強いと評判ですから、エリザベート様の威圧にも怯まないでしょう……きっと」
「クリフ、よく考えてから発言しろ。エリザベートの周囲は隕鉄並みの心臓を持った者ばかりではないか。心の強い者ほどエリザベートに惹かれるのは自明のこと。……もうよい、適当に選んでくれ。誰になったところで、エリザベートの影響下に置かれるだけと、覚悟しておればよかろう……」
「御意。……悟りを開いた殿下は魅力的ですよ。少しでも殿下が心惹かれる女性が現れることを祈ります」
……心惹かれる女性などとっくに出会っておる。玉砕したがな……。ハハッ。
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